Vitamin. 04
「わ、ホントだ、お池がある〜」……ん?
目を瞑って身体の力を抜きつつある所に、歩美ちゃんの声が聞こえた。すっかり意識を現実に引き戻されて目を開くと、子供達が彩さんが池に架かる橋に向かっていく姿が見えた。
「お昼寝したくなっちゃうのもわかりますね!」
光彦くんはまさか俺の事言ってるのかな?
「なあなあ、ここうなぎいるか?」
「いるわけないでしょ」
歪みねえ元太くんに、哀ちゃんは冷たく言い放った。
皆がいなくなってからもう一回やろうと思って、木に背中を預けながら見守っていたんだけど、彩さんがつんのめって橋の上で転んだ。そして斜めに池に落ちて行く身体と、その様子を目をかっぴらいて見ているコナンくんたち。ばしゃーんと言う音が耳を劈く。
さほど深くないはずけど、彩さんはあぷあぷ溺れていた。あー、テンパッてるのか!
「俺が行く!」
飛び込もうとしているコナンくんに宣言して、パーカーを脱いで池に入る。池の水は胸までだったので、俺まで溺れることはなかった。
水を結構飲んじゃったのか、怖かったのか、彩さんは尋常じゃないくらい怯えていた。
「め、んなさい、ごめ……」
「大丈夫ですよー、彩さん、子供達は無事だから」
「ごめ、ごめんなさい、助けて、ごめんなさい……ごめんなさい、助けて、……すけて、助けて」
……なんか、おかしいな。
篠田さんと哀ちゃん達に手伝ってもらい、動けないでいる彩さんを着替えさせた。今は「ごめんなさい」と「助けて」を繰り返しながら魘されている。
一応事件があったってことでナルとリンさんを起こし、池の方をナルとぼーさんに調べてもらってる。リンさんは悪いけどまたモニタ監視で、着替え終わった俺は彩さんについているように言われたので子供たちと一緒に彩さんのベッドの脇に待機だ。
「篠田さん、彩さんって水苦手とか?」
「泳げないというのは伺ってますけど……ここまで苦手だとは……」
うーん、泳げないことは確かなのね。
「篠田さんはお仕事に戻ってください。俺たちがついてますんで」
「あ、はい。お願いします」
軽く聞いた後、俺は篠田さんを仕事に戻した。コナンくんならもっと篠田さんにも聞いていそうなんだけど、ついていかないところを見ると……あれ、まさか、俺の事疑ってる?いやあ、違うよねえ?俺、助けたし。
「な、なあ、これ、幽霊がついてんじゃねーのか?」
ちょっと青ざめた顔で、元太くんが俺に問う。その瞬間歩美ちゃんが哀ちゃんにしがみついた。
「あー……どうだろ?」
助けてってのは、なんとなく霊の言いそうなことだし、実際あの池で小さい子が亡くなってるからありえないこともないんだけど。無責任な事は言えないように調教されてるんですよね。
「見えないんですか?」
「うん、俺は見えない人」
「じゃあどんなことが出来るの?」
歩美ちゃんが哀ちゃんの影から俺を見上げる。
「俺?俺は勘が良いくらい」
「じゃあ池の傍にいたのは勘?」
コナンくんが会話にするっと混ざって来たので返すけど、やっぱり疑ってない?でもさあ、俺が来てから皆池に来たんじゃん。誘導したと思われてるのかなあ?酷いなあ。
「いや?勘じゃない」
「おーい、俺とこーたい」
丁度良いところで、ぼーさんがノックして部屋に入って来た。
「あ、兄ちゃん忘れ物だよ」
「ん?」
部屋を出て行く前、コナンくんに呼び止められて振り向いた。その手には俺が彩さんにかけたパーカーがある。
「ああ、ありがと」
ぶりっこ笑いを浮かべたコナンくんに、俺もにっこり笑った。
部屋を出て行ってからパーカーをそっと探ってみると、フードの後ろの見えない所に丸っこいシールみたいなのがくっついてた。はっ博士の発明品だこれ!ちょっと感動!発信器じゃ意味がないから……盗聴器か?えぐいなあ。
「ただいまあ」
ベースに戻って声を上げると、二人は無言で俺を迎えた。
「池はどうたった」
あれ、俺が聞く前にナルに聞かれてしまった。
「すぐ子供達がきちゃったから調べられてない。もう一回行こうか?」
「いや、いい」
「橋はどうだった?」
そこは落ちやすいといえば落ちやすい橋だ。床があるだけの小さなもので、手すりとかはない。たとえば子供だったら、たとえば泳げなかったら溺れるかもって感じ。
調べなくて良いっていうからには、何かあったんだろうと思ったんだけど、「なにもない」と首を振られた。
えぇ?じゃあ事故ってこと??いや、うーん凄く事故っぽいけどさあ。なにかあんだろお〜。まさかコナンくん、ナルみたいに証拠品を一人占めしてたりなんかして?
「彩さんの様子は」
「魘されてる。助けてとかごめんなさいとか」
「……他には?」
「わかんない」
「使えないな」
「すんませんね!」
今回は夢もないしジーンもないし、俺はてんで使えない。しいていうならコナンくんが居るから幽霊じゃない可能性が高いのを知ってるくらいかな。
next.
本当は、コナンくんがいるイコール幽霊じゃないって断定したかったんですけど、ナルの存在も確かなわけで、つまり、どっちだ?ってことになるわけで、やっぱり断定できませんでした。
July 2015