I am.


Ray. 06

ジーンが日本にやってきた。母さんもリンも俺に、ジーンが近々日本に行くことになったと連絡を入れて来たし、ジーンもちゃんと日程を俺に伝えて来た。俺はすぐに仕事の休みをとり、ジーンの送り迎えは全てやった。東京から離れた所へ行くと言っても車で行けない距離じゃなかったし、車で目的地まで直接行けた方が楽だと言えばジーンは納得した。
久しぶりに会うジーンは前に会ったときよりも成長していて、青年っぽさが出て来た。それでもやっぱり子供っぽく見えるのは、俺が大人になったからかもしれない。
ジーンの用事が無事に終わって東京に帰って来た俺は、ほっとして大きなため息を吐く。
「疲れた?ごめん
「いや」
その様子を見てたジーンが申し訳無さそうに言うので、俺は慌てて取り繕う。自分から送るって言い出したのに疲れたなんて言うつもりはないし、今のは安堵のため息だ。
「ほっとしただけ」
「運転、長かったもんね」
そういうことじゃないけどまあいいや。
マンションの部屋に戻って、少しだけうとうとしようとベッドに寝転がった。ジーンは数日ほどで俺の部屋にすっかり慣れている。冷蔵庫から飲物をだしたり、本棚を物色したりと自由にしているから放っておこう。
……寝てる?」
どのくらいうとうとしていたのか、ジーンが俺に声をかけるから意識が覚醒し始める。
「なに?」
「あ、起きなくてもいいよ。すぐそこのコンビニに行こうと思って」
目を擦る俺の腕を、ジーンはやんわりと止めた。
今の所予知夢は見ていないし、もうジーンが死ぬとは思えなかったけれど不安だ。
俺は確かに予言が出来るのかもしれないけど、あまり信用していない。見られない未来もあるし。
死を回避した後にその人物に危険が及んだことは過去なかったけど、今のジーンはどうしても心許なかった。
「一人で行くのは駄目」
「……僕はもう小さい子供じゃないけど」
袖を掴んで引き止めると、ジーンは拗ねた声をだした。
ぼんやりとあけた視界には案の定拗ねた顔したジーンが映る。
「そうじゃなくて……あー」
「なに?」
なんていったらいいんだ?子供扱いしようと思えばしてもいいし、日本は危ないんだぞとか言ってもいいかもしれないけど。
眉を顰めて言い淀むと、ジーンが俺の眉間を指で撫でた。おいやめろ。
「……イギリスに帰るまでは、俺の目の届くとこにいて」
死ぬかもなんて言えないし、死なせる気もない。そして俺は今の所起きる気もないので、ベッドをぽんぽんと叩いて隣に来るように促した。
するとジーンは素直に寝転がるので笑ってしまう。
「なんで笑うの」
「いや、まだまだ可愛いなと」
「……ねえ、なにか見たの?」
ジーンはゆっくり瞬きをしてから話を戻した。
「ないしょ」
「教えてよ」
ごろっと仰向けになると、ジーンが横からしがみついて来た。
頭をゆるゆる撫でてやれば、もぞもぞ胸の上に頭を乗せる。
人の胸で息吐くなよあったけえな。
「僕、危ないの?」
ジーンがくぐもった声で言う。……まあわかっちゃうよね。
もしかしたら死ぬかもってこともわかっちゃったかもしれない。誤摩化すの下手くそでごめん。
もう一度頭を撫でて返事を誤摩化す。
「……コンビニいく?」
「もういいや」
「あそう」

次の日にジーンを空港まで連れてって、また日本こいやとさりげなくお誘いをかけて見送った。
……で、まさか本当に春から日本支部設立するとは思わなかったよね。
ナルが所長ってことになってるけど、ナルこっちくる理由あったのか?まあ俺としてはこっちきてくれて調査をしてくれた方が良いんだけど、そういう運命だったってことでいいのか?
ちなみに、やっぱりリンもいた。自分から志願したのか、偶然なのかは分からない。

春からはバイトの女の子をひとり雇ったらしく、ジーンが麻衣ちゃんの話をしてくれた。リンにも別口で話を聞いたけど、……そういえばリンは怪我をしたとかしてないとか。
と少し、似ている気がします」
麻衣ちゃんについてはリンもちょっと思い当たる節があったようで、二人で会った時にそう呟いた。あれれおかしいな、麻衣ちゃんはジーンによく似てると言われていたような。
「そう?でも、俺が見てた未来は本当は、あの子のものだったんだよね」
「とはいえ、タイプは違うようですが」
あのESPテストは俺とは真逆だったから、本質は似ていないんだろう。リン曰く、麻衣ちゃんは森下邸や湯浅高校ではやけに良い勘を発揮していたらしい。さすがにジーンが夢に出ている様子はないようだけど、トランスに入る方法ついてはジーンとナルが堂々と現実で教え込んでいるみたいだ。
「でもいいなあ、俺もぼーさん達に会いたいなあ」
若干しょげると、リンは気持ちを理解してくれていたようで気遣うように俺を見た。
「今度オフィスに行っちゃおうか」
「関係をどう説明するんです?」
「え〜……んん……」
確かに、兄だとは言えない。
顔は有名じゃないけど、素性を隠しているわけじゃないから困ったな。
・デイヴィスは前世の記憶のこともあり現在は日本に住んでいて、大学で教鞭をふるっている、なんてことも一部では知られている。ついでに俺とデイヴィス博士と霊媒のユージンが三兄弟ってことも。
「むりだな」
「正体が知られるまでの辛抱ですよ」
「うええん」
来年の夏になったら乗り込んでやろ。———と、思っていた矢先、俺に一通の手紙が届いた。俺が日本に居ることは結構みんな知ってるけど、大学にまで手紙を送ってくるのは珍しい。俺は学者でもないし、霊媒師でも霊能者でもないから、依頼をすること自体がまず間違ってて、それでもお願いをしてくる人は大抵俺の論文を書いた博士とか、名前だけおかせてもらってる研究所の方に行くはず。あきらかに日本じゃないから、直接日本に送ろうとして大学を調べられたりすることもままあるので、これが初めてって訳じゃないけど。

依頼人の苗字に覚えがあったので、すぐに封を開けた。
本当だったら内容も見ずに返してるんだけど、『大橋』という苗字と、この時期ということですぐに過去の事件に思い当たった。
俺の予感は見事に当たり、元総理大臣からの依頼だった。予言者……って自分で言うのもあれだけど、そう言う人に調査を依頼するのってどうかと思う。でもそういう系の人を集め回ってるなら、俺にも依頼するか。あいつ日本におるし丁度ええやろ、みたいな?まあ専門外の人からみたら、こういう人は全部一緒に見えなくもないか。
数日後、俺は依頼主の事務所に連絡を入れて大橋さんと会う約束をした。良い感じの物腰柔らかなおじさんで、長野のお屋敷で準備をしているのにわざわざ東京に戻って来てくれた。
他の調査団体は呼ぶなと言いたい所だけど、俺のお願いが優先されるかどうかは分からず、できれば呼ばない方が良いよ〜程度には忠告しておく。

俺も一人で行きたくはないので、被害に遭わなそうな年齢の者を数名つれて行った。彼らは壁を壊す業者であって、俺に霊能者の知り合いは居ない。ジーンとリン以外は。
大橋さんには危険性を一応言い聞かせてあるので、到着したら広間に行くこと無く自由にさせてもらい、壁を壊すことにした。
お客さんのお出迎えが必要なので大橋さんの付き添いは無く、俺はなるべく業者のおじさんと一緒に居る。昼間でも行方不明になるんだっけ?よくわかんないけど。んあ〜こわい〜。
「先生、穴あきましたよ」
「あ、どうも。すいませんけど奥も……」
「はい」
一人と一緒に中に入り、焼却炉を見つけた俺はぱかっと開ける。
やっぱり死体があった。
眉をしかめる俺と、一緒に覗き込んだおじさんは苦々しい声を漏らした。なんかすみませんね。
「もどりましょう、報告しないと」
元々遺体探しということにはなってるので、おじさんは黙って俺に付き添って外に出てくれた。俺の一存では警察を呼べないので、広間の方へ向かう。おじさん達には扉の前で待っていてもらって、俺はこんこんとノックをして中に入った。
大橋さんを始めとする使用人、遠い記憶の中にある霊能者、そして弟やかつての同業者たちが俺の登場に目を向けていた。
あ〜ナルが睨んでる〜。
ジーンちょっと吃驚してるし、リンも若干顔に出てる。他人のふりしろ!
「どうでしたか?」
「ありました」
「!……───すみません、皆様少々お待ちください」
大橋さんが血相変えて駆け寄って来たので、俺はとりあえず遺体の所に案内することにした。
「警察は呼びますか?」
「いえ、それはまだ……先生に確認してからじゃないと」
「まあ報告しないと駄目ですよね。でももっと奥には沢山ありますよ」
「……」
足早に歩きながら、大橋さんは息を飲んでこっちを見た。
「ここに居るのは幽霊なんてふわふわしたものじゃないです」
「それは、どういう……?」
「吸血鬼、といえば分かりやすいかもしれませんね。若い人間の血を求めているんです、この家の中で」
それを祓う手立てはないし、先代の言う通り朽ちるに任せるか、また若者が勝手に入り込まないように解体、もしくは炎による浄化をおすすめした。昔一度説明したことだからそれなりに覚えててよかった。
知らない筈の情報も予言者ってことにしとくと信憑性あがるよなあ。


next.

デイヴィス弟やった時にちらっと、主人公だけちゃんとデイヴィスって名乗っても良いな〜って言ってたのはこっちで消化します。
Mar 2016

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