I am.


Invisible. 10

森下家でまたもや全員揃った後、今後の協力者としてナルが全員の連絡先を把握した。
麻衣はあくまで仕事だもんね、と思いながら自分の携帯電話を出せずにいる。背中を叩いてやろうかと思ったけどやめといた。

秋頃になるとその連絡網が役に立つ時がやってきた。
湯浅高校という女子校の調査依頼を受けたのだ。ぼーさんが持って来た件だったけど、女子校の生徒が個人で相談に来ていたこともあったし、ぼーさんがいるときにタイミングよく湯浅高校の校長先生が依頼にやって来たため正式に調査することが決定した。
学校をみてもまあ、俺にはわからないことばっかりだ。
ジーンは麻衣に対して特に素質を見抜いてる様子はないし、導いてやらないと力をまだ発揮できず、結局埋没してしまうことになるだろう。……こうなったら、お兄さんが一肌脱ぐしかないじゃないの。
かといって、俺にできることは意識を繋ぐことだけだ。

「迎えに来てくれたの?」
真っ暗な場所にいた麻衣は、夜遅くなったと勘違いしたのか、夢に現れた俺に近寄ってくる。
「みんなあたしをおいて帰っちゃったのかと思った」
「大丈夫」
麻衣は手を伸ばして、俺のシャツの袖を握りしめた。
周囲を見渡せば急に学校の校舎になった。多分麻衣自身が今学校にいることを思い出したからだ。
ジーンはこう言う時色が反転して透けた建物を見る特徴があって、俺は何度か一緒に見たことがあったけど、麻衣はあくまで自分の認識の範囲内なので透けてない校舎の中にいた。建物の外が真っ暗闇なところだけ、現実感が薄い。
「俺たちも校舎の中を一回りしよう」
「そうだね、みんないるかもしれないもん」
全体を一瞬で把握できないんだからしょうがない、練り歩いてみるしかないわけだ。
今回の事件はジーンが不在なので森下家のように俺が知ってたよりも早く解決することはなさそう。真砂子は霊がいないというし、ナルは疲れた顔でふてくされてた。ジーンを呼び戻そうかと考えてるのかもしれない。
「なんか、やな感じがする。暗いからかなあ」
麻衣は不安そうに俺にひっついて歩く。
今は意識のみで校舎内を歩いているから、余計に勘が働いてるんだろう。俺は麻衣の様子を見ながら、記憶にある一番それらしいところへ誘導した。
ぼーさんに依頼をしたタカの教室は、座ると事故に遭う席があるらしい。一度ナルたちと見に行ってるから俺も知ってる。もちろん俺が見てもどうということはないし、起きていたときの麻衣は何も感じてないみたいだった。
「あ、タカの教室」
「入ってみよう」
「うん」
みんないるかも、と小さい声で返事をした麻衣。
ドアを開けると、俺の後ろから覗き込むように教室の中を見渡した。
「あ、れ?」
麻衣の意識の中だからか、鬼火が見えた。机を燃やすみたいにぼうぼう……いやゆらゆら程度に、鬼火が机を覆っている。やだ燃えてる!?と麻衣が驚いたけどそうじゃない。俺は多分影響を受けないだろうし、近寄って机に手を置いて見た。
「あ、あぶないよ!」
「本当の火じゃない」
「え?」
戸惑った声を背中に聞きながら、机の中を覗き込む。さすがに、現実ではないし麻衣が認識していないからなのか、机の中は闇の空洞になっていた。
「空っぽだ」
「え」
見えない……とぼやいてみたけど、麻衣はだからといって中身を再現まではできなかった。
「起きたら、この机をちゃんとみてごらん」
「おき、たら?」
麻衣はようやく自分が眠っていることに気がついて、どんどん遠のいた。
俺の周りにあった教室は消える。

「おきたか、ねぼすけ」
「ふわ!」
ぼーさんに頭をわしわしされて、寝起きの麻衣は驚く。みんなが戻って来ていて、居眠りこいてた麻衣を心なしひんやりした顔で見てた。ジョン以外。
「何のために残したんだか」
「う……ゴメンナサイ」
ちょっと、麻衣ちゃんったら俺が机の中見に行ってって言ったの忘れてるよ。
みんなが寝起きの麻衣に色々言うからあ、もう。せっかく校舎連れ回したのに。
仕方ないので夜もちょっと校舎内を見られるか試してみることにした。
学校のこと気にしてる風だったから、俺の目論見通り、ゆっくり校舎内を見て回ることに成功。麻衣は相変わらず鬼火をみるたびに怯えて俺にしがみついてたけど、その反応はまあ正しいのでよしとする。
案内に成功したことでふくふく笑っていた俺だが、麻衣は目覚めるなり冴えない顔をして湯浅高校へ向かった。
あ……なんか、ごめん。

その日の夕暮れまで、麻衣は鬼火のことがなんだったのか気に病んでるみたいで、静かにベースでみんなの中継役をしていた。そろそろ机のこと思い出してくれても良くないかな。
さすがに心は読めないので、麻衣がふーとため息をついて、机にべろっと倒れるのを見ながらなんとなく考えてることを想像してみる。除霊してみたのに効果がないんだよなあ、とか。タカの担任の先生も容体が悪化したから心配だなあ、とか。
あ、除霊といえば机!?と、立ち上がったのかな今のは。
見てて面白いが知らない人が見てると変な子だぞ、麻衣。
「うはあ!?」
立ち上がった瞬間にドアがあきナルが一人でやってきた。
ナルだったことに歓喜してたので、机を思い出して立ち上がったんじゃなくて、この部屋に霊とか出ないよね!?って立ち上がったのかな。
麻衣ちゃん思い出して、もっかい寝かすぞ。

なんか、ナルにお茶を入れてゆっくりする時間がはじまってもうた。
そ、そんなあ、俺の努力はなんだったんだあ。
よよよ、とうなだれてた俺は、急に部屋の空気が張り詰めたことに気づいた。
電気が消えて、妙な物音がしはじめる。
ナルと麻衣は音のする天井を見上げて硬直した。そこからじょわっと出て来たのは髪の長い女の霊だった。
おおっと、久しぶりに自分以外の霊を見た。森下家では画面越しにしか見えなかったけど。
「っ、ナ……」
「おちつけ、動くな」
ナルの背にかばわれて怯える麻衣は、腰が引けている。
助けてっていう麻衣の声が俺に聞こえた。でも俺は霊をどうにかできるタイプの霊じゃないのである。
ぼーさんがこっちへやってくるのを感じて、気休めにと麻衣の背中をぽんぽんと叩いてみた。感じるかはわからないけど。

直後、勢いよく入って来たぼーさんが霊を退けてくれたので、女の霊はびゅるっと天井に戻った。
麻衣は安心してぺたっと座り込んでしまい、ぼーさんは心配そうに頭をぽんぽんした。どうせ俺の背中ぽんぽんより効果的だろうよぐすんぐすん。
ところが麻衣は、なにかずっと考えてるようで固まってた。
ふっと校舎内のビジョンが麻衣の脳裏に浮かんだみたいで俺に流れて来る。それは俺と見た夢の記憶だ。
「あれ、ナルを狙ってるんだ」
「なに?」
「あの女、この部屋じゃなくてナルにあらわれたんだよ、ナルが危ない!」
「……麻衣?」
昨日夢でみたの、と麻衣は夢のことを口にした。
変な火がいっぱい校舎内にあること、あの霊はその一つであること、見た瞬間にすごく悪いものだとわかったこと。
「そうだ、机!」
自分の体を抱きしめるようにして守っていた麻衣は、立ち上がる。
「お、おい、麻衣!?」
だーっと走り出した麻衣をぼーさんとナルが追いかけて来た。思い出してくれて何より。
幸い教室には誰もいなかったので、麻衣が机の中を見ていても誰も咎めない。
「どうしたんだ急に」
「……からっぽじゃ、ない」
そりゃそうだ、と思いながら麻衣のつぶやきに苦笑する。じっと中を眺めて、机の天井に張り付いてる何かに気がついた麻衣はそっと手を入れる。セロテープで貼り付けられているそれを、恐る恐る剥がして取り出した。
見ても何だかわからないだろう。でも、それを見ている麻衣を、ナルとぼーさんが見て目をみはる。
「それは、ヒトガタだ……」
ナルは静かな声で言いながら、麻衣の手の上にある人形を取り去った。


人形捜索やナルの入院など様々あったけど、無事に事件は収束、数日後のバイトで麻衣はナルとジーン監修のもとESPテストを受けさせられた。見事に全部スカ。
晴れてサイ能力者という認定を受けたけど、野生動物と揶揄されてプンプンした麻衣は、内緒にしていたナルのスプーン曲げを暴露した。言ったれ言ったれ。
リンに叱られそうになってたじろぐナルを、ジーンも楽しそうに見ていた。


next.

主人公は透視も霊視もできないので、基本的に麻衣ちゃんの潜在能力に頼って一緒に見ながら、ヒントを与えたり、行く道を示しています。
ぺたってくっついてる二人が書きたかった。
麻衣ちゃん以外認識されないので、一人称視点なのに主人公がほぼ登場しないっていう、ある意味第三者視点の話になってます。
Aug 2017

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