Mr. 01
ナル達から離れてもう、五年が経った。皆とは連絡先を交換したわけではなかったから、音沙汰が無いのも当たり前で、唯一連絡先を知っていたナルは、辞めた俺に何か用があるわけもなく、一切関わることはなかった。高校を卒業した時に携帯は番号までも変えちゃったから、もう何があっても俺に連絡はこないだろう。そんで、高校時代の友達とも、完璧に縁を切っちゃったのだ。ホントごめんね。
まあ、でも人間関係なんてそんなもんである。
一生縁が切れないのは家族くらいだ。いや、縁を切りたくない友人っていうのは居ると思うけどさ。
とりあえず俺はそれにまだ出会ってなかったというわけだ。ナルたちのことを軽く見ていたわけじゃないし、結構好きだけど、麻衣として生まれた俺は、麻衣としてじゃないと彼らの傍に居ちゃいけないと思った。
遠くから皆の平和を祈ってます、まる。
高校を卒業した俺は、お父さんとお母さんのお墓がある地元神奈川県に戻った。そして大学に入って、また学校の先生になるための勉強をした。二度目の人生だから違う事でもって思ったけど、先生としての生活は楽しかったし、今更他の仕事に興味が沸かなかった。
今は若凪高校という学校で数学の先生をしている。
部活は囲碁将棋部の顧問。ルール知らんから部長に教わってのんびり遊んでる。わりと楽しい。
生徒との仲も、教員との仲も良好。校舎にも生活にも慣れて来た。
いまは一学期の期末テストが今週頭から始まったので今学校はピリピリしてるけど、それが終わればあとは夏休みを待つだけだ。まあ、俺は休みじゃないけど。
とうとう最終日だぜ、やったぜって思った日の朝、職員室での打ち合わせで、今日から調査員が学校にやってくると聞いた。なんの?って思ってたら、なんか怪奇現象の調査なんですって。そんなの起こってたの?と俺は目をぱちくりさせた。
実は毎年プールで人が溺れるかららしい。え?そんな理由?え?
「よくある事故ってレベルじゃないんですよ」
同じ数学担当で三年ほどこの学校に居る篠田先生が、苦笑する。俺があっはん?って顔をしてたからだろう。ごめんなさい。
どうやら、普通より溺れる件数が多いらしい。まあ、それでも数が多いだけってことにはなるんだけど今年の被害者は滅茶苦茶溺れちゃって救急車呼ぶレベルだった。しかも何人かの足に手形があったり、人影をみたりってことでとうとうそっち系の人に見てもらえないかっつー話になった、と言う訳だ。
「おばけじゃないですかあ……それ」
「ですよねえ?体育の先生は辟易してるし……生徒もプールに入るの怯えちゃって。ま、当然ですけど」
プールで一人溺れて救急車来たのは知ってるけど、そこまで根が深いとは思ってなかった。
「プールの使用禁止……ってことにはならないかあ」
「まあ、それも視野に入れつつ……ですよね」
今年の授業は終えたと言えど、夏休みにもプールは解放されていたし、単位が足りていないものへの補習も予定されていた。もちろん、今年は夏休みのプールは使用停止になったが、来年以降の方針を決めるために調査をして原因を究明しなきゃならないのだ。
昼前になれば試験は終了し、生徒達の晴れやかな顔がうかがえる。
さっさと帰る生徒もいれば、居残って友達と会話を楽しむ生徒もいた。俺は当然午後もあるのでカップ麺食べて昼休みを適当に過ごしている。
俺は資料室に用あることを思い出して、職員室から出て行く。
資料室は職員入り口と事務室の近くにあって、凄く静かで普段人通りがない。それなのに、がやがやとした声や気配がしたので、不思議に思いながら資料室を通り過ぎた入り口の方に顔を出す。
そこには、来訪者が事務室の窓口を見ているから後ろ姿があった。
細い体格の全身黒尽くめ、身長が高い人、金髪の人、茶髪で髪の毛を伸ばしてる、男四人。
ひえええええナルとリンさんとジョンとぼーさんじゃん!運命かよ……お元気そうですね!
バレないように資料室に戻ったけど、なぜか事務員さんがわざわざ資料室にやって来た。
おい、なんだよ、嫌な予感しかしねえ。
「谷山先生、ちょうど良かった〜、今平気です?」
「え、うん?はい」
彼女は、俺を見てにこっと笑う。
「お客様がいらしてるので、応接室までご案内頼んでも良いですか?私これからお昼なんですよ」
案内くらい自分でしてよお!
忙しかったんですねえ!
「あ、はーい」
どうせペーペーですし。事務員さん笑顔でごり押しだし、断らせる気ないと察して頷いた。
ドアの隙間からぼーさんがこっちを見ていて、ぽかんとしてる。俺に?それとも事務員さんのごり押しに?どちらにせよよろしくないなあ。
「どうもお待たせしました」
「あ、っと、えーと、谷山……先生?」
資料室から必要な資料を持って廊下に出ると、ぼーさんが気まずそうに、しかしまじまじと俺を見た。あーやっぱり面影あるよね。
ジョンまでほわあって感じの顔で見てるし、ナルとリンさんは普通にじっとこっちを見てた。
「はい。……じゃ、ご案内します〜」
頷いてからにこっと笑って背を向けて歩く。さすがに隣に並んで来ることはなくて、みんなは静かに俺の後をついてきた。
で、応接室に案内した後校長先生に声を掛けて、ついでに飲物を頼まれたので職員室の冷蔵庫に常備されてるアイスコーヒーを人数用意した。もう一回皆と顔を合わせることになるなんて、何て運の悪いぺーぺーだ。
「どうぞ」
「お、どうもどうも」
「おおきにさんどす」
ガムシロップとポーションミルクの入ってる籠も一緒に置いていくと、皆お礼を零した。ナルとリンさんは会釈っぽい感じ。五年経っても人と接するのが下手くそすぎる。
あとジョンは未だに関西弁なんだねえ。いや、関西弁はなおす必要はないか……。
自意識過剰かもしんないけど、じっとり観察されてる気がして、俺はささっと応接室から出て行った。
next.
もし正体バレないままお別れしてしまって、大人の男になった主人公に再会したら……というネタがやりたくて。
再会するとしたら多分学校の先生かなあ?調査で?なにそれテンションあがるやんって思った結果の産物です。
May 2015