I am.


Sunset. 08

本当は乾燥機かけて欲しいくらいだったけど、上裸姿を見られたのに女子制服を出せる筈もなかった。
お兄さんは「本当に大丈夫なん?」って気を使いつつ財前のジャージを回収していった。
その間ずっと俺はタオルを首にかけたまま、財前は部屋のドアの所で立ったままだ。
とりあえず俺は棚の上に置いてあった服をそろりと手に取って着る。素早く上半身を隠して腰のあたりを直していると、財前はくるりと背を向けて「行くで」と言った。
えええ、なんもいわないの……?
なんといったらいいものやら、と考えながら廊下を歩いたけど、ぴたりと足を止めてこっちを急に振り向いた財前に驚いて固まる。
「電話、あれ使い」
「あ、う、ウン……」
あんれ〜なかった事にしてるのかな〜?
とりあえず指さした先にある電話のほうへ向かう。
電話では先生達には迎えに行こうかと言われたけど、傘を借りて帰って来るから平気だと答えておいた。
受話器をおいたら少し離れた所の、リビングに入るドアの前で財前が待っている。ドアの所で待つのブームなの?いや、ありがたいけどね。

スキヤキを食べた後、すっかり雨はやんでいたので俺は歩いて帰ることにした。甥っ子くんとお兄さんと財前が玄関の所まで見送りに来てくれたけど、制服を乾かさずに服を借りたまま帰ることは全然気にされてなくて本当によかった。
財前は結局何も言って来ないみたいだし、このまままた明日ってなって、いつも通りの日常が続けられそうな気がした。
けど財前はコンビ二に行くといって家を出た。つまり俺をちょっと送る……というか問いつめるってことで。
うへえ、と思いながら隣に並ぶ。
「あの、内緒に……しといてほしい」
「こんなん、好きこのんで言いふらさへん」
あ、ですよね、と思いながら呆れた感じの声を受ける。隣は見られなくて、アスファルトばかり見ていた。
「先生とかは、知らんのか」
「多分知ってる───。見守っててくれてるんじゃないかなあ」
微妙な空気を紛らわすように笑う。
「男って言われるん嫌なん」
「いやそういうわけじゃないけど、人前では女の子の麻衣でいたいの」
「なんで……、」
「なんでやろなー」
後頭部をかりかりと掻く。はぐらかすなと言いたげな顔だったが、俺を見て黙った。
「うん、まあ、いつか、ちゃんとするよ」
「……早いうちがええで」
それから財前は、いつも通りに接してくれた。まあ元々俺を女扱いしてなかったと思う。
なんというか、こいつ女じゃないくらい思ってそう。それでも一応前は家まで送ってくれたけど、その日は本当にコンビニの前で別れた。それがむしろ清々しくて笑った。
今だっていつも通りに接してるけど、どっちかっていうと前よりも遠慮がない気がする。
ちゃんと友達になれたってことなのかもしれない。
バレたのが、財前でよかった。

「ハムちゃーん」
「お、金ちゃん」
もし金ちゃんにバレたら、なんかもう、ぽろっとこぼされそうだなと思いながら遠くで俺を呼ぶ金ちゃんを見た。
ん?それ以前に金ちゃんは俺の上半身を見て男と気づくか?失礼ながら、気づかないかもしれない!
まあどうでもいいやと思いながら近づく。
「ハムちゃん何しとるん?」
図書室の窓のところに乗っかってるお猿さんは、すっごく当たり前の事を聞いて来た。
どうせ人も居ないのでお静かにとは言わないけど。
「図書委員の当番な?見て分かれ?」
そもそも何で図書室を覗いたのか。
財前が居るとでも思ったんかなって金ちゃんの向こう側を探すと、普通に財前の姿がある。
ひらひら手を振ってみたけど、財前は完全スルーだし、金ちゃんを迎えにも来ない。他の部員が金ちゃんの服引っ張って窓から落とし引き摺って行くのをまた手を振って見送った。
「先輩ってテニス部と仲ええんですね」
「そう?財前と金ちゃんくらいしか知らんよ」
顔見知りはいるしクラスにもテニス部居るけど、と心の中で付け足しながら同じ曜日担当の後輩に目を戻す。
「なんや両極端な二人ですね」
「アハ、そうかも」
あの二人は四天宝寺のエースみたいなもんだけど、確かに正反対って感じもする。野生児と都会っ子、ホットとクールで。
去年だったらレギュラーらしき先輩らとタコ焼き屋さんいったから、もっといっぱい名前も顔も知ってたんだけど、今年のレギュラーは二人しか知らん。
全国には今年も行って来るらしいけど、俺は受験のための補講があるので応援とかは行けない。そもそも大阪でやらんし。会場が神奈川なら行くのもありかなって思ったけど交通費はそう簡単に捻出できない。受験するんで東京に宿泊したりするためにも今はお金を大事にせねば。
テニス部の話題になったので、そこらへんの話を後輩にしたらちょっと驚かれた。
「ええぇ、先輩て東京のガッコ行かはるんですか?」
「中二の途中までは神奈川におったしな」
「へえええ知らんかった、関西弁やないですか」
「うつったんよ」
正式な場とか、目上の人や初対面の人に喋るときは丁寧に喋るから標準語なんだけど、学校で同級生と喋るときは同じテンションで同じ口調になりやすく、もうすっかり関西弁で喋っていたのだ。
後輩なんかは俺が転校生だってことすら知らなかったりするから、俺を関西出身の人だと疑わない。まあ勿論経験は浅いのでひょんなところからあれってなることもあるんだろうけど。俺も最初は銀さんは関西の人だと思ってたし。
「ちょっとなんか標準語言うてみてくださいよ」
「なんでやねん」
後輩と話しながら、そういえばもう一年経つのかと考えた。二学期から来たから、正確にはまだ一年未満なんだけど。
夏休みも間近な浮き足立った学校内も、照りつける太陽も、地元に居た頃とあまり変わらない。まあ、同じ日本だしな。
窓の方からは部活をやっている物音が聞こえて来る。地元の学校ではテニス部は弱小だったのでこんな風に活気はなかったかもしれない。
「おったおった」
「ホンマや」
活気あるなあと思っていた矢先、どやどやと図書室にやって来たのは元三年生のテニス部OBたちだ。といっても、白石先輩と忍足先輩だけだけど。
受験生的には頭がどちゃクソ良いっていう金色先輩に会いたかったような気もする。いや、贅沢は言いません。
「先輩たち、どしたんです?」
「もうすぐ全国大会始まるやろ、せやから」
「活入れに来てやったっちゅー話や!」
「んで、ついでに麻衣ちゃんが図書委員で当番やっとるって金太郎から聞いてな」
二人は交互に喋った。
後輩は一年生なもんで目を白黒させてたけど、話の内容でわかったみたいで、いつのまにか空気のように影を薄めていた。出来る子や……。
「ああ、金ちゃんさっきそこに」
「最初は財前が今日当番の筈って言うてたのを聞いたんや。んで、金ちゃんが突っ走って確かめに来たんやろ」
なるほど。忍足先輩は苦笑しながら説明してくれた。
じゃあ最初に二人は麻衣ちゃんは元気かーとでも聞いたのかな。嬉しい嬉しい。
一応家にお邪魔してタコパしたもんなあ。


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財前くんだけが特別に知ってることその2、性別です。大人はノーカウント()
財前はもともと主人公のこと女じゃねえ(恋愛対象外)と思ってました。だからこそ会えば話すクラスのやつ感覚。
男だと知ってしっくりきたのと、主人公の方がちょっぴり懐いてるので、性別を知ってからの方が仲良くなります。

Mar 2016

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