I am.


Invisible. 15

改めて麻衣に色々教えてやらないと、と思ったらしいジーンは夏休みに行くことになった調査で麻衣に実践してみようと提案した。
その調査のため、長時間の移動を経て石川にやって来た。着いて早々、依頼人である吉見やえさんのいる部屋に全員が挨拶に向かう。東京のオフィスに実際にやって来たのは孫の彰文さんで、やえさんは体があまりよくないらしく、床の間からの挨拶を詫びた。
この家は代替わりのたびにおかしなことが起こるらしい。やえさんは先代と先々代の代替わりのときに居たので、事態を深刻に思ったそうだ。
先日やえさんの旦那さんがなくなり代替わりとなることで、とりいそぎ霊能者を探し求め、美山邸の依頼人代理であった大橋さんから紹介を受けて渋谷サイキックリサーチに彰文さんと、すでに変事が起きてる葉月ちゃんを向かわせた。
葉月ちゃんの首には一周ぐるっと回ったミミズ腫れのような痕ががあり、背中にも灼き付けられたような戒名が記されている。それを見てナルもジーンも人間の仕業ではないと判断して依頼を受けたのだ。

彰文さんから軽く伺っていた話を改めてやえさんから聞いた後、みんなは今この家の状態を確認してから調査の準備に取り掛かった。
依頼人が来た時にオフィスに居たので、綾子とぼーさんも最初から一緒にいる。ジョンと真砂子もいずれ呼ぶことになるだろう。
機材の設置がある程度終わった後は夕食に呼ばれて、戻って来てからジーンは麻衣に声をかけた。
「麻衣、少し見て回ろうか」
彰文さんはよければ明日案内をと言ってたけど、せっかく夜寝るんだしある程度この場所を見ておこうと思ったんだろう。麻衣は「はい!」と元気よく返事をした。ちょっと緊張してるな。

「夜なのにいいの?」
「まあ、今の所は」
え、なにその不穏な言い方。
麻衣の問いに対するジーンの返答に俺は地味に嫌な感じがしたけど、麻衣は特になんも感じることなくサンダルを履いて外に出た。
料亭は崖の上にあって、周りは林だ。崖の下は当然海で、入江ができていて洞窟があった。吉見家の敷地内には母屋とお店と茶室、それから神社があったりすると彰文さんが簡単に説明してくれていた。
二人はまず店と母屋の周りをぐるっとまわった。入江を挟んだ反対側の茶室は普段柵に囲われてて、施錠もされてるので敷地に入るまではしなかった。多分、明日彰文さんが入れてくれるだろう。
「洞窟の方も行ってみたかったんだけど」
「え、でも暗いよ?」
「そうだな、危ないから明日の明るい時にしよう」
茶室から戻るついでに神社をもう一度見ていたジーンは、来た時から洞窟が気になってたようだけど今日のところはやめておいた。
「今日は眠る前にこの土地について考えてごらん」
「と、土地?家じゃないの?あたしここのことなんて何も知らないし」
「ただ考えるだけでいい。何も見られなかったらそれでもいいし、引っかかることがあったらあたり。今までは無意識にあたりを引き寄せて居たようだけど、意識的にやると外れることもある」
「ふうん」
外れることもあると言った割に、ジーンはある程度ヒントを与えてたようなもので、麻衣はあたりの夢を引いた。
眠りに落ちた麻衣の意識はすぐに形をとり、焦りながら林の中を走っていた。ひらけたところに出ると、人影がある。ジーンと、横たわる彰文さんがいた。ジーンの手には血のついた包丁が握られていて、彰文さんは胸から血を流している。死んでいる、と麻衣は咄嗟に思った。
それから二人は恋人のように手を取り合い逃げて行く。心中しようとしているところに追っ手がかかり、いつのまにか他のメンバーと合流して、取り囲まれた。
なんで協力者みたいなのがでて来たんだろう、二人は駆け落ちするところだったのを邪魔されたみたいだから、綾子とぼーさんとナルとリンまで一緒になって追われている意味がわからない。
刀を振り下ろされる直前に麻衣は目を覚ました。
「あ、」
俺の顔を見て夢だったのかあと安堵した後、顔を抑えてじたばたするので多分ジーンと恋人になってる夢を見たことを恥ずかしがってるんだろう。ごめん、俺も見てた。
「……あたし、まだ夢の中なんだ、さんがいるってことは」
布団から起き上がった麻衣は寝癖を直しながら苦笑する。
「実際に会うより、夢で会う方が多いね」
「夢に出ない方がいい?」
「ううん、さんがいたほうがいい」
その時窓の方からこつんと音がして二人そろってそっちを見る。眠る前に部屋の障子は閉めたけど、ここは麻衣の夢の中なので開いていた。ガラスの向こうは暗闇が広がっているけど、俺は麻衣と窓のそばに行った。
窓をあけると人魂のような光がふわふわ浮いてくる光景が広がる。
「なんだろ、この白いの」
「下からのぼってくる」
底は暗くてよく見えない。
身を乗り出した麻衣の横をすり抜けて柵に足をかけた。
驚いて俺を見上げる麻衣に手を差し出す。俺の手と周囲を交互に見ながらも、麻衣は俺に手を伸ばした。
柵にかけてた足の方に体重をのせて膝をゆっくり伸ばすと、麻衣はふわりと浮いて俺に寄り添う。
「ピーターパンみたい」
「俺は大人だよ」
「あはは」
腰を抱きよせて足を踏み出すと、俺の想像に反してゆっくりふわふわ、地面に降りて行った。


「あ、まってよさん」
麻衣は思わずジーンの肘のあたりを掴んだ。まるで俺にするみたいにひっつこうとして、自分が呼んだ名前も行動も、向けるには違う人だということに気がついて、思わずばっと手を離して瞬間的に顔を赤らめた。
「ごめん!!」
「いいよ、暗いし、掴まってれば」
「だ、だ、大丈夫っ」
夜眠っている間に、麻衣は俺と洞窟の中を見て回った。その時見た光景を彰文さんに確認してから、ジーンと改めて見てみようということになっていた。彰文さんやぼーさんたちも周囲にはいて、麻衣は照れを誤魔化すように綾子の腕に抱きついた。お言葉に甘えてジーンに掴まってたらいいのに。
彰文さんは苦笑しながら、「気をつけてくださいね」と注意喚起して進む。中には昨日見た通りの洞窟があって、祠があった。そこにはおこぶ様と呼ばれる流木が御神体として祀られている。
「どう、麻衣」
「昨日とおんなじ。なんか、白い光がふわふわ海の方から来るの」
「多分それは魂だな……この辺りで死んだ命だ。……ここは魂が吹き寄せて来る場所みたい」
「この洞窟は、そうなんです」
「え」
ジーンと麻衣の会話に、彰文さんが少し真面目な顔をして入って来た。
「潮の関係で死体が流れて来るんです。この近辺の海で死ぬと、あの洞窟に流れ着きます。とくに、人やなんかの大きいものは」
「だから祠が?」
「ええ。うちの犬が流れ着いたのもここでした」
ぼーさんは祠の中をまじまじと眺めている。
これがえびすと呼ばれる神らしく、海から来るものを意味するそうだ。
ジーンと真砂子はここが霊場の気配がするというし、綾子は古ぼけた神社を見てとても良い場所だというし、おこぶとめこぶって呼ばれる岩は麻衣が夢で見た痴情のもつれ感ある伝説と類似してるしで、調査が順調に進んでいることは理解した。
ナルはきっと無事目を覚ますことができるだろう。


疲れてうたた寝をしている麻衣は、またあの洞窟にきていた。麻衣についているから平気だけど、ここは不思議な引力があって、俺もむずむずする。
麻衣は生きてるけど、魂が体から抜け出していることになるわけで、この場所に長く居続けるのは良くない気がした。
亡くなった奈央さんが洞窟の中と祠を巡っているのを見た後に、麻衣に目を覚ますように促した。
さん?え、どこいっちゃったの?さ、」
「麻衣、麻衣!」
「───あ、あれ?ここベースか……えもう朝?うそあたし寝ちゃった!?」
目を覚ますなり真砂子にじっと見つめられていいた麻衣はわたわたと周囲を見渡す。ベースには麻衣と真砂子の二人しか居ない。
「……誰と、会って居たの?」
「へ」
「たしか、……」
「違う!ちがうよ!?違う人!」
ジーンのことだと思った麻衣は思い切り否定した。それでも真砂子は納得してないような、何かを考えるような顔をしてた。
もしかして、俺のこと気づいたのかな。
気を取り直して夢で見たことを話し合う麻衣と真砂子だったけど、俺の名前が出ることはなかった。

next.

ジーンが麻衣に色々教えるの遅くなった……。
ピーターパンみたいって麻衣ちゃんは言うけど私のイメージではハウルです。
Aug 2017

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