I am.


Sunset. 02

忍足先輩の隣に座った人は、白石先輩といって彼のクラスメイトらしい。
そんで、財前の部活の先輩だという。軽音部かなって思うくらい派手な人達だったけどテニス部だった。うん、まあ、爽やかな感じで良いと思うけど……身体も確かにすらっとしてるけど……スポーツ少年には見えない。
年不相応っていう単語が脳裏をちらちらかすめつつ、俺はたこ焼き食べながらノリの良い忍足先輩と、人の良い白石先輩になんやかんや話しかけられて一緒にご飯をしていた。あれ、食べ終わったらどっか行こうと思ってたんだけどな。
「へえ、三ヶ月前に転校してきとったん」
「財前そんな事言わへんよな」
「そんなんいちいち言わないっスわ」
隣の財前は昼ご飯を食べながら興味無さそうに携帯いじくってる。
たしかにこのそっけない男が先輩に、わざわざ転校生が来たとか話すことはないだろう。同学年だったら転校生が来たことは多少話題にはなるかもしれないけど、学年違えばあっちから聞かれないし。
「でも、隣の席の子の話はしよるやん」
「!」
「足がデカいいうただけや」
俺じゃねって思って財前を見ると、白石先輩に若干嫌そうな顔をしてから俺を見返す。
その言葉を受け、おもむろに片足を太腿の上に乗せて上履きのサイズを確認する。まあそりゃ、足は大きいわ、女子にしてみりゃな。
「たしかにでかいかもしんない」
「キミやったんか」
「あー、悪口いうとるわけちゃうからな?」
白石先輩と忍足先輩は驚いてから必死に弁解して来る。財前はよくもまあ素直に言えたもんだ。
これが女子だったらプンプン怒るし、デリカシー無い男って糾弾すると思う。
「足デカい以外は何て言ってたんです?」
「ええと、あー、鼻歌が頭から離れんとかやったか。俺もあの後離れんくなったわ」
忍足先輩はへらっと笑う。
「しょうもな……!財前そんなどうでも良い話すんの?先輩に」
「ブログの話や」
「へ〜ブログ」
財前は携帯をしまってかったるそうに言う。白石先輩曰く、テニス部員とか、クラスメイトとかちらほら知ってるらしい。
財前ちゃんと友達いるんだな。まあ確かに、クールでドライだけど無口ではないし、ツッコミはキレッキレだしな。
「URL教えたろか?」
「教えんでいいっスわ」
忍足先輩は携帯をすっと出し、財前はかったるそうに止める。
本当に教えたくはないって感じではないんだろうし、興味があるから見たいって気持ちはあったんだけど。
「いや、携帯もパソコンも持ってないので……」
俺は見る為の媒体が無いため断った。
驚きに目を見開く現代っ子たちにへらへら笑う。転校して来ていろんな人に聞かれてこう答えたので、そういう視線は慣れた。
部活や塾があるとかだったら連絡用に持つのかもしれないけど、今の俺は学校と家の行き帰りだけだし、中途半端な時期だったから委員会すら入ってない。
「だから財前、今度読ませて」
「なんでオレがわざわざブログ読ませなアカンのや」
「話題にしてるんだから気になるじゃん」
「もう出さへんわ」
結局財前は自分からブログを見せてくれたりはしなかったので、クラスメイトの人からちょっとだけ見せてもらった。
「隣の席の女に足を踏ん付けられた、あの足デカ女……」って恨めしそうに書いてあって、転校したてのころを思い出す。俺は誰かの足踏んだけど、財前だったんだな。でもあれは人混みだったし俺はすぐに謝ったし、財前も痛そうにしつつもええよって答えた。
最終的に「もう人混み行かん」とか言ってるから、最終的に俺のことはそんなに気にしてないはず。
家に帰ったら学校はどうだって先生たちに聞かれるので、俺は学食にたこ焼きが売ってておどろいた話をした。
前の中学は給食だったから知らなくて当然なんだけど、どうやら関東の学食でもたこ焼きとか焼きそばは置いてあったりするらしい。前に高校生だった時、そんなんあったっけ?
「各家庭には必ずたこ焼き器があるのかってくらい、いろんな友達に自家製たこ焼きを自慢されます」
「全部の家庭かは知らんが、うちにはあるぞ」
先生はあははって笑った。
おじいちゃんと先生は久々にやったるかって話もしてて、俺は近いうちに大阪の家庭で作るたこ焼きを味わうことになりそうだ。
家にたこ焼き器がある人はたいてい、自分ちで作って食うのが一番美味いって言うのでちょっと楽しみだった。

「おはよう、財前」
「はよ……寝坊か」
「うん?まあそんなとこ」
昇降口で会った財前に気がついて俺は挨拶をする。朝練終わりの財前はHR五分前くらいに校内に入るので、俺がここで会うのは初めてのことだ。
実際寝坊したのはお弁当を作ってくれる奥さんで、俺はいつも通りに起きて朝ご飯は自分で用意してた。
今日は学食でいいかなって学校に行こうとしたんだけど、奥さんがギリギリ間に合う時間には仕上げるっていって作ってくれた。お小遣いをくれるだけでも申し訳ないと思ってるんだけど、そのお小遣いをお昼ご飯代に回してしまうのが勿体ないのだそうだ。優しい。
「今日は、お弁当できるのがギリギリになっちゃって」
「ふーん」
上履きに履き替えて、行き先は同じなので一緒になって歩く。
「そういえば聞いて、財前」
「なんや」
「うちにもたこ焼き器あったらしい!今度作ってくれるって」
わくわくしながら教えると、よかったなと棒読みで言われた。
「財前ちもあんの?」
「おん」
「しょっちゅう作る?」
「甥っ子がおるからそこそこの確率やな」
さすがに財前は自慢はしなかった。
正直俺的にはどこも一緒じゃないのって話なので、自慢しない財前はありがたかった。いや、自慢するほどのたこ焼きは勿論食べたいけど。
「でもなんか、皆たこ焼き食いに来いって言ってるから火曜と土曜はタコパらしいんだよな」
「アホちゃうか」
「いやあ……どうしてもぜひぜひっていうから」
「わかっとらん間に、うちのが一番って教えときたいんやろ」
なんとなくそれは察してた。好意であり善意だろうから、とりあえず言葉には甘えておこうかなとも思ってる。
しかし日曜日になったら、先生が同僚も呼んでタコパするって言い出して、俺は週に三回たこ焼きを食べた。

「———正直、飽きました」

月曜日、遠い目をして財前にこぼした。
「みんな美味しかったけど……大差ないし」
いや、青ネギ入れる家庭とか、揚げ玉入れる家庭とか、紅ショウガに一工夫とか、タコの大きさとか、些細な変化はあったけども。
「当分たこ焼きは良いです」
「オレに言うなや」
「誰かに話したかったん」
酷いこといわないで!と学ランを握る。
「わざわざ廊下で待ち伏せして呼び止めるからなんや思たら、くだらん話やったわ」
はあ〜と深くため息をつかれた。
たこ焼き誘ってくれた子がいたから教室では言いにくいだろ。
話してる最中から興味無さそうな顔して携帯いじくってた財前は、学ランを握ってる俺の腕を軽く摘んで「もう行ってもええか」って話を切り上げた。財前のいけず。


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二次元に限りクール後輩系が大好きです。
Mar 2016

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