I am.


27-CLUB. 03

週に四日レストランでホールの仕事をしていて、開いてる日はライブハウスに顔を出したり、ギターもって弾けるところに行ったりしてる。
ライブハウスには、時々幽霊が居た。地縛霊ってほど場所に縛られてはいないようなんだけど、死んだ事に気づいてないとか、未練があるのかもしれないけど何が未練なのかわからないとか、色々だ。
地元に居たときから東京に出てたし、逆に東京から地元にライブにやって来たバンドマンとかも知り合いに居て、こっちでもそれなりに音楽仲間は出来た。過去俺が入ってたバンドも関東圏ではそこそこ知れてたし、ギターやってたといえば「あの一人だけちっこい子か」って納得される。まあ、大学生バンドの中に一人中坊だったからね。
だんだんとセッションや助っ人に呼ばれるようになって、自分のバンドはないけど音楽活動は結構出来るようになった。姉ちゃんと住んでる下宿だと音漏れが気になるので練習は家で出来なくて、もっぱらライブハウスの隅っことか、仲良いバンドマンの家とかでやらせてもらってる。
夏休みになるとバンドマン達は一気に熱を上げ始めるから、俺もその波に乗って音楽に熱中した。若いっていいわ〜。
中学の頃はバンド内ではギターのみでボーカルが他にいたけど、歌はずっと好きで歌い続けていたから声変わりした事を機にボーカル業にも足を踏み入れつつある。ボーカルの助っ人は少ないから、時々一時的なバンドを組んでライブに参加したり、仲良いバンドのボーカルとデュオさせてもらったりしてた。
「おっと、……あ、お前さんだろ?」
「ん?」
ライブハウスから出た所で、人にぶつかりかけたので互いに咄嗟に避けると、相手が声を掛けて来た。派手だけどちょっとハズしたかんじのミュージシャンっぽい格好をした、茶色い長髪のお兄さん。
「あたってる?」
「あ、うん、俺
「俺はノリオ」
バンド名も教えてくれて、あ〜っと理解する。あの、なんか楽器の人達すんげえのにボーカルがいまいちなバンドか。
「いや〜会えてラッキー」
「へ?」
「だってお前さんバンド持ってねーし、滅多に出て来ないからさ」
「そう?」
それなりに友達多い方だし、連絡先はバンドマンになら全然教えても良いノリでやってるし、俺に連絡先教えていいかって聞いて来る友達も結構いるんだけどな。だからこそ助っ人参加多いし。
「うちのバンドのボーカルがいまいちクンでなあ〜」
「あぁ」
「わかるだろ?まあ俺も本業はプロのスタジオミュージシャンで、バックバンドとかも多いんだけどさ〜、やっぱ良いボーカルの後ろでやりてーの」
「ナルホド」
俺の中学時代のバンドのボーカルよしくんはイケメンだし歌もうまいしサイコーだったなあと思いを馳せて、つい笑みがこぼれる。確かに上手い人とやりたいって思う。
「んで、お前さんうちのバンドに入らねえ?」
「え!?」
急な誘いに驚いて声を上げる。いや、ボーカルクビにしちゃうの?いまいちだけど、練習と熱意次第では……いや、そんな甘くないか?だからといっていきなり俺が入んのも悪いしなあ。
「一回セッションするだけでも、どうよ?」
「あーそれならいいけど、あ、ノリオさん連絡先教えて」
「おう、もっと気楽な感じでいいぜ?」
「じゃ、ノリくん」
ノリくんは気の良い感じで去って行き、俺もノリくんたちのバンドを楽しみにしながら家に帰った。

その次の日から姉ちゃんは東京から少し離れた所で調査があるって言って出掛けて行き、俺はバイトに勤しんだ。
何日か経ったあたりで、バイトの休憩時間にうたた寝をしていた俺は、夢の中でジーンに会う事になる。「礼美ちゃんが危ない」ってメッセージをのこして消えたと思えば、俺は眠る姉ちゃんを見下ろしていた。仕方がないので姉ちゃんにジーンからの伝言をして目をさました。ジーンくん自分でやってよぉ!
ところが数日後もまた、俺はジーンに意識を引っ張られて、古い日本家屋に居た。庭に居た幼女が連れ去られて、お母さんと思しき女性が泣いて、井戸に縋っている。なに?これを姉ちゃんに伝えれば良いの??隣のジーンを見ると、こくんと頷かれた。どういうしくみなのか分からないけど、ジーンが消えたところに姉ちゃんが寝ころんでいる。さっきみた光景がもう一度流れて、姉ちゃんは女性を止めようとしていたけど、俺は姉ちゃんの腕を引いて首を振った。
それから目を覚ませばいつも通りの現実が待っていたし、調査から帰って来た姉ちゃんは俺に何も言わない。まあ、変な夢とはいえ、弟が出て来ても疑問になんか思わないだろうし、言ってこないか。
調査の内容とか幽霊の話はバリバリされたし、ナルが陰陽師だとかリンさんは相変わらず喋ってくれないとか、ぼーさんと綾子とジョンと真砂子がどうとか。
そんな夏休みもあっと言う間に終わり、夏休みの宿題をしっかりやったか確認するテストを乗り越え、涼しい季節になったころ俺はノリくんたちと一回セッションした。
ノリくんやバンドの追っかけで仲の良い子とか、俺単体のファンの子にだけ声をかけたけど思いのほか人が集まってくれてて盛況のうちに終わった。
「ノリオ!今日も最高だった!」
「よう、来てくれたのか」
「勿論!」
ノリくんが飲物をくれたので一緒に飲んでると、女子高生っぽい二人組が声を掛けて来た。俺の事もちらっとみてにこっと笑う明るい二人だ。
くんだよね?あたし前のライブも来てたんだ〜」
「ほんと?ありがと」
ロングヘアーの沙耶ちゃんは俺の事を知っているらしく、話を振ってくれた。
「サビめっちゃ盛り上がってて、あの曲好きになっちゃった」
「いえーい」
ぱちっと手を合わせてると、ノリくんとショートヘアーのタカちゃんがそれを見て笑った。
「ねえ、ノリオってお祓いとかできるんだよね?」
ふいにタカちゃんは笑顔を潜め、ノリくんに少し困ったように話し始める。ファンの子達にも有名らしいけど、ノリくんはお坊さんでもあるらしい。どんだけ多種多様なの……と思いつつ、タカちゃんとノリくんを見て思い出す。あれ?ぼーさんじゃね?
実物を知らないから気づかなかったけど、これは、そうだよね。
「ノリくんってぼーさんだったんだ」
「あれ、言ってなかったっけ」
「知らなかったよー」
タカちゃんの学校名を聞いてもう決定したけど、これは姉ちゃんたちが調べる一件ではないか。
「こっちの業界そういうの多いんだよなー」
「あーありそう」
テレビ業界とか音楽業界とか、そう言うのおおいよね。現にライブハウスとか時々来てるし……とは言わないでおく。俺は害のない人は放っておくし、害がありそうなら近づかない。まあ時々話の分かる霊が絡んで来ると説得して成仏してもらうけど。
「じゃあ、なんか怖いことあったらノリくんに声かけるね」
「おう、そうしろそうしろ」
わしわしと頭を撫でられて、ワックスをつけていた俺の頭はぐしゃぐしゃにされた。


next.

麻衣ちゃんと兄弟、霊媒、音楽やってる、に付け加えてぼーさんと顔見知りだったらいいな〜ノリくんって呼ばせたい〜っていう願望です。
Dec 2015

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