My wiz. 32
朝一番にやってきてくれたジョンと真砂子は現状を知り心配そうな顔をした。真砂子にも一応霊を視てもらおうと、ナルを隔離している部屋の襖を開ける。ショックなのか息を呑み、うつむいてしまった。
怖いのでも憑いてんのかな、と思いおずおずと訊ねてみたが、真砂子は首を振りながら、躊躇いがちによく見えないと答える。
ジーンと同じだ。昨夜も正体がわからないって言ってた。
「さて、行く?」
「うん」
「おー、いってらっさい」
俺とジーンは顔を見合わせて立ち上がる。ぼーさんはモニタから顔を動かさずに送り出したけど、真砂子とジョンは話が分からず首をかしげていた。
「どこか行かはるんですか?」
「調べものをしに」
「そういえば何を調べてくるっていうのよ、まだ来たばかりなのに」
「とりあえずは土地についてかな。いわくとか歴史とか。みんなも吉見さんに聞いて何か情報があったら連絡してほしい」
俺はジーンが説明するのを聞きながら襖の所で待つ。手持ち無沙汰だったので携帯電話でメールをしてみた。安原さんこの依頼来てなかったっけって思って。
いまなにしてんの、なんて気軽な感じで送って、携帯をしまうころにはジーンも立ってこっちに歩いてくるところだった。
「安原さん?」
「ん、ああ」
「なんだって」
「まだ返事はない」
靴を履いて外に出ると、湿った熱気が身体をつつむ。店全体に効かせてるわけじゃないけれど空調設備は整っていて、家の中はわりかし涼しい。やっぱり外に出ると暑いなあ、夏だもの。
ちらっと隣を見ると、ジーンも少し暑そうにしていた。
ナルとリンさんは顔色を変えないからこういうとき、ジーンにとっても親近感が沸く。
まあナルだって暑いの嫌いみたいだし、リンさんは腕まくりとかしてるけどさ。
「図書館に行く前に、ちょっと寄りたいところがあるんだ」
「おっけー」
案内も無いのにジーンは迷わず進んで行く。まあ、大体の立地は昨日説明されてたけど。
崖の手前には柵があって、鎖でつながれていた。明らかに封鎖されていて、もちろんその先が崖なので危ないんだろうことは分かる。
「あれ、わかる?」
「ん?階段、かな?」
ジーンの指さした所には崖に沿ってそのまま造られたみたいな階段がある。
「下に洞窟があるって言ってたろう、そこまで続いてるんだ」
「へえ」
彰文さん、階段あるなんて言ってたっけ。ああちがう、ジーンが視たのか。
「行ってみる?」
「危ないよ、所々壊れてるようだったし」
何か見えないかと、背伸びをしてみたけど大して変わらなかった。
「確認したいんじゃなかった?」
「うん、でも、ここからじゃ危ないから他の道を探す……え、?」
がしゃがしゃ、と音をたてながら柵を乗り越えた。ジーンが驚いて俺を呼んでいるが、とりあえず確認のため石段を見に行ってみる。ありゃ、本当だ、真ん中らへんで階段がごっそり無くなってるわ。
しゃがんでじいっと確認していると、ジーンまで柵を超えてやってくる音がした。
「まさか降りる気?」
「え、ああ……他の道探すの面倒だし」
「無理だ、降りられない」
確かにこのままじゃ無理だけど、と思いながら魔法で修復してみた。
直った……と小さな声で呟いて驚いているジーンをよそに、石段をいくつか降りて振り向いた。
「行く?」
「うん」
手を差し出すと躊躇いがちに握られる。
さすがに並んで降りる幅はないので俺達は一列になって階段を下りて行った。
「、降りるの早くない?怖くないの?」
「平気〜。あ、こういうの駄目?」
「特別苦手とは言わないけど、よくそんなにすいすい降りようと思えるな……」
ぼやくように言われて、きょとんと振り向いた。
いやだって、ホグワーツの断崖絶壁加減とか、すごいぞ。そりゃ日常的に登らないけどさ。
箒で飛ぶのに慣れてるから、知らない内に平気になったのかも。
でもよく考えれば落ちたらやばそうだ、この階段。
自分の危機管理能力の変化に思わず笑ってしまって、ジーンが少し拗ねた顔をした。
「あ、別に馬鹿にした訳じゃないから」
「そう?」
じとりとこっちを見る。
「プロテゴ」
杖を向けながら呪文を放つと、目を丸めて固まった。握っている俺の手からびくりと身体が跳ねたのは伝わる。怖かったかな、つい昨日ナルに金縛りをかけちゃったし。
「ジーンを守る魔法だよ」
「え……?」
「間違って落ちても傷はつかないと思う。まあ、海だからある程度備えて欲しいけど」
ざぶりと波打つ海を横目に笑う。
「でも落ちるときは一緒だから、安心して」
「それって安心していいの」
ぱちっとウインクをしたら、ジーンが呆れた顔をして問う。おいおい、俺ぁ魔法使いだぞ、お空も飛べるんだぞ。いや、箒なしに飛ぶ魔法はさすがに使えないんだけど。
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魔法生物にのったりとか、箒にのったりとか、色々危険度が高いのがナチュラルになってて階段全然怖くなかったりするんじゃないかなと。
Mar 2017