I am.


Davis. 04

ベースにしてる教室に行って機材を見た大人達はまた茶化すもんだからナルにキツい事を言い返されてぷんすかしながら出て行った。ジョンは困った感じで協力するって言ってくれたので、ナルに追い払われないんだけど、俺は?俺俺。
「俺なんで呼ばれたの?」
「ああ、この学校について何か知らないか」
「入学して一ヶ月もたってねーのですけど」
「使えないな」
すみませんねえ!
いらっとしながら口を噤む。
「そーゆうのは女の子の方が詳しいと思うよ。あと内部進学組」
「聞いて来い。知り合いにいないのか」
「うーん」
携帯を出しながらアドレス帳を見て、クラスメイトの女子生徒の名前を表示する。
「移動中じゃなきゃいいけど」と呟きつつ携帯を耳に当てて電話をかけまわった。といっても、五〜六人しかしらないけどさ。
メールでも適当に送ったら何人か先輩に知り合いいるから聞いてみるねって返事をくれたりしたので、携帯を一旦ポケットにしまってナルに向き合う。ジョンはなんか感心したように俺を見てて、ナルは眉をしかめている。
「女たらし」
「えぇ!?」
ナルが聞いて来いっていったのに?
別に特別仲良くしてる女子なわけじゃなくて、ノリで連絡交換するじゃん……するじゃん……。そういう子は明るくて軽い感じじゃん。噂も知ってそうじゃん……いいじゃん。ぶちぶち言い訳を頭の中で繰り返しながら、とりあえず集めた怪談話とか噂話をリークする。
「そうか……」
録音機を切ってからジョンとナルはふむふむと頷く。
「うちの霊媒はなんて?」
「もう見た。いない」
「ふーん」
さっさと原因究明して帰りたいんだろうなあ。

それから暫くしてやって来た真砂子も霊はいないって言うし、戻って来た綾子とかぼーさんは居るとしたら地霊と地縛霊っていう見解だ。
なんか黒田さんがいないとあんまり騒ぎが起こらないなあ。良いことなんだけどさ。
「ねえちょっとあんた、コーヒー買って来てちょうだいよ」
「え、俺?」
「だってここの生徒でしょ?自販機の場所知ってるじゃない。はい」
綾子はマニキュアの塗った指でお札をぴっと渡した。え〜いいけどぉ〜。
いやいや受け取ろうとしたら、「」と名前を呼ばれて咎められた。ひぇえ、なんですか、別に悪い事してないんだけど?
手をしゅっと引っ込めてナルを見ると、相変わらず無表情だ。
「それは僕の部下であって皆さんの犬ではありません。は車からファイルをとって来い、青いの」
「はいはい、ワンワン」
いやナルこそ俺のこと犬だと思ってるよね。
「あの、ボクが買うてきましょうか?」
「あらそう?じゃあお願い。ブラックの無糖ね」
「俺のぶんもよろしく。てきとーでいいわ」
ぼーさんがそう言いながら小銭をちゃりちゃり出してジョンに渡していた。俺はワゴンの鍵をナルに渡されて、ジョンと一緒に教室を出た。
「ジョンは……、あ、ジョンで良い?」
「はいです」
「ジョンは日本語上手だねえ」
「そうですやろか?せやかて、なんやおかしいみたいですよって」
「方言あっても通じるよお〜十分十分」
ギシギシ言う廊下を歩きながら話を振ってみた。逆にここがイギリスだったとして、俺が普通に話しかけられてもジョンみたいにすらすら話せる自信は無い。ジョンがどのくらいこっちにいるかは知らないけど、すごいよね。
「俺一年半くらいイギリスで暮らしてたけど、今のジョンみたいにいっぱいは喋れなかったなあ。それで仕事するなんてもってのほかだったし、だからこそ無理矢理日本に帰って来ちゃった」
「そうなんですか」
優しく笑った顔はやっぱり可愛い。俺よりセーラー服が似合いそう……。
ジーンもほんわり笑うけど、あっちは美しい〜って感じで、こっちはかんわい〜って感じだな。うん。
さん?」
「ほ?あ、ぼーっとしてた。えと、向こうにみえる渡り廊下のわきっちょに自販機あるよ」
うんうんと頷いてた俺を不審に思ったのか、ジョンが顔を覗き込んで来たのでやっと我に返る。
丁度旧校舎から出たところだったので車の方に向かいながら、指をさして簡単に自販機の場所を教えたらジョンはぺこりと会釈してそっちに向かって行った。


俺がファイルを渡してナルがそれを眺めている間にジョンも帰って来て、綾子とぼーさんは軽くお礼を言いながらコーヒーを飲んでいる。真砂子はずっと静かにしていて目すら合わない。
俺がナルと接触してる事を知らないから、黒田さんがこっちの状況を感知できるわけもなく、関わってくる事も無かった。おまけにジーンも真砂子も霊がいないという見解な所為で、大きな揉め事も起きそうに無い。
ナル自身も、ジーンの言葉を信じて霊はいないだろうと口に出している。逆に綾子もぼーさんも霊がいるとしたら地霊とか地縛霊っていうやんわりとした意見だ。
「……さきほどから気になっていたのですけど、あたくし以前あなたにお会いしたことがあったかしら?」
真砂子はふいに、ナルに問う。
ナルのビデオを観たであろう真砂子の発言に俺はちょっとだけきょとんとしつつ、ナルが否定するのを見守った。ぼーさんとかジョンとかはその質問の意図に反応しているけど、真砂子は粉かけてるわけじゃないと思うよ……この時はまだ……多分。しかしジョンはよくしってるね、ナンパの常套句にしてもさほど使われる事は無いと思うんだけど。むしろそういう日本文化として知られている可能性も無くはないのかな。
「ねえ、俺そろそろ帰っていい?」
どうでもいい話題になったので俺もこれ幸いと自分の意見を主張した。俺は麻衣ちゃんと違ってカメラの弁償する必要は無いし、ジーンもリンさんも健在の筈だ。
まだこき使う気ではあったみたいだけど日が暮れた後には調査する気が無いナルは引き上げようと言った。なのに、明日も授業が終わったらここに来いといわれて、思わずイヤな声を上げた。文句あるのかと睨まれると大抵俺は黙るんだけど、今回ばかりは意味が分からず食いついた。
「何で俺がぁ!」
「人手が足りないんだ」
「はあ?」
少しまわりを見てから、ナルは珍しく俺に身を寄せて来る。そしてひそひそと、ジーンとリンさんが怪我をしたことを伝えた。リンさんは俺の知ってる通り足、ジーンは背中らしい。どちらも骨折まではいってないけど、動き回るには向かないので俺が呼ばれたらしい。

次の日は綾子がお祓いをして見せてくれたけど、タイミングが悪くお祓いの直後に窓ガラスが割れた。
「失敗かぁ」
「あれは事故ですわ」
はあとため息をついたぼーさんに続いて、真砂子はきっぱりと返答した。除霊できたと言う意味ではないけどと付け加えて。
モニタを見ながら、なんとなく気づいたので俺は勝手に機械をいじくる。早戻しをかけるときゅるるるっと音がするので、それに気づいたナルが「勝手にいじくるな馬鹿」とまで言ってきた。だってさあ、だってさあ。
パン!とガラスが割れたとき、俺は昨日カメラを置いた教室が写るモニタを指差した。
「あ、ほら、やっぱり」
椅子がギシギシズルズルと動いて、教室の端っこから真ん中らへんにまで移動した。
皆も一緒になってモニタを見て、絶句している。それでポルターガイストかって皆が言い出したけど、ナルと真砂子は霊が居ないと思っているから否定的だ。
「僕はポルターガイストにしては弱いと思う」
「じゃあ、あれかな、地盤沈下説」
ナルに続いて俺が首を傾げてぽろっと言うと、ぎしっとぎこちなくナルがこっちを見た。ちょっと目を見開いてる。
「どこの説だ?報告は出ていないが」
「え、えーと、えーと、さっき誰かに聞いた気がして〜誰だったかな〜勘かもしれないなあ〜」
「まあいい。……でも、ありえないこともないな」
ナルはふんと息を吐いてそっぽむいた。
本当に本当の原因であるはずだから、ナルが調べたらすぐだろう。それに黒田さんがいないからややこしくもならないだろうし。
その日の晩は俺だけ居残りさせられて、ナルと一緒に地盤沈下の可能性をチェックした。印をつけて暫く調べものしながら時間をおいて夜明け頃にチェックしたら七センチくらい沈んでる。
「うぇえ、今日明日にでも倒壊するんじゃないの」
「だろうな……なるべく早く立ち入り禁止令を出した方が良い」
「てことは、もう依頼終了?」
「ああ。あらかた機材を片付けよう」
「え、今から?」
「機材を置いたまま学校が倒壊したらどう責任とってくれるんだ?」
「ハイ……」
もう朝の六時なのに俺たちはまだ寝てない。イヤな顔をしても、ナルには敵わないので俺はがっくり項垂れて荷物運びを開始した。
ジーンとリンさんがいればもうちょっと早く終わったのに。バイト代ふんだくろうかな。家業を手伝うってのとはまた違った労働だと思うんだよねこれって。おじさんとおばさんからじゃなくて、SPRからなら心置きなくお給料貰えるし。
朝九時頃に荷物を片付け終わった俺たちはまた計測して、メモして、資料を纏めてようやくワゴンの後ろに落ち着いた。二人だと若干狭くて足が絡まるけどもうどうでも良い、疲れた。
、帰ってもいいぞ」
「うん……でも、ちょっと休まして……眠い」
「狭い」
徹夜に慣れてないので俺はもう限界で、家は近いけどベッドまで頑張れる気はしなかったので車で少し休ませてもらう事にした。
うとうとすぴーっていうぐらいのスピードで眠りに落ちたけど、俺はわりと早いうちに起こされた。というのも、ぼーさんや綾子達がやってきたからだ。時間を見たら二時間くらいしか寝てない。
「お、なんだ、手伝わされてたのかお前さん」
「うん、もう、帰って寝るわ。オツカレ」
ぼーさんがナルの後ろからのっそり出て来た俺と、俺の格好に気づいて苦笑した。全然寝たりないけど身体は少し休まったので、俺は家に帰って寝る事にして、ナルに軽く声をかけてから皆にも手をひらひら振って背を向けた。
ナル曰く依頼は終了し、バイト代をくれてやるから口座番号を教えるついでにジーンに会いに事務所に来いってことだったので俺は次の休みの日に渋谷サイキックリサーチへおもむき、知らない内に事務員として雇われることになっていたのだった。


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別に主人公は女好きでもたらしでもないです。ただのコミュ力の塊っていうか、生まれながらのリア充っていうか、大人の余裕?みたいな。新しい環境、かつ高校生ってなると、みんな結構にこにこしてて接しやすいじゃないですか。だから連絡先もグループでがっつり交換できちゃったりするんですよね。みんなでわいわい交換し合うの。ナルたちはそういうの知らなさそう。
Sep 2015

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