My wiz. 24
来て早々、あんまりよく無さそうな気配を察知した。それは俺の勘というよりは、ジーンの様子と、真砂子の具合の悪そうな顔を見ての結論だった。デイヴィス博士の偽物は紳士風のおじさんで、まあ黙っていれば博士っぽいなと思う。あとで話しかけてみようかなあと思ったけど、超能力に興味がないので話題もない。
偽物とはいえ話しかける内容がどうしようもないんじゃおかしいし。
「はー、早く終わらせたいねえ」
「どうかしはったんですか?」
ジョンと一緒に機材の設置をしながらぼやくと、きょとんと首を傾げた。ジョンもお仕事とはいえ、問題事は長引かない方が良いってことに同意してくれるけど、来て早々帰りたがってる俺が珍しいんだろう。
デイヴィス博士の偽物を探るのが本題で、事件のことは二の次っちゃあ二の次なんだけど、気心の知れていない同業者が集まりすぎると良い事にはならないのが俺のささやか〜な経験則だ。
「なんか怖いじゃん、ココ」
「たしかにね、いかにも出そうな所」
近くで作業をしていた綾子がやれやれといった顔をする。まあいかにも出そうだから呼ばれたんだけど。
「真砂子も具合悪そうだね……」
「え、ええ……なんだか嫌な気配がしてますの、この家に来てからずっと……それに、血の匂いがする気がしますわ」
「……あ」
ぱかっと口を開ける。
そうだ、もうひとつ気がかりなことがあったんだった。まあ、真砂子の言葉を聞いて、余計にそう思っただけで。
「偶然かもしれないけど……今日出掛ける直前に玄関においてた、お土産のお守りが落ちて壊れたんだよね」
「それがどうした」
真砂子の発言に興味を示していたナルが、俺を呆れた目で見る。
「あれ、聞いてみたら魔除けっていうか、吸血鬼避けらしいんだ」
「前に言ってたルーマニア土産の?」
「うん」
綾子が顔を歪めて笑った。あ、馬鹿にしてんだろ。
「だいたい、そのお土産置いても悪霊出たんでしょ?」
「だから吸血鬼避けだって言ってんじゃん」
「つまり、それが壊れたから不吉だってか?真砂子も血の匂いがするって言うし?」
「そうそうそう」
ぼーさんと綾子は顔を見合わせてから、はーと息を吐いて首を振った。
「お前の妙な勘は当たるが、今回ばかりはなあ……まあ心に留めておくからお前さんはジョンと一緒にいなさい。な?」
ぽんぽん、と肩を叩かれ、そのままジョンの方に押しやられた。
吸血鬼だから神父様ってか。畜生。
べ、別にいいもん、ジョンと一緒にいるもん。
……ところが俺に言い渡されたのは、リンさんとのお留守番であった。
来て早々に絶対に一人にはならないようにペアを組まされ、俺は泊まるのも同室のリンさんとなるべく常に一緒に行動する事になってる。
お屋敷は広く、作りがあべこべで、測量だけでも時間がかかった。
ジーンは二日目当たりで、大分神妙な顔つきをして俺を一瞥してくるわりに何も言って来ないし、ナルが何か注意喚起するかなって思ったけど、相変わらず一人にはなるな、だ。
降霊会では無事霊が現れたみたいだけど、特にデータはとれずに終わる。そして次の日、人が一人消えた。
降霊会で霊媒役を担った鈴木さんという若い女の人だった。人探しのために、俺も皆と一緒に屋敷をうろうろしてみた。ナルとジーンは相変わらず二人で行動してるので、安原さんの護衛であるぼーさんとジョンのところだ。さすがに綾子と真砂子のところに俺が加わってしまったら二人の負担が大きいので、男ばかりでどやどやすることになった。ちなみにこのメンバーで二人ずつになる選択肢はナルに却下された。
一応俺だって守護霊フクくんがいるんだけどなあ。
「もしかして、鈴木さんのことを助けてくれるお人やと思うてつれていったゆう可能性はないですか?」
「———それとも、ゆうべのあれは霊の言葉ではなく鈴木さんが書いたもので、それがバレるのが怖くて逃げ出したとか」
ジョンは皆との意見交換を大事にするタイプなので、こうやってよく可能性を提示する。それに一番にのったのは安原さんで、俺もそれに加わる。
「うーん、血文字とラップ音があったからそれはないんじゃない?」
「そっか、じゃあ鈴木さんが勝手に書いたんで霊が怒ってあばれた、怖くなって以下同文」
「そうだといいけどね。幽霊に攫われるなんて怖すぎるし」
「ですよね」
鈴木さんを悪く言いたいわけじゃないが、俺達としてはその方が安心だ。
「でもなあ」
「おや、谷山さんは何か感じますか?」
「っつーか血文字の意味が通じないだろ」
「あーそうか、あれがトリックの可能性は薄いし」
ぼーさんとジョンはやっぱり霊のしわざと考える方が妥当なようだ。まあ本業だしな。……悲しくも。
その時ジョンが何かに躓いて声を上げた。どうやら床下に続く扉があったらしい。
年長者であり実力者でもあるぼーさんがうえええとぼやきながら降りて行くのを、俺達は上で見守った。
「さっき、何か言いかけませんでした?谷山さん」
「え?」
「何か感じたのかなって」
「ううん、別にないよ。ただ……怖い思いをしてないと良いけど……って」
ジョンと安原さんははっとするような顔をしてから、俺を安心させるように微笑んだ。
僅か数分で戻って来たぼーさんは、特に怪我はなかったようだけど、白衣を一着持って帰って来た。ナル達に報告するっていうんでベースに戻ることにした。
午後からはまた測量するようだけど、俺はデータを纏めるように言われたのでまたしてもリンさんとお留守番だ。
「大丈夫かなあ、みんな」
「一人では行動していませんし、まだ昼間ですから大丈夫でしょう」
「そういうもん?」
俺は納得しかねたが、大人しく書類の束をまとめる。
「嫌な予感がしますか」
「どうして?」
なんでこんな事を聞かれてるんだろう、と小首を傾げた。
リンさんはまじまじと俺の様子を見ている。め、珍しいな、こんなに俺の事を凝視するなんて。
「ジーンはここへきてすぐに、この洋館は危険だと私たちに合図をだしています」
「あ、そうなん」
多分元から決めてあったことなんだろう。危険なら危険って口に出してくんねーかなって思ったけどナルが皆をいたずらに驚かせないためとか言ってやめさせたのかな。もちろん、けして一人にはならないようにってナルが指示を出したから、全く内緒ってわけじゃないんだろうけど。
「原さんとジーンもそうですが、谷山さんの感受性も私たちは重用視しています」
「俺も?」
「予言や助言もあれば、トリガーにもなりうる」
「トリガーって、なんかやっちゃっ———あ、笠井さんのこと?」
「それだけではありません、旧校舎を調査した時の話も聞きましたが、あなたは人の本懐を見抜き揺さぶる」
えー、俺なんかやったっけえ?ナルの愛称当てたことじゃないだろうし、トリガーってことは黒田さんのPKだから、……ああ、そういうことか。
「わざとじゃないんだけど」
「もちろん。ただ、あなたの発言には力があるということです」
うひゃーと身を縮こまらせたら、リンさんが顔を覗き込むようにして気を配ってくれた。たしかに、責めるような声じゃなかった。
「だから最近話に付き合ってくれるの?」
ぽろっと、常々思っていたことを零した。リンさんの片方の目が見開かれる。
「ほら、リンさんって俺の事あんまり好きくないでしょ」
「……私は」
リンさんは口ごもり、小さな声で、日本人が嫌いですと言った。
へー、全然知らんかった。いや、覚えてなかった、忘れてた、のかな?なんで今まで気づかなかったんだろう。勝手に、リンさんは元々親しくない人に対しては塩なんだと思ってた。いや、普通そう思うよね。
「なんだあ、そうだったのかあ……俺なんかしたっけって、ずっと思ってた」
「……日本人が昔中国で何をしたか知らないのですか?」
「うっすら知ってるけど、過去の……俺ではない人が誰かにした事は責任とれないし、そういう理由でリンさんが日本人を嫌いだっていうならしょうがないじゃん」
椅子の背もたれに肘をかけ、頭を乗せる。
「———リンさんは俺の血が穢れていると思う?」
つい、俺はホグワーツでの事を思い出して口を開いてしまった。
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もともと、ジーンを発端にナルとリンさんは主人公が言った事が後で当たるっていう現象をちまちま感じていて、ジーンとナルが、そういえば旧校舎のときもそうだったと話したり。森さんにもちょろっとそう言う話は通ってます。この言う事が当たる系が、バイトに誘われた一端でもあったり。
Feb 2017