I am.


Vitamin. 03

晩ご飯が終わってから、みんなが順番にお風呂入ってる間俺は上司に軽くお説教をくらっていた。安原さんに零した、「誰か死ぬかも」っていう発言についてだろう。軽はずみに言うなってんじゃなくて、ちゃんと言えって怒られている。
「どうしてそんな予感がしたとか、分からないのか」
「死神が来たんだ」
「死神?」
コナンくんのことなんて言えないから、スピリチュアルな感じを気取ってドヤ顔を晒す。
ナルは真剣に聞いてるけど、うん、ゴメン、俺が悪かった。中二くさくてかなわんわ。
「死を呼ぶ、というより、死があるところに居る……というか」
ああだめだ!こんだけほわっほわにほぐしてもだめだ!どう考えても俺がイタイ子。
「わかんないなあ」
「美山邸の時とは違うのか」
「違うと思う。あんなカイブツじゃあないんじゃない?」
美山邸の時は、先入観もあってすごいゾワゾワしたけど、この屋敷はそれとほど遠い。というか、お屋敷は普通だと思う。何も感じない。築三十年だからそこそこ古いけど、四年前くらいにちょっとリフォームしたらしいんで中々綺麗だし。
「うーい、出たぞ」
「あ、はぁい」
ぼーさんが声を掛けて来たので俺はソファから立ち上がって部屋を出て行った。
ナルとリンさんは夜の見守り組で、俺とぼーさんはおねんね組。特に俺は寝ると力が発揮できるので優先されてる。

お風呂上がりに台所で水を貰って、リビングにある大きなソファに座った。
彩さんは基本的に子供達の相手をしているのでここにはいなくて、篠田さんは朝ご飯の準備もあるのですでに休んでいる。
テレビとか観始めたら怒られるかな……ナルに。リモコンをちらっと見てから、手に取るのはやめておこうと決めた。

兄ちゃん、こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ」
太腿をつんつんされて、うとうとしてた俺は目を開く。つんつんしてきた方を見ると、スウェット姿のコナンくんがいた。
「あぇ、コナンくんだ。彩さんとトランプしてるんじゃなかったの」
さっき遊んでるの見かけたんだけど、抜け出して来たのか。
兄ちゃんとお話したくって」
「へー」
ソファに乗って隣にちょこんと座ったコナンくんはちっこい。あったかそう。お風呂上がりだから余計に。
「ねえねえ、ここ死神が出るってホント?」
「ん〜?きみ、のぞいてたな〜?」
「さっきお部屋の前通ったとき、聞こえちゃったんだも〜ん」
あっあざとい!
「彩さんは死神なんて言ってなかったのになんで?」
なんでなんで?って子供っぽくストレートに聞いて来た。てか死神って君のことだから。
じいっと顔を見つめても、コナンくんは子供の演技を貫き通してきょとっとしたお顔で、おめめをパチパチしてた。あ、むり笑う。
「っ、ふ、あははははっははっ、あははは!」
「な、なんで笑うの……」
引き気味のコナンくんをよそに、俺はのけぞってソファをべしべし叩く。
「怖いなら一緒に寝よーか?ん?ふふふ」
「そーじゃないってば!」
よいしょっといいながら小脇に抱えると、コナンくんはばたばた暴れた。
やっぱりあったかい。しみじみ「あー、ホントぬくい」って言いながらリビングを出て抱っこしながら廊下を歩いていたら、少年探偵団と彩さんがわらわらこちらに向かって来ていた。
「あれ、皆コナンくんを探しにきたのかな?」
哀ちゃんまで一緒にいたからちょっと珍しく思いつつ見下ろす。
「あー!コナンくんお兄さんに抱っこされてます!」
光彦くんが指をさして、俺たち……というかコナンくんに突っ込む。彩さんとか歩美ちゃんはくすくす笑ってて、コナンくんはちょっと顔を赤らめて余計に暴れた。なんだよう、良いじゃないかよう。
「一緒に寝てもらったら?江戸川くん」
今まで基本的に静かで、俺たちの前では滅多に口を開かなかった哀ちゃんが降ろされたコナンくんを嗤う。
「もしかして怖いのか?コナン」
「ちげーよバーロー!」
茶化されてるコナンくんを見ながらにこにこ笑ってから彩さんを見ると、彩さんも楽しそうにしていた。
「さびしかったら彩さんに寝てもらいな。おやすみ」
「あ、おやすみなさいくん」
彩さんの背中をとんと押して笑いかけてから背を向けると、俺の背中に子供たちの元気なおやすみなさいが聞こえて来た。


次の日の朝、ベースに行くとナルとリンさんがむっすりと俺を迎えた。朝日の似合わない奴らだな……。
「うごいた?」
「いえ」
リンさんの後ろからモニタを覗き込み応接室の様子を確認しても、特におかしな事はない。
彩さんと篠田さんもさっき見かけたし、これはやっぱり本当に霊がいるのかもしれないってことか。コナンくん達は遅くても昼頃には帰るだろうし……。
っと、思ってたら、どうやら彼らは今日一日此処に居ることになった。「少年探偵団が彩お姉さんを守ります!」と言ったらしく、さびしかった彩さんは嬉しくて了承したらしい。マジか。博士だけは車のことでちょっと出かけて行って、本当に子供達だけ残された。まあ……コナンくんと哀ちゃんは保護者になるのでいいけど。
基本的に子供達がすることは彩さんの傍にいる事で、ついでに俺の手伝いもするとかなんとか。ただカメラを運ばせるのはナルがイヤだって言うので、彩さんの護衛だけを頼んだ。ちなみにナルとリンさんはカメラを設置し終えてから仮眠をとり始め、子供達の相手は放棄した。まさか、これを……読んでいたというのか?

ぼーさんはモニタ監視、俺も監視は手伝うけど現場に行って何か無いか見て来いと送り出された。いざとなれば退魔法、インカムで救援、ってところだ。
お姉さんの部屋、書斎、篠田さんの部屋を確認させてもらったあと、庭に出る。良いお天気なもんで、外で彩さんが子供達にお茶とお菓子を振る舞っているのを遠目に、テラスを確認する。血の手形は気味が悪いからってすぐに消しちゃってるので痕跡はない。
もう見るとこねえよ、と思ったけど人が死んだという池を見てない事に気づいて庭の奥に進んだ。

そこは、木漏れ日の降りそそぐ綺麗な場所だった。睡蓮や苔が日の光を浴びて翠をよりいっそう鮮やかに見せる。
少し水辺からはなれた場所から、トランスに入ってみる事にした。
あ〜あ〜、俺こういうのやるつもりじゃなかったのにな〜。成功はしてほしいけど、怖いの見ませんように。


next.

ぼーさんよりも主人公のがビンカンなので見回りにいかされます。これでおにゃのこだったらぼーさんはついて来てくれたかもしれないけど、さほど大事にされてない感ありますね(信頼されてるともいう)。
主人公は発言とか最初にコナンくんに会った時の態度が変だったので、微妙に警戒(?)されてます。というかうさんくせえ奴だなって思われてるかもです。
July 2015

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