I am.


Salad. 03


クラスで一名、代表者を選出すると言われた朝のHR。俺はたまたまその日の1限目の課題を家に忘れてきていて、慌てて予備のプリントをもらって再度こなしていた。昨日一度解いたし、多少間違ってはいても提出できればいいやという、ちょっといい加減な気持ちで。
提出しなくては出来以前の問題だ。

なんの代表だったかよく聞いてなかったんだけど、近隣の友人らは和気あいあいと、誰がやるのって話し合っている。
「麻衣ちゃんは誰がいいと思う?」
「え、なに?あんま聞いてなかった」
「応援団!代表者は体育祭で応援合戦やるんだよ」
「なにそれたのしそー」
アハハと笑いながら返事をした。本当に楽しそうとは思った。でも、誰が俺やりたいって言ったよ。

「じゃ、うちのクラスの代表者は、おお谷山か」

投票数がクラスの半分以上の人数なんですがこれは。
俺は一番声がでかい、笑い声が他のクラスまで響く男にしたし、あとは数名柔道部とか剣道部の野太い声が特徴の男に投票が入っていた。え、女の子誰も投票されてないのを見てわかる通り、応援団はむさくるしい男がなるものだとばかり思っていました。
ぱちぱちと拍手をされたのでヤですと言うわけにもいかない。
部活が忙しいとかなら断れたのかもしれないが、あいにくと園芸委員会以外に所属してるものはない。が、がんばる……。

放課後指示された教室へ行くと、三学年六クラスの代表が揃っていた。
女子はほとんどいないが、ゼロというわけではないので、俺がぷちっと踏みつぶされることにはならないだろう。
紅組のチームへ行って、例年通りのやり方を説明される。
今後の練習スケジュールや、クラスで応援の指導を行ったりするらしい。学校が体育の時間やHRを使って練習時間を設けるらしく、大がかりなんだなーと感心した。
いわゆるマンモス校と言われるだけはあるな。
「谷山は志願したのか?」
「いえ、なんか、投票ですね」
「投票?じゃあ相当期待されてるんじゃないか」
隣に座っていた二年生先輩が話しかけてくれたので応じる。
がたいの良い色黒スキンヘッドの異国情緒あふれる感じの人で、ジャッカル先輩という。
「投票ならなおさら男子生徒がくることが多いんだがな」
「だよな」
俺たちの会話を聞いてた老け顔の同じく二年生、真田先輩が会話に入ってきた。
「先輩たちは志願ですか?」
「俺は誰も立候補者がいなかったし、去年もやったからな。真田もそうで、クラス委員に頼まれたんだったよな」
「ああそうだな」
まあこの二人、見るからにして強そうというか、でかくて張りのある声出せそう。
俺声変わりしてないから多分先輩たちと同じ系統の声はでないだろうけど、頑張ろう。

応援団の練習は主に昼休みと、体育祭準備時間にやる。
組全員で合わせる前に、一年生はバラけて上級生と一緒に練習することになるらしい。
そういうわけで組むことになった真田先輩とジャッカル先輩は、昼休みにクラスまで俺を迎えに来た。クラスメイトは主に真田先輩の呼び出しにビビっていたけど、応援団だと分かると憐れだなという顔をして送り出してくれた。
これが俺に投票したやつらなのだから、失礼しちゃうわもう。
それに、真田先輩は顔や風体は威圧感あるけど、根が真面目なので、理不尽に怒られることなんかないし。会ったときに挨拶するとデカい声で返してくれるし。
「今日は中庭でやろうと思う」
「はあい」
「天気いいし広いしな」
「ですね」
背が高い先輩たちの後ろをてってっと走ると、ジャッカル先輩はゆっくり歩き出し、真田先輩は一度立ち止まって追いつくのを待ってくれた。
中庭はそういえば、日当たりの良い場所にベンチがあって、そのまた近くには花壇がある。
水やり当番がくると、俺はあの花壇に頻繁に行くことになるのだがそこはよく人がいるんだ。
「───幸村、読書か」
「あれ、真田とジャッカル、連れ立ってどうした……谷山さん?」
案の定ベンチには幸村先輩がいた。同級生だから顔見知りなのだろう、真田先輩とジャッカル先輩に気が付いた。そして俺にも気づいて驚いている。
「応援団の練習です」
こんにちはのあいさつの後に簡潔に説明すれば、すぐに納得の声が上がった。
「少し離れたところで練習をしてもかまわないか?」
「もちろん、ここは俺だけの場所じゃないから」
「結構でかい声出すことになるぜ……場所変えるか?」
「いや気になるなら俺の方が席を外すよ。学校行事の一環だろう?」
俺は口を出さずに練習場所の譲り合いを眺める。
蓮二くんではないので仲裁は出来ない。
やがて幸村先輩が気にしないのなら、と言葉に甘えることになった。


二週間後の良く晴れた日、とうとう体育祭本番を迎えた。
これまでもクラスメイトとの練習、一年紅組、全学年紅組と規模を増やして練習を重ねてきたので、いつも通りやればいいと言う話ではある。
応援団は当日、長ランにたすきとハチマキ、手袋をつけるので、数日前に渡されてサイズ確認のみしていたそれを、俺は初めて人前で着た。
午後一番に応援合戦をするので、早めに昼食をとってから着替えるのだが、クラスメイトにはこれが見たかったのだと騒がれた。応援団をやる醍醐味って多分この格好なんだろうな。
誰が来てもかっこいーってなるから、皆も自分がやるって言えばいいのにな。


応援合戦を終えたとき、息が乱れて、汗だくになっていることに気が付いた。
初夏にこの格好で大声出すのは暑い。みんな玉の汗をかいている。
とはいえやり終えた達成感にわーわーはしゃぎ、応援団は記念撮影をするって校庭の端っこに集まった。そしてあとは誰と撮る、あっちで撮る、と入れ食い状態になるのでなかなか脱げないでいた。
「麻衣ちゃん次こっちもいいかな」
「あいー」
仲が良くなった先輩たちに引っ張りまわされて、よく知らない先輩たちと謎の記念撮影をする。
「よう麻衣ちゃん、俺とも撮ろうぜ」
途中丸井先輩がジャッカル先輩と一緒になって俺を挟んで撮りにきたし、蓮二くんはすでに勝手に撮っていたし、なんだったら真田先輩とのツーショットを撮らされた。絵的に面白いんだとさ。

「お疲れ様、谷山さん。格好良かったよ」
人混みから抜け出すと幸村先輩がいて、ねぎらいと褒め言葉にニヤける。
かわいーより、かっこいーと言われる方がやっぱり嬉しいといいますか。
「先輩も写真撮りにきたんですか?」
「うん、今日しか見れないからね」
真田先輩とジャッカル先輩は友達みたいだったしな、と頷く。
「谷山さんは全然写真撮らないね、いいの?」
「あースマホ持ってないんで」
幸村先輩の手にしたスマホを眺めて苦笑いをする。
「撮りに行かなくていいんですか?誰か呼ぶ?」
応援団の二人の先輩は今は丸井先輩と話し込んでいた気がするなあ、と混雑したあたりを見やる。あの辺は運動部っぽい人たちなので、他の生徒にも人気である。丸井先輩以外は何の部活だか知らねーけど。
「ああ、谷山さんが撮りたいんだけど、だめかな」
「え、これ!?」
「うん」
これ、と自分を思わず指をさす。俺は多分、そんなに貫禄はないぞ。
それに汗かいてよれよれだと思う。
おずおずと再度、だめかなと聞かれて罪悪感が刺激されたので泡を食って、おでこの汗を手袋でごしごし拭いて、せっせと前髪を整えた。
「はい!」
「……、行くよ」
横にくっついて、俺が勢いあまって肩にぶつかりつつピースをしたので、幸村先輩はさすがにちょっと驚いたらしくて、一瞬間をおいてからスマホを内側カメラで立ち上げて構えた。
「目線だいじょぶでした?」
カメラの見るの忘れがちなので心配したが、スマホ画面を確認してる幸村先輩は大丈夫と言ってくれた。


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みんなだしてくぞ、みんな(意気込み)
応援団って普通に部活であるだろうけど(試合に応援きてたので)体育祭のレクリエーションとしてやらせました。長ラン着せたかったんじゃあ……。
主人公、写真撮りたいとは言われたけどツーショはお願いされてない……。でも、むしろ単体で自分の写真なんか要らんよなっていう思考回路と、さっき散々いろんな人と写真撮ったからですね。
Feb.2022

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