Sunrise. 02
氷帝学園の調査は恙無く終了した。忍足さんは忍足先輩に写メを送ったようで俺の方にも忍足先輩から『侑士に会ったんやな!』っていうメールがあった。白石先輩や財前にもその写メを見せびらかしたようで、財前に電話をした時に偶然会ったことを話したら「知っとるわ」って言われる事件が発生。俺と財前の話題の種を忍足先輩に盗まれた……。
調査中はなんとなく他の皆の視線が痛かったので、なるべく携帯電話は出さないようにしてたけど、調査が終わればまたいつものような日常は戻って来る。
珍しく短いスパンで依頼が入って来たので、春休み直前にも俺はまたバイトで学校を休む事になった。場所は千葉で、緑陵高校という頭の良い学校だった。新聞にも何度か載っている学校だから、なんとなく依頼がくるのは予想していた。
安原さんが来た時はこっそりヤッターって思ったし。
事件はなんだかんだ辛かったので、俺はちょろっとナルに弱音ならぬ本音を吐いた。
それはジーンの遺体のある場所を知っていることで、ほんの少し俺の知る未来から道はそれた。
だって、坂内くんは小説の中で知るよりも重たかったんだもん。
ユージンは今まで夢に出て来たけれど、坂内くんが消えてしまうのを見て今更ながらに死んでいるということを理解した。重たい事実を抱えているのはつらくて、それを放棄してしまいたかった。
「なんかも〜つかれた〜」
『おつかれさん』
言葉短く、電話口の財前は呟く。
俺がどんなバイトをしてるかは知ってるけど、事情は知らない財前。でも深く聞いて来ることもなく、とりあえずの相槌を打ってくれる。
「でも、肩の荷ぃがちょっとおりたわ〜」
『ほんで、戻るんか』
「まだ。推すね〜それ」
『あたりまえやろ』
家に入り靴を脱ぎながら電話を続ける。
千葉から東京に戻って来たら18時をまわっていて財前の部活が終わる時間帯だったので、ここぞとばかりに電話をして弱音を吐いているのだ。ナルには現状を解決してもらう弱音で、財前には俺のちっぽけな弱音を吐いている気がする。もうちょっとかっこつけたいけど、うーん、無理かな。色々あり過ぎて。
遠くで忍足先輩っぽい声が「ざぁいぜーん」って呼んでいるのが、さりげなく癒される。
『お、なんや電話中かいな、悪いな』
『はあ』
『部室で電話出るなんてめずらしなあ、よっぽどの相手や……誰なん?オカン?』
『オカンちゃうわ……電話中なんで静かにしといてください』
悪いなって謝っておいて話を続けるスタンス、嫌いじゃないよ俺。
つか財前まだ部室だったのか。てっきり帰り道くらいかなーって思ってかけてた。まさか着替えてもいなかったりして。
『コラ謙也、何やっとるんや上素っ裸で』
途中で白石先輩の声が入って来て、忍足先輩の状態を知らされる。くっと笑いそうになるのを堪えて、ベッドの上に寝転びながら彼らの騒がしい声を聞いていた。
『制汗剤かりたかったんや』
『なら俺のかしたるわ』
『白石のはちゃうねん、爽やかにも程があるっちゅーか』
『……なにツボはいっとんねん』
財前が俺の笑い声を聞き取ったようで突っ込んで来る。
「いや、ははっ……おもろくて」
『うっといだけやろ……』
『あ!麻衣ちゃんやろ!?それ麻衣ちゃんやろ財前!』
『うるさ……』
『なんや財前、麻衣ちゃんと電話しとるならそう言うたらええのに』
『長電話されたら嫌やから切るわ』
「また電話するー」
『おん』
『なんで切っ———』
プツン、と電話が切れて部屋に静寂が戻って来た。
相変わらずあの人たち男子高校生みたいで……あ、男子高校生だ。とにかくゆるっとしたやりとりに癒された。
ちょっと近況報告もできたし、先輩達の日常も垣間見えたので大満足だ。
春の調査では、少しだけ男として皆の前に出る事があった。男装するのとはまたちょっと違うような気持ちだったけど、どっちにしろ俺は自分自身を偽ってる認識はないのでそんなに変わらないだろう。
麻衣ちゃんのヒロイン力弱まっちゃうよぉって思ったけど、何故か強化されて攫われると言うビックリ体験をした。
財前には幽霊に誘拐されたんや……というギャグみたいな真実をぶちかますことはできなくて、同業者にしか出来ないネタとなって封印された。つまらん。
「谷山さんって関西の人なんですか?」
「へ……」
事件が終息した後にオフィスで慰労会が開かれ、俺は多分意識しないうちにジョンあたりに関西弁が出てたようで、安原さんがきょとんと首を傾げた。時々ぼーさんに「ジョンのがうつってるぞー」とか綾子に「なんであんたまで訛ってんのよ」ってつっこまれる以外には初めてで、わりかしまともな反応がきた。
「ああ、麻衣はジョンと喋ってる時だけ関西弁うつるだけだから」
ぼーさんは、俺の頭を軽く叩きながら説明した。
「いや、でもブラウンさんと話してるとき以外も出てましたよね」
「え?うそ」
「癖になっちゃったんじゃないの?」
頻繁にジョンのまねっこしてる訳でもないし、日常生活で関西弁が出てる自覚はなかったのできょとんとすると、綾子が楽しそうにこっちを見た。
「直ってなかったんだあ」
「あん?どういうことだ?」
ちょっと感心しつつ呟くと、ぼーさんが首を傾げる。
「中学の二年間は大阪住んでたの。そんときは周りにつられてほぼ日常的に関西弁使ってたねえ」
「あ、やっぱり。本当に微かに出てるから、そんなに濃くはないんだろうなーって思ってたんですよ」
「安原さんすごーい」
ぱちぱち、と拍手してると皆がぽかんとした顔でこっちをみてた。
「なんだ、ただジョンにだけつられてるのかと思ってたよ俺は」
「まあジョンにつられて関西弁出ることが多いけど」
「ちょっとなんか関西弁しゃべってみなさいよ、麻衣」
「もうかりまっか!?」
そうじゃないわよと綾子に怒られた。
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皆はジョンの真似だと思ってたけど安原さんがもしやと気づいて、あっさり肯定する話がね……どうでもよいけど書きたかったんです。
そもそも中学が関西だったらっていうのも、このシーンを書きたいなっていう妄想で……ほんとうにとりとめのないネタだったのです。
Sep 2016