I am.


No, I'm not. 14


松崎さんが祈祷し終わったところに俺が計測を終えて帰ってきたので、遅いと文句言われることはなかった。
「楽勝よ楽勝!これで事件は解決したもどーぜん!」
高笑いをしてくれてありがとう、と内心でお礼を言っておく。おかげで俺の軽いサボりに追及がない。
松崎さんを横目に渋谷さんに温度の結果を書いた紙を渡すと、すぐに口が開かれた。
「……礼美ちゃんの部屋が低いな」
「そうだねえ」
1℃前後の変化はそれぞれあったけど、礼美ちゃんの部屋は高い部屋より3℃低い。
俺の体感は馬鹿みたいなので感じなかったけど、数字にしてみるとやっぱり浮く。
「家自体にはゆがみもひずみもなし。床もほぼ水平……地下の水脈の水量が減っているようすもないから地盤沈下でもない」
前回の調査の結果から潰していくかのような渋谷さんに、ふんふんと何気なく頷いた。
霊が出るところは温度が低くなるんだったかな、たしか。それで、ポルターガイストで動いた物体は温度が高い……とかなんとか、言ってたような気がする。
「これって霊がいるってこと?」
「可能性は増えてきたな。今度は礼美ちゃんの部屋にカメラを置いてみるか……」
渋谷さんの見解に、さっきまで俺その部屋いたんですけど~と思いながら自分の身体を抱きしめた。



「キャーッ!」
───夜、家じゅうに女性の悲鳴が響いた。
何やら物音もしていて、渋谷さんと滝川さん、それから松崎さんが走って出ていく。
リンさんは呼ばれない限りは立たないんだな~と後ろから様子を見ていれば、モニターのチェックをして首を動かしていたので一応気にはしているんだろう。
というか、それが仕事だもんな。
「なにがあったんだろ……」
俺も悲鳴がしたところに駆けつけたって意味はなさそうなので、リンさんの視線を追うようにモニターに映る景色を探した。

残念なことにカメラは設置していない場所で何かが起きた。
ドアから顔をのぞかせて探ると、キッチンで出火したらしく消火器を求める声がする。
火の燃える音や、何かを吹きかける音がしはじめた。
「火事みたい……」
「……」
リンさんも同じく事態を探るために席を立って廊下に出てくる。
大きな火災ではないみたいだから、避難しなくても良いと判断して、リンさんはまた定位置に戻っていった。
消火活動は既にしてるだろうけど、怪我とか大丈夫かなとキッチンに向かうと香奈さんと典子さんが身を寄せ合って茫然としていた。
「大丈夫?火傷してないですか?」
俺が来た時にはもう下火になっていたけど、二人は見るからに汗をかいていたので、熱かったのか、それほどまでに怖かったのか。
「あぁ……もう、いや……」
「……、いったいなにが……」
「───、あれ?」
現場にいない方がいいのでは、と二人をリビングの方へ促した時、流し台の前にある窓に人影が見えた。
「どうした」
すぐに消えてしまった人影を追い求めるように見たままだった俺に、渋谷さんが気づく。
ああ、と視線を外して、今度は女性二人を見るが、彼女たちは窓の方は見てなかったみたいで同意を求められなかった。
「窓んとこ、誰かいた。こっち見てた……多分子供」
「……誰もいない」
代わりに窓を見にに行ってくれたけど、人はいないそうだ。
「でも……礼美はもう寝てるはずよ……私の部屋で」
「じゃあ、近所の子かも?」
念のためってことで、典子さんの部屋で眠ってるであろう礼美ちゃんを確認しに行くことになった。
なんだろう、俺が人影を見たせいで大事になっていやしないだろうか。

典子さんが礼美ちゃんに聞きに行ったら、自分ではないといったらしい。
納得しなかった典子さんは更に強く問いただし、結果礼美ちゃんも反抗するように強く否定した。
そしたら呼応するように部屋中の家具が揺れ、壁が叩くような音がしたと思えば、背の高い本棚が典子さんに向かって倒れてきたという。
俺は香奈さんを部屋に送った後ベースに戻ったので、すっかり後から聞いた話である。
「おまえ、まーた失敗しやがったな」
「わーるかったわね!どーっせアタシは無能ですよ!」
滝川さんがお昼に祈祷した松崎さんを責めてたけど、またってことはないだろ、前回はそもそも霊がいなかったっていう結果が出てるんだし。
「麻衣、人影はどんな様子だった?体格や年齢は?」
「ウーン……こう、両手をついて、覗き込んでる風。体格は礼美ちゃんくらいに見えたけど、あのふわふわ頭のシルエットじゃなかったと思うんだよな」
礼美ちゃんは緩くウェーブのかかった癖毛なので影だけ見ても特徴的だろう。
さっきも典子さんに抱き着いて泣いてたところを見るに、あのヘアスタイルじゃなかったはず。
渋谷さんは俺の考えを聞いて、考え込むようにしていた。
「嬢ちゃんの証言はともかくとして、さっきのポルターガイストはあの子の叫びに応えるみたいだったな」
「礼美ちゃんがポルターガイストの犯人だと?」
「暗示実験じゃ犯人は人間じゃないんだっけな。結果にどんくらい自信があるよ?」
「百パーセント」
まあ俺が見たか見てないか、正しいかどうかは今そんなに重要ではないだろう。
滝川さんはさっき典子さんを襲ったポルターガイストの出方が気がかりみたいで、渋谷さんと暗示実験の結果について討論している。
俺は手持無沙汰にリンさんの手元や、カメラが送ってくる映像を眺めた。
「───、」
ふとリンさんの呼吸や動きに変化が出て、そっちに注視する。
「温度が下がり始めました」
なんだと、とサーモグラフィーカメラから送られてくる映像を探す。渋谷さんもリンさんの言葉に反応して、滝川さんとのやり取りを中断してこっちに来た。
「礼美ちゃんの部屋だ……これは、すごいな」
「氷点下……」
「なんだって?」
食い入るように見ている渋谷さんにつられて、温度の数字を見るとゼロを下回った。
滝川さんも俺の言葉に反応して覗き込む。
「ぜったいに人間の仕業じゃない」
渋谷さんの言葉に、背筋が凍る。
俺、あの部屋で昼間、のんきにお歌を歌ってたんですが?



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今更ゾッとしている主人公。
Oct.2022

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