I am.


No, I'm not. 70


森林の中を歩きながら、改めてナルにサイコメトリーしたときのことを聞いた。
イギリスにいたとき、ユージンの服を借りるんで触ったのがきっかけらしい。
殺されたこと、それから遺体を棄てられたこと、湖やこのあたりの風景は何となくわかっていたけど、所在地まではわからなかった。だから日本に来て、遺体を探すついでに事務所を置いたんだ。
よく旅行に出かけていたのはその為で、どうりで帰ってきたら不機嫌だったわけだ。
「大変だったね」
「一年半もかかった」
うんざりした顔を隠しもしない。
俺はもう一度お疲れ、と労った。
「でもこれで、やっと帰れるってわけだ」
「まあそうだな」
「あーあ、滝川さん達が悲しむぞ」
「どうだか」
悲しむっていったら違うかもしれないけど、絶対なんかあるって。
俺はコイツがいかに言葉たらずかを身をもって経験しているので断言してもいい。
間には入りたくないナー……。
「そういや、俺のこと呼びに来た?なんだった?夜には一旦東京かえっからさ」
「ああ、両親がに挨拶したいと」
「ハ?」
思わず身体を捩ってナルの顔を見る。
「電話をかけたのに出ないから、どうせどこかで歌ってるんだろうと思っていたら案の定だ」
何を自分の勘が当たったなって、やり切った顔をしてるんですか?コイツは。
「じゃ、なに、お前の親待たせて俺は一曲歌って、ゆっくりおしゃべりしながらバンガローに戻ってるってこと?」
「そう」
「早く言えよ、急ぐぞ」
「別にそんなに急がなくてもいい」
心なし歩く速度をはやめると、渋谷さんも隣についてきた。
言い合いしてたせいでテンポも合ってるのかもしれない。
「でも呼びに来たじゃん」
「探してたわけじゃない。会ったのはたまたまだ」
一曲待ってたくせにか?
ざっざっと雑草を踏み分けて歩く音をBGMにしながらバンガローの見えるあたりまでやってくると、ひょろりと長い人影が見えた。
この場にそぐわないないスーツ姿も相まって、すぐに判別できる、リンさんの姿。あとは、その横に森さんと、夫婦らしき男女の姿。
「森さんとご両親?」
「そう」
思わず隣の腕を引っ張り確認しちゃった。夫婦は明らかに西洋風の見た目で、ナルとは全く似ていなかった。
一瞬動揺したのも束の間、すぐに養子かなにかかな、と納得する。
「谷山さん、お久しぶりね」
「どーもー。すみませんね、電話もらってたみたいで」
森さんが、にこやかに俺たちを迎え入れる。
赤毛とブロンドの夫婦は俺たちの親というよりは、いくらか上の年代だ。
二人とも、ナルとやってきた俺のことをじっと見ていたので会釈する。
「いいのよ。歌ってたら気づかないって言ってたもの。紹介してもいいのよね?」
「ああ」
俺はナルにじとっと目を向けたが、涼しい顔で流される。
そんな俺たちをよそに、森さんは英語でご両親に向かって俺を紹介した。
なんとなく聞き取れたのはナルの部下だってことくらい。心の準備もないまま聞いてたので仕方がない。
「Nice to m───ん?」
とにかく挨拶しよう、と思った俺は女の人に抱きしめられて言葉を失う。
ハグは挨拶かもしれないが、俺にまでするかな。
「ジーン、見つけて、ありがと、ございます」
「Thank you so much」
片言の日本語のお母さんに続いて、お父さんも英語を話しながら俺を抱きしめた。
そうか、俺はユージンの身体を見つけたからこんなに感謝をされてるのか。
ようやく理解できて、お父さんの背に手を回して受け入れた。
その後、ゆっくり離れた身体をナルに向けて、軽く腕を開く。
「───ナルは?してくんないの」
「……、」
反射的にぴくりと身じろぎしたのは俺にちょっと前科があったせいだろう。
だから動かずに、数秒だけ待った。
駄目かな、期待はしてなかったけど、と思って手を降ろそうとしたその時、ナルは俺の手を掴んだ。
「ありがとう……
「んや……ウン」
それは、握手とはいえない何か。でも、手を伸ばしてくるその光景がすごく、印象的だった。



俺は一足先に東京に帰り、その後警察に呼び出されることはなかった。
翔くんや所属事務所にはちょっとだけ説明をして、相談と報告してくれと少し叱られてしまった。
その後警察から連絡が一度きたけど、それはSPRが俺のことをナル共々説明してくれたおかげで、罪に問われることはないだろうという報告だった。
いわゆる『超能力』というジャンルに日本は疎いけど、だからって全くゼロ知識の全否定というわけでないらしい。
ナルはともかく俺はSPRとは無関係なんじゃ、と思ったが以前ナルに受けさせられたサイ能力テストの結果があったことで、なんとか懐にねじ込んでくれたみたい。
きっと、ナルや、森さんとリンさんが助けてくれたんだろう。

そして夏休みが終わる直前、ユージンとナルのご両親はイギリスへと帰ることになった。
空港ではナルと一緒になって別れを惜しまれ、ゲートの向こうへ行く二人を見送った。
「お母さんが、いつかイギリスに来てね、だって」
「……」
タクシーを待っている間のロビーの椅子で、隣に座るナルにそう零せば、肩をすくめられた。
あれは社交辞令ってやつかなと思ったけど、ナルが否定しない当たり、そうじゃないんだろうな。
「うちに泊まれば良いって言ってた気がする、お父さんが。合ってる?」
片言で日本語をしゃべるお母さんに比べてお父さんは普通に英語なので、意味を理解するのが結構難しかった。でも俺たちの会話はそれなりに気にかけられていて、意思の疎通がままならなさそうだったら森さんもリンさんも助け舟を出してくれる。ちなみにナルは大して会話に入ってきてくれない。
「合っています」
リンさんが小さく頷いて答え合わせをしてくれたので、やっぱり聞き間違いじゃなかったと理解した。
俺としてはユージンのお墓に行きたいんだよな……だから、ナルの家に泊まるのは、願ってもないことだけど。
「ご両親も嬉しいんでしょうね、ナルに仲の良い友達がいて」
「友達じゃない」
森さんの微笑みに対し、ナルは全否定をかます。……お前、そんなんだから、俺を見て安心されるんだぞ。
ナルをよろしく、とも言われたけど、つまりそういうこと。
「あ───そういえば、三人はいつイギリス帰っちゃう?見送りしたいんだけど」
「週末には」
「わー、はや」
俺たちのやり取りを見てクスクス笑っていたリンさんに聞くと、その問いかけに対して驚かれた。いや俺はその早さにも驚いているけど。でも当たり前か、ユージンの葬儀とかもあるだろうし。
「私は日本に残るけど───ナル、話していなかったの?」
「言ってなかったか?」
「なにが?」
どうやら俺たちの間には何か食い違いが発生しているみたいで、三人の様子がおかしい。
森さんが残るというのも、初耳だし、理由がわからず首をかしげる。

「分室維持の申請が通った───あのオフィスは継続する」

ナルは涼しい顔して宣った。
どうやら以前から、日本特有の心霊現象に興味が湧いていたとかなんとか。
「ナルはしばらくイギリスに戻ることになるから、その間は私が所長代理になるの。よろしくね~」
森さんがその間俺の上司ってことになるが、結局ナルはまた日本に来て依頼をうけたりするのだそうだ。
なんだ……。───そう思ったら、思いのほか嬉しかった。



next.

ほんとうはナルにハグをされる話にしたかったけど、私の中のナルがどうしてもハグしてくれなかった。なんとか手だけ触ってもろた。
主人公は前回ナルにチューしたときの反応見てたので、ちゃんと待つ。距離を詰めないようにしてみた。
そのうえでナルにハグされたかったんだけど、手ごわい……(二回言う)
ユージンとはもちろん友達だけど、ナルとも友達を否定しない。
Apr.2023

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