I am.


My wiz. 29

十八歳の誕生日の朝は、どこの隙間から入って来たのか分からない手紙がぺふっと顔の上に乗っかったことから始まる。
うへえ?とアホな声を漏らしながら起き上がり、顔を掴む。ちょっとくぼみが出来たそれは校長先生からの手紙だった。
誕生日おめでとう———と新しい名前とわざわざ日本語で書いてくれている文字を見てふっと笑う声が零れる。それ以降は筆記体が続くけど。
冒頭部分を読みながら、朝ご飯の準備をした。食べながら二枚の便箋にゆっくり目を通す。
近況報告に続いて、学校の事を教えてくれていた。そう言えば、同級生達はもう卒業だったか。セドリックの卒業後の進路はおじさんが手紙で教えてくれたけど、ほかの同室者のことは知らない。たまーに手紙を来てたのも、今ではやりとりするのが稀になった。魔法界、色々と大変だもんな。
手紙の最後に、感謝と俺の幸福を祈る言葉。よい一年を、ではなくて、よい人生をと締めくくられている。羊皮紙をゆっくりとたたんで、テーブルの上に置いた。それから水を飲み干して、トーストを乗せていた白い皿とグラスを手にキッチンへ行く。
校長先生はもうきっと、手紙を送る事はないんだろう。それでもまだ間に合うなら、俺は返事を送らなくてはならない。手早く後片付けを済ませて、レターセットを探し始めた。

手紙を送ってから二週間程が経ったころ、依頼が舞い込んだ。相変わらず記憶は薄いんだけど、ははあこんな依頼もあったなあという妙な既視感がある。
それにしても能登まで車とは恐れ入った。超疲れた。
畳みに突っ伏して、広い部屋の空気をめいっぱい吸い込む。
「はー、落ち着く」
「お前な……車に乗ってただけのくせに」
「免許とれたらかわってやんよう」
十八歳になったのでするっと言葉が出てくる。んー、今更教習所に通うの怠いなあ。でも一発免許って難易度高いらしいんだよなあ。それに筆記試験はルール分かってたとしてもおさらいしときたいし……合宿行くかなあ。
「そーかそーか、って一年以上先じゃねーか」
夏休みに合わせて申し込んどけば良かった、と思いつつごろごろしていたらぼーさんが俺の頭をぺしぺしした。あれ、俺の年齢知らないっけ、そうか……言ってないか?
「免許は卒業まで学校に預かられるけど、別に言わなきゃ良い話だし……近いうちにとってくるって」
「免許って十八からだろ?」
「こないだ俺十八歳んなったよ」
腕を枕にして上半身をあげると、綾子とぼーさんがあんぐりとお口を開けた。ああやっぱり知らなかったか。
「れ?真砂子と同い年じゃなかったっけ」
「ってことはアンタ受験生?大丈夫なのこんなところでバイトしてて」
「いや学年はいっしょだけど、年齢はひとつ上で〜」
むくりと起き上がって説明していると、ナルにいつまでサボってるんだと怒られたのでしゅっと立ち上がった。


吉見家では代替りの度に変事がおこるそうだ。
依頼人であり最年長の吉見やえさんは、布団の上で頭を下げた。代理としてオフィスへ依頼に来たのは孫の彰文さんで、今年二十歳になる大学生。
会員制の料亭を家族で切り盛りしているここはお店と茶室と母屋の建物が三つに別れていて、さらにはこぢんまりとした神社まで敷地内にある。
変事というのは、この家に住む人々が亡くなること。
やえさん曰く三十二年前、先代が亡くなったころも家族が八人、霊能者が三人亡くなった。
その話を聞いて若干帰りたい欲が高まったけど、序盤でさっさと帰る程思い切りがよくないのでとりあえず調査に専念する。ジーンとナルのことは信頼してるし、ぼーさんと綾子がいるんだから心強い。ジョンと真砂子まで来たら怖いもん無しだ。あと安原さんも来てくれないかなあ。いつになったらバイトに来てくれるんだろう。なんか、ずっと居たイメージがあって物足りなさを感じる。
「うい、
「ふおっ」
ぼーさんがカメラの三脚で俺の腰を、軽くどつく。
柔らかいところに入ったから素っ頓狂な声を上げてしまったじゃんか、畜生。
「なんだよお、びっくりしたなあ」
「いやあ悪い悪い、んで、家出る前になんかなかったか」
「はあ?」
腰を摩りながらぼーさんをみると、三脚を小脇に抱えて身を寄せてくる。ナルまでその様子を黙ってみているので、俺は首を傾げた。
「なんもないけど」
「ほんとか?なんかお守り壊れたりしてないか?」
魔除けのお守りはあれしかないし、新たなお土産はもらってないのでそんな予兆はない。
あれは本当にただの偶然だった。いや、原因不明で壊れたけどさ……。
不吉と言えば先生からの手紙で死の予感はあったけど、あれはこの事に関係ないはずだし。とくに思い当たる事はないので首を振った。

心霊現象は夜に起こりやすいので、晩ご飯にお呼ばれする前に機材の設置を終える。
料亭というだけあって、美味しい和食を食べられてラッキーだ。ぼーさんと綾子はお酒を飲んでるのでイイナーと思ったけどそこは我慢。あああ、せめて仕事中じゃなかったらなあ。
「今夜から動きがあると思う?」
ナルとジーンは板の間にあるテーブルスペースで地図を眺めている。
「どうかな」
「明日にでも地元の図書館へ行ってみるんだな。———ぼーさん、葉月ちゃんに護符は?」
ジーンは苦笑して言葉を濁すが、ナルはあっけからんと言い放つ。誰が行くかよって思ったけど、よく考えたら今まで土地とか家系とかに関することが多かったし、それも手なんじゃないかと気づく。ぼーさんの返事を聞きながら、鼻の下を軽く擦り思案した。
「明日、行ってみようかなあ」
「図書館に?」
ジーンが俺の呟きを拾った。緑陵は安原さんが、美山邸では森さんが色々と調べてくれたことが手がかりになったし、事件を待っているだけでは死人が出かねない。
「ん?葉月ちゃんだけでいいの、護符って」
ジーンの疑問に応じようとしたけれど、俺は思いついた事をぽろっと口に出す為ぼーさんとナルの会話に口を挟む。二人が俺を見た所で、襖がトントンと叩かれ静かな音を立てて開いた。
「おつかれさまです、お邪魔しても良いですか?」
「彰文さん」
俺は立ち上がりながら、お茶セットを持って来てくれた彰文さんに近づく。ポットを受け取りながらどうぞどうぞとベースに案内した。


next

ホグワーツは夏スタートだから学年とストーリーの認識がこう……ずれるっていうか。
かんがえるんじゃない、かんじるんだ。
Feb 2017

PAGE TOP