I am.


Destiny. 01


注意
・ラッキースケベ×BL(と書いてファンタジーと読む)
・あけすけ


(プロローグ)

母の、「あなたのお父さんはね」から始まった、亡き父の話。
一瞬身構えてしまったその続きは「お父さんはラッキースケベ体質だったの」である。その体質が俺にも受け継がれていると聞き、それはもう、はにゃ????ってなった。
読んで字のごとく、奇跡的にスケベな展開に遭遇してしまうパワーを持っているらしい。とはいえ、今までそんなことになったことはない。
ところが母曰く、それは青年期頃に発症する体質で、参考にと見せられた資料は少年漫画で、主人公の男が女の子のお尻や胸、スカートに顔や手を突っ込んだり、下着や裸などを見てしまったり、狭い空間に閉じ込められて腰をすり寄せたりなんかしていた。……俺は恐怖に泣いた。
父がこの体質だったと、実際その仕打ちを受けた経験のある母が言うのだから、余計に泣いた。
というか両親のナレソメがエッチなラブコメ展開だなんて聞きたくなかった。
自分に置き換えると、女子にこんなことしたくねえし、される女子も可哀想。

───そだ、俺が女の子になればいいんだ!!!

どういうわけかそういう発想に至った。
母は協力的で、そうひらめいた時から俺は男の子のではなく、女の子の麻衣となるべく生活を変えた。
中学の途中で東京に引っ越して転校し、学校には事情があることにする。
転校先ではクラスの女子とのハプニングはなかった。抱き着かれたり、手を繋がれたりするのはラッキースケベとは違う気がする。
あとは近所のクソガキにスカートを捲られたくらいだろうか。とっ捕まえてくすぐり倒してやった。
母はこのエピソードにラッキースケベ判定を下していたが、相手男だし、別にスケベな感じ全然なかったし、と全く信じていなかった。


それから早一年、母が事故で亡くなったり、中学の先生の家でお世話になったり、高校に入学して一人暮らしを始めたりと色々なことがあった。
この間にスケベな展開はない。だから俺は油断していた。思いもしなかった……。あんなことが、起きるなんて。


「───きゃん!」
犬みたいな悲鳴を上げて、体勢を崩す。
身構える暇なく膝をついて、上半身がべちゃっと地べたに這いつくばる。
腰が上がった状態で、スカートが運悪く背中の方に捲れたのが分かった。太ももとか、尻のあたりが、明らかにスースーする。
膝が痛いとか顎を軽く打ったとかそういうのよりも、パンツ丸出しで尻を突き出した状態を、人に見られているという状況に泣きそうだ。


天国のお父さんお母さん。
聞いてた話と、なんか違います!!!



(旧校舎怪談)

パンツ丸出し事件の経緯から話そう。
場所は入学したばかりの高校の、使われていない旧校舎。朝早めに登校した俺は何やらイワクありの旧校舎を覗いてみる気分になり、埃で霞む昇降口のガラス越しに中にカメラが置いてあることに気が付いた。
更なる好奇心に突き動かされて近づいて行ったその時、背後から急に叱責するような声をかけられ、萎縮して反射的に逃げようとした結果、コケた。
「───っ、」
あられもない格好でお尻を向け、慌てて振り向くと、目が合ったのは俺を見下ろす背の高い男の人の姿。やがて気まずそうに顔をそらされる。
「あ、あぅう……!」
も、恥ずかしい。
泡を食い身体を起こしてその場から逃げようとした俺は、咄嗟にそばにあった下駄箱に手をかけた。
けれど下駄箱は思いのほか軽くて、俺が立ち上がろうとした重みで傾き、カメラや男の人に向かって倒れた。

結果、俺は自分のパンツを見た男の人に怪我を負わせた。
別に報復したいわけじゃなかったのに。
『リン』と呼ばれた彼はツレと病院に行き、その後俺はツレの『渋谷』さんに仕事を手伝えと言われることになる。
カメラを壊したこと、そして渋谷さんから仕事の助手を奪ったことから、断れるはずもなかった。
でも俺だって急に声をかけられてびっくりして、なおかつパンツだって見られたのに!!と、言えたらどんなによかっただろ。
「コード?……これかな?なっが。何メートルあるんだこれ」
「繋ぐからこっちに持ってきて」
大人しく渋谷さんのいいなりに、旧校舎の中に荷物を運び込み機械の設置を手伝う。
無駄口を叩くと怒るし、質問をしてもほぼ無視をされる。淡々と指示だけをしてきて、間違えると嫌な顔と文句がおまけについてくるので、精神を削られながらなるべく言われた通りの仕事をした。
持ってこいと言われたコードは円になって箱にまとめられていて、オドオドしながら作業中の渋谷さんの方へ持っていく。
途中でコードの端っこが片方落ちたが、どうせ伸ばすだろうと思い解きながら渋谷さんの方へ持っていき反対の端っこを渡した。
俺を見もせず、礼も言わず、手に取ったコードをぐっと引き寄せる渋谷さん。足元を這うコードがずるっと動きだしたので驚いて避ける。
小さく声を上げながらモタモタ動いていた俺を渋谷さんは一切気にする様子がない。
「ま、って、わ~~~!?!?」
とうとう悲鳴に近いものを上げたとき、彼はようやく動きを止めた。
というかそもそも、コードが引っかかってこれ以上引き寄せられなかったからだろう。
振り向いた渋谷さんは疎ましげな顔をしていたが俺を見て、さすがに目を丸めた。
「???」
「た、たすけて……っ」
余りにも愚か……!
俺は何故だかコードに巻き付かれていたのである。
背後に回った腕ごと縛られるようになっていて、上半身の身動きはとれない。
しかもコードに巻き込まれてスカートも捲れあがってしまっていたので、しゃがんで膝を立ててパンツを隠す。
「何をしたらそうなるんだ……!?」
俺にもわかんないよお……。
心底意味わからないと言いたげな渋谷さんが、苛立ち気味に俺に近づいてきてしゃがむ。
大人しく解かれるのを待とうと、背中を向けようとすると、一瞬だけ渋谷さんの動きが止まった。
なんだろ、と思って自分の身体を見下ろすと太ももから尻にかけてが露出されてる。
あ~そうだ、スカート捲れてるんだ……。
「う……見ないで……」
「じゃあ一生そのままでいるか?」
逃げる様に身を引くと、深いため息を吐かれた。
「は、外して~~~!!」
「黙ってじっとしていろ」
「うぐぐ……」
顔が真っ赤になり、羞恥を堪えるために俯く。
渋谷さんは配慮のつもりなのか、俺の正面に回って後ろに手を回してコードを緩めるために指を差し込んだ。
密着したほうが下着は見えないだろうし、解きやすいだろうと、抱え込んでいた足を開いて、渋谷さんの腰を挟む。
ぎこちない手つきから、大変居心地が悪そうなのはわかっているが、お互いに無言で耐えた。
ほぼ抱き着いたその肩で、俺はちょっぴり泣いた。



(人形の檻)

渋谷さんもといナルのもとでアルバイトをすることになり、早三ヶ月。
旧校舎以来では初めての調査に訪れた先で、ぼーさんと綾子に再会した。
名前はうろ覚えみたいだったが、ナルが俺を麻衣と呼ぶので、その名前は浸透しつつある。

「麻衣、香奈さんがおやつあるってさ」
「た~べる~」
作業の隙間に、綾子が声をかけてくれたのでニコニコ笑顔で立ち上がる。
そして一緒になってリビングへ行くと、ぼーさんが先に呼ばれていたのか寛いでいた。
おやつはまだ出されてないあたり、キッチンで準備をしているのかなと意識を向けるとなにやら話し合う声が聞こえる。
揉めてるって感じではないが、普通の雰囲気ではない気がして覗きに行くと、香奈さんがお手伝いさんとふたりで何かを話し込んでいた。
「どうかしたんですか?」
「あら麻衣ちゃん、ごめんなさいね準備に手間取ってしまって……」
「イチゴだ、おいしそ~」
近づいていくと、大粒のてかてかしたイチゴが小皿に盛られて準備されていた。
喜んでる俺を見た香奈さんとお手伝いさんは微笑んでくれたけど、やがて苦笑いに変わる。
「ミルクを添えてお出ししようと思ったのだけど、なんだか出が悪くて」
香奈さんの手にはコンデンスミルクのチューブが握られていた。
手に取り軽く押してみると、中身はたっぷり詰まっていそう。
「どうしたー?」
「あ、ぼーさん、これ、押し出せる?」
蓋を開けて出口を見ながら押してみたけど、一向に出てくる気配がなくて困惑していると、ぼーさんまで見に来た。
この場で一番力がありそうなのでチューブを渡してみると、なるほど、と納得して受け取る。
イチゴ単体でも美味しそうだから、出なきゃ出ないでいいだろう。

───ぶぴゅっ!
勢いよく飛び出る音が出たと思ったら、目の前を白い液体が飛ぶ。
顔にはねてきたそれは酷く甘い香りがした。

「わ、悪い嬢ちゃん!」
「んぇ……」
ぼーさんが押してみるなり、勢いよく飛び出したコンデンスミルクは、一番近くにいた俺の顔にブッかけられた。
幸いにも、香奈さんとお手伝いさんにも、床にもキッチンの壁にもかかってない。
「べたべたする」
「すまん!大丈夫か……?目に入ったりとかしてないか?」
おそるおそる手を持ってきて、頬に触れる。ぐっと拭って指を離すと、白い糸を引いた。
お手伝いさんと香奈さんが慌ててタオルを取りに走り出すよそで、ぼーさんはしきりに謝るばかりだ。
出すならちゃんと出せよな、と睨みつける。
「……へったくそ」
「っ、~~~~」
指についたミルクを舐めとったついでに悪態つくと、ぼーさんはぐっと言葉に詰まったのち、顔を抑えて打ちひしがれた。反省して。



(乙女ノ祈リ)

調査に行った湯浅高校で、どうやら俺は呪われたらしい。
もともと呪われてるようなモンだけど、更に、の話。
一人になると悪霊が出てきて、俺を睨みつけたりしてくる。それだけならまだ耐えられたが、とうとう俺は階段から落ちる、という被害に見舞われた。
階段を下りている最中に、足を掴まれたみたいだった。つんのめって、もう一方の足を踏み外す。
掴まれていた足は解放され、ぐらりと身体が傾いたその時階段の踊り場にジョンの姿が見えた。
「麻衣さん!」
わっと驚くような顔のジョン。気づけばその身体に飛び込んでいた。
「いててて……」
「だ、大丈夫ですか!?」
抱き留められたとはいえ、足首を捻って膝をぶつけた痛みに呻く。
「なんとか───ひぁっ!」
身じろぎした拍子に、尻に何かが触れる。
俺を支えていたジョンの手が、腰を動かした時に下着の中に滑り込んでしまったみたいだ。
片手が丁度、俺の半分の尻たぶにすっぽりフィットしている。
「え、……?」
「そ……そこ、だめ……」
ジョンも自分の手がどこに入っているのか気づいたらしい。スカートのすそに目を注いでたちまち顔を赤くしていく。
「わああぁあぁ!?!?す、すんまへん!!!ボク、なんてことを!!」
もに、と一瞬だけ揉まれたかと思えば、勢いよく手を抜かれた。
ジョンはホールドアップするかのような体勢で、俺の下でワタワタと慌てている。
俺は自分が生の尻を揉まれたことよりも、ラッキースケベがこんなところでも働いてしまったことに強い罪悪感を抱いていた。



(緑陵)

緑陵高校で調査すること幾日め。
ちょっとの間休んでいた保健室の床が沈んだ。
あまりの騒音にかけつけてきたナルが、俺を引っ張り上げようとしたけれど、体調を崩していた俺は上手く身体に力が入らず動きが鈍い。
そうしている間に、今度は保健室の天井がミシミシと音をたてはじめた。
「え───」
「麻衣!」
恐怖に身がすくみ、天井が落ちてくるのを見上げる。
やがてその光景を遮るように、ナルが俺に覆いかぶさってきて、視界は暗闇にのまれた。
「麻衣!ナル!大丈夫なの!?」
身体を地面に打ち付けた痛みと、圧し掛かる体重や温もりをじわじわと知覚していく。
上の方から綾子の声が聞こえてきた。
返事をしようにも、正直それどころではない。
暗闇の中でも至近距離にある目と目が合ったのが分かる。
顔にかかる熱、唇に触れる柔らかな感触、身動きが取れない中でも口を開けば縺れるそれが、なにであるのかはわかった。
「は、ふ」
「、ごくな」
「ぁ、って…」
喋れば互いの唇がぶつかり、もごもごと言葉が絡み合う。
動くなといながら自分だって動いているくせに……。
ダイレクトに吐息を注ぎ込んでしまいそうで、鼻で息をしようとすればフーフーと荒い息になる。
なんだか夢中になって貪ってるみたいで恥ずかしい……。
結局じっとしていなければならなくて、口を塞ぐようにぐっと押し付けて、しばらく息をひそめた。


(鮮血の迷宮)

星明りに照らされた、三つのベッドのうち左はナル、右はリンさん、真ん中が俺だ。
今回はちょっと特殊な調査なので、夜間は活動しないことになっている。だから三人そろって用意された寝室で同時に就寝した。
ちなみにこの部屋割りなるにあたって、ようやくナル以外の皆が俺を男だと知った。意外だったのはリンさんもこの時までは知らなかったこと。だけどよく考えれば俺が言わなきゃナルだってわざわざ教えないか。

眠る二人を一瞥し、トイレに行って戻ってきたとき俺は不意に体勢を崩して、隣のリンさんが眠るベッドに手を着いた。
ぎしり、とわずかにスプリングが軋む。音や振動で起こしてしまうかも、と縮こまり様子を見ると起きてる気配はない。静かだけれどしっかりした寝息が聞こえてくる。
ほ……、と安堵して、改めて自分のベッドに戻ろうとしたその時───俺は腕を掴まれ、あっという間にベッドの中に引き込まれていた。
どういうことだー!?!?と思いながら這い出ようとしたが、しっかり身体に手をまわされて動けない。
これ以上暴れたら起きてしまうのでは、っていうか起きてる?と戸惑うも、やっぱり起きている様子はない。
「り、んさ……」
起こすのも覚悟で、腕をひっぱり声をかけたが、抱きしめる力が強くなるばかりだった。
下手に声をあげてナルまで起こすのは嫌だ。俺たち二人の名誉にかかわる。
暫く息をひそめ、腕の力が緩くなったところで抜け出すしかないと決意して、地蔵のように固まった。
それにしても温かいのと、苦しすぎない圧迫がとても心地良い。夜中だったこともあって、まだ全然眠り足りてない俺は、愚かにもウトウトとまどろんでいく。

どれくらいそうしていただろう。ふいにリンさんの腕が緩んだ。
かと思えば手は服の裾から入り込み、腹とあばら、胸を這う。
くすぐったいような、きもちいような。……と、撫でられてる感覚をぼんやりした頭で理解していく中で、反射的に腰が跳ねた。
なぜなら、胸の皮膚の薄い部分を指が滑ったからだ。
そこは、触れられれば触れられるほど敏感になっていき、芯を持ちはじめた。
ふぅ、ふぅ、と息に快感を逃して、声を抑える。
指の腹で何度も押され、こすられ、摘まんで揉みしだかれた。
「はぁ、も……、やめてぇ……」
「……、───!」
我慢できなくなって身をよじりながら声を出すと、リンさんはとうとう目を覚ました。
すぐに状況を理解して、手や身体が離れていく。
シャツを胸までたくし上げられた状態で、くたくたになった俺を見下ろすリンさんは目を白黒させた。
「な、なぜ私のベッドに……!?」
「はふ……なんで、だっけ……?」
ぼけっとした俺は頭が上手く働かない。
ただ、窓の外が明るみ始めているのが見えて、随分時間が経ってしまっていたことを理解した。

ちなみにナルは、俺が改めて自分のベッドにもぐりこもうとしたときに起きた。二度寝しようとするのを咎めるので思わず「眠れなかったんだもん……」といじけた声を出すと、リンさんが気まずそうに視線をそらした。



(海からくるもの)

ナルが早々に脱落し、依頼人から死者が出てしまった。
精神的にも体力的にも疲れていたので、吉見家の大きめの風呂が唯一の救いだ。
ついでに物思いに耽っていたら長い事湯舟に浸かりすぎていて、たくさん汗をかきはじめる。
いけない、と立ち上がれば、目がくらんだ。
その時、ガラッと浴室のドアが開く。
「あ───え、谷山さん?大丈夫ですか?」
べちゃ、とタイルに倒れ込むと慌てて誰かが抱き起こしに来た。
「あ、やすはらさん……?ごめんちょっと、立ち眩みだ。のぼせて……」
「うわー、顔真っ赤じゃないですか」
手で扇いでくれたけど、浴室では大して涼しくもなりゃしない。
「入るんだよね、俺もう外でるね……」
「あ、すみません入ってると気づかなくて。いや、ちょっと無理に動いたら───!」
安原さんの肩をぐっとおして、無理に立ち上がろうとすれば俺はまたしても身体の平衡感覚を失って、視界がぐるんっと回転した。
安原さんを押し倒してしまい、ほとんど裸で密着することになる。
「う、はぁ、……ごめん……」
「いえ……あの、本当に、動かないでっ」
よろよろと身体を起こし、四つん這いで跨り安原さんを見下ろした。
向こうはタオルを腰に巻いているが、俺は全裸である。恥ずかしくなって身体が更に熱くなった。
腕をなんとなく前に持ってきて大事な部分を隠しながら座り直すと、安原さんは慌てて立ち去ったかと思うとバスタオルをもってきて俺にかけてくれた。
しかもその後手厚く看病までされてしまったので、しばらく俺は安原さんには足を向けて寝ないことにする。



(扉を開けて)

仲間たちが一人ずつ子供の霊にとって代わられて、とうとうナルと俺だけが校舎内にのこされた。
俺たち二人だけで除霊はできないので、ナルが俺に提案したのは霊を説得すること。
はぐれないようにと手を繋いで歩いていたけど、途中暗闇の中で二人して転ばされて手が離れる。
「麻衣、いるか?」
「ナル、……?どこ?」
ナルの声と共に、身体が何かに触れる。腕や、背中、それから足にも。
触れられたところを追って手を伸ばすけど、何もつかめない。
「ひ、ナル、そこやだ……」
太ももの内側がなぞられた気がして、びくっと震える。
「麻衣?」
探るように手の感触が俺の足を這い、するりと布を引っかける。
そ、それは、パンツ───!
くいっと引っ張られると簡単に脱げそうになるのを、必死でこらえた。
「待って、待って!脱がさないで!?」
「麻衣、いるのか?」
俺の叫び声なんて聞こえないかのようにナルは俺を呼び続ける。
しかも、なんか段々、声が遠ざかって行ってるみたいだ。
え、どうして?───いつしか身体を纏わりつく感触は消え去っていた。



結局俺はナルとはぐれてしまい、一人で目的だった教室に辿り着く。
夢の中で助言をもらってから、ナルに言われた通り霊にコンタクトをとって説得を試みた。一度目は失敗したけれど、二度目はなんとか刺激せずに話せたんじゃないかと思う。

遠足の仕切り直しだと笑う子供と先生の姿が、光と共にふつりと途切れて、夏の夜の暗闇が戻って来た。
何をしても開かなかった窓は容易く開き、夜風がするりと入ってくる。夕方降っていた雨もすっかり止み、しっとりとした森の空気だ。
解放感のまま窓から外に飛び出すと、ふわっとスカートが揺れる。
「あれ!?」
誰も居ない校庭に一番のりだ!という達成感を凌ぐ違和感が一つ。
スカートの中にさっと手をさし込み探ってみると───パンツを穿いてない。
あ、あ、あの時か~!!!と頭を抱えてるうちに、外に出られることに気が付いた皆が次々と校舎を出てくる。

誰が何をやった?とぼーさんが話し始め、ナルでもない、真砂子でもない、リンさんでもジョンでもない、と候補を消去していくと、とうとう綾子さえも否定した。
「残るのは一人しかいませんね」
「まさか、勝手に浄化したに一票」
安原さんと綾子が何かを言ってるが、俺はノーパンが落ち着かなさ過ぎてモジモジしてて、自分のしたことを説明してる場合じゃない。
気づけばぼーさんに頭を撫でられ、綾子と真砂子にぽんっと背中を叩かれ、ジョンや安原さん、そしてリンさんまでもが笑いかけてくれて、車に戻っていく。
「……おつかれさん」
最後はまさかのナルが、俺に労いの言葉をかける。
なに?なにが起こった?
「それと、これは返す」
「へぁ」
すれ違いに渡されたものを反射的に受け取る。
手の中にあったのは、脱がされたはずの俺のパンツだった。




next.




テーマはラッキースケベ・ゴーストハントです!
スケベ(られ)展開楽しかったです!ただ、ジーンとラキスケは難しかったので書きませんでした。無念じゃ……。
贔屓はやっぱりナルとリンさん。この際、ナル→主←リンという三角関係を書いて見たさもある。
ナルにパンツもたせるのは、鮮血編で誘拐された時に私物を間違えて持ってた、とかでもよかったんだけど、最後に皆にパンツ持ってたことがバレちゃうのは、さすがに名誉を傷つけるな??と思ってヤメました。
果たしてナルはパンツでサイコメトリーをしたのか否か……。命がかかっていた(心配だった)のでしたかもしれないけど、ぼーさんの方を読めば十分かな?と、どちらの可能性も考える余地はあります。
ただ、手を繋いでるつもりでいのに、気づけばその手にパンツが残されてた(笑)という展開はとっても面白いと思う。
最後の一文で主人公が『脱がされた』と表現してるのはスケベ度が増すな、と思って書きました。でもこれは、ナルがラキスケ展開で脱がしちゃったのか霊が人をすり替えるために脱がして持たせたのか……、私としては前者の方がテーマに沿ってるかな☆と思います。ていうか最後の話だけ急にギャグ度(コント感)高くて、読み返してて自分で笑っちゃった……。

私の根底にあるラキスケはいちご100%なのでプロローグはオマージュです。パンツはいちご模様であってくれ。あとはとらぶるとまとめグロッキーヘブンも好きです。
当たり前にパンちらしてほしいので、スカートの下にスパッツやジャージを仕込む発想はありません。私服は基本的にスカートです。あと母のトンチキな全面協力があったためパンツは限りなく女物に近いものを穿いてます(こだわりの強い職人の顔)

May.2023

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