I am.


My wiz. 23

春休みに携帯電話を購入した俺は安原さんに連絡を入れた。
すぐに返事が来て、他愛ない話が続く。安原さんってやっぱり、人と話をするのが上手いというかなんというか……メールがなかなか途切れない。切りたいわけじゃないし、メールを続けるのは俺の意志だけど。

出勤してすぐナルとジーンに報告して連絡先を教え合う。必要だったらリンさんにも教えた方が良いなあと思ったけど、まあ不要なんだよな。
……でもなんか寂しいし、ちょうど顔を合わせたので声を掛けてみた。
出会ったころにくらべたら、リンさんは随分俺に対応してくれるようになった気がする。もちろん口数は少ないけど。
「連絡先、教えて」
「……はい」
携帯を向けながらいうと、数秒戸惑ってみせてから教えてくれた。やだ……嬉しい。
出会ったばかりのころだと、嫌ですとすげなく言われていただろう。今だって、交換しておく?って聞けば結構ですとか必要ではないと思いますとか断られてしまいそうだけど、教えてと言われたら頷きやすいのかもしれない。
皆の想像上の俺のように、携帯は持っていませ〜んという見え見えのお断りはしてこない。
それでも、嫌ですと言われる覚悟もちょっとしていた。
ほくほくしながら携帯のアドレスを眺めて、さて今日の仕事は終わったな……いや終わってない終わってない……と席につこうとしたところでお客様がいらっしゃった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは〜」
依頼人とは思えない感じでにこにこオフィスに入って来たお姉さんは、俺の顔をじっと見る。
「ご依頼ですか?」
「ええ、所長にお目にかかりたいんですけど」
「はい。ええとお名前は?」
「ごめんなさい、私森といいます。森まどか」
「ああ」
ナルのお師匠の森さんだ、と思い出す。
すぐに所長室の方へ行こうとしたら、リンさんが先に出て来る。森さんはきゃるんと笑って呼びかけ、リンさんはそれに微笑みながら対応している。レアなものを見た……。

リンさんがナルとジーンを呼びに行ってる間にお茶を出す。
「どうぞ」
「ありがとう。ええと、谷山くんよね」
「はい」
にっこり笑った森さんはすぐにカップを手に取った。
一口飲んでから俺を見上げて、うっとり目を細めて笑う。
「わたしのこと、知ってたの?」
「へ?いいえ」
俺は思わず首を傾げるけど、そうえいば思い出すそぶりを見せたっけ。笑って誤摩化しとこ。
「そう……私はあなたのこと、皆から聞いてるわ」
「え、どんなですか」
皆ってどの規模……リンさんも俺の事なんか言ってるの?すごく聞きたい。
「たとえばジーンなんかはねえ、初恋の人とあなたが似てるって———」
「まど……か」
森さんは口元をおさえて俺の方に顔をよせる。
ちょうどその瞬間部屋から出て来たジーンは固まった。
「何を言ったんだ?」
固まって動けないジーンの横でナルが訝しげに首を傾げた。
「ジーンの初恋の人の話」
「初恋?」
ナルは心底分からなそうにもっと首を傾げる。
「まどか、初恋の人とは言っていませんでしたよ……」
「あら〜でもあんなに熱心に探すって言うんだもの、そうでしょ?」
リンさんがフォローするように付け足している。俺とジーンへの配慮だろうか。
多分、俺の存在が気になるから日本へ行こうと決めたのを、森さんが盛って話しているだけなんだと思う。が、そこで固まってると、ちょっと本当っぽくなるんだよなあ。
森さんは俺がジーンの探し人と同一人物だってまだ知らないのか。でも、多分俺を雇うにあたって、似ているとかやけに勘が良いとかまでは知ってる、と。
「えーと、俺大丈夫だよ、慣れてるし……気にしないヨ……?」
ジーンの肩をぽんぽんと叩いて、席まで促す。
女の子みたいって言われたことを気にしないよ、とでもとったのか森さんはあらごめんなさいねと笑ってる。違うんだ……そこじゃないんだ……。というかちゃんと報告しろよ、上司だろ。
俺に手をひかれてよちよちやってきたジーンをソファに座らせた。
「外そうか?」
「別に、構わない」
「あそう」
思わぬ事故にあったジーンはさておきナルに問いかけると、お許しが出たのでそっと隅っこに座る。
森さんは意外そうな顔をした。
「驚いた、話したの?」
「話してない、勝手に知ってるんだ」
たしかに勝手に知ってるけど。でも本当に知ってると思ってるのかな。それとも諦めてるのかな。
俺に聞かせて問題ない、もしくは聞かせといた方が良い話なら普通に聞くけど。


発表します。ナルの偽物がわいたらしい。
いやまてそれ普通にナルがナルであることを言ってるのでは……?と思ったけどもう突っ込まないぞ。
森さんはしれっとその業者が受けるのと同じ依頼をもぎ取って来たようなんだけど、その依頼人は元総理大臣という話だ。
依頼人の奥さんの祖父が所有している洋館で、亡き父の遺言によると朽ちるに任せろってことだったのだけど、最近行方不明になる人が出た。元々幽霊が出るという噂があったので、これ以上被害や噂が増しても嫌だというのが考えた。ごもっとも。
他にも同業者を沢山呼んでいるそうなんだけど、ナル曰くどれもハズレらしい。
「マスコミに嗅ぎつけられたらひとたまりもないな」
「そうね」
森さんもナルの呟きに神妙に頷く。そういえばナルって目立つの嫌いだもんねえ。
まあESP持ってるし、素性隠してるんだからそうなるか。

「あい」
「僕の身代わりになる気はないか?」
「なんだその不吉なお願いは……生け贄か?」
「馬鹿、そうじゃない」
分かってるけどさ。
「所長のふりをして欲しい」
「普通に嫌ですけど」
「どうしても?」
むしろどうして?
「そだ、安原さんにお願いしよう」
ポッケの携帯がちょうど震えて、メールの返事が来たんだと気づいたので脳内で安原さんに白羽の矢を打つ。携帯をぱんぱかぱーんと掲げると、皆がはあ?と首を傾げた。

一番賢そう、という単純な理由にナルはもっともだなと頷いた。たった一度の依頼だったけど大分信頼されている安原さんに軽く嫉妬……などせず、最高に感謝する。俺がナルのフリをするなんて無理ったら無理。

まだ春休み中の安原さんは快諾してくれた。お給料良いもんね……って思ったけど安原さん別にそこまでがめつくないか……じゃあ興味があるとか?でも怖いの苦手って言ってたな。全く苦手そうに見えなかったけど。
もしかしたら学校の事で恩義を感じてたとか?俺だってそれなりにナルたちに感謝はしてるけど、所長代理なんてやだなーと思うのに、安原さんは懐が深いなあ。
「部屋割りは、僕とジーンと安原さん、リンとになる」
「はい」
「よろちくー」
敬礼してリンさんに挨拶すると、目で頷いてくれた。初対面からすれば進歩だよなあと感慨深くなる。
同室の泊まりはなかったからちょっと緊張するけど、も少し仲良く喋れるようになれたらいいなあなんて思いつつ、俺達は協力者を連れて東京を出発した。


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リンさんと二人部屋という、新たな展開にむねあつ(?)
冷静に考えてジーンが生存してた場合この部屋割りかなと。ナルはジーンと二人でいれば問題ないし。
Feb 2017

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