I am.


My wiz. 22

俺の身の上話が長引いたけど、調査に関する事やその後の緑陵高校の事を聞いて、それからぱーっと明るい話をして慰労会は終わりを迎えた。
安原さんは家が遠いので早めに帰るといってコートをとり、それにつられるようにしてみんなも帰って行く。
ナルがジーンに引っぱりこまれて途中から参加していたので、俺達は三人で彼らを見送った。
「ばいばーい」
へらへら笑ってから振り向くと、そっくりな顔がこっちをじっと見ていた。びくっとしちゃったよ俺は。
「……どした?」
「聞きたい事がある」
「はいはい」
まあそうだよなと思って俺はソファのほうに戻って座った。
「———は魔法使いなのか?」
俺はナルの問いに驚き目を丸めた。普通、俺は魔法使いなんだよって言ってあっちが目を丸める所じゃないか。
「ESP、PKの能力者より一層世間の目にうつることはなく、むしろ秘匿されているが、研究者の中でもごく一部でその存在は知られている。まあ見た者に出会ったことはないけど」
「あ、そうなんだ……まあそうか」
マグル生まれの魔法使いもいるし、マグルの中で暮らしている魔法族もいる。魔法使いと結婚したマグルや、親戚なんかだっているだろうし、完全に知られていないわけではないことだ。
もちろん、大前提としてマグルは魔法界についてを知らないってことにはなるんだけど、全ての無関係な人間が魔法界について知らないと断言することもできない。
俺は納得してしまいながら笑う。
「そうだよ。……いつから気づいてたの?」
「気づいたのは、天井の落下を防いだ時からだな」
「杖を振っていたからね。それで、今までのの発言や行動を見ているともしかしたらと思った」
ナルとジーンは俺が肯定するとそれぞれ、少しだけ力を抜いた。
「それにさっき、全寮制の学校に通っていたと言ったろう」
「ああ、もしかして知ってる?魔法学校のこと」
「噂で少し。全寮制の魔法を学ぶ学校があるって本当だったんだ」
「そうだよ、じゃないとマグル出身の人は力をもてあます事になっちゃうんだ。PKとちょっと似てるかもね」
「マグル?」
「あー魔法族じゃない人のことをマグルっていう。一応俺もマグル出身かな。中には純血の魔法使いも居るし、混血もいる。俺は完全に……多分だけど、……両親とも普通の人」
ナルはあまり興味は無さそうにへえと相槌を打った。
事実確認さえできれば良さそうな感じだ。その方が助かるけど。
「さて、どうしよっかな」
俺は顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。今度は俺の番だ。
「記憶、消しても良い?」
「嫌だ」
二人は表情こそ違うけど、揃って同じように首を振る。
杖をさし向けると、まさかと言いたげに身構えた。
「魔法使いが今までどうやってその存在を秘匿していたか、考えてなかったのか?」
「記憶を消して来たのか」
「そうだよ、実際目で見てしまうと魔法と思わずにはいられないのが魔法だ。そうしたら消すしかないだろ?」
「本当に消すの……?」
身じろぐ二人が面白くて、不適に笑ってみせる。
本当は俺が消すんじゃなくて、魔法省の人がやるのが一般的なんだけどな。
「———何をやっているんです?」
ふいに資料室のドアがあいて、リンさんが呆れた声を上げた。
「あ、リンさん」
「リン!」
ジーンが助かったとばかりに声を上げた。本気でかけるつもりはなかったんだけど。
杖をおろした俺からナルとジーンは距離をとり、なぜかリンさんを盾にしている。遊んでんじゃねーよ。いや遊んでたのは俺の方か。
「リンさんも俺が魔法使いだって聞いた?」
「魔法使い?いえ」
「あ、そう。俺魔法使いなの」
リンさんはなんかわけわからん、っていう顔をしているけど俺はにこーっと笑って杖をしまった。
「どういうつもりだ?」
「どういうつもりって?」
俺がふざけていたことと、記憶を消すつもりがないことを理解したナルは、じろりとこっちを睨む。
「内密な話ではないのか」
「ああ、内緒にしてね、しーだよ」
「……もういい、わかった、この話は終わりだ」
俺がこういう奴だと思い出したらしいナルは目を瞑った。
人差し指で内緒のポーズをとって言い聞かせてた俺は、諦めたナルを見て指で顎をとんとん叩きながら笑う。
「吹聴してもまず信じないし、俺が魔法を見せなければ良い話でしょ?いざとなったら魔法を使うけど」
「そして、その後に記憶を消すのか」
「そう、まあ三人の記憶は消さないけど」
「なぜ?」
ジーンがきょとんと首を傾げる。
「調査中、三人と一緒に行動するんだもん、いちいち消してられっかめんどくせえ」

ナルとジーンは、俺がイギリスに居て、魔法学校に通っていたことを確かめるとそれ以上聞いて来なかった。
納得したという訳でもなさそうだけれど、色々と暴こうという姿勢は見せない。報告すべき事は報告するようにっていう感じかな。
なんで、どうして、と聞かれても困ってしまう俺としてはその距離感がちょうど良かった。
未来を知っている理由とか、前世の記憶がある理由とか、何故なのかを言えるか。……つまりそういうことなのだ。
逆に俺はちょっと気になっていた話を聞く事に成功した。
それは、なぜナルとジーンが日本に居るのかと言う話だ。あの時聞きそびれたけれどうっすら見当をつけていた通り、ジーンの事故は本当に起きた。それを回避し、俺の存在について気になっていたジーンが日本に行って探すと言い出したらしい。
イギリスで会ったのにおかしな話だなあと思ったけれど、俺がお金の支払いに慣れていなかったから、普段は日本に居るとあたりをつけた。よかったね、俺が日本に帰って来てて……。
俺を見つけて俺が魔法使いだと知ったならもう帰るのかと思いきや、このオフィスはまず二年と期間を設けていたらしく、まだいるとのことだ。この先も調査があると知って安心した。……次どんなのくるんだか覚えてないけど。
「あ、そうだ、言う事があったんだ」
「え?」
終業時刻になると、皆も帰るようで身支度を整えていた。
その間に思い出したことがあり、ジーンの方をむく。
すでにコートを着終えた俺はまだコートを手にしていたジーンをまるごと抱きしめた。
「生還おめでとう、あとカップケーキもありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。マイの……のおかげだよ」
「それは、人の言葉を信じたジーンの力が大きいと思うけど」
「それでも」
「うん」
綺麗に笑うジーンを見て、言葉が届くことと生きていることの素晴らしさを噛み締めた。
あんなのを信じて、俺の知っている未来を打ち破った彼の力はすごいことなのだと思う。
俺は本当になにもしてないのだから。


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マグルに魔法使いだってバレるとなんか、法律違反になるんでしたっけ?その辺うろ覚えなので流しておいてほしいです。
17では(異世界ですが)魔法について知られてなかったけど、実は本当にごく一部の人たちが魔法の存在を知っていたら面白いな……という気持ちもあって。

セドリックに危ないからやめとけって言ったのは、主人公なりに本気で止めてて、それでも届かなかったんです。ジーンへもわからないなりに必死で、言葉も裏付ける事実も足りないと思っていた。それでもジーンがそれを信じて生き延びてくれたことがとても嬉しかったんです。
なにより言葉を信じてくれたことが。
あんな言葉でわかるわけないじゃんって思うでしょうけど、どんな言葉で言われても、わかるわけがないんですよね、未来のことなんて。
Feb 2017

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