I am.


Sunrise. 04

声低くなったかと財前に指摘を受けたのは四天宝寺の皆と会ってから暫くした頃だ。
最後の事件まであとすこし。
知らないうちに電話を持つ手が震えていた。
笑って電話を終えたけど、しばらく茫然としてしまった。
声を発してみたけど自分では分からない。
いつも会ってる友達には言われないけど、変化はわかりにくいから気づかないはず。財前もわからんけど、と付け加えてたから大きな変化はないだろう。
「も、終わりかな……」
よく見たら、手も骨張って来たような気もする。
寒くなって来たな、膝とかとくに……と思っていたのも成長痛の兆しなのかもしれない。

「おつかれさまでした———っと、そうだ、言う事あったんだ」
「なんだ?」
次の日にはバイトだったので、俺はさっそく帰り際にナルに告げた。
「次の調査が終わったら辞めてもいいかなあ?」
「は?」
ナルは珍しく驚いた顔をしてしまい、言い直すとリンさんが資料室から出て来た所だったので、この人も目を見張った。
「……どう、したんですか?辞める…?」
「えっと、あのね、なんていうかね」
リンさんの困惑している様子に俺も驚く。
「———座れ。詳しく説明してもらおうか」
おすわりを言い渡されたのはまあ当然かなって思ったけど、まさかリンさんまで付き添って三者面談する事になるとは思わなかった。

俺の『一身上の都合』という言葉は、容易くナルを遠ざけた。ナルだって自分の事で話したくない事は沢山あるだろうし、そこまで人の事に踏み込んで来るわけじゃない。
俺がまだ未成年で後ろ盾がないということで、多少の懸念はあったけど借金ではく、ただごたつくだけだからと説明しただけて了承してくれた。
「———わかった」
そう言ってくれるだろうって分かってたけど、ちょっとだけ寂しかった。
帰り際に咳払いをして、自分の低くなりはじめた気がする声を誤摩化す。
「まあ、もうちょっと先なんだけどさ、それまでがんばるからよろしく。おつかされまでした〜」
比較的伸びやかな声が出たと思う。
ドアを閉めるとすっかり涼しくなった風が俺の身体をすりぬける。

「なんか、さみしい」
口に出してから、そりゃそうかと納得する。
麻衣ちゃんという役割があると考えながら麻衣ちゃんをやっていたが、結局俺は俺でしかないので皆に対する愛着がある。
無性に財前に会いたくなった。
「もうすぐ、名前変わるよ」
『そうなん』
電話で報告すると、財前は当然あっさりと返した。よかったな、なんて無感情な声が聞こえてくる。俺は果たしてこれでよかったのかよくわからない。
「なんか名残惜しいよ〜」
『たかだか、名前が変わるくらいやろ』
「いや、学校にはもう……通えないし」
『ああ……クラスメイトになんも伝えんのか』
「うん、いちお、体育とか出てたし」

皆と一緒に着替えなかったり、トイレはなるべく使わなかったりと心がけてたけど、そういう問題じゃないし、皆はそんなん知らない。
十中八九奇異の目で見られることになる。自分で選んでそうしたとはいえ、責任なんてとりたくない。
『仲ええやつとかは?』
「尚更言えないでしょ」
『ほんで、勝手に縁切るんか?勝手な奴やな』
「なんとでも言ってくださーい」
財前の厳しい言葉に軽い口調で返すも、内心ちょっぴり傷ついてた。
もふっと布団に埋もれながら、物の少ない自室を眺める。棚にある、大阪に居た頃の教科書が目に入った。
あの頃はまだ戻る事は先だと思っていたし、物語の登場人物と思ってる人も、そのままの印象だった。会った時から終わりに向かって歩いていたのでうっすらとこの事を理解をしていたけど————このどうしようもない寂寥感は、前もって知れるものではない。
「ひとりってさびしんだな」
『は?』
財前の声を聞いて、彼の何言ってんのお前、と言いたげな顔を脳裏に浮かべた。
ふふっと笑ってしまって枕の中に顔を埋めておさえる。
まだひとりじゃないけど〜と軽口を叩いてると、財前のため息が聞こえた。ほぼひとり言だからだろう。ごめんごめん。
「あー、大阪かえっちゃおっかな」
『大阪でも女やったやろ』
「せやったせやった」
あはっと笑う。じゃ、帰れないわ、と結論づけるとまたしてもため息を頂いた。不満か。
「なーに?財前は俺が女装男だったって皆にしらしめるべきって思ってるの?」
『そんなんちゃうわ。———誰とも縁切るつもりなんか?』
「財前が居るじゃん」
『……』
「財前が居れば良い、もう良い……傷つきたくないし、一人にもなりたくない」
財前は何も言わない。
「謙也さんも白石先輩も……テニス部の皆とか結構好きだし、大人になったらお酒飲みに行ったりとかしたかったけど……無理だもん」
『何で無理やねん、あの人らアホみたいに大雑把やぞ』
「そうかなあ」
『———まあ、よく考えたらどうでもええことやったわ』
「なに?どゆこと?」
『自分の友達が消えようが消えまいが、俺はなんも関係あらへんし』
「まあ、そうだね」
お前あんだけ不満たれておいて……と思ったけど、言わないでおく。
よく考えたら財前って、俺の友達を思って皆に本当の事言わないなんてよくないよ!なんて事を言うキャラじゃないし。
『精々知り合いにバレへんようにせえ』
そんな適当な事いって、財前は電話を切った。
え、それでおわり。まあいいか。
なんか俺も財前につられてそんな気持ちになってきてしまった。


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財前くんという心の支えが居るからこその弱音と弱気なのかもしれない、かもしれない。
財前が居れば良いってデレ全開です。財前は別に自分が縁切られると思ってたわけじゃないけど、主人公が財前居るじゃんって言った時に、よく考えたら麻衣ちゃんのお友達とかわりとどうでも良いなって思った。(ドライ)
Sep 2016

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