I am.


Vitamin. 02

「なんだってぇ?」
ベースに戻った俺が、安原さんじゃなかったことと、子供五人と老人一人が増えたことを報告するとぼーさんが素っ頓狂な声を上げた。ナルは不機嫌そうにしてて、リンさんは表情を変えない。
「どういうことなんだ」
「いやー、車がエンストしちゃって、修理に来るのが夜遅くなるとかなんとかで、泊まって行くんだってさ」
はあぁ〜と皆がため息を吐く。
「まさかそれ全員幽霊とか言わないよなあ?」
「にんげんにんげん」
肩をすくめてぼーさんの隣に座って答える。
「暗示実験はどうする?」
「応接間には入らないようにしてもらって続行する」
「だよなあ」
ぼーさんとナルが話しているのを聞きながら、俺は飲み残していた紅茶を啜る。

少年探偵団達の来訪から少しして、ぼっち少年探偵団の安原さんは帰って来た。
「えと、この子達、誰です?」
「あ〜急なお客人。車エンストしちゃったんだって」
今度こそお迎えに行った俺はまたもや少年探偵団に遭遇し、じいっと観察されていた。
ひらひら手を振ったら安心したのか寄って来て、さっき詳しく話さなかった事もあり、俺と安原さんは質問攻めにあう。
「なあなあ、兄ちゃんたち、なんかの調査にきてんだろ!?お宝でもあんのか?」
「調べものならボクたち少年探偵団もお手伝いできますよ!」
「他にも誰か来てるの?」
「んんん〜??」
俺はなんと答えたら良いか分からずにこにこしたまま固まる。
「これこれ、きみ達仕事の邪魔をするんじゃない」
阿笠博士がコナンくんと哀ちゃんを連れて好奇心旺盛な三人を止めようとする。
「ねえねえ、結局、お兄さんのお仕事ってなぁに?」
手をむぎゅっと掴まれたので下を見ると、甘えた感じでコナンくんが俺を捕まえていた。文字通り捕まってる。うん、さっきなんでもないよって誤摩化して逃げたもんね。気になるよね。業者にしては若いしね。
まあ別に隠すことじゃないかと思ってしゃがんで、コナンくんに内緒話のポーズをとる。そしたら哀ちゃんと博士以外の子たちがぴとって俺にくっついて来たので、ひそひそはしないで普通のトーンで言った。
「ここ、お化けが出るんだって〜」
「お、おばけ!?」
引きつった声を上げたのは歩美ちゃんと光彦くんと元太くん。コナンくんは引きつった笑みなら浮かべていて、哀ちゃんは相変わらずひんやりした顔で、阿笠博士は苦笑してた。
「俺たちお化け退治の研究してんの。それで、今日は彩さんにお願いされてここに泊まりに来たんだ」
「じゃ、じゃあこの家、で……出るってことですか?」
光彦くんがぷるぷるして俺の袖をくしゃっと握った。
「谷山さん、脅かしてどうするんですか〜可哀相ですよ」
「あははははは、まあ、とにかく、大人の言う事を良く聞いていれば大丈夫!今日は早く寝なさーい」
安原さんがへらへら笑いながら窘めるので、歩美ちゃんの頭を撫でながら立ち上がった。
あたかもふざけて脅かした感じにしつつ、嘘は言ってない。よし。
「応接室……あーっと、玄関入ってすぐ横にカメラを置いた部屋があるんだけど、今日の夜は絶対に入ってはいけないよ?実験中だから」
お化けがでるからじゃなくて、ちゃんと実験だって教えておけばお利口さんな子供達は約束してくれるだろう。
まあ、カメラあるから入ってもすぐ分かるんだけどさ。


「谷山さん、良いんですか?」
「え、なにが?」
子供達からはなれて、安原さんをベースに連れて行こうとする道すがらに聞かれた。
「霊のはなし、ですよ」
「大丈夫大丈夫。どうせ彩さんが話すよ」
それにコナンくんが来たってことは、幽霊じゃなくて殺人事件が多い…………ってあれ?
俺は足をぴたっと止める。

「だれか、しぬかも」

ぽつりと零した俺の言葉に、隣を歩いていた安原さんがぎょっとして同じように足を止める。
「———え、」
「あーいや、無責任だったな、ごめん、忘れて」
「ヤダなあ、谷山さんの予言は当たるんですからそう思ったならそう言った方がいいですってば」
「違う、多分、いや、どうなんだろう?こっ、こんなの初めてっ!」
「ちょっと、大丈夫ですか?とりあえずベース行きましょう!」
ぐいぐいと安原さんに腕を引かれて、ナルたちの待つベースに戻った。わあ今、阿川さんちの時と似た感じになってる。
それにしても安原さんって、焦っていたわりに「おつかれさまで〜す」なんて朗らかに言ってぼーさんと軽くコントをするあたり肝っ玉据わってるよね。
「安原さん」
「あ、はい、えーと色々調べてきましたけど、土地は特に問題は無さそうでしたね」
ナルにひとこと名前を呼ばれたらすぐに控えめな笑顔を繕って、しゃきしゃきと調べて来たことを喋り出した。その変わり身の早さ、尊敬します。
土地に関する言い伝えなんかは無く、三十年前に今の持ち主である大原さんが購入。以前の持ち主まで遡っても特に諍いは無し。ちなみに建物はその時に全部建て替えているという。町名改正もなく、不動産や業者の人も別に曰く付きとは言わなかったようだ。むむん。
「ですが、二十年前この家でひとり亡くなってます」
「え」
「彩さんはそんなこと言わなかったよなあ」
俺とぼーさんは顔を見合わせた。ナルは続きを促すように安原さんをじっと見ている。
「そうなんですか?当時ここに遊びに来ていた男性が連れてた四歳のひとり娘が、庭にある池にあやまって転落して亡くなってるんです」
「二十年前に四歳……彩さんが七歳のときか」
「確か彩さんとお姉さんだけは七歳の時からおばあさんのいる山形に引っ越したんだっけか。……ちょうど知らなかったのかもしれないな」
ナルとぼーさんはふむふむと頷いている。
そっか、だから話に出て来なかったのか。篠田さんは五年前からって言ってたし、当然知らないだろうし。
たしかにコナンくんが居れば人因的な事件だけど、やっぱりゴーストハントだから霊の仕業なのか?こっちに分があるのか?よくわかんないなあ。
安原さんが持って来た、新聞紙のコピーをちらっとみる。
三センチ四方くらいの、小さな小さな記事だった。
「仮にこの子の霊だとしても、なんで二十年経った今なんだろ」
「さあな。聞いてみれば」
「無茶を言う……」
夕飯にお呼ばれしたので廊下を歩きながら俺がぼやくと、ナルはそっけなく回答した。
はいはい、しょうもない話題をふってすんませんでしたあ。

ご飯のときは、当然コナンくんたちと一緒に対面して食べて、おナル様のご尊顔を見た歩美ちゃんが小さな声だけど素直に「わ〜綺麗な人〜」って言ってた。ナルは前みたいに「趣味は悪くないな」とは言い出さなかったけど、「当然だろう?」みたいな顔をしてたので若干イラっとした。
「お兄さんたち、ホントにお化け退治の研究してるんですか?」
びくびくしながら、光彦くんが尋ねてきたとき、ぼーさんが水をブフォッと吹き出しそうになって堪えてた。
「彩お姉さんに聞いたんです!お部屋で声がしたり、お庭のおうちで手形がついてるんでしょう?歩美こわい……」
「あ、あー、大丈夫、いざとなったらおじさんが追いはらってやるから」
ごほんっと咳払いをしてからぼーさんはにっこにっこと笑った。
一応一通り名前は紹介してて、ナルが心霊事務所の所長ってことやぼーさんがお坊さんだってこととかも話したけど、もう全て胡散臭すぎて本当の事言ってるのにコナンくんと哀ちゃんの無表情が怖い。別に悪巧みしてないからね?

next.


事件の内容を考えるのは……得意じゃないんだ!ちょろい事件にするつもりです。
ぼーさんは自分の事「おじさん」って言うけど、歩美ちゃんたちって「おじさん」と断定する年齢とか高いですよね……刑事さん見慣れてるからかな。
July 2015

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