I am.


Vitamin. 01

調査員に復帰して初めての調査は、二ヶ月が経ってからのことだった。
下調べ要員、またの名を一人ぼっちの少年探偵団である安原さんと、俺たち調査員の三人、それから協力者にぼーさんをつれて調査に行った。
やってきたのはわりと大きなお屋敷で、家主の娘である大原彩さんが依頼人。ただしこの調査、実はナルが全然乗り気ではない。なのに何故受けたかって言うともう結論は一つしか無い訳で……森さんのお願いなのだ。しかもわりかし個人的なこと。彩さんが森さんの大学時代の友人だからですって!森さんが来なさいよ……。いや、チーフ忙しいもん、ね……?しらないけど。
ナルが大層ふくれっつらで依頼に行くと言い出したのを思い出しつつ、座り心地がとっても良いソファに座った。
俺たちは彩さんが訴える霊的な現象を聞きながら、メモをとる。詳しくは分からないけど、ポルターガイスト風なものが多い。安原さんには既に聞き込みを開始してもらってるので、俺たちが今日軽く調査をしている間に、この土地や血筋などにまつわる事はささっと調べてくれるだろう。


俺とぼーさんで見回りを終えてベースに戻ってくると、ナルは優雅にソファに座りながら調査書を眺めてくつろいでいた。
「「たでーまぁ」」
ぼーさんと声を揃えて主張すると、ナルはちらりと視線を寄越す。
「なにかおかしな事は?」
「うんにゃ、なんも」
「きれーなお屋敷でしたよっ」
ぼすっと向いのソファに腰掛けて、身体を休める。まあ、たいした労働にはなってないんだけど。
図面をテーブルの上に置くと、ナルはするりとひっくり返して自分で見始め、彩さんが言っていたおかしいと思しき場所に印を付けて行く。彩さんのお姉さんの部屋と、お父さんの書斎、使用人さんの仮眠室に、庭にあるサンルーム。
二ヶ月くらい前かららしいが、お姉さんの部屋では時々うめき声が聞こえて、書斎では本が時々落ちていて、仮眠室では人魂の目撃証言、サンルームには血のついた手の跡。その手の跡は掃除してしまったみたいで調べようもない。うさんくせえような、ぶきみなような。
「手っ取り早く、真砂子連れて来ちゃえば良かったんじゃない?」
「今夜暗示実験をする」
……それからでも遅くないってことか。
暗示実験はポルターガイストの犯人を炙るのに役立つが、今回のは書斎の本くらいしか該当していなさそうな気がするが、まあしらみつぶしに調べて行こう。
実は今、この家にはお手伝いの篠田さんと彩さんしか居ない。本来はご両親と、三ヶ月前まではお姉さんが居たそうだけど、ご両親は海外旅行で、お姉さんはお嫁に行ったらしい。二人きりで怖いからこそ、彩さんは今調査を頼んだみたいだった。
あとお父さんとお母さんに原因あったらどーすんだろ。実験参加できないし、まともな調査はできないかもなあ。

篠田さんと彩さん二人に、今夜応接間でウサギの置物が動くと暗示をかけてカメラを設置した。
二人とも暗示をかけられているので、何を言われたかも分かっておらず、ナルに「もういいです、ありがとうございます」と言われても「は、はあ」と返事をして首を傾げながらナルの持っていたウサギの置物を見ただけだった。
応接間にだけはとりあえずカメラを設置して、本格的に調査に乗り出すのは明日からで良いとナルは言った。
「動くかねえ……」
「さあな」
彩さんが持って来てくれた紅茶を飲みながら、俺たちはベースに待機し、モニタをちらりと見やった。
「それより、今夜夢を見たら忘れずに報告しろ」
「あーい」
「浮遊霊が遊びに来たら色々聞き出せ」
「うーい」
ナルは真砂子のことはあんまり呼ばないし使わないのに、俺の事ばっかり使うんだからぁ!
ああ、でも俺直属の部下だった。真砂子には一応依頼ってことになるんだもんね。そうでしたそうでした。
ぼーさんが「頼りにしてっぞ〜」と頭を掻き混ぜたので、もう一回適当に返事をしておく。
張り切っちゃうぞって腕まくりをしたいところだが、トランスに入るのは成功率低いし、夢をみるのもコントロールが効かないもんでね……。麻衣ちゃんの任期が終了している今、自信もない。
やっぱりナルと安原さんの手腕にかかってると思うんだよね、俺は。
夜になれば安原さんがきっと良い情報を掴んでくるだろう、と思っていた矢先、誰かが大原家の呼び鈴を押した。篠田さんが晩ご飯の準備をしているから彩さんがインターホンに応じているのを、ドアを開けて廊下に顔を出しながら見る。
「あのう、うちの調査員でした?」
「いいえ、なんだか困ってる人みたいなの」
森さんとはまた違った感じでぽやぽやしてる彩さんがちょっと心配だったので、俺も一緒に行くことにした。口ぶりからすると賓客ではないようだから、俺がいても失礼じゃないだろうし、用心の為だ。
「子供さんがいっぱいいるのに車がエンストしちゃったんですって」
「へえ」
軽く俺に説明しながら玄関のドアを開けた彩さんの後ろから向こうをのぞく。
「いやあ、どーもすみません、急に」
「いいえ、大変ですね」
頭頂部が禿げた白髪に大きな鼻と眼鏡の恰幅の良いおじいさんが、人好きのする笑みを浮かべて彩さんと話している。その足元には小学校低学年くらいのちっこいのが複数人。
「客室がありますから大丈夫。今日は泊まって行ってくださいな。……あ、晩ご飯も用意してもらえるように言わなくちゃ」
「え、泊まるの?」
俺は思わず目を見張る。幽霊が出るって調査してもらってるのに?自分が凄く怖がってるのに?
あ、怖がってるからか。
「だめ、かしら……?」
彩さんと子供達の一部がチワワみたいに俺を見ている。
「え、いや、俺この家の人じゃないしなあ……」
「お兄さんも今日泊めてもらうの?」
頭をぽりぽり掻いてると、ヘアバンドをした女の子が純粋そうな瞳で首を傾げた。ううっ、お前も客じゃねーかってか?わかってらい!純粋な瞳もそうだけど、隣の茶髪の女の子の冷めた目が痛いぜ……。
「口が過ぎましたね、ごめんなさい」
「わたしこそごめんなさい、少しでも人が居た方が安心するから」
とりあえず子供達を寒空の下に放り出すのも可哀相だしってんで、リビングに通す彩さんについて行く。
「なにか不安なことでもあるの?」
今までちっこくて見えてなかったけど、ガキ大将みたいなおにぎり頭の子の影から、眼鏡っ子が出て来た。なんだよこいつら、まるでコナンくんみたいな………………え?
「え?」
「?」
俺は笑顔だったのを引きつらせて、コナンくん見たいな眼鏡っ子を見下ろした。眼鏡っ子は小首を傾げて俺を見ていた。

森さんに頼まれ事をすると碌な事にならない。
吸血鬼の次は死神か……。上手い、上手すぎる……。


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クロスオーバー考えるの楽しいです。
コナンの原作知識は一般常識()程度です。
July 2015

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