Remember. I_04
結局あの後バイトに誘われて、三ヶ月くらい調査を受けない日々を過ごして夏が来た。そしてとうとう俺の知っている事件、森下さんちの典子さんの依頼を受ける事になった。ちなみに行った先にはぼーさんと綾子ももいて、ナルはそっけなく挨拶をスルーして早々に視界から外していた。
「お、バイトくんもいんのか」
「くんでーす」
ピースしながらぼーさんに言うと、頭をぽんぽんされる。
「ゴーストハントだっけ?あいかわらずおおげさねえ、この機材のヤマ!」
「その機材のお陰で前回解決したのに」
「たまたまよ!あの時は霊じゃなかったもの。どーせ地霊かなんかの仕業よ」
つーんとした綾子は、今日も派手めなお洋服に爪にお化粧だった。
初日の夜、暗示実験を行い待機という事になっていた俺たちだったけど、結果が出るよりも前にコトは起こった。
礼美ちゃんの部屋の家具が全部斜めになってたうえに、違う部屋で今度は逆さまになっている。
ナルたち曰く『反発』ってやつで、ポルターガイストは勿論のこと、小火まで起きた。典子さんが窓の外に子供の影が見えたっていうから礼美ちゃんの部屋に行ったけど、礼美ちゃんは丁度寝ようとするところだったし、外には行ってないっていう。必死に詰め寄る典子さんに礼美ちゃんが怯えて気が昂って、またポルターガイストが起こった。こ、この家怖いよう……!
俺はなるべく礼美ちゃんの傍にいるように心がけてるんだけど、香奈さんと礼美ちゃんのやりとりめっちゃ怖かった。
幽霊レベルに怖かった。口出せないしね。
にこやかに語り掛ける香奈さんに対して、礼美ちゃんは頑なに口をきかない。とうとう香奈さんは「勝手にしなさい!」って怒鳴りつけて礼美ちゃんの部屋から出て行った。せっかく持ってきてくれたおやつのクッキー、かわいそう……。
「礼美ったら……おねえちゃんが食べちゃうから」
「だめ!どくがはいってるの!」
え~そんな昼ドラ展開??
俺は礼美ちゃんのたくましい妄言に若干引きつつ話を聞くと、どうやらミニーが唆しているようだ。ミニーってのは礼美ちゃんが大事に抱えている西洋人形で、お父さんからのもらい物だ。たしか、ここに霊が憑依していて、影で礼美ちゃんに色々と吹き込んでいるんだったか……。
かしてって言いたい所だけど、大事に大事にされてるうえに、危険だから俺は触りたくない。
そんなわけで、俺は二人と別れてクッキーを片付けるついでにつまみ食いをしながらベースに戻って、ナルに報告する事にした。
「礼美ちゃん曰く、ミニーがおしゃべりするみたいなんだよね」
「なに?」
「クッキーに毒が入ってるとか」
「…………今食べてるそのクッキー?」
「うまい。食べる?皆さんでどうぞってさ」
ナルに続いてぼーさんが話に入ってくる。俺はもぐもぐクッキーを食べながらこくんと頷いた。ぼーさんは引き気味な顔して「図太いやつ」と笑った。クッキーの匂いかいでみたけどバターと小麦粉の匂いだったので大丈夫だよ?
件のミニーは正攻法では借りられず、礼美ちゃんが昼寝してるときに典子さんから預かってきた。
隔離して、カメラで撮って観察してみたら、まんまと動きだす。
怖い怖い怖い怖い。あの焦点の合ってない目が怖い。しかも首がごろって転がってもげたんだが。
「うっ、うごいたぁっ!うごいたじゃん!首までとれた」
「うるさい」
ナルの背中に隠れてモニタ見ないようにしてると、鬱陶しそうにされた。
だって!ぼーさんミニーの確認にいっちゃって、俺は誰に縋り付けと言うの!?リンさん?無理だろ!ジョン呼ぼう、除霊のためっていうより、俺が縋り付くためにだ。
さて、礼美ちゃんとミニーを引きはなすにはどうしたらいいかって脳内で会議を開いたけど、ま~無理の一言で終わった。
せめて、怖いけど礼美ちゃんの為にもミニーと一緒にいる事にする。
でも礼美ちゃんの所に行こうとしたらミニーと礼美ちゃんが喋ってるのを聞いて、しかも他の子もいるって言うもんだから、俺はめそめそしながらベースに戻った。
無邪気な顔で「あれ、さっきまで居たのに」って言われて、ゾッとしないやついる?
「こわいよー!あの人形怖いよー!なんかついてるよー!他にもいるってー!」
泣き言でナルをなんとかその気にさせようと試み、ついでに乗ってくれたぼーさんにはミニーに憑いてると思しき霊を落としてもらう事になった。ところがどっこい、除霊の最中に騒ぎが起こり、典子さんが足首を霊に掴まれて脱臼してしまい中断された。
これって失敗……?
「くん?……おねえちゃんは?」
典子さんの叫び声で礼美ちゃんが起きて部屋からひょこっと出て来たので、俺はベッドに戻す為に抱き上げた。
「おねえちゃんね、ミニーにいじわるされたみたいだよ」
「え!?」
俺は素直にミニーの仕業だって言う事にした。途中でナルが部屋に入って来たけど、俺は礼美ちゃんを膝の上に乗せてベッドに座ったまま話を続ける。
「ミ、ミニーがおねえちゃんに……?」
「ミニーはそんなこと、しない?」
あえて問いかけると、礼美ちゃんはぐっと押し黙った。揺れてるってことは、やっぱりミニーより典子さんのが大事なんだろう。
「礼美ちゃん、お父さん好き?」
「うん」
お母さんは?お姉ちゃんは?って聞いて行くと心優しい素直な礼美ちゃんは泣きそうになりながら頷き続けた。香奈さんとも、懐っこい礼美ちゃんはちゃんと仲良くやってたんだろうなあ、その頃の二人を見たいよ俺は。
「じゃあ、大好きな家族にいじわるするミニーは?」
「ミニー……は……」
「くんが礼美ちゃんにこんな悲しい顔させるコ、やっつけてあげる」
「……ぅえええん」
礼美ちゃんの背中をぽんぽんすると、俺の胸に顔を埋めてちょっと泣いて、ミニーのことを教えてくれた。ナルはそのまま黙ってそこで聞いとくよーに。
next.
幼女と少年の組み合わせ好きです。
Sep.2015
Aug.2023加筆修正