27-CLUB. 05
姉ちゃんが危険だしさっさと事件終わらせて欲しいし、どうせ夢だと思ってるだろうから俺は緑陵高校に行ったときに助言を付け足した。姉ちゃんが起きた後、ジーンがまだ眠らずに俺の傍にいて、何かを言いたげな顔でこっちを見ている。「俺、未来を少しだけ知ってるんだ」
「未来……」
復唱したジーンに苦笑する。
ジーンはこうして時々喋るようになったけど、だからといって沢山話して仲良くなることはないし、霊というのはあまりご機嫌なものではない。それでも微笑むから、ジーンはまだ穏やかな方だ。
なんでジーンが俺の所に来るのかはわかんないけど、姉ちゃんよりもコンタクトがとりやすかったからに他ならないだろう。聞いても無駄な気がして聞かないことにした。
「じゃ、またな」
実際に触っているわけじゃないけど、ジーンの頭をぽんぽんと撫でると、現実に戻って来た。
俺がアルバイトをしている店にリンさんとナルがやって来たのはそれから程なくしてのことだった。確かに渋谷にあるし落ち着いた感じのレストランだからありえなくもないけど、まさか二人が食べに来るとは思わなかった。
ていうかこの人達がご飯を食べに来るっていう事自体信じられなくて……いや人間だものね?
「失礼します」
水とおしぼりを渡している間、二人はこっちを見向きもしない。別に俺、言わなくてもいいかな〜とは思ったけど、姉の雇い主だしなあ……。
「あの、渋谷さんですよね」
「……ああ、君は」
「麻衣の弟のです。いつもお世話になってます」
「いえ」
リンさんの方にも会釈をすると、軽く返してくれた。
「ご注文がお決まりの頃伺いますね」
もう挨拶終わったから良いやと思って席を離れた。
ジーンの気配がナルからする。それもそうか、ナルについてるようなもんだしな。目を凝らす……というか逆に意識を遠ざけようとするとジーンが眠っている所すら見えそうだった。
壁によりかかって少し時間をつぶしていると、チーフに肘でどつかれて意識を現実に引き戻す。丁度そのときリンさんが顔を上げて俺に目で訴えてきたので傍に寄った。
そして注文を聞いて席から離れようとすると「仕事は何時までですか?」とナルに聞かれた。え?ナ……ナンパ?
仕事が終わってから事務所に顔を出せって言われたので素直にやってきたら、なんと、全員が集まっていた。
俺が挙動不審にしていたら、俺を知っている姉ちゃんと、ノリくんが同時に「!」と反応する。
「え?知り合い?」
「え?弟」
「え?」
「ノリくん久しぶり〜」
二人が顔を見合わせてるのが面白くて、俺はひらひら手を振った。
「は麻衣の弟だったんか……そういや前に麻衣も言ってたな、ギターやってる弟って」
「ノリくんがお坊さんなのは知ってたけど、姉ちゃんが言う『ぼーさん』だとは思ってなかったなあ」
はっはっは、と話をしつつナルに視線を向けると、ちょっと疲れた感じでため息を吐いてる。あ、呼んだ訳じゃないのね?この人達。
「で、なんでが?」
姉ちゃんとノリくんが仲良くこてーんと首を傾げてる。
「僕が呼んだんだ……」
「まさか、夢の話?あれは本当に夢だってば!」
姉ちゃんはナルに言い募るんだけど、まあ夢じゃないんだなあ〜、これが。
「なーに?夢って」
俺は分かんないふりしてへらっと笑う。別に俺が暴露する必要ないし、コレからも俺は姉ちゃんの夢に出て、姉ちゃんに助言を与えて、皆はそれを受け取れば良い訳だよ。霊媒が居ると多分楽に進むかもしれないけど、怖い思いはしたくありませぇん!
皆「ほら」みたいな顔をして俺を見てる。いや、ジョンは例外だけど。
「あ、姉ちゃんのこの間の寝言の話でもする?もう食べられないよ〜って漫画みたいな事言っててさあ」
「うきゃぁぁぁあ!!!!」
姉ちゃんが口を塞ぎに、俺につっこんできた。ばちこーんと顔に手が当たったけど姉ちゃんを支える。
結局姉ちゃんと俺がふざけてほのぼのしちゃった上に、夢の話ははぐらかしたし、人が多すぎるから諦めたっぽいナルは俺が「帰って良い?」って言っても盛大なため息とともに「どうぞ」と言うだけだった。ヤッタネ!
春休みが終わって暫くした頃、短期で泊まり込みのバイトに行く予定だったのにイベントが重なっちゃったから代わりに行かないかっていう話を友人からもらった。なんでも長野にある大きな洋館で、給仕みたいなことをしてればいいらしい。お客さんが来る事になる当日から手伝うヘルプスタッフのはずだった。
本当なら学校があるんだけど、俺はバイトのためなら学校を休む許可を貰えるので頷いた。
行ってみたら、とんでもない幽霊屋敷だった。しかもまとわりつくような血の匂いがする。
「谷山くん、大丈夫かな?」
今日からヘルプで入る人は結局俺だけで、若い人も俺だけだった。なんだよそれぇ!じゃあ俺も帰るぅ!!!
ここの責任者の大橋さんが、俺の青白い顔を見て心配そうにしていた。ダイジョブジャナイデス。カエリタイデス。
「だだだだだだだだいじょうぶれす」
顎が震えて舌噛みそうな俺をちょっと不審な物を見る目で見たあと、小さく息を吐いた大橋さんはしぶしぶ納得してくれた。
その後、ここには心霊調査の団体がやってきて、この屋敷について調べ物をすると教えられた。
はい?初耳ですねえ。
もう、ここ、あれじゃん。ヴラドが居る所じゃん。常に怯えて助けて〜助けて〜言ってる霊がいるし、なんかお客さんたちがくる玄関の方でぞっとする感覚がしたし。あのぞっとする奴、多分ご本人だ……。
なんかもう、霊の感情が分かるのか俺が元から知ってるだけなのか、とりあえずここの霊は全部殺された人達だって分かった。女中さんとか、工場で働いていたお兄さんとか、いろんな人がげっそりしてこの屋敷のなかをさまよっている。
給仕中にちらっと広間を覗いたら姉ちゃんやナル達が居た。俺は裏方が多いので顔を合わせる事が無く初日が終わり、夜はバスタブに血を貯めて入っているお化けの夢を見たので腹いせに姉ちゃんにも見せて眠った。
「、今すぐ帰るんだ」
「いや〜それは無理ですねえ」
眠ったと思いきやまだジーンが居て、俺を必死に説得してる。俺だって帰りたいし、とんずらこいても困る人はいないけどお。
姉ちゃんが無事に屋敷を出てくれないと心配なんだ。
ジーン曰く、ある程度の霊媒なら霊を退ける力を持っているというし、俺は真砂子よりもそういう力が強いはずだから多分大丈夫だと思う事にする。
次の日、いくらか顔色の良くなった俺は大橋さんに「今日は具合が良さそうだね」と言われてにこにこしながら仕事をした。大橋さんは優しいなあ。
夜には降霊会とやらをする予定だから隣の部屋を貸してほしいって偶然通りかかった五十嵐先生に言われて用意をすることになった。いよいよ危険になってきたぞう!!別室に居たのに、その部屋に霊が集まっていることはすぐに分かった。おまけに、ぞっとする気配までもそっちに向かった。あわわわわ、助手さん目をつけられちゃうよお。むせ返る程の血の匂いを感じて、俺は思わず膝をつく。丁度一緒に居たおじさん従業員が心配して背中をさすってくれたけど、目眩がするくらい気持ち悪い。
早めに寝かせてもらったけど、次の日の朝には鈴木さんという助手の人が失踪していた。
その次の日は南さんのところ厚木さんが失踪し、夜遅くにバタバタしていた。といっても、俺たち下っ端は起きて来なくても良いっていうので詳しいことは朝になってようやく知らされたんだけど。
首を切られる夢を見せられたのは、何日目だったか、とにかく怖くて怖くて怖かった。ジーンもナルもゆるさん……。というか、俺はこれを姉ちゃんに見せなきゃいけないのか?いやだなあ。当人になるのはさすがに可哀相だから、こう……第三者視点で見せられないかな〜とイメージを作ってみたけど結局姉ちゃんの絶叫を聞いた。
next.
『ナルとリンさんが食事に出てる』って凄く想像し辛い……すごく。正直リンさんなんか寝間着を着るところすら想像できなくてやばい。
Dec 2015