My wiz. 31
———ペトリフィカス・トタルス床に落ちるナルは大層堅い音を立てた。初めて人間にかけたな、この呪文。
だってだって、急に首をしめられたんだもん!
「!」
廊下の向こうから、ジーンとリンさんが慌てて駆け寄って来た。
俺の足元に転がるナルをみて、驚いて狼狽えている。安心せい、峰打ちじゃ。打ってないけど。
「殺してないよ」
ん?この台詞って俺のほうが悪役みたいじゃないか?正当防衛だよね?
「これは……?」
「おい、大丈夫か!?」
あーカメラあったんだっけ。ぼーさんと綾子もやってきた。大丈夫かな、魔法かけた所うつってないかな。
ジーンは霊が活性化すると気づくのかわからんけど、こういう時真っ先にやってくる。リンさんまで連れて来てくれたことは良かったけど。
「どうしたんだよ、これ」
「えーと、リンさんがやりました」
「……」
ごめんリンさん。せめてリンさんが助けてくれたって言えばよかった……ごめん。
ぼーさんは特にリンさんも俺も責める顔はしてないけど、ナルの身体に触れて驚く。かっちこちだろう、そうだろう。あの……あんまり触らないで……。
「驚いたわよ、リンつれて急に部屋を出て行っちゃって、カメラ確認したらあんた首締められてるんだもの」
「へーき」
そうか、俺は魔法を見られていないか。オブリビエイトの準備をしていた俺はへらっと笑って後ろ手に杖を隠した。ちょっとこの一連の動作、俺が相当悪い奴に見えそうだが大丈夫かな。罪は犯してないぞ。
「さっきの憑依霊は、ナル坊についたってことかい」
「そのようです」
「気づくのに遅れた。ごめん」
「いいよそんなの」
ジーンは最後に俺の方を見る。俺こそ弟さん石にしてごめん。といっても金縛り術ってやつで石になったわけじゃない。身体だけ動かせなくなるから……、ナルの意識は消えてないんだな。
とりあえずナルを、ベースの隣の部屋に寝かす。
「栄次郎さんみたいに縛っておいたほうが良いんじゃないの?」
「ナルをか?あとでなにいわれっかわかんねえぞ」
「……縛ったくらいでナルをとめることは出来ないと思います」
リンさんもジーンも俺のかけた魔法にどれほどの効力があるのか分からないので、まず物理的に縛る意味はないとぼーさんたちに話した。
「谷山さんは運がよかった———のでしょうか。おそらくナルに憑依した者も、まだナルの使い方がよくわかっていないのでしょう」
「そうだね、じゃなければは死んでいたかもしれない……ナルもね」
「どういうこと?」
「奴が本格的にナルを使うことを覚えたら僕たちに対抗手段はないということ」
俺は、以前ナルが貧血で倒れた理由を知っているので、黙って聞く。
「ジョンが来たら落とせるの?」
とりあえずそれまでは俺の呪文の所為でナルが動く事はできないだろう。そう思って聞くと首を振られた。ナルめ、頑固な性格をしてやがる。通常憑依されにくいタイプだからいざ憑かれると困るってか。追い出せ追い出せ!
「……じゃ、どうすりゃいいんだ……」
ぼーさんが深いため息を吐く。
「わかりません、憑依した霊の正体がつかめれば、有効な除霊方法がみつかるかもしれません」
「ジーン、どうだい」
「今の所、よくわからない」
「ってことは、真砂子とジョンが明日来ても進退は変わらねーぞ」
「明日、地元の図書館に行って調べ物をしようと思う。と」
「俺も?」
「が言ったんじゃないか、明日図書館へ行ってみようかなって」
そうだけどさあ。
一人が全く使えなくなり、二人も席を外していいものか。そりゃ俺は居ても居なくても変わらないだろうけど。おっと言ってて悲しくなって来たぞ。
「はもしかしたらまた狙われるかもしれない」
「へ?」
「たまたまじゃねーの?」
「どうだろうな……。でもとりあえず、にまで取り憑かれたら厄介だ」
俺の意見は?ナルの状態はどうする?と思うが魔法の事を説明できないのでとりあえず黙っとく。
そもそも俺は取り憑かれにくいタイプと違うので……多分だけど……ジョンなら落とせると思う。それに手足を縛られれば動けない。杖がなければ、口を塞がれれば、魔法は使えない。
「まてよ、ってこたぁ他にも霊がいるって?」
思いを馳せている間に、ぼーさんたちの会話が進む。
ジーンの見解では、霊はナルについているものだけではない。誰に憑いているかはわかりづらいけど、複数の気配を感じるそうだ。
ナルについてはリンさんが金縛りをかけて禁じ、式を全て残して護りを固めることになった。金縛りは既にしてるし、なんだったら俺が守りの魔法もかけるけどって提案したいところだけどぼーさんたちに説明が出来ないのでとりあえずまかせよう。リンさんがパワーダウンする分、俺が別の所で使えば良いんだもんね。……そうならないことを祈るけど。
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しれっと罪(?)をなすりつけられるリンさん……かわいそう……。
Feb 2017