27-CLUB. 01
※オリキャラが複数人出ます。音楽が好きで、ギターが好きで、歌うことが好きだった。中二の時に従兄弟がくれたアコースティックギターからはいって、高校の入学祝いでエレクトリックギターを手に入れ、極々普通な流れで軽音部に入った。歌うのはもちろん好きだったから、ギター兼ボーカルとしてバンドを組み、三年間そこそこ楽しくやってきた。ライブハウスでライブしたり、楽器屋でバイトしたり、大学入っても時々ライブやったり、ネットに歌流したりとか。ただ、就職のことを考え始めると、メンバーも俺もおのずと音楽から離れて行った。息抜きに楽器に触ることはあったしカラオケだって行くけど、バンドまで組んでる暇はなかった。落ち着いたらまたやろうなって約束して社会人になった友達とも、結局の飲みに行く程度。俺は教師になったけど学校の軽音部は無関係だったし、ギターのコードは覚えてるけど多分今は指が追いつかない。一人暮らしのマンションで音を鳴らすのも億劫で、楽器には殆ど触らなくなった。
歌や音楽で食べて行きたいと思ったことはなかった。
仕事には満足してるし、音楽は好きなままだ。ただ、俺は道を選んだ。そして、選ばなかった。
27歳になって交通事故で死んで、生まれ変わったと気がついた時に、わざわざそんな年齢で死ななくても良いのにと笑った。
高校生の時に『死ぬならやっぱ27歳かな』なんて語り合った黒歴史というかただの冗談を思い出した。まさかそんな、ミュージシャンみたいな年齢で死ぬ奴があるか。不幸な交通事故だっつーの。
音楽続けてて事故で死んだとかなら、ロックの神に選ばれたかな、とかかませたけど、俺教員だったし、真面目に生きてたし、死に様とかに美学感じる生活じゃなかったから……。
子供時代退屈すぎて、また音楽やることに決めた。幼稚園児のおててじゃギターは難しいので歌うくらいしか最初は出来なかったけど、小学校に入ったあたりでは学校のピアノを借りて手を慣らした。
音楽をやるにはやっぱりお金が要るんだけど、小さい頃にお父さんが死んだうちはギリギリなもんで……ギターやキーボードを買ったりすることは出来なかった。
歌うだけで満足っちゃあ満足だけど、やっぱりギターがいつか欲しい。そんな俺を応援してくれたのは他ならぬ家族で、小学六年生の時に安い中古のギターをくれた。お母さんと同じパートしてるおばちゃんの息子さんが社会人になるから捨てるって言ってたのを聞いてお願いしたらしい。ひゃっほう、お母さんありがとう!
「ね、ね、なんか弾いてみて!」
「やぁね、貰ってすぐ弾けるわけないでしょ」
嬉しくてはしゃぐ俺と同じように双子の姉は楽しそうにしてて、お母さんはくすくす笑った。
簡単なのなら弾けると思うなあ、と思ってつたないながらも皆が知ってる音楽を軽く鳴らすと、盛大な拍手を頂いた。
姉ちゃんはすぐに次をリクエストしてきたけど、お母さんがあまりうるさくしないようにって言うので今日は一曲でやめる。壁の薄い家だから、平日に学校から帰った時、少しの間だけ弾く事に決めた。毎日は出来ないから、時々場所を変えて公園とかに行けば多少近所からは許してもらえるだろう。
公園とか友達んちとか色々場所を変えて怒られないようにギターを弾いてるうちに、小学生にしてはギター上手くねってなって友達の兄ちゃんとか、近所の高校生とかに混ぜてもらえるようになったし、ギターしょってる小学生に声かけて来るバンド女子高生とも仲良くなったりと、着々と人脈を広げて行った。音楽やってる人ってうえ〜いって感じの人多いよね。俺も人の事言えないけど。
大学生のバンドグループが正式に俺をメンバーにどうかって言ってくれたのは中学に入る少し前のことで、夜のライブとかにも出て欲しいからってお母さんに挨拶にまで来てくれた。俺は学校を疎かにしない事、バンドメンバーは俺をちゃんと送り届ける事を約束して音楽活動を許してもらった。
基本的に俺のバンドでの立ち位置はギターで、花形のボーカルはイケメンよしくん、ベースはリーダーのしょうくん、ドラムは俺を覗いた最年少のこーちゃん、キーボードが紅一点、ののちゃん。俺が歌うって知ってるのはスカウトしてきたしょうくんだけで、声変わり前のアルトボイスって貴重だよねって話をよくする。
「今度お前もボーカルすっか」
「えー、ファンの子たちはよしくん目当ても多いでしょ?」
「それでもだよ。お前の声、おれ好きよ?」
「なになに、何の話?」
ののちゃんが俺としょうくんの会話に入って来た。よしくんもヘッドホンをとって首を傾げてるし、こーちゃんは雑誌を膝において顔を上げた。
「の声でバラードとか絶対良い味出すと思うんだよなあ」
「あー、声変わり前っすもんね、可愛い声してる」
こーちゃんは納得したように頷いた。
「ボク、が歌ってるの聞いた事ないんだけど」
「あたしも」
よしくんとののちゃんが興味深そうに目を輝かせる。
「あ?そうだっけ、初めて会ったとき普通に弾き語りしてたんだよなあ」
「なにそれずるい。歌ってよ」
ののちゃんが俺の肩を掴んでゆっさゆっさと揺さぶった。うえええ、気持ち悪い。
「、初めて会ったとき歌ってたやつ頼むわ」
「え、いま〜?」
普通にしょうくんの家だから人目があるわけじゃないんだけど、急に歌えって言われると照れる。
だからといって、カラオケ行く程でもないし、ライブで歌わされても困るしなあ。
呼吸を整えてから、ギターを抱えて軽くリズムをとった。俺は洋楽が好きだったから全部英語の歌詞を耳で覚えて歌ってる。一応間違いないように歌詞暗記してるけど。ちなみにだからといって英語が喋れるわけではなかったりする。
もちろん日本語の歌も聴くし歌うけど、しょうくんと初めて会った時も洋楽を歌ってたから今回披露するのはやっぱり英語だった。
「〜……ってかんじ?」
歌詞間違えてても目を瞑ってくれるだろ、多分。
歌い終わると、初めて聴いた三人も目をぱちぱちさせてから「すげえ!良い!」って言ってくれたのでほっとした。
「声変わりすんの勿体ないような、楽しみなような気がするなあ」
「、録音しとこうよぉ。いつか聴き比べもできるし」
「それいいっすね〜」
ライブで歌うのは断固拒否したけど、音を録るのは納得した。俺だって声変わり前は貴重だと思ってる。後で聴き比べたいのは同感。昔はボーカルもやってた訳だし、全く興味がない訳じゃないから。
折角だから歌う曲決めて皆で演奏して、練習重ねて録音した。よしくんもギターが弾けるので今回は俺とよしくんがチェンジした状態のバンドになってる。
「これ、ネットに上げないすか?」
一ヶ月後、録った音を編集したこーちゃんが、興奮気味に聞いて来た。
「おれらは別に良いけど……は?」
「良いけどぉ……需要なくね」
「あるよ!ボク、最近ヘビロテしてる」
「あたしも〜。妹に聴かせたら妹も超良いって連呼してたよ」
まだ子供だから、ライブならまだしもネットにどこの誰って載せるのはやめておこうってんで俺の名前もバンド名も伏せて、数曲動画サイトにアップした。動画と言っても画面は適当に楽器の写真とかなんだけど。
情報無しにしては再生数が多く、ある日を境にぐんと伸びて、なんぞやと思ったら掲示板とかブログで紹介されてた。
「ああ!がぺろぺろされてる」
「は?なに?」
ネットを見ていたよしくんが急に声を上げて荒ぶったので、俺は意味が分からなくてしょうくんにしがみついた。別に舐められてないけど?
「情報明かさなくてよかったなあ」
「いや、ただのジョークでしょ」
どうやら掲示板でハアハアぺろぺろされてるらしく、俺は苦笑した。
しょうくんはぽんぽんと頭を撫でて安心させてくれた。……いや、別に俺怯えてないわ。
「まあでも、うん、内緒にしよ」
動画の再生数がとんでもない数字をたたき出し、こーちゃんが作った投稿アカウントに沢山の感想や情報を求める声が殺到したので、俺達は正体は今後明かさない方向で行こうと決めた。俺がもう少し大きかったらバンドで売り出したかもしれないけど、さすがに中坊を一存で売り出すわけにも行かないわけだ。
中二の終わりに、お母さんが身体を壊して亡くなった。バンド生活にあけくれて家庭を疎かにした覚えはないけど、もっと傍にいてあげたら良かったと後悔するのは当たり前のことだ。
姉ちゃんは俺を責めなかったし、お母さんも俺を応援してくれていた。二人とも俺の歌を好きだと言ってくれて、俺も二人に褒めてもらうのが嬉しかった。
中学の先生の家に下宿させてもらうことになってから、バンドに加わることが出来なくなった。
メンバーは春から就職活動が始まるのでにバンドは休止。こーちゃんは一学年下だったけど一人じゃどうにもならないし、他のバンドに入る気にならないって言ってた。
高校は、東京にある貧乏人や孤児に優しいところに進学することを二人で決めたので、生まれ育った町を離れることになった。
内定決まったバンドメンバーが最後の活動をしてる所を俺は逆に受験まっさかりだったので、あんまり参加できないのが心苦しい。息抜きの為に外でギターを弾いて、こっちで生まれてからは初めての作曲をした。曲が出来てから詞を作って、調整して歌にする。
久しぶりに皆に会う約束をして、楽しい時間を過ごした後、俺が作った曲を送った。
それを俺の最後の曲として一年ぶりくらいにアップロードをして、バンドは解散となった。
next.
趣味でバンドやってた主人公が例の27歳で死んでしまって、ロックの神に愛されたのかな(笑)とか思いながらもう一回バンドやるお話が書きたくて!歌える主人公書きたくて!ついでに麻衣ちゃんの居る話も書いておきたくて!色々詰め合わせた設定になってます。オリジナルキャラが多くてすみません。
Dec 2015