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ナルは揃った調査員たちに、厭魅の説明をした。「……にしたって、だれがそんな」
「そんなものきまってますわ、笠井さんでしょ」
「そーねぇ……」
ぼーさんも真砂子も綾子も、すーぐ犯人を捜したがるんだから!まあ、俺もどっちかっていうと、全員目を瞑って犯人は手を挙げなさいって言って捜すタイプなんだけどさ。
「笠井さんとは、仲良くなったから、……呪われたとは思いたくないな」
「あんた……いつのまに」
綾子は呆れた顔をしてる。
「疑うのもしょうがないけど……問いつめるのは、待ってほしい」
「ほうっておいたら、死人がでるかもしれないんだぞ?」
「……一昨日、学校中に鬼火が浮かんでる夢を見た。そのときから嫌な予感しててね、次の日に霊が出たときは狙われてるなって思ったんだよ。夜も実際出たしさあ」
「なにいってんのよ」
綾子が鼻で笑ってるけど、ナルはじっと俺を見つめる。
「それと同じくらい、笠井さんじゃないって思ってる。悪い予感が当たったんだから、良い予感も当たる筈だよ」
拳をぐっと握って、断言した。
「麻衣の勘か……」
「だめ?」
「……いいだろう、信じてみよう」
よっしゃ。俺は笑いながらぱちんと指を鳴らした。
「僕らは犯人を捜す。皆にはヒトガタを探してもらいたい」ナルは俺から視線を外して、指示を出す。
僕ら、ってのは多分リンさんとナルで、あとは皆。あれ、俺、どっちだ?普通に考えて俺は肉体労働なので、ぼーさんたちと一緒にヒトガタ探しだよね?
「麻衣、来い」
「へぁ!?」
教室を出て行こうとするナルを見送っていたんだけど、呼ばれて驚く。
あ、はい、ご主人様っ。
ちょっぴり俺の事を心配して……くれてるわけねーな。目の前で起こってくれた方が冷静に対処しやすい程度に思ってるかも。もうそれでもいいですう。
呼んだ割に待つことはないナルとリンさんは先を歩いて行ってしまうので俺は走って追いかけた。
まず向かったのは、呪われた席のある二年五組。俺は、ナルとリンさんが女の子の机を漁る構図を傍目から見て楽しんでおく。
案の定、机の中にはヒトガタが貼付けてあった。それを見ながら、リンさんは冷静に分析している、ん、だけど……やだ変な顔書いてあるう〜。産砂先生の絵心かなあ。この、心なしドヤ顔……。
人を呪う為にこの顔を書いたんだと思うと……、んぐぅ、笑いそう。俺も呪われてるけど!
顔色一つ変えないナルとリンさんは、見えている世界が灰色だとしか言いようがねえ。
次は、席みたいに不特定な呪いだと思われる、陸上部の部室にお邪魔した。はあ、今度は女子陸上部の部室を漁るナルとリンさんか。悪くないな。
今回はちゃんと俺も探している。本来俺も男だが、二人のかわりにロッカーの中とかを見てやろう。あ、でも、ロッカーに仕掛けたら、その部員が呪いを受ける事になるのかな。だとしたら、やっぱり部屋全体だなあ。
歩き回ってみて、椅子の裏とか、棚の上や側面を見てみるが、見当たらない。途中でダンボールに躓いて転びそうになってなんとか壁に手をついたら、床のコンクリートが崩れているのが目に入った。
指を引っかけてみると、厚いコンクリートは外れて、その下は土となっている。俺は腕まくりをして、ざっくざっくと掘ってみる。
こっこ掘れわんわんっとハミングしながら掘っていると、天井を見終わったナルが俺の背後から覗き込む。
「大判小判がザックザク───あった!」
折ったらいけないので、そっと土を払いながらナルに見せる。褒めてくれ!
「よくやった、麻衣」
あれ?本当に褒められた。貴重だな。
ナルはヒトガタを見ながら、厭魅に間違いないと確信を持っている。呪われた席と陸上部の延長線上に犯人は居るはず、とのことだ。
一旦ベースに戻ってタカを呼び出し、共通していることがないかを聞いた。
一番最初に事故に遭った村山さんは笠井さんと産砂先生に文句を言ったらしい。
「村山さんってどんな子?委員会とか部活は?」
「委員会は入ってなかったよ。文芸部」
「文芸部ね」
「あ、そういえば、陸上部もどっちかってと、否定的だよ。顧問の先生がそーゆーの信じないタイプでね」
その所為で、部全体がそうだったから、笠井さんはクラスの陸上部の生徒にずいぶんいじめられていたらしい。つまり、先生がそんな態度をとったのが悪いんじゃん。もちろんいじめた生徒も分別がないけど、大人がそれでどーする。朝会でのつるし上げも、産砂先生がインチキを教えるのも、陸上部顧問が生徒を誘発したのも、大人の対応の悪さが露見してるな。
「高橋さんの言ってた反笠井派の人間は、全員被害にあっている」
タカが出て行った後のベースで、ナルは言った。笠井さんが犯人だというのが、一番思い当たりやすい状況だもんなあ。
「でも、村井さんと笠井さんは顔見知りだから、机に呪いをかける必要ないよ」
「なに?」
「笠井さんは前は文芸部だったって聞いたからさ、多分ね」
ナルは偉そうに腕を組んでいるので、俺も偉そうに足を組んでみる。ついでに、ふんぞり返って、椅子の背もたれに肘をかけた。
「コミュニケーションは大事ですよおボス」
「それはお前の仕事だ」
「えぇ!?」
「僕は頭を使うので忙しい」
俺のドヤ顔なんでものともせず、ナルは表情を変えないうえに潔い返答。
俺はつい笑ってしまった。なんでお前の分までコミュニケーションとってやらなきゃならんのだ。おかーさんか俺は。
「それにしても、なんで麻衣が呪われてるんだ?」
「さあ……勘が冴えてたから目をつけられたのかも」
「そんなこと誰も知らないだろう」
「笠井さんには勘があたるって話をした。そのまま、産砂先生にも言ったみたいだから……そっちのが怪しい」
「しかし、呪詛というのは誰がやっても成功するわけじゃない。あらかじめ素養がないと」
「じゃ、先生に素養があるんだろ。とにかく、笠井さんじゃない」
ナルは、少し考え込むそぶりを見せた。
「やけに産砂先生を疑うな」
「べつに〜」
これは勘というよりも、先入観だ。情けないことだけど、知らなかったらきっと、笠井さんを信じることも、先生を疑うことも俺にはできなかっただろう。
next.
漫画版のヒトガタの顔、じわじわきません?
Jan 2015
加筆修正 Aug 2018