I am.


My wiz. 26

ナルは皆に上手く仕事を割り振り、身内ばかりをベースに残して内緒のミーティングを行う。
失踪者が三人目になり、これはいよいよヤバいなと皆言ってるのに、俺達はまだ何一つ手がかりになるものがわかっていなかった。いや、ナルもジーンもリンさんも、わかってはいるんだろう。ただそれをどうする事も出来ない状況だけだ。

「まずはこの屋敷について、中心部に何かがあることはわかったがーーー」
「あ、うん」
測量の結果、屋敷の中心部が全くわからない状態になってる。ナルはリンさんがプリントアウトした図を指でなぞった。
もともとそこは美山鉦幸のくらす家があった。中では恐ろしく惨いことが行われていて、そのことを隠す為に、そして美山鉦幸の霊が出て来られないように、増築を繰り返した。どこからどうやっても、その家には行けない。
「出て来てんじゃん、こっちに」
「ここも家の中だから」
ジーンが暗い面持ちで肯定した。
「失踪した人は、どうして見つかんないんだろ」
「壁の向こう側、だろうな」
なんだそれは。幽霊が壁を通り抜けることはまだわかるけど、生きている人間は普通、無理だろ。
「閉じ込めてる意味がまるでないなあ……むしろ逆効果」
「そうだな」
ナルはうんざりした顔でおざなりな相槌をうった。
「ところで、三人はもう、だめなの」
「うん」
ジーンは頷いた。そうかあ、だめかあ。
言葉が出て来ず、ゆるゆると両手を合わせた。ちょっとだけ黙祷。
「……美山鉦幸は、どうしたら止まる?」
「止まらない」
「除霊も、浄霊も?」
「できません」
ナルは首を振り、最後にはリンさんが答えた。
俺は除霊の条件なんてわからないけど、無理だといわれたら納得するしかない。
「ひとつ、方法ならある」
「なに?」
「この家が朽ちる事、もしくは無くなる事」
「……ぶっ壊す?」
「———そう、が言っていた通りだ」
ちょっとだけジーンが笑った。


皆と合流した後、明日の為のミーティングをして、食事をとって部屋に戻った。
若い人が狙われている、とジョンに気づかされてからはとくに警戒していたので、部屋に戻るまでもぞろぞろと連れ立っている。
皆は互いに部屋へ入って行くのを見送り合う。
俺は特に心配されてて、綾子とかジョンとかぼーさんが最後まで見てる。早く部屋入れよおまえら。
リンさんは居心地悪そうに、俺の背中をそっと押しながら部屋に入った。そうか、諦めて俺が部屋に入れば万事解決か。
「なんで俺が一番心配されてるんだろ」
「霊能者ではないからでは」
「たしかにそうだけど、安原さんもだし、俺の方が一応調査慣れしてる…ハズ」
「……年齢順でしょうか」
「真砂子が一番年下のはずだけどなあ」
いや、真砂子は霊能者だけどさ、とぶつぶつ言う。
「守護霊が故意に出せるとは思われてないのもあるか」
「出せるんですか」
「そういえばリンさんは見た事ないんだっけ」
腰にある杖をだして、ひょいっと振りながら呪文を唱えた。フクがしゅるりと出て来て部屋中を駆け回り、リンさんの足元にご挨拶しにいった。
「かわいかろ」
「綺麗ですね」
手を伸ばしたリンさんに、フクがすりよったけれど実際の感触はないだろう。
「呪文を唱えると出るんですね」
「そうだよ、まあそれだけじゃないけど」
皆が祈祷するのと同じ感じだと思う。
俺からしたら祈祷の方が原理が分からないけど、呪文だってただ唱えれば言い訳じゃない。
「この守護霊の魔法はとくに難しいやつでね、自分が幸福ではないといけないんだ」
「幸福」
「いや、幸福な気持ちを思い出すこと、なのかな?」
ベッドに胡座をかき、近寄って来たフクの頭をぽんぽんしてから消した。
自分の意志で出せるといっても、俺の心構えが疎かでは出ないってことは伝わったと思う。
「まあそれ以前に、杖がないと駄目なんだけど」
苦笑しながら、指でぶらぶらと杖を振ってみる。リンさんは物珍しげに杖を見ていた。
くにゃくにゃして見えるかなあ。


次の日は、真砂子に口寄せをしてもらった。鈴木さんはジーンの言葉の通り亡くなっていたので、彼女が真砂子の身体におりてきた。
いつもの可愛らしい声が、少し重たく、苦しげに変わる。
漠然と、これは真砂子じゃない、と思った。
彼女は自分が亡くなっていることをわかっていなかった。けれど、誰かが酷い事をしたのは、ナルの言葉を聞いて徐々に思い出し始めたようだった。
それから先は取り乱してしまった鈴木さんが、浦戸、浦戸、と口にするばかりだ。
これ以上は無理だと踏んだぼーさんが止めてしまったけれど、ヴラドという文字が部屋に残された。
「ヴラドのことだったのか……!?」
ぼーさんとジョンが血文字のようなものを見てから、俺を振り返る。なんだよ、俺は悪戯描きなんかしてないぞ。
きょとんしている俺に、ナルが吸血鬼ドラキュラの元になった人の話をした。
そういえば俺、吸血鬼避けのお守りの話したね、どうしてジョンとぼーさんが俺を見たのかはわかった。
鉦幸氏が生前人を殺していたことは、皆勘づき始めた。けれどナルとジーンはもっと先の事を知っている。
「おそらく、失踪事件にここで殺された人間の霊は関係がない」
「殺した者がこの家に住む霊なら、その悪霊は浦戸だ」
ナルに続いてジーンが言いきる。
死ニタクナイ、という文字がきっと、全員の脳裏をよぎった。
「浦戸はいるんだ、この家に……まだ、ここで生け贄を求めている」
ひえ、おそろし……。
犯人が浦戸、鉦幸氏であると明言したあとは依頼主の許可を得てから壁を崩す事になった。
きゃ、ぼーさんったら工具が似合うぅ。
「おまえもここ来て肉体労働あんましてねーんだからやれよ、うら」
「えー」
ぶうぶうと口を尖らせたけど、その場のノリで鶴嘴を受け取ってしまった。ちくしょう。
リンさんが壁の薄い所を機械で探知してくれたので、俺はジョンと一緒に壁に向き合う。初めての共同作業だね……とか言ってる場合じゃなかったし、初めてじゃなかったね。
皆が居なければ魔法使ってぶち壊すのにぃ、と思うあたり、俺はすっかり魔法界に染まっていたらしい。
途中からリンさんとぼーさんが代わってくれたので、俺とジョンはふひーと息を吐きながら後ろに下がる。
俺とジョンの息がおさまり、ぼーさんたちが少し疲れ始めた頃にくぐれる程度の穴があいた。赤外線カメラで中の様子を見て確認してから、ぼーさんとジョンとナルとリンさんが入って行った。
中には遺体があったらしい。
鈴木さんや、その後に失踪した人でもなかったけれど。


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リンさんの綺麗ですね、っていうのは美しいとか神秘的というわけではなく、随分クリアに姿が見えるんですねに近い意図があります。
主人公は麻衣ちゃんのような夢を見てないし、ジーンとナルもその内容を皆に伝えていないんだけど、浦戸がヴラドのことで、次々と人が失踪していることと、血の匂いがするって真砂子がいうことでうっすらとお察し。エルジェベットの話をナルがしれっと出したことで、何をしているのか、見当をつけてしまったということになります。
Feb 2017

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