I am.


.i am 14

次の日も俺はベースにお留守番。書類のまとめはあらかた終わっちゃったし、特に中継が必要になることもないので、凄く暇。タカ遊びにこないかなあ。
溜め息ついて待っていると、ドアのノック音がしたので、すぐに返事をする。調査員とタカはノックなんてしないから、多分他の先生か生徒だろう。
「入っても良い?」
ひょっこり顔を出したのは笠井さんだった。
「どーぞ」
思いっきりうぇるかむ。俺と暇をつぶそうじゃないか。
笠井さんは、俺の前に座ったけど黙っていた。
うーん笠井さん髪の毛なげーな。俺も中学時代は肩まで伸ばしてたけど高校入るときにばっさり切っちゃった。シャンプー代、水道代、電気代、いろいろかさむし、麻衣ちゃんだし。
「谷原さん、だよね」
「麻衣ちゃんでいいよ!」
「じゃあ麻衣」
あれえ、麻衣ちゃんって呼んでくれないの?
呼び捨てしやすいのかな、俺って。まあ、いいんだけどさ、呼び捨てでも。
「……除霊、すすんでる?」
「あんまり。霊媒の人が、霊は居ないっていうからなあ」
頭を乱暴に掻く。
「まさか!こんなに事件がおこってるのに」
「だけど他に見える人が居ないから」
「渋谷さんとか麻衣も、霊能者なんでしょ?」
「や、どっちかってーと、研究者っていうかゴーストハンターだってさ」
手を振って、訂正しておく。
ナルは陰陽師だっていう話をしたら呪われるんだけど、俺はナルが陰陽師じゃないと知っているので、言わなかった。
「麻衣は?」
「スペシャル一般人」
「なにそれ」
笠井さんは、ぷっと笑った。俺も言ってて、なんだそれって思って笑みがこぼれる。
「ちょっと勘が良いくらい。笠井さん、霊感は?」
「あたし?だめだめ、ESPの能力ないもん」
「へえ」
「PK-STだけ」
「なんか、詳しいね」
俺は詳しく知ってるというより、ほんのちょっと覚えがある程度だ。たしか三種類あるとか、なんだっけなあ。後でぼーさんに聞こう。専門家のナルには聞きませんよ!勿論!だってこわいもん。
笠井さんの知識は全部産砂先生の受け売りで、先生は超心理学にすごく詳しいらしい。
「産砂先生って……イイヒト、だね」
庇ってくれている産砂先生に心酔した様子の笠井さんに、一応同意する。
笠井さんが話す産砂先生はとても優しくて、まるで聖母みたいに包み込んでくれる人だ。駄目だなあ、俺は彼女の黒い部分を知っているから、先入観があって、ちっとも良い人に見えないんだ。
「麻衣がさっき言ってた、勘がいいっていうのは、ESP?」
「どうだろう」
「……今回は、どう思う?」
「悪意があると思う……因果応報にしても、これは酷いよ」
頬杖をつきながら、時計をちらりと見る。皆が除霊に行ってから、随分経った。意味の無いことだけどそれを止めさせる術は無い。でも皆は真面目に除霊しているから、体力と精神力をすり減らしてる。ああ、なんだか、いよいよ俺の中の罪悪感がうずいてきたよ。すいません。
「笠井さんはあまり気に病まない方が良い。呪ってないんだろ?なら、自信をもって」
教室から出る笠井さんを見送りながら俺なりに励ますと、彼女は笑顔を見せてくれた。
うーん、早く解決してあげたいのはやまやまなんだけど。
いきなり俺が何を言っても……ってこれ、毎回思っている気がする。

ベースに戻って来て休憩をしている霊能者たちに、笠井さんの話をしつつ、PKだったりゲラーだったりの話を振ってみた。PKが三種類あるとか、いろんな超能力者の話をきけた。なるほど、勉強になるっす。
最終的にオリヴァー・デイヴィス博士の話になって、おお、ナルじゃねーかと心の中で反応する。
口を滑らさなかった俺に拍手をください。
「とりあえず重要なのは、笠井さんが自分の能力を信じていたということだ」
ナルは話を遮るように、論点を笠井さんに戻した。
気まずいよね!自分の話されてるって。しかも、ちょっと尊敬されてるんだから。
「彼女は教師の攻撃を非常に不当だと感じていた。その結果が」
「”呪い殺してやる”?」
「実際にできるかね、クラギーナくらいのPK-LTならともかく」
綾子とぼーさんがナルに続いて発言する。
「でも笠井さん、自分でPK-STしかないって言ってたよ?」
んー笠井さんが犯人じゃないのはどうやって信じてもらったら良いんだ?
真砂子は「口ではどうとでも言えますわよ」なんてつっけんどんだし。笠井さんが可哀相で胸が痛む。俺は笠井さんに気をつかいーの、皆の身体を心配しーので、なんだか板挟み状態です。さすがヒロイン。
「……とにかく、今の状況をなんとかする方が先だ。除霊にかかろう」
「うーす」
ぼさっとしてる間に皆は休憩を済ませて、再び除霊に戻った。
なんかごめんね、ここんとこ役立たずで。せめて機材とかがあれば必死こいて観察したり、記録とったりするんだけどなあ。


日が沈みかけて、ベースにオレンジ色の光が差し込んで来た。机に、後ろの窓枠と、自分の陰が伸びる。これって、逢魔が時ってやつなのかな。
普段の調査中とか、生活している中で意識する事は無かったけど、なんかこの調査中はやっぱり、ドキドキしちゃうね。
ナルが陰陽師だっていう話はしなかったけど、俺は笠井さんにそれとなく自分の見解を述べた。勘が良い程度しか言ってないから、その程度で呪われるとは思わないんだけど。
どきん、どきん、と嫌な予感に苛まれて、心臓が音を立てる。ひええ誰か来てえええ。
ぎゅっと目を瞑って息を詰めた。そして吐き出しながら目を開けると、その瞬間に部屋の電気がふっと消えた。マジかよ。
椅子に座ったまま、ぴしりと固まる。言っておきますけど俺、普通に幽霊怖いからね?退魔法はまだ習ってないし、言葉も覚えてない。
俺の見下ろしていた机に、丸い穴があいた。小さなものがどんどん大きくなっている。
いや、穴じゃなくて、頭が段々出て来ていたんだ。
かっ、髪の毛ぇ。
声をあげたいんだけど、あがらない。女の子なんだからあげても良いと思うんだけど!怖くて真顔!俺、凄い真顔……!!
ぬむぅんって出て来た女らしき顔。目を瞑っている。けれど、顎まで出て来たところで、大きく目が開かれた。でかすぎる。血走ってて、黒目が小さくて、気味悪すぎ。
うわ、笑った!怖いぃ!
もしかして腕まで出てきたら、俺に伸びて来る感じ?
ていうか、あの……目って、そらしていいんですかね。逃げていいんですかね。そらしたら負けとか、俺が動いたら急にあっちの動きも早まるとか、ないよね?
ぴく、と指先を動かしてみる。うん、まだ、ぬっとりとした動きで肩まで出た所だね。ど、どこまで出るの?
ぷるぷるしながら、インカムのスイッチ入れてみる。

「た、たっけて〜……」

今世紀最弱の声です。
き、きこえたかなあ?きこえたよね!?
とりあえず俺、にらめっこ続けます。トラウマレベルの気味の悪い顔なので……今日は絶対眠れな……あれ、こいつ、夜も出るんじゃね????どうしよ。


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基本は爽やかなおに……おねえさんだけど、若干残念なヘタレ。いや幽霊は怖い。
Jan 2015
加筆修正 Aug 2018

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