Sunset. 13
冬休みになると学校で補習授業が展開されるので、俺はそれに参加した。二学期までので内申点はそこそこ良い点を貰えたので、後は知識を詰め込むのみである。それが付け焼き刃で、暫くすれば忘れて行くんだろうなってのは察してるけど言わないでおこう。
「はよ」
「おす」
参加者は同じ教室でやるので、同じく補習に参加する財前は俺の隣に座った。
このご時世、塾に行かない子は結構稀だ。冬期講習のみとかあるので大抵そっちにいくんだけど、俺みたいに貧乏な子とか、財前みたいにあんまりやる気無い子は塾に行かない。まあ、補習に来てるだけマシか。
10人にも満たないくらいの人数が教室にあつまり、日別に教科を変えて対策を受けられるので、塾に通うよりもしかしたら為になる可能性もある。
「財前いつ暇」
「忙しいわ見て分かれ」
板書を終えた俺は隣の財前に問うけど、財前はそっけない。いや、書き終わって肘ついてるじゃん。っていうかそういうことじゃなくてさ。
「息抜きしたいやん」
「好きにしたらええやろ」
なんかミスを見つけたのか、財前は消しゴムでノートを擦り始めシャープペンを走らせる。いやあ、つれないつれない。
「年明けたらユニバ行こ」
「いつの間に行く事決定しとるんや」
「え、行かん?」
「……ええけど」
財前はぶつくさ言いながら、もう一度かったるそうに肘をつきなおした。
「おう、お前らデートの相談は終わってからにせえ〜」
「あーすいません」
「デートちゃうわ」
「罰として俺にお土産買うて来い」
先生にもろバレていたようで、俺達は堂々と指摘され皆に笑われた。
財前はぼそっと呟くけど、誰にも聞こえてないから無駄だろうなーと俺は思う。
「んで、いつ行く?」
「あー……火曜とか」
俺達は補習が終わってから話を再会させた。
「じゃあ5日な」
「おん」
「———自分ら、人んちでデートの日取り決めんのやめてくれん!?」
忍足先輩がだんだん、とテーブルを叩く。
いまは忍足家のリビングで、こたつに入りながら課題を済ませているところなのだ。今日は忘年会と称したタコパで、財前と金ちゃんと元三年生のレギュラーで集まるのだとか。そしてその誘いメールを受けた財前は俺も連れて来てくれた。……というかメールの最後に『麻衣ちゃんもおったら連れて来い』って書いてあったんだけどな。ありがたい話です。
他の先輩達はまだ集まってなくて、唯一先に来ていた白石先輩は揚げ玉がないと言って買いに行ってる。
「謙也さん正月の予定は?」
「お前らと違て暇や!あー暇や、受験もデートの予定もない!」
ごろごろ転がって顔を覆った忍足先輩にふふっと笑いが零れる。
「ケンヤサン、ケンヤサン、じゃあ今度テニス教えてくださいよ」
「おお、ええで!———ってそれこそ財前に教わらんかい」
「教えんのめんどいて言うから」
「なんちゅー薄情なヤツや……財前」
憐憫の眼差しが向けられる。
財前は素知らぬ顔で課題を続けてるので、俺もシャープペンを持ち直す。
「うわー懐かしい単元やっとる」
「教えてくれます?」
「それは無理な相談やな」
俺のプリントをみながら、忍足先輩はにまにま笑った後にドヤ顔で言いきった。
わかる、多分来年になったら俺もすっぱり忘れてるような気がする!
「白石あたりなら真面目やから覚えてると思うで」
「わからんかったら金色先輩かあの人に聞いたらええ。謙也さんには聞いても無駄や」
かったるそうに財前も口を開く。
そんな話をしてると丁度白石先輩が帰って来てリビングのドアを開けたので、三人して視線をやる。
「ただいま〜って、なんや?皆してこっちみて」
「おかえり、麻衣ちゃんがここらへんわかるかー言うて」
「ん〜どれや?」
「これです」
ひょっこりと上から覗き込む先輩に、シャープペンで軽く印をつける。
「あ〜それ、覚えとる。謙也がおんなしように躓いとったん教えたからな」
「ホンマか、全く記憶にないわ」
「謙也さん……」
白石先輩の解説を聞きながら、呆れた財前の声、それから面白い忍足先輩の声も聞き流す。
「なるほど、わかりやすい!」
先生の解説ほぼまったくわからんかったのに!と感動して見上げると、丁度見覗き込んでいた白石先輩と向き合うかたちになった。
視界には天井と逆さまなイケメンしかいない。
「謙也みたいに忘れたらあかんで」
「俺かて受験のときは覚えてたわ……多分」
「……受験終わったら忘れると思います、忍足先輩と同じく」
「こらこら」
白石先輩におでこをぺちぺちされたので頭を戻して、机に向き直る。
すると白石先輩は今度は座って横から覗き込んで来た。ふわっといい匂いがする。ははーん、これがイケメンの香りか。
「他は分からんことあらへんか」
しいていうなら、白石先輩のいい匂いの正体がわからんくて気になるけど。
とりあえず大丈夫だと答えると離れて行き、あげだまをいそいそと袋から出してテーブルに置いていた。
先輩達が勢揃いして、タコパは開始された。俺がお皿に置いといたたこ焼きはほっとくと右隣の金ちゃんに食われるので、かわりに左隣の忍足先輩のお皿から勝手に貰う。そして忍足先輩の反対隣に居る財前が自分で皿にとりもせず、忍足先輩がいそいそと運んで来たたこ焼きを食う。忍足先輩可哀相……と思いつつも俺は金ちゃんに食われてしまった後、空腹を満たすため忍足先輩のお皿からたこ焼きをとった。
「ちょ、財前!麻衣ちゃん!俺の皿から次々食うんやない!」
「気のせいちゃいますか」
堂々とひょいぱくした財前は、もぐもぐしながら忍足先輩に言って退ける。
「忍足先輩の選んだたこ焼きがめっちゃ美味そうに見えるんす。さすがの審美眼す」
俺もヨイショしながらきりっと言い訳をすると、向かいに座っていた白石先輩があははっと笑った。
「麻衣ちゃんはこっち来たらええんよ、金太郎はんの隣やと食べられへんやろ」
「俺と小春の間には座らさへんけどな」
「わーいお邪魔しまーす。ケンヤサンゴチ!」
金色先輩と一氏先輩が隣に入れてくれるので、俺は忍足先輩にぱちっとウインクしてからお皿を持って移動した。
多分俺が居なくなったら金ちゃんが忍足先輩のお皿から食べるんだろうな。南無三。
食べたい盛りの男子高校生と中学生の運動部がこんだけ揃ってるので、二つ鉄板はあり金色先輩たちの方は比較的大人しく食べてるので男兄弟のような食べたもん勝ちの争いはない。まあポテンシャルがあれなので、減りは早いけど。
「なあなあ、聞いたんやけど、麻衣ちゃんて東京の学校行くんやて?」
「はい、もともと関東に住んでたんで」
「親元離れるっちゅうことか?」
一氏先輩と初めてまともな会話をしたような気がしたけど、とっても言い辛い点をつかれた。いや、別に隠してるわけじゃないし、言いたくないわけじゃないんだけど。
「いや、孤児なんで。どっちかってーとお墓あるあっちが親元ですかね」
「そうやったんか」
「若いうちから苦労しとるんやね」
騒がしいので気づいてない人も居たかもしれないし、聞こえててあえて反応しないでくれた人も居るんだと思う。
頭を撫でてくれる金色先輩にちょっと照れながら、金ちゃんや忍足先輩の賑やかな声に耳を傾けた。
next.
先輩達の進学先全く分からんので勝手に捏造してます……というよりも、書いてない、かな。銀さんははたして東京に帰ってしまうのか……、謎だったので居るのか居ないのかも分からない感じで描写してません。千歳も同じく。
Mar 2016