I am.


Remember. I_01

小さい頃にお父さんが亡くなって、女手一つで育ててくれたお母さんは中学の時に身体を壊して帰らぬ人となった。とうとう一人きりになってしまった俺は中学の先生に卒業まで下宿させてもらって、高校からは国や学校の援助制度を受けて一人で暮らす事になった。
とはいえ、生活に余裕があるわけでもないのでアルバイトを探している。

「あれ?なんで俺……」

求人情報誌を見ながら登校していた俺は、校舎ではなく、旧校舎の前までやってきてようやく我に返る。
ぺらぺらした冊子を指に引っ掛けながら古びた校舎を見上げた。
ボケてたなあ、恥ずかしい……。
頭を掻きながらため息を吐いていると、校舎の中にカメラが見えた。想像する家庭用ハンディカムみたいなのではなく、でかい、いかにもプロ仕様というかんじ。まさかこんなところでテレビ撮影?とか思ってぎょっとする。
もちろん学校の許可を得ての設置だろうけど、よりによって旧校舎なんて。
先生からは旧校舎は取り壊しの予定がある上に古くて危険なので近づくのも駄目、入るのなんてもってのほかって聞いたんだけど。

───ぽん、と肩に手を置かれて身体が飛び上がる。 ドアの嵌めこみガラスにはり付いて目を凝らしていたので、ドアに頭をごちっとぶつけた。
「!!ぃてっ、……びっくりしたぁ」
間抜けな動きを誤摩化すように、驚いたことを主張して肩を叩いて来た人物を見る。
「そんなに驚くとは思わなかった、ごめん」
「い、イエ……覗いててごめんなさい」
肩をすくめて俺に軽く謝ったのは、とてつもない美貌の少年だった。
同じ男でありながらも見惚れた。感動で。
「君はここで何を?」
「あ、あはは……雑誌見ながら歩いてたらこっちまで来てて」
柔らかい口調のわりには表情は乏しくて、目の奥は冷めてる少年だと思った。
俺の苦しい言い訳を聞いて彼は視線をそっと下げる。俺は手に求人情報誌を持っているので、なるほどと頷かれた。……きまずい。
「も、もう戻りますんで」
「……そう?」
彼は俺との後ろにあるドアに手をかけて開けた。
生徒とかではなくて、この旧校舎に用があって来た人なんだろうな、制服じゃなくて全身黒ずくめの格好だし。
場所を入れ替わりながら振り向くと、校舎の中が視界に入って動きを止める。俺が奥を見ている事に気がついたのか少年もそっちを見た。下駄箱の所に、背の高い男性がいる。少年は納得したような声を上げたので多分関係者だろう。
男の人は俺のことなんて気にしてないようなそぶりでカメラの調子を確認している。

突如、ビュウゥ……、と強い風が吹いた。
それは俺の背中にぶつかりながら校舎の中に流れ込んでいく。同時に緩く指で挟んで持ってた冊子を奪った。

「す、すいません、すぐ出ますから〜」
ひえええ、怒られませんよーに!

風に煽られてべちべちぶつかり地面を滑って行った冊子を追いかけて、校舎に入る。冊子は男の人の傍を通り過ぎて行きやがって、俺は何も考えずに冊子の通った道を追いかけた。かろうじて男の人にはぶつからないように気を配ったが、下駄箱に軽くぶつかった。
……こんなことなら男の人の方にぶつかっておけばよかった。だって自分で立つという意志がある生き物だもん。
───下駄箱は古くて軽くてデカいから、俺がちょっとぶつかっただけなのに襲いかかって来たのだ。
結果、俺はなんとか逃げおおせたけど、男の人とカメラが下駄箱の下敷きになった。
一番罪深い奴じゃん……!

「きゅっきゅうきゅうしゃ!!!呼ぶ!?」

男の人と少年を交互にぶんぶん見ると、少年の方が冷静に手で制して男の人に様子を尋ねる。ちなみにこの時、男の人がリンさんと呼ばれていたので名前を知った。


リンさんは少年の肩につかまりながら立ち上ががったが、俺は手を振り払われた。えん……。
苦し紛れに一番近くの病院を教えて別れることになり、迎えた放課後───、教室に少年がわざわざやって来た。
俺はてっきり担任の先生に職員室に来いって言われるんだと思ってたのに。
初日の出よりもめでたそうなご尊顔がドアのところで教室を覗いていて、クラスメイトの女子が色めき立つ。

「あ、渋谷先輩!」

怒られるの覚悟で鞄を持って立ち上がったところ、隣の席の人が顔見知りっぽい感じで呼んだ。
それに応えるように少年もとい渋谷先輩とやらは教室に入って来た。
「え、なに、知り合い?」
「今日の放課後、怪談話しようって約束だったの」
他にも彼を知っているらしい女子が数人近寄って来て、戸惑う俺に得意気に答えてくれた。
か、怪談話ぃ~?なんかうさんくせ~。明らかに部外者っぽい人を誘うなんて……あ、顔か。

「怪談ですって!?」

そこで怪談なんてやっちゃだめ!と糾弾して来たのはクラスメイトの黒田さんだった。他の女の子達があ~来ちゃった~みたいな顔してるのでそこも察した。
どうやらいわゆる霊感少女という立ち位置みたいだけど、流行は今じゃないっぽい。
黒田さんは戦争中に死んだ人が旧校舎に居て、元は病院だったとかなんとかいう。対して渋谷さんは、ここは戦前からあった学校だから医学部でもあったのかな?って揚げ足を取る。
やっぱあの人猫被ってるな。きっと相当性格キツいよ。
そんな人の知り合いを傷つけた俺、どうなんの?
ていうか俺と渋谷さんの話が一向に進まんな……。
遠い目をしていた俺をよそに、怪談ついでに恋愛に発展したいな~と思っていたであろう女子は、放課後の怪談話をヤメにすると言い出した。そんなことがあっても俺のお呼び出しは無くならないんだろうな……。と思っていたら案の定再度名指しで呼ばれ、なんでよりによって男のお前が呼ばれてんの?みたいな視線を受けながら渋谷さんと廊下に出た。

「あのおにいさん……リンさん?はどうでしたか」
「捻挫。しばらくは安静にしなければならない」
骨折じゃなかった事はほっとしたけど、安静か~。
治療費請求されたらどうしようぅ。
「あのーえーと、俺は何をしたらいーんですかね」
「話が早いな」
初対面の柔らかい雰囲気はいつの間にか消し飛んでて、渋谷さん意地悪っぽく笑った。
「僕の仕事を手伝ってくれ。もちろん、バイト代も払う」
「よろこんでー!!」
あ、よかったー、仕事だった仕事だった。しかもバイト代くれるって。
俺が求人情報誌を持ってたことも知ってるから、多分断らせないためなんだろうな。とはいえそれは本当に助かる!
にぱっと笑い両手をあげた俺に、渋谷さんは顔をそらしてため息を吐いた。
なんだよ、不満かよ。やるって言ってんのに。


その後、旧校舎に向かいながら聞いた渋谷さんのご職業を思わず聞き返す。 「───なんて?」
「だから、ゴーストハント」
「ごおすとはんと……」
聞いた事あんな……と思ったけど、それってあれ?小説とかで見た事あるあの職業?
ゴーストハントって小説あったよな。渋谷さんとリンさんっていう組み合わせでさ……いや、あの小説こっちにないっぽいけど───。

ん?



next.


本編書いてる時に色々違うパターンとか考えてたのでここで消化できたらな〜って思います。違いとかを楽しんでいただけたら嬉しいです。しかし色々カットもしてるのでサクサク進みます。
大きな違いは女装じゃないこと。
それから麻衣ちゃんの力は無い事を前提としてやります。
Sep.2015
Aug.2023加筆修正

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