I am.


Ray. 07

元総理大臣からの依頼を受けて、長野にある洋館にやってきた。
沢山の霊能者たちが集められていたけれど、その中にはデイヴィス博士が来ている。あたしでも知ってる人———なんて、ただぼーさんやジョンがよく話題にするからなんだけど。
そんな博士は目元を和らげて控えめに笑った。
依頼主の代理人である大橋さんは、全員の名前をメモを見ることなく紹介して、最後に少しだけ言葉を濁す。
「もうお一方ご到着されているのですが、すぐに予言をなされたので調べて頂いております」
ここにきてすぐに予言をしたときいて、あたしはぎょっとする。
じゃあその人、すっごく優秀なんだなあ。
ナル曰く、本物じゃないのも混じってるみたいな事言ってたから、やっぱりよくわかんないけど。
大橋さんが調査する上でのルールを説明している最中、広間のドアが控えめなノックとともに開けられる。そこに居たのは、ジョンやデイヴィス博士のような西洋人風の男性で、ぼーさんくらいの年齢の人。
「どうでしたか?」
「ありました」
「!……———すみません、皆様少々お待ちください」
大橋さんと何事か会話をして、すぐに二人とも出て行ってしまいあたしたちはほったらかしにされてしまった。どういうことなんだろ。
「なにかあったんですやろか」
「不穏な空気ね」
ジョンと綾子がひそひそと会話をしているのを聞いて、あたしも同意する。
ぼーさんは未だにデイヴィス博士を食い入るように見ているので会話には入って来なかった。

「みなさま、お待たせして大変申し訳ございません」
少しして、大橋さんとさっきの男の人は一緒に戻って来た。何人か作業着姿の業者さんまで連れていて、その人達は壁際で立っている。
「おい、一体なにがあったんだ」
「調査は終了し、解決の手段はお伝えしたのでみなさん撤収していただいて結構です」
男の人がさらっと言うと、井村さんや南さんががたっと立ち上がる。
ええ?あたしたち今来たばっかりだよ!?
「この男はなんなんだ!?先に来て調査を勝手に始めて手柄を横取りか?」
たしかに井村さんの言い分は分かる、けど、先に来てたっていっても今日来たって大橋さん言ってたもんね。
「ああ……ご紹介いたします、英国超心理学研究所よりおこしの・デイヴィス様です」
二回目のデイヴィスという名前に一同驚く。たしかオリヴァー・デイヴィス博士にはお兄さんが二人居て、一人は真性の霊媒といわれるユージン、もう一人は予言者であるって、前ジョンとぼーさんが話してるのを聞いてた。
は日本人だったと言う前世の記憶を持っていて、教わってないのに日本語まで出来るって聞いてあたしびっくりしたもん。
でも、どう考えても、あの人がオリヴァー・デイヴィス博士の兄には見えない。
「なっ、何を言っているんです!?・デイヴィスといったらオリヴァー・デイヴィス博士の兄!そんなにお若い筈がありません」
立ち上がって憤慨した南さんを、怪訝そうに見たさん。
大橋さんがデイヴィス博士を掌でさして紹介すると、まじまじとその顔を眺める。
「俺の弟は、俺より年下のはずなんだけどなあ」
おどけてみせたけれど、さんの方が偽物だなんて井村さんに言われてしまう。まあ確かに疑うなら若い方って気もするけれど。
今まで爽やかに笑っていたさんは、するりと表情を変え、声を落とす。
「それはさておき───ぼくはこの屋敷に来る前からとある場所に遺体があると予知していました。今確認した所、二名の遺体が発見されています」
しん、と当たりが静まり返る。
大橋さんをちらりとさんが見ると、同意するように頷いた。
「二月に行方不明になっていた二人でしょう。場所は、壁で密封された部屋の中。空間を捩じ曲げて人を攫い殺す化物と同じ建物の中で過ごし、退治したいと言うのなら……止めませんけど」
彼は小さく笑って首を傾げた。あたしはぞっとしながらジョンの服の裾を掴む。だって、遺体があったのは本当なんでしょ?つまり、さんの予言はあたるってこと、言ってることは本当ってこと。
井村さんが真っ先に立って帰ると言い出し、広間を出て行ってしまう。あたしたちも帰った方が良いんじゃないかなあ。
こつこつと綺麗な革靴で歩くさんは、デイヴィス博士と南さんの間に立って二人の肩に手をおいた。
「いつか罰が当たりますよ、こんなことしてると」

結局あたしたちもさっさと撤収することになった。
「残念だったわね、デイヴィス博士が偽物で」
「……言うな……」
綾子がぼーさんの肩をぽんと叩く。そう簡単に会える人じゃないんだからそんなに落ち込むこと無いのに。
「あ、でも、さんはやっぱり本物ってこと?」
「最初から壁を壊す業者まで連れてたのよ?本物よぉ」
「たしかにな。でも、はあまり予言をしないって言ってたんだがな」
「どうして?」
あたしはぼーさんの言葉に首を傾げる。
「情報を得すぎるって話だ。あの人は前世の記憶の所為で、人格が混同しそうになったとまで言われてる」
「え!」
「本人曰く特に不都合もなく、周りから見てもおかしな所はないらしいが……、意識せず日本語を理解するようになっちまったんだから危ないだろ」
「た、たしかにそうだね」
駐車場に向かうと、前を歩いていた人の後ろ姿が目に入る。赤毛頭なんて一人しかいないわけで、安原さんがあっと声を上げた。
ぼーさんはデイヴィス博士のファンで、別にさんのファンではないけど、お兄さんってことでちょっと足早に駆け寄って行って、握手を求めていた。綾子もジョンも続いて行くので、あたしと安原さんもちょっとしたミーハー根性で近寄ってみる。
「お会いできて光栄です」
「こちらこそ」
さんは、ぼーさんたちに対して目尻をくしゃっとさせて笑う。
おまけにあたしや安原さんにまで手を出して来てくれた。こ、この人やっさしーい!
握られた手を反対の手で包んで余韻に浸っていると、ナルの厳しい声が呼ぶ。一緒に来たあたしたちではなく、あたしたちの目の前に居たその人を。

「あぁ久しぶり」
さっきの邪気の無い笑みとは違った、柔らかく大人っぽく見えるような表情をしたさん。
渋谷兄弟とリンさんは普通なら寄って来ないで車に乗るだろうに、知り合いみたいで近寄ってくる。
こんな大物と知り合いなの?ナルたちって。
「なんでここにいる」
「どうして教えてくれなかったの?」
「……、落ち着けツインズ」
詰め寄られたさんは苦笑しながら手をあげた。
「ナルちゃんたち、知り合いなのか?」
「それがなにか?」
ナルってばそっけない。相変わらずちゃんと説明してくれないよねえ。
「俺達はお父さんがおんなじ、大学の先生」
ところが代わりに答えてくれたのはさん本人。
へえ、ナル達のお父さんって大学の先生なんだあ。
リンさんとも親しそうに久しぶりだねとか、一人できたのかって話してるから三人して顔見知りみたい。
その後双子の頭を慣れた感じでぽんぽん撫でたさんは、明日は講義があるのでと説明してから車に乗って去って行った。
そういえばあの人は日本の大学で働いてるってぼーさん言ってたっけ。

東京に戻って来た数日後、事務所には森さんとさんが訪ねて来た。
ちょうど三人とも食事に出ていてあたしだけお留守番だったんだけど、どうやら森さんが帰るらしいから一緒にご飯でもってことだったらしい。どこに帰るのか聞きたかったけれど教えてくれなくて、それでも二人は気の良い人たちであたしをご飯に誘ってくれた。
「あ、おかえりなさーい」
誘ってもらったのは嬉しいけど事務所をほっぽりだして出て行く訳には行かないので、ナル達が帰ってくるのを待った。一番にのびやかな声で挨拶をしたのは森さんで、三人とも森さんとさんの姿を見るなり少し目を見開いた。
「今日でこっちを離れるから、挨拶に来たのよ」
は?」
「俺は休みだから見送り。ついでにご飯行こうと思ったんだけど皆食べて来ちゃったんだよね」
この間あったときよりも少し柔らかい口調のさん。しょうがない、と言いたげな感じで肩をすくめたと思ったらくるっとこっちを見て小さく笑う。
「じゃ、麻衣ちゃん行こうか」
「あ、ハイ!」
「じゃあね〜」
手が伸びて来て、ぽんっと肩に手をおかれたので勢い良く頷いた。
三人はぽかんとしながらあたしと森さんとさんを見送り、食事を終えて去って行った二人と別れて一人で事務所に戻ったらなんとも言えない視線を受けた。


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主人公は公式の場ではぼくです。私とか自分とか言いそうだけどあえてのぼく!
麻衣ちゃんが出てくるのは後にも先にもこれだけ、と27クラブで言ってたけど、ごめんあれうそだった。
Mar 2016

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