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年が明けて学校が始まったある日、最近新聞をにぎわせている高校が、うちの事務所に依頼に来た。千葉県にある頭の良い学校だった。その依頼を、ナルはマスコミは避けたいという事情で断った。たしか有名人だし、あと、ジーンと顔が似てるとかそんな理由だった筈。
でもこれ、たしか安原さんが居る学校だったよね?署名もって来てくれるんだっけ。
新聞を眺めていると、ドアについてるベルがからんと鳴った。
「あのー」
「あ、ご依頼ですか?」
顔をのぞかせた詰襟の少年に、俺は営業用の笑顔を受かべる。
少年はセーラー服姿の俺に、一瞬だけ驚いたような顔をしてから頷いた。
きちんとした頭髪、眼鏡、詰襟、タイミング、この人が安原さんだとすぐにわかった。
安原さんが持って来た署名は、たった半日で集めたものらしい。それでも沢山の名前が書き連ねてある。
しかも、学校の先生はこういう運動が嫌いそうだから、こっそり集めたんだろう。その労力も凄いし、必死さも伝わって来る。ナルも大ごとだと思っているんだろうけど、やっぱり自分の身も守らないといけないし、考えどころだよなあ。うん。
生徒や安原さんには悪いが、俺はこの学校に行くのが嫌だ。まあ別に今までの調査も喜んで行ってたわけじゃないけどさ……。
今回だって、得体の知れない幽霊というわけでもないし、解決策も知ってる。ただ純粋に、学校の先生に会うのが嫌なんだ。
「麻衣、緑陵高校に電話してくれ、依頼をお引き受けしますと」
「はい」
ぼけっとしたまま話を聞いていた俺は、ナルにそう言われて反射的に返事をした。どうやら深々と頭を下げた安原さんに免じて、ナルは依頼を受ける事にしたらしい。
次の日から緑陵高校に行ったわけなんだけど、事務室での事務員の態度から職員室の対応、校長の口ぶりに、案内の松山……最悪。
特に松山。原作読んでるときも、くぬやるぉぉって思っただったけど、現実はもっとキビしい。だって、生身の人間に言われればそれなりに堪えるだろ。
坂内くんの気持ちも分からないでもないぞ……。
「お待ちしておました」
ベースがわりの会議室のドアを開けると、安原さんが立っていた。メシアよ……。
だけど、安原さんの存在に、松山は顔を顰めて、頭ごなしに咎める。「安原!おまえ授業は」
「三年はもう短縮授業ですから」
ばかめ!お前は三年の授業の事も知らねーのか!ええ、おい?
見えない位置から鼻で笑ってやった。
「受験は大丈夫なのか」
「ご心配なく」
二人が会話してるのを見つつ、ぼーさんとナルは仕事の話にうつる。
「各事件に関わった生徒たちに話をきいてみようか。麻衣、探して来てくれ」
「安原さん借りていいですか」
おい、どーやって探すんだよ。お前だって探すの大変だろうが、俺に出来ると思ってんのかてめー!と言いたいが言わない。生徒に聞けって話でしょ、そしたらもう安原さんに聞くしかないよね。依頼人だしね。
「ああ、僕がやりますよ」
「その方が早いな。お願いします」
まさにメシアだなこの人、と思って安原さんに会釈すると彼も返してくれる。
「手っ取り早くやってくれ、俺も忙しいんでな!」
そんな中、松山はどかっとパイプ椅子に座った。うわー。
ナルが「先生はお帰りくださって結構です」というと「そうはいかん、生徒を管理するのが俺の仕事だ」と言い出す。はぁいぃ?人に呪われるような、自己管理もできないお前に管理なんかされたかねーわ!
「俺は霊能者なんかを学校に入れたヤツの言い分がききたいんだ」
「では校長室へどうぞ」
「そりゃそうだ、依頼したのは校長だもんな」
松山はナルとぼーさんに言われて真っ赤になって出て行った。ざまあ。
「奴の弱味も調査しましょう所長」
「勝手にどうぞ」
ナルの方をくるっと向いて意気込んでも相手にしてくれなかったから、安原さんの肩にぽんと手を置く。
「兄ちゃん組まねーか。取り分は七くれてやる」
「あはははおもしろいなー谷山さんって」
あんまり本気にしてくれてないが、やったっていいんだよ?
「ナルちゃんの毒舌がいつ飛び出すか楽しみにしてたんだけどなー」
俺と安原さんを見た後、ぼーさんがちょっとつまらなそうに言った。でもナルは、顔色一つ変えずにファイルを見て、「豚に説教しても意味がない」と答えた。ナルの歪みっぷりが歪みねえ。
「……じゃあ安原さん、豚を食い物にする方法を考えながら生徒達を、」
一瞬反応に困ったんだけど、とりあえず仕事しようと思って安原さんに声をかけたら、廊下の方から騒音と悲鳴が聞こえた。えっ、早速ですか?
ぼーさんが素早く廊下に出て行って、俺たちも皆で後を追う。
廊下で泣き崩れている女子生徒に問うと、犬が出たらしい。ナルとぼーさんは教室の中をのぞいた。俺もちょっと見たけど、本当に居る。で、でっけー!鼻息フーフー言ってるぅ!
俺はそっと廊下に戻って女子生徒の様子を見た。あらら、足噛まれてるわこれ。霊の犬に狂犬病とかないよね……、ないよね?もろ狂犬だったけど……。
「廊下に戻れナル!」
ぼーさんの声が聞こえたと思ったら、ナルとぼーさんが廊下に出て来て、その二人の間から犬が飛び出して来た。俺はしゃがんでいたので、犬を見上げる。俺に着地される!?って思ったんだけど、空中で消えた。あー、よかったあ。
next.
ちょっとイライラしている主人公。
Jan 2015
加筆修正 Aug 2018