I am.


.i am 18

しらばっくれる産砂先生にナルは、笠井さんが村山さんを知っていること、ゲラリーニたちの中に産砂先生の名前があったことを告げた。
穏やかな顔つきのまま、先生は笑う。
こ、このやろう、俺がどんだけ怖い目にあったと!リンさん呪詛返ししちゃって!あ、いや、嘘です。本気ではないです。

きっと、人を呪いすぎて心に穴があきすぎたんだろうなあ。
笠井さんの大好きな先生は居なくなっちゃったけど、これからも強く生きて行ってください。はい。こればっかりは、俺にはどうにもできん。
あまりの腹黒さに落ち込む笠井さんを慰めるタカ。うんうん、傷を癒すのは新しいお友達だよね!がんばれがんばれ。



数日後、事務所に皆が集まって事件を思い返していた。
「……なーんか、後味の悪い事件だったなー」
「ですね」
俺もお茶を淹れ終わったのであいてるソファに腰を下ろす。
「いーじゃないのよ、もうすんだことなんだからさあ」
「松崎さんて、本当にお気楽ですのね」
「なによ!あんたこそねえ!」
「こら、大声だすなって、」
またくだらない喧嘩が始まりつつあったので、止めようと声をあげた。その時前ぶれなくナルがやって来て、無表情で俺を呼ぶ。え、なに、真っ先に俺が悪いかんじ?
「な、なんすか」
ソファから少し腰を上げながら構える。
「これからちょっとした実験に協力してもらう」
「ん?」
「この機械が四つのライトのうちどれかを勝手に光らせる。どれが光るか予想してスイッチを押すんだ。出来るな?」
「うん?」
素直に機械を受け取ると、ぼーさんが「なんじゃそら」といいながら機械を覗き込む。ナルが「サイ能力のテスト」とあっさり説明すると、皆固まる。まさかこいつに?みたいな顔をしてる。特に綾子な。

俺、テレビとかでやるじゃんけんゲーム、たいていあいこを当てるんだよね。だからこういうときはピンと来た物の隣を選ぶようにしてるんだけど、あれれ、何回やっても当たらない。
「あいこかな?」
ぽそと呟いてから、素直にピンとくるものを押してみた。わーい当たったぞ!
それからはずっと当たりを極めた。なんか……ずっと当たるもんだから、ぼーさんも綾子もジョンも真砂子も黙ってしまった。もう押したくない!もう押したくない!って駄々を捏ねてもナルが続けろと言うのでやらなきゃならなかった。
二時間くらいかかるテストが終わってみると、俺は最初の数回以降全て当たっていた。回数にすると、988ヒット。
「きっ、きもー!きも!なんでこんなに当たるの!?うそぉ!?」
機械が怖すぎて恐れおののく。麻衣ちゃん強い!
「こいつぁ、人工知能でも持ってんのか!?動きを予想されてる!?こーわーいーよー!」
「逆。お前が予想してるんだ」
ナルに言われた自分の才能にぶるぶる震えた。麻衣ちゃんってむしろこういう当たりはないよね、むしろ全部外す……あ、外すんだったっけ?そっかーすっかり忘れてた……。いいのか?これ、いいのか?これが俺と麻衣ちゃんの違い?なんか俺のほうが気持ち悪くない?

ナルは満足そうに結果を見てから、ちらりと俺に視線を寄越す。
「途中であいこと呟いたのは?」
「じゃんけんゲームで、いつもあいこ当てんの。だから、ピンと来たものの隣をあえて押してたんだけど」
「もう一回やってみたら全部あたるんじゃない?」
余計なことを言うな、綾子。
「続けてやったら確率が崩れるし、麻衣の集中力も切れてるからもう良い」
もう一回やれと言われたら俺は問答無用で逃げようと思っていたが、ナルの言葉にほっとする。
「……麻衣は潜在的にセンシティブだ」
「えーっセンシティブぅ?”こまやかな”、”感受性が強い”!?」
はい、綾子ちゃんは人の事を鼻で笑い過ぎだと思います。
「センシティブ……、サイ能力者、ESP、超能力者」
ナルが言い直すと、ぼーさんと綾子は「ええぇ!?」と驚いてる。俺は自分の出自が特別な事や、立ち位置が不思議なことを知っているので、ふひっと変な風に笑うしか無い。
「今回やけに勘が冴えてたのも、偶然じゃないかもしれない」
「じゃあなに?麻衣は超能力者だってこと!?」
「そういうことになるかな」
綾子はあんまり認めたがらない。
「なんで今まで役立たずだったわけ?」
しょうがないじゃん、やろうと思ってなかったし。でも綾子に役立たず言われるのはなんか、違うよね!へっぽこめ!
「いや、麻衣は鋭いと思ってたぜー俺は。前回の森下事件も変な夢みてっだろ」
過去視と、子供の幽霊を見た事を覚えていたぼーさんがうんうん頷いている。今回なんか、ヒトガタ隠してるのがマンホールの中だって正確に言い当てちゃったし。
俺の発言の説得力ってやつはできたんだけど……この扱い……解せない。
「やけに産砂先生を警戒していたし、害意のある物に対して異常なほど敏感」
ナルが「動物と一緒だ」と揶揄した所為で、俺は野生動物扱いだ。
「酷いもののたとえをするじゃないか、ナル」
スカートだけど偉そうに足を組んで、ふんぞり返った。俺がナルと呼ぶのは、ふざけている時と、怒ってたり焦って余裕がなかったりする時だ。ナルも嫌な予感がしたのか、少しだけ目をみはった。
「内緒話をした仲良しな麻衣ちゃんに……そんな口をきくなんて」
可愛こぶって頬に手をあてて、溜め息をつく。そして、ちらちら、とリンさんの居る資料室のドアを見た。
「仲良しじゃなかったんだなあ、じゃあ秘密も守る必要ないのか……リンさんに相談してみよう」
「……いや、それは、もののたとえで……」
あ、ちょっとナルが子供っぽくて楽しい。
ソファから立ち上がった俺を見て、ナルも血相変えて立ち上がる。なんだそんなにリンさんが怖いか。まあその気持ちも分かる。
「あ、っ」
部屋のドアをノックしようとした所で、がちゃりと開いた。うお、リンさんだ。
お茶?と聞こうとした俺の口を、ナルの手が塞ぐ。
マジかお前。必死だな。
「……なにか」
「んーふん!」
「なんでもない、麻衣がふざけているだけだ」
「ぅ!?」
こいつ、鼻まで塞ぎやがった。掌舐めてやろうか!?
リンさんが怪しいものを見る目つきで俺たち二人を見て、関わりたくなさそうに離れて行くまで、ナルは俺の息を止めていた。……この秘密をバラしたら命もないってことですか。
ていうかリンさんももう少し空気読もうよ!ナルがこんなふうに止めているってことは、都合が悪い事なんだよ!じーっとリンさんをねめつけたけど、その視線に気づく事は無い。
「麻衣、昼ご飯に連れて行ってやる」
ようやく鼻だけ放してくれたと思ったら、なんかこっそり買収してきた。でもお昼オゴリはうれしい。
こくこくと頷くと、ナルは手を放した。そして、さりげなく服の裾で手を拭いてやがった。俺も仕返しに目の前で口を拭いた。

俺たちの闇取り引きを知らない皆は、静かに距離をとった俺たちに首を傾げる。ナルは黙ってコートをとりにいった。あ、今すぐですか。
「僕たちはちょっと出る。行くぞ、麻衣」
「あい!ご主人様!!」
俺、犬でいいや!あはは!
今日一番の笑顔で敬礼して、俺は皆を置いて外に出た。
ご飯に連れて行ってもらうなんて教えたら多分、ついてくるしな。


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やたらハイスペックにしないように心がけたかったんですが、つい欲目をだしてしまいました。
Jan 2015
加筆修正 Aug 2018