I am.


No, I'm not. 24


松崎さんと原さんがなにやら口げんかしながら一度ベースに戻ってきた。
なんだかんだ、この二人の組み合わせが一番喧嘩が多いというのを今更ながら思い出してきた。
「どうなってんのよもう!」
「えーなに……」
「真砂子は霊は居ないって言うし、一応除霊して見たけど何の手ごたえもないわ、数も多いわ、あ~時間の無駄!」
「いないと言ってますのに、手ごたえがないのは当たり前でございましょ……疲れたからって当たり散らかさないでくださいまし」
「真砂子が見えないだけかもしれないじゃない」
うっわー……。
俺は机にしがみつきほんの少し身体をかがませる。
そんなことしたって口げんかの音量は下がらないけれど……。
渋谷さんが戻ってきたらやり込めてくれるかな。このさい滝川さんが戻ってきて、三人で言い合ってくれたらなんだかんだ和む……か?ジョンは可哀想だから戻ってこないでほしい。
「おつかれさま……お茶でも飲む?」
「そうさせていただきますわ」
「インスタント~?」
苦肉の策で、気を逸らそうとお茶を提案すると二人は渋々とパイプ椅子に座った。
松崎さんはインスタントに納得いってない感じだけど、原さんが「飲まなければよろしいでしょ」と言えば「飲むわよ!」と強く言い張った。う、うるせー。

「ところで二人って渋谷さんに気があんの?」
「───!!」
「ッッ!!」
お茶を飲んでほっと一息ついたところで、気になってたことを聞いてみる。
柄じゃないけど女の子だけになったら、そういうトークしてもいいだろう。
「な、な、なんですの!?急に……!」
「どーしてあたしがボウヤに気があるって話になるわけ!?真砂子ならともかく」
「!!」
原さんは顔を真っ赤にして言葉を失い、松崎さんも顔が赤いけれどこれは怒りからくるものかな?
「だって~なんか下の名前がどうのって」
「あたしは別に頼んでないわよ……!」
「松崎さんは既にお断りされてますでしょ」
「あんなの冗談に決まってるでしょ?」
おっと、思いのほか泥仕合になったな……?振る話題を間違えたに一票。
それにしても俺の知らない間に松崎さんは渋谷さんに振られていたのか……カワイソー。
「……あんたこそどうなのよ。一番あのボウヤと一緒にいるのはあんたでしょ?」
「ぇえ?」
「麻衣さんだけ下の名前で呼ばれていますしね」
お茶を噴き出さないまでも、俺はちょっと変な声が出た。
確かに俺も下の名前で呼ばれてるけど、ジョンもそうだしなあ。
「みんなだって麻衣って呼ぶじゃん」
「だからそれが、あのボウヤが呼んでるからつられて呼んでるんじゃないのよ」
「えー?そもそも一番に下の名前呼び出したのはジョンだけど」
二人はそうなの?と首を傾げる。
たしか、ジョンがいつだったか俺の下の名前を聞いてきて、呼びづらそうだと判断したので麻衣で良いって言ったことをきっかけに、二人して呼び始めたんだと説明する。
「逆に渋谷さんが一番に下の名前で呼び始めたのもジョンだし」
「まあジョンは……見るからに呼びやすいし」
「麻衣も見るからに呼びやすいんだろい」
フ……これは説得力あるな……。
俺はコップを掲げてドヤ顔をした、のだが、なんか納得されてない。
「───あん?なんだよここ、女子会会場?」
そもそも振る話題を間違えたのでどうでもよかったけど、話の途中に滝川さんが戻ってきたので会話がぴたりと止む。滝川さんの後ろにはジョンもいて、にこにこと笑っていた。

「麻衣と一旦ここ変わるから、女子会ついでに昼飯行ってこいさ」
「おし、何食べる~?」
滝川さんの提案にガタガタとみんなで席を立つ。
「あまり量が多くないものがいいですわね」
「安っぽいものはやーよ」
うーん、食の好みが合わなそう……と、後ろを向くと、滝川さんとジョンが憐憫の眼差しを向けてきた。
でもお腹は減ってるので、彼女らの帰りを待って、わざわざ男共とお昼に行くのもなあ……と諦めた。
量多くて安いご飯、食べたかったな。


午後になれば相談者もすっかり不安を出し切ったようで、ほぼ待機するだけの時間が続く。
静かに座って資料をまとめる程度しかすることがないので、お昼ご飯をいっぱい食べてたらここで居眠りとかしてしまって危うかったかもしれない、と過去の自分を褒めた。
授業も終わる時間、校舎からはすっかり賑わいが消えたと思いきや、部活動の声出しやブラスバンドの練習が聞こえてきて、なんだか哀愁が漂ってくる。
自分の学校で味わうのとはまた違うのどかさを、こっそり味わい指先でぱたぱたと音色を探す。
こういう時こそ、ギターがあればよかったんだけど……と夜までお預けのギターを恋しく思う。

頭の中で歌でも歌いだしかねなかった暇な時間は、突如開けられたドアの音にぷつりと切られた。
ノックもなく開けられたので、びくりと身体が跳ねて、指先が固まる。
「び……っくりしたぁ~……」
ドアの向こうに立ってたのは滝川さんの追っかけ、高橋さんだ。
ショートヘアーで活発そうな印象を受ける女の子。初対面から感じよく挨拶してくれてたのでよく覚えている。
「ごめんごめん、何してるかな~って思ってさ」
一応滝川さんを呼んだ人でもあるので、調査の進行が気になってるみたいだ。
俺の身体が飛び跳ねたのを見て申し訳なく思ってるのか、にこにこ笑いながら近づいてくる。
「うわ、これ全部学校の事件?すご……」
「そー」
手元の紙の束には、聞き取りした事件が書かれているので、その量は一目瞭然だ。
呆れたような顔をした高橋さんはぶつぶつと呟く。
「まったくとうなってんのかねー、この学校は。祟りに幽霊に超能力でしょ?あとUFOがくれば……」
「……超能力って?」
はて、話を聞き逃しただろうか。
俺は超能力関係の話を聞いた覚えがなくて聞き返す。
事件の件数が多いので忘れてるだけかもしれないが、さすがに自分で書き記したものが多いので完全にすっとぼけてない限りは、初耳だ。
「あれ、誰からも聞いてない?」
「聞いてないと思う」
「まあ、相談にくる人はいないかー」
「超能力って、言うからにはそれをした人がいるんでないの?」
「ん~その、一番の当事者はほぼ教室に居ない、みたいな?」
「保健室登校ってやつ?」
俺は一時期旧校舎登校だったからわかるー、とか言いそうになったけど事情が違いすぎるので言わない。
「うーんと、授業だけは出てるんだろうけど……誰とも話さないっぽいし、時間があるときは生物準備室に籠ってるみたい」
「へえ。なんで教室にはいないわけ?」
俺は更に聞き出すために、高橋さんに椅子を勧める。
渋谷さんを呼ぼうかなあと思ったけど、つい聞く姿勢をとってしまったので後で報告することにしようと諦めてまっさらな調書の取り出し、メモの準備をした。

超能力者の生徒は三年生の笠井千秋さん。生物部で、授業以外のフィールドは生物準備室。
きっかけとなったのは夏休み終わりごろにまでさかのぼる。
彼女がある日スプーンを曲げたことから、校内であっという間に有名人になって、生徒たちの間でスプーン曲げが流行り出す。
その流行りを楽しむ人と、バカバカしいと一蹴する人とで派閥が出来上がり、学校の雰囲気が悪くなった。結果、学校側がありえない行動に出た。
笠井さんを全校生徒の集まる朝礼で前に立たせて、教員が渡した鍵を曲げて見せろと糾弾した。
「───で、笠井さんは曲げちゃったわけ。見事にクニャッっとね」
「すげー」
思わず感嘆してしまった。
高橋さんは俺の反応に苦笑しつつも、続きを話し出す。
全校生徒の前で見事やって見せたにしても、結局つるし上げた先生は嘘に決まっているといって笠井さんを非難した。そらもう、結局やって見せても信じないんなら、何をいっても相いれないと思っただろう。笠井さんはブチ切れたそう。


「───呪い殺してやる。ってさ」
俺は丁度戻ってきた渋谷さんとリンさんに、さっき高橋さんから聞いたんだけどと報告をあげる。
録音をしたのとメモをとったのとで聞いてもらってから、渋谷さんの顔をうかがうと、表情からはわからないけど頭の中で情報を整理しているみたいな沈黙があった。こういう時は邪魔しないどく。
リンさんは聞いてるんだか聞いてないんだかわからないけど、もともと調査の進め方を仕切る人でも提案する人でもないからそういう立ち位置なんだろう。
「笠井さんは生物準備室にいるかもってさ」
「行ってみよう───麻衣、来い」
俺すか……?と指で自分をさしてリンさんと交互に見たけれど、リンさんは行く気ないとばかりに動かない。
「早く」
「はぁい」
ドアのところで渋谷さんに急かされて、ふるふるとリンさんを見てみたけど、さっきから微動だにしない。
そっか、この人とあんなのが唐突に会いに来たら怖いな……と、ようやく納得して渋谷さんを追いかけて小走りに向かった。



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原作沿いを何回も書いてると違うシーンを書きたくなるので、今回は女子会いれてみました。
Oct.2022

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