I am.


.i am 07

夏休みに入った七月の半ば、俺はバイトになって初めての調査に来た。偶然にも、ぼーさんと綾子が呼ばれていたので、ナルはあんまり機嫌が良くない。
夜になってからナルが暗示実験をしたので、その結果を見て本格的な調査は明日からだと思ってたけど、寝る前に事件は起こった。
香奈さんがベースに、血相を変えて駆け込んで来たのだ。連れて行かれたのは礼美ちゃんの部屋で、家具が全て斜めになっている。
「その子がやったんじゃないでしょうね」
「できるか!」
綾子の考え無しな発言に、思わず突っ込む。
旧校舎のときは何があっても霊の仕業だって言ってたくせに、今回は真っ先に子供を疑うとは……。
「だな、上に家具がのったままだし、俺でも無理だ。それともおまえ、できんのか?」
ぼーさんに言われて、綾子はぐっと押し黙る。
香奈さんと礼美ちゃんは下の部屋に行くことにした。礼美ちゃんは人形を抱きしめながら、不安そうに俺たちに言う。
「……礼美じゃないよ」
「わかってるよ、大丈夫!」
俺は、礼美ちゃんのフワフワの頭をぽんぽんと撫でて見送った。
何の痕跡もないらしいが、実際幽霊の仕業なら、どうやってやってるんだろう。幽霊になると、念力が使えてものを浮かせられるのか?それとも、物に触れて動かしているけどそれが誰にも見えないだけ?後者だったら人数が必要だから、やっぱ念力があるのかな。
俺がもやもや考えている間に、また香奈さんの叫び声がした。
今度は家具が全部ひっくり返っていて、カーペットまでそうなっている。もう霊の、べらんめえこんちくしょうっていう気持ちがひしひしと伝わって来る捻くれっぷりだ。
「ポルターガイスト決定だな」
「そんなのわかりきってるわよ。問題は犯人でしょ?ぜったい地霊よ!」
でた、地霊。綾子の決め台詞である。
明日祓ってやると言って、高笑いした奴は真っ先に寝ました。


次の日の朝、ナルが暗示をかけた件の花瓶はうごいていなかった。
それから綾子のお祓いがあったが、あれはあってなかったようなものなので無視。地道な調査を一日続けた。

夜にはまた、悲鳴が響いた。キッチンの方で聞こえたのでそちらに向かえば、ガス台からものすごい量の火が噴き出ている。
なんとか消火してほっと息を吐いて、何気なく見やった窓に人影がうつる。すぐに消えてしまったが、サイズは小さくて、子供の影に見えた。窓を開けても、外には誰もいない。
「どうした?」
「子供の影があった……こっちを覗いているように見えたんだけど……いないな」
「子供?」
ナルは首を傾げて一緒に外を見た。
「礼美ちゃんは?」
俺は典子さんを振り向く。もう寝ているはずだと言うから、典子さんと一緒に礼美ちゃんの寝ている部屋に確認しに行った。丁度ミニーにハンカチをかけてあげる所だったので眠ってはいなかったけど、外に居たとは思えない落ち着きよう。それでも、礼美ちゃんであって欲しい典子さんは必死で礼美ちゃんに詰め寄る。
「典子さん」
「礼美じゃないもん、違うもん!」
止めようと思ったけど、それよりも先に異常事態が起こった。もうこの家怖すぎ。
ドンドンと叩く音がして、家具が揺れる。
棚が倒れてきて、典子さんは下敷きになってしまった。幸い怪我はしなかったけれど、来て二日目でこの騒ぎである。しかもその夜、誰も居ない礼美ちゃんの部屋は氷点下まで温度を下げた。
「ぜったいに人間の仕業じゃない……!」
とうとう、ナルはそう口にした。

次の日また典子さんに誘われて礼美ちゃんと一緒に過ごすが、香奈さんが持って来たおやつに礼美ちゃんは手をつけようとしなかった。それどころか、毒が入っていると言いだす。
「ミニーがそう言ったの?」
こくん、と礼美ちゃんが泣きそうな顔で頷く。
ぴくりとも動かない、整った顔立ちの西洋人形を見つめる。あうぅ、こ、怖い。
くまちゃんにしなよお!ふわふわもこもこの奴なら怖さ半減するからあ!
「じゃあこのおやつは麻衣ちゃんが隠しといてあげるね」
「うん」
礼美ちゃんのしょんぼりした頭をまた、ぽんぽん、と軽く叩いてお菓子の載ったトレイを持った。撤退しよっと。

その後、客室に戻ってうたた寝をしてるところ、夢にジーンが出て来た。上手く喋れないのか、「礼美ちゃんが危険」としか言わない。
「もっとなんか言ってけ!」
ちょっと理不尽だがそう呼びかけた途端に、目を覚ましてしまった。


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礼美ちゃんかわいいです。
Jan 2015
加筆修正 Aug 2018

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