I am.


.i am 50

ベースに連れて行かれた俺は、他の協力者達にも再会を果たした。
あちゃあ、と顔を覆ったけど、ガッカリしてる暇もないくらいに詰め寄られて、肩をすくめる。声を出すのが怖くて、まだ、久しぶりの一言もごめんの謝罪もできてない。
「なんか、デカくなってないか?麻衣」
「それになんか、痩せたっていうか、筋張ってない?」
前から華奢こじらせてるって言われてたけど、さすがに、身長がナルと同じくらいになってたから違和感があったらしい。
「もうここまできたんだ。説明してくれないか、麻衣」
「あー……うん」
頬を掻きながら、ナルの言葉に頷く。
俺の発した声を聞いて、皆が目を丸めた。そして「男!?」と声を揃えた。

物心ついた時にはもう麻衣と呼ばれて、女の子の格好をしていました。女の子になりたいと思ったことはこれっぽっちもないけれど、俺は麻衣という女の子でいたいと思っていた。
体は男で名前がでも、俺には麻衣と呼ばれる未来が見えたから。
男に戻ったのは、女で居続ける未来が見えなくなったから。
みんなは、ん?んん?と聞いていた。
「そんなの、あんたが男だっていいじゃない、女の格好してても。麻衣って呼ばれたかったならそう言ってくれたらいいじゃないの」
「───麻衣っていう存在を、皆の中で生かしてあげたかった、ごめん」
「自己満足だな」
「うん」
ナルがぴしゃりと言い放った。反省はしてるし、自覚もしてらい!
「ついでにいえば、ずっと女のフリしてて、今更男だなんて言われても、困ると思ったんだ」
寝泊まりしてたしさあ、と、真砂子と綾子をちらりと見る。
「知らずにどっか行かれる方が困るのよ!バカ」
「そうですわ、そっちの方が嫌です」
「ハイ、スイマセン」
凄い勢いで怒られた。うっひぃ。せ、正座した方がいっすかね。
「たしかに、寝顔とかすっぴん見られたりしてるけど……あたし、アンタと着替え中に会ったこと一度も無いわ」
「あたくしだってありませんわよ」
「うん、見ないようにしてたよ」
「ならいいじゃない。そんなに心狭くないわよ」
女の人二人が意外にサバサバしてて、俺の気にし過ぎ感が半端ない。
怒られないにこした事は無いけど、それでいいんだろーか。
とにかく、俺を許す体でいてくれるのはわかった。
「……ご心配おかけしまし、た?」
で、あってるかな?
とりあえず深く深~く頭を下げる。
顔を上げたら、困ったように皆笑ってる。ナルはやっぱりそっぽむいてふんっとしてるけど。
リンさんも微笑してるので、とりあえず、お許しって感じな気がする。
「ほら、とにかく怪我とかしてるんでしょ?見せなさい」
「あい」
ぺろっとTシャツを捲ってお腹を出すと、綾子はじっと見てる。
なんですか、どうせ腹筋は割れてませんよ。
「やっぱ男ね」
「うん、男だよ」
「……今まで、何で気づかなかったのかしら」
「初対面が制服だったしねえ」
かすり傷の多いお腹に、消毒液をびしゃっとかけながら、綾子は軽口を叩いた。
「身長もまだ綾子と同じくらいだったし、この半年で成長期が一気に来たんだよなあ」
「そうね、一応あの頃は可愛い顔してたわ」
「今も可愛いだろうが」
ぼーさんがブッと噴いた。
「まあ、そんじょそこらの男よりはね。……でも、女の子って感じもしないし……どっちなの?」
「男だって言ってんだろ」
ちょいちょい、とお腹を拭いてもらった後は手を治療してもらう。
リンさんとぼーさんとジョンは除霊をするらしいからナルと話し始めてて、俺は治療が終わったから寝てて良いって言われたので別室に移った。安原さんが案内してくれたので、ちゃんと男部屋だよね?ね?もう安原さんも寝ちゃう?
「子守唄とかいります?大丈夫ですか?」
「え、歌ってくれるの?お願いしようかなあ」
「すみませんが仕事中なので」
「提案しておいてなにそれ!?」
「あはは……───なんか、良かったです」
「ん?」
ごろっと寝かせてくれればいいのに、布団まで出してくれながら、安原さんは笑う。
「何も言わないで行っちゃったのに、ちゃんと理由があって。そりゃ、仕事仲間って関係ですけど、寂しいじゃないですか」
「あー、うん、ごめんなさい」
「みんな、谷山さんのこと大好きだから、へこんでたんですよ。勿論僕もですが」
にっこりあっさり言うから本気なのか分からない。いやここでウソいうほど性格悪くないよな。
安原さんはこういうことするからわかりにくいけど、実のところ素直に好意を表現できる人だと俺は思う。自分に自信がある、っていうのかな。あと純粋にしたたか。
「俺も、皆のこと大好きだよ。勿論安原さんもね」
「敵わないなあ」
安原さんは困ったそぶりを見せながら、全然困ってない笑顔だった。
安原さんが好意を示す時に素直なように、俺だって素直な方なのだ。負けないもんね。
「それ、今度皆に言ってあげてください、本当によろこぶと思いますよ」
「え〜、安原さんにだけの内緒」



───これは時々見る夢だ。真っ暗な世界に白い顔をしたジーンがいる。
こうして顔を見るのは久しぶりだな。さっきまで、もう会えないんだと思ってた。
「呼び出してごめん、来てくれてありがとう」
俺は肩をすくめた。急に呼ばれたのは困ったけど、そんなの思ってる暇はなかった。
いや、到着してから散々ジーンに心の中で文句を言ったっけ。
「名前、呼んでも良い?」
「うん」
ジーンは、麻衣で居たかったって言ったのを聞いてたのか、遠慮がちに俺を見た。
麻衣って言われるのも嬉しいけど、自分の名前で呼ばれるのもひとしおかもしれない。
……」
「はい」
「男の人だったんだね」
「うん、ごめんね。あ、呼びに来た時、気づかなかった?」
「謝ることじゃない。あのときは声を届けるのに精一杯で姿まで見えなかったんだ……声もどんな声かっていうのは認識できていなくて」
白い指先が俺の頬を撫でてきたので見上げた。
ジーンはいつもの甘く優しい笑顔を浮かべる。さっすが美少年、俺が女だったらいちころだっただろうな。麻衣ちゃんの気持ちはわからんでもない。まあ俺は男なのでころっとはいかないが。

「ジー……ン?」
なんなの、くすぐったい。
言おうとしたところで、目を覚ました。
「なにを寝とぼけているんだ」
「……ナル?」
ジーン程距離は近くなかったけど、ナルが俺の顔を覗き込んでいた。寝言の所為かな?すまんね。っていうか、声に出して呼んでたなんて、恥ずかしいなそれ。
「おまえはこういうのが好みなのか?」
ナルはジーンの真似をして優しく笑った。俺が喜ぶとか赤面すると思ったのか?馬鹿め、しねーよ。
「人聞きの悪い事をゆーな……あと、俺は女の子じゃないので甘くて優しい笑顔にはつられません」
むくっと起き上がりながら、髪の毛を直す。ナルはすっかり無表情というか、不機嫌そうな顔に戻った。お前は将来眉間に皺がつくよ。
「俺、ナルがたまに小さく笑うのすきだよ」
「それはどうも」
「なんじ?仮眠?」
「───6時。撤収するから起こしに来た」
1時間も寝てないと思ってたんだけど、もう朝だったのか。
そういえば窓の外は白んでいて、ナルのご尊顔も明るく照らされてた。
「あれ〜、そんなに寝てた?」
「それはもう、ぐっすりと」
「誰かさんを助ける為に寝てる所を起こされて来たもんでね」
布団の片付けをしながらちくちく嫌味を言い合う。今回は俺別に悪い事してないもん。あ、いや、まあ行方はね?しらせなかったけどね?でもほら、ナルの了承をえてバイトは辞めてたもんな。

「ん?」
使った布団を畳んで隅によせながら、ナルに呼ばれたので振り向く。起こしに来ただけのナルは壁に寄りかかって俺を見ていた。
なんかまだ用があったみたいだな。
「問題はもう解決したんだったな?」
「ああうん」
「じゃあ、うちでバイトをしないか」

───事務なんだが手が足りないんだ。
───この間までいた子がやめたんで。

ナルはまた懐かしいセリフをいった。
知ってるんだぞ、あれが嘘だったこと。ああでも、今度は嘘じゃないのか。
なんて、考えるまでもないか。



「うん、───やる」



Afterword.

\ ご愛読ありがとうございました。 /
May 2015
加筆修正 Aug 2018

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