Davis. 01
お父さんに続いてお母さんが死んでしまい、両親ともに天涯孤独で叔父叔母祖父母はいないから、担任の先生が下宿させてくれるという提案にありがたく乗った。ところが、葬儀や納骨が終わった頃、先生に「親戚がみつかった」と言われた。「え?ホントですか?」
「まあ、凄く遠い親戚だけど。事情をお話したら、谷山さえよければ養子にしても良いと言ってくれたそうだ」
遠い親戚と言うけど、実際家系図にして説明されたら、血のつながりがない方の親戚だ。お父さんもお母さんも一人っ子だったのでおじいちゃんの兄弟の子……の、結婚相手の親戚じゃねーか。おい、これで引き取ろうってどれだけ太っ腹なの……。
まったく縁の無い先生の家に下宿するのと、遠くても一応親戚な家に引き取られるのとでは、後者の方を選ぶべきだろう。あたらしい環境がイヤだなんて言ってられないし、養子にとまで言ってくれてるなら良いかな、と思って先生に「それでもいいですけど」と返事をした俺が馬鹿だったかもしれない。
あたらしい養父母は、イギリス人だったのだ。しかもイギリス在住の。
日本人学校があるっていうからそこに通えば良いし、養父母は若干日本語を勉強しているらしいし、兄弟は日本語ぺらぺらだから是非!女の子欲しかったの!っていうノリらしい。いつ俺の写真が向こうの手に渡ったんだろう。
たぶん、本気でイギリスで暮らすのを嫌がれば先生も慮ってくれたと思う。だって言語通じないって辛いし。正直俺の英語力なんて普通の中学生と変わらない。だからあんまり自信はないんだけど……なんとかなるかなって思ったのと、男に戻る良い機会だなって思ったので養子になることにした。それでイギリスまで行っちゃうのは大げさだけど、ターニングポイントと考える事にしよう。留学だと思えば良いんだ。もし駄目だと思ったら高校は日本に通いたいって相談してみれば良いだろーし。
それから少しして、身辺整理を済ませた俺は一度養父母に会ってみる事になった。女の子の服しか持ってないから制服のセーラー服で会ったけど、おばさんは可愛いってはしゃいだし、おじさんは本当に男の子?って確かめてた。男です。成長期来てないだけです。
イギリスに行って驚いたことは、俺の兄になる二人がそっくりな双子だったことと、名前に覚えがあったこと。
改名する前は谷山麻衣だったから尚更、兄であるオリヴァーとユージンの名前にピンと来る。仏頂面とにこにこ顔の大層美しいお顔と対面しつつ、俺は笑顔のまま固まった。
「君が僕たちの妹になる?」
ジーンが日本語で尋ねて来た。え、妹?って思っておじさんとおばさんを見上げるとうふふって笑ってる。ん?分かってないのかな?って思ってたら、「Yes!」って俺の代わりに返事した。妹って単語は分かってるよね?まって?俺妹じゃない、妹じゃない。私服女の子のしか持ってなかったから今もワンピースだけれども!!!!
「あ、よろしく」
へらっと笑っておく事にする。いつか気づくだろうし、……多分お茶目だよね?今日の晩ご飯とかでネタばらしするよね?
「よろしく!部屋に案内するよ、おいで」
ユージンはにっこり笑って、おばさんがなんか英語で言ってるのを聞いたあとに俺の手を引いた。ルームとか言ってたし多分案内してあげてって言ったんだろ。ちなみに、ナルは挨拶を済ませると部屋に戻ってしまった。
ユージン曰くおばさんが張り切って準備した部屋は、シンプルだけど所々少女趣味が伺えた。ピンクとかを使われてる訳じゃないんだけど、カーテンにフリルとレースがついてるとか、テーブルが猫足だとか、ラグが水玉とか、そのくらい。
すでに運んである荷物をほどくのもユージンは手伝ってくれて、夕方になっておばさんがご飯よって呼びに来るまでしゃべりながら片付けをしていた。
喋っていた内容で分かったのは、やっぱりナルとジーンは、あのナルとジーンみたいだ。そしたら俺ってやっぱり麻衣ちゃんなの?やだ、初耳〜。イギリス来たら駄目?日本にいなきゃ駄目?いやもう来ちゃったし……!無理だし!同姓同名だっただけだよ俺は。きっと大丈夫。多分。
次の日の朝、洗面所でナルに遭遇した。家の中にいてもあんまり会わないけど、起床時間が被ればそういうこともある。ナルは学校あるしね。俺は今日はまだ無いけど。
「ジーンも学校じゃないの?」
「あいつは朝に弱い」
そっけなく返されたけどちゃんと内容が分かるのでよしとしよう。これからこの愛想無しと付き合って行くのか……。まあ嫌われてるんじゃなくて全員に対してそんなタイプだもんね、大丈夫か。俺のメンタルはこんなんじゃめげないぞ!
ナルは顔を洗い終えたら洗面所から出て行って、俺が顔を洗ってるうちにリビングで朝食をとり始めていた。ジーンまだ起きてないけど本当に大丈夫なのか?
おじさんは優々と新聞を読んでるし、おばさんはご飯の準備でキッチンにたってる。居候的な意識がまだあるから何もしないのがいたたまれなくて、葉っぱばっかり食べてるナルをちらっと見やる。
「ねえナル、ジーン起きなくていいの?」
「知らない。起こしてくれば」
そっけない!実の兄に対しても昨日からやってきた妹?弟にたいしてもそっけない!
日本語が通じるとしてもこいつぁ駄目だ!意思の疎通が難しすぎる。
俺は片言英語だけど頑張っておじさんにジーン起こすか聞いてみた。起こして来てって言われたので安心してリビングを出て行って昨日教えてもらったジーンの部屋に突入する。片付けが苦手なのか、書類や本が床に散らばってるし、服も落っこちてる。足の踏み場はあるけど、踏まないようにちまちま歩くのが手間だった。一応土足なんだから服は床に置かない方がいいと思うんだけどな、俺は。
むにゃむにゃしてるジーンを起こして着替えさせて、洗面所に連れて行って顔を濡れたタオルで適当に拭いて頭をなで回して寝癖直してリビングにひっぱってきた。おじさんとおばさんが俺たちを見てクスクス笑いながら何かを言ってる。よくわかんない。ジーンの方を見ると照れたような、ばつが悪そうな顔をしていた。ねえ、今なんで笑われたの?俺おせっかいってこと?でもジーンがぷくっとしてるから、俺じゃなくてジーンが笑われたのかな?
「どっちが年上だか」
掴んでいたジーンの腕から手を放してキョロキョロしてると目が合ったナルがシニカルに笑いながら言った。ああ、なるほど、そういう感じで笑われてたのか。俺もようやく意味が分かってあははっと声を上げて笑った。
next.
相変わらず兄弟ネタが好きですみません。
性別勘違い楽しいです。
Sep 2015