.i am 36
眠っている間に夢を見た。なぜか分からないけど俺は彰文さんとジーンとの三角関係を演じていた。
ふわりと抱きしめられて、うん……なんだこれ……と思ってるのに、口は勝手にセリフを吐く。
まって、俺、ジーンと心中しようとしてる。絶対にやだ。
身近に居る人に配役当てるのやめてほしい。俺の願望みたいじゃん……麻衣ちゃんならともかく、俺はジーンに惚れてないぞ。
海に二人で飛び込む筈だったのに、神社の方へ行った。海って認識したのがなぜだか分からないけど、夢は途中で少し違うものにすり替わっていた。二人だったはずが、ぼーさんや綾子たちと神社に追いつめられて、大勢の人に殺される夢だ。
がばっと目を覚ましたら、綾子が隣で寝ていてほっとする。
部屋の障子が開いていたので、あれ?と思いながら起き上がった。
意識した途端、窓の外が光の玉で溢れた。ふわふわと浮き上がって行くように見えて、俺は思わず駆け寄って窓を開けた。下は真っ暗な崖だったけどジーンは淡い光を纏っていたから、そこにいるのがよく見えた。
「おいで」
夢の中の夢って変なの。
ジーンが手を差し伸べると俺の身体は勝手に浮いて、そちらにおりて行った。
うわー、なんか少女漫画みたいなシーンだな。いやこれ一応少女向けか。
「夢、見れた?」
「ああ、うん」
「怖かった?」
「うーん……あんまり」
ジーンはほっとしたように笑った。怖いって言えばもう見せないでくれるのかもしれないけど、それはそれで困っちゃう。麻衣ちゃんの仕事はまだ終わってないのだよ。
でも前回みたいなのは考えものだよな。選り好みしてられる立場じゃないけどさ。
「あれって、ジーンが見せてるの?」
「少し違う、僕は夢に入る方向を示しただけ」
そういえばそんなポジションでしたっけね。
ふと周りを見てみると、断崖にはおりてくるのがすっごく怖いであろうちゃちな階段がある。おいおい安全面どうなってんの。いや、昔の階段か。
いつのまにか手を引かれていて、俺はジーンと洞窟の中に行く。
「これ、どういう霊?」
「たぶん、このあたりの海で死んだ命。ここは魂が吹きよせてくる場所らしいから」
「ふーん」
白いふわふわが人魂らしいので尋ねてみたら、ジーンも曖昧にしかわからなかった。
「麻衣は、この後のことを、知ってるの?」
「何が起こるかっていうのはあんまり。ただ、そうだな……何が原因なのかは知ってる」
祠をすっと指差したら、ジーンも同じようにそちらをみる。なんか、視界がぐにゃりと歪んだ。
「悪い場所ではないけれど良い場所でもないみたい……霊場の気配がする」
「へえ、霊場」
って、なんだろう。明日誰かに聞いてみよう。
「原因は祠?」
「うん、神様をちゃんと祀らないといけない」
「だからか」
ジーンはふむ、と頷いた。
「───早く、ナルを起こさないとなあ」
やだなー怖いなー、でも起こさなかったらもっと怖いだろうなー。
ぶつぶつと呟きながら、霊のふわふわに触れてみる。ぱちゃんと水が弾けるような感じでふわふわした人魂が魚に変わった。お、幻想的。
夢が終わる前にジーンにお礼を言われたけど、別に俺は何もしないし、ナルの問題なのでは……と思ったけどお兄ちゃんのつとめなのかもしれない。大変だなあ、お兄ちゃん。
次の日の朝、真砂子とジョンがやってきてナルの状態に驚いた。真砂子が一応ナルに憑いている霊を見てみたけど、とても空虚な霊だと言っていた。
「ねえねえ、真砂子、霊場って知ってる?」
「!」
ぴくんと真砂子が目を見張った。
「そう、そうですわ。ここは霊場と似てますの」
アメリカにあるインディアンの霊場にいったことがあるらしく、その感じと似てると教えてくれた。そこは精霊に守られた神聖な場所で、汚す者に災厄をもたらす祟りの震源地で、たくさんの霊が浮遊してると。まさに此処じゃん。
「じゃあこれは祟りなのかもね」
「え?」
「洞窟に祠があるんだよ……なんだかそこが震源地って感じ」
「麻衣、まさかお前」
「ふはははは君たちが眠っている間に麻衣ちゃんは文字通り頭を働かせていたのです……それも寝ながら!」
サムズアップにドヤ顔をするとぼーさんはへなへなと力なく前のめりになった。
「よし、綾子、神様の祟り鎮めて来い」
「なんであたしぃ!?」
「巫女でしょ」
つんと指をさすと、ぱちんと払われる。痛くはない。
「いくらあたしが巫女でも、祟り鎮めるなんて無理よぉ。そもそもどうして祟ってるのかもわかんないし」
栄次郎さんの件やナルに首を絞められたりであんまり良い思いをしてない綾子はちょっと嫌そう。
もうさっさと神社みてきなさいと言いたい。
そんな所に、彰文さんがコーヒーをもってやってきてくれたので、俺は一服してから周辺の案内を頼んだ。
リンさんとナルだけをベースに残して、わらわらと連れ立って外に行く。
夢でみた階段をみながら、お店が出来た時期の話なんかを聞いていた。俺は難しい話は聞いてもよくわからないけど、一応頑張って頭に入れる。……うん、頑張ったけど分かんないや。頭使うのは俺には無理。安政年間とかいつだよ。急にぼーさんが年号をフッて来るので「わからん」と即答したら呆れられた。
俺の学校では源氏と平家が闘ってんだよ。
十八塚だか三六塚だかいうのとか、雌瘤と雄瘤とか、神社とか一通りみてまわったら、綾子が神社のときだけは顔を輝かせていた。俺にはボロッちい神社にしか見えないけど、綾子には精霊が見えるのかなあ。
洞窟に行ってみると真砂子は、やっぱり霊場に似ていて、ここには霊が流れ込んで来ているって言ってた。
俺、起きてる時には霊感はほぼ無いけど、真砂子はあんな光景を見てるのかな。
おこぶ様のご神体を見て、今直ぐへし折ってしまいたいと思ったけど多分俺じゃ無理だよね。
たとえば不意打ちで御神体を壊せたとしても、多分さらなる祟りが起こるし、俺がその場で死ぬだけだと思う。ナルが成功したのは、念力で神様に打ち勝ったから御神体が壊れただけであって、物理的な問題じゃないんだ。
「麻衣が言ってた祟りは、えびすか」
ベースに戻って来た俺たちは意見交換をした。真砂子は空虚な霊ばかりというし、ぼーさんは洞窟にカメラを置いてみるかなんて言ってる。
皆いつからかナルのやり方に慣れて来たよねえ。
今まではもっと感覚的に祓ってただろ。まあ、今回はナルに憑依した霊の正体を探らなきゃいけないからなのかもしれないけどさ。
「───綾子」
「ん?」
「いける?」
俺は研究者でもないし、その研究第一な博士がダウンしてるので、もうしったこっちゃない。
そもそもナルが居ればすぐに真相に辿り着ける。
「なーにいってんだお前は」
綾子が何かを言う前に、ぼーさんが止めた。
「このままにはしておきたくない、一刻も早くどうにかしないと……やなことが起きる」
「あのなあ、そりゃ俺たちもどうにかしたいと思ってるよ」
「祟りそのものをどうにかしろってんじゃなくて、使役されてる霊を散らしたい。綾子は霊の正体を知らないと祓えない?」
ぼーさんと話していてもらちがあかないので、綾子を見る。
「いけるわ」
綾子はすっと目を細めてから口を開いた。
「じゃ、お願い」
「わかった……」
すくっと綾子が立ち上がる。
「……何か考えがあるのね」
「ないけど」
「はあ!?」
ぼーさんと綾子だけじゃなくて、ジョンとか真砂子もきょとんと目を丸めた。
「綾子が霊を一掃したら、渋谷さんが起きるでしょ?そしたらあとは渋谷さんにまかせまーす、尻拭いイエーイ」
そう言って笑うと、おっきなため息を吐かれた。いや、これわりと正論よ。
「たしかにナルちゃんが起きりゃーってなるけどよぉ」
ぽりぽりと頭を掻くぼーさん。
「考えてみ?神様の祟りも怖いけど、起こすのが遅れたナル様もすごく怖い」
綾子を急かす為に立って、皆に演説まがいな事をした。
ナルが起きて、何日経ってたか考えるだろ?その日にちが何日までなら怒らないと思う?一晩ならまだ……まだ怒らないかもしれない……不機嫌だろうけど、怒りの矛先は霊だけに向けてくれるかもしれない。でも、何日も経ってたら……無能な部下と霊能者たちと見なされるんだ。怖い、怖いよう。
今日起こさないというなら、もうナルを二度と目覚めさせない所存だこのやろう。
そんな感じで荒ぶっていたらぼーさんが地団駄を踏む俺を抑えた。
「とにかく!───渋谷さんが一番大事なんだよ、……たのむよ綾子」
「……、分かったわよ!」
ぼーさんから解放された俺は、綾子の方をきっと見る。睨んだわけじゃないけど、真面目な顔して言ったので一応伝わったらしい。しょうがないわねえ、みたいな感じだけど、綾子ちゃんさすが!
next.
展開はやいです。
Mar 2015
加筆修正 Aug 2018