I am.


Remember. I_06

秋───。
「どーなっとんじゃこの学校はーーーっっっ!!!」
ぼーさんの頼みと、校長直々の頼みがあって、SPRは湯浅高校にやってきた。
だけどあまりにも生徒の悩みが多すぎて、ぼーさんは早くも初日からげっそりしている。ドンマイ!

「同時期に同じ場所でこれだけの数の事件……これが全て事実だとしたら絶対に原因があるはずだ」
ナルはそう言って、次の日からフルメンバーを呼び寄せてことにあたった。
ことっていうのはつまり除霊なんだけど悪霊に遭遇はしてないので難航中。
俺はベースで待機してるが、ぼーさんのおっかけのタカが遊びに来てくれたので、ちょっと仕事を中断しておしゃべりする。情報収集でもあるもんね!
そこで笠井さんの名前を出したので俺はピンときてナルを呼んで話を聞く事にした。ふっ、大仕事をしたぜ。

今回の渦中の人、笠井さんは生物準備室に居るっていう情報を聞いて、ナルと二人で見に行ってみた。
だが散々学校や生徒と揉めたわけで、彼女は警戒する猫のようだった。一方は産砂先生は穏やかで優しい。
───この人が犯人なわけかあ……。俺は顔をもんにょりさせていた。

「……なにがききたいわけ?」
渋々話に応じてくれた笠井さんだけど、ナルがスプーンを曲げるまでは反抗的だった。
最終的に呪い殺すなんてできるわけないじゃんって笑い飛ばした笠井さんを見て、俺たちは生物準備室を後にする。

「随分大人しかったな」
「ん?」
廊下を歩きながらナルが俺に話しかけて来た。大人しかったって、あんた、俺が今までいつ騒いでたよ。
たしかに今日は「助手の谷山です」しか言ってないけどさ。
「変な顔もしてた」
「え~」
やっぱり気づいてたのか。……変な顔って言うなよ。もんにょりしてたけどさ。
ぷふーっと息を吐いて前髪を浮かせてると、ナルが俺をじっと見ている事に気がついた。
「なに?」
「いや、それより、さっきのスプーン曲げだが、みんなには秘密にしてくれ」
「おー」
「とくにリンには」
「あー」
聞いてんのか?って顔でじっとり睨まれたけど、にぱっと笑ってオッケーポーズを作ったらふんと息を吐いて肩を下げた。


次の日皆が除霊に行ってる間に、笠井さんが遊びに来た。
ナルのPKを見たからすっかり警戒を解いてくれたみたいだ。禁を破ってやった甲斐があったねえナル……と今は居ないナルに手を合わせた。笠井さんには「なにやってんの?」って言われたけど。
「えーと、谷山さんだよね」
「あ、俺年下だから畏まらなくていいよう」
「じゃあ、谷山くんで」
男ってこともあってどうせ呼ばれないんだから名前は教えなかった。
クラスメイトも大抵谷山か谷山くんだから、下の名前呼ぶのってそういえばバイトの人ばっかりだ。ナルとかジョンが呼んでてみんなが真似しだしたんだよな。
結構貴重だなって思いながら、笠井さんの『恵先生』リスペクトトークを聞いて一応情報の足しにしておく。産砂先生は超心理学系に強い、っと。
逆に俺は情報を与えないように喋っていた。だって呪われるのやだし。

次の日も朝一番に笠井さんはやってきて、俺とお話していた。だんだん笠井さんがスパイに見えて来たけど、別にこの子が意図してるわけじゃないしなあ……。
笠井さんは被害者だと思うと優しくしたいし、気の良い子だと思うから普通に仲良くするのもありなんだけど。
「あのね、恵先生がさ、手伝える事があったらいってくれって。あたしも手伝うしなんでもいってよ」
「ほんと?ありがとう……あ、おかえりなさい」
ベースに戻って来たナルと後ろに続いてたリンさんに気づいて、そっちに視線をやる。
「……笠井さん?」
「じゃ、あたし教室帰るね」
「またね」
へらっと笑ってお見送りすると、笠井さんはナルとリンさんに会釈して出て行った。
「笠井さんはどうしてここに?」
「なにか手伝う事があったらって産砂先生が言ってたって。笠井さんも。すごいね、二人とも色々詳しみたいで」
特に産砂先生の方が詳しいって付け加えると、ナルは興味深そうに「へえ」と返事をした。声を出すのはちゃんと興味がある証拠で、あんまり興味が無い時は喋らせて無言で聞き流す。ちなみに興味無い以前に全然関係ないと判断したらうるさいって言われるので黙るのがおすすめ!
「笠井さんが呪いをかけてると思うか?」
「え、俺に聞くない」
人差し指同士をつんつん突いて返答を控える。
「直接話しているのはだろう」
「そういうの参考にするタイプだっけ?」
「ひとつの意見としてだ。大してあてにしてない」
このあてにしてないはプレッシャーを取り除いているつもりなんだとは思う。
ていうか、たとえ俺が何かを言ったとして、ナルがそれを無条件で信じるわけがない。
「笠井さんは呪いなんかしないよ、良い子だし。逆に、出来るもんなの?」
「ないだろうな、いくらPKでもこんな大人数をどうかしたりはできないだろう」
「そもそも呪いなのかなあ?だって、霊が出るんだろ?」
「霊が出没する呪いは───ある」
俺たちは霊に遭遇はしてないけど、霊と呪いを結びつけたまま考えていた。
ナルは神妙な顔で答え、リンさんも俺の後ろでざわつく。あれ、意図せず俺ったら、ピンポイントで当てにいってしまったか??


急遽、事態が変貌したような気がする。
ナルは犯人を、俺たちはヒトガタ捜索に内容が変更。ナルはとっても有能なんで、まあ任せときゃ大丈夫だろう。
俺もナルも呪われずに事が済むなら御の字だ。
そしてヒトガタは、えーとたしか、マンホールの中だったかな……って思いながら学校の外を歩いた。
ビニール袋と携帯よし、ってポケットを叩いて立ち入り禁止のフェンスの先へ意気揚々と入って行く。マンホールを見つけて近づいていくと、きちんとしまってはいなかった。蓋って案外重いし、関係者以外立ち入らない上にその関係者さえほとんど通らない場所だからとそのままにしているんだろう。ふふん。

で、まあ、油断しててね、呪われてないのに落っこちたよね。
あれって悪霊の仕業じゃなくて梯子が脆かったせいだったんだっけ……。下は瓦礫があったので、結構痛くて数分起きれなかった。
頭いて~くらくらする~って思いながら携帯のライトでヒトガタ探して、こんもりと袋に入れて、一部壊れてしまった梯子を必死こいて登った。お、俺、女の子じゃなくて……よかった、女の子は無理だろうな、これ。

「おぁ、なるぅー」
「───っ?」
顔を出すと丁度フェンスの向こうにナルが見えたので這い上がりながら声をかける。
フェンスを開けて近寄って来たナルは若干動揺した顔をしている。まさかこんなところから這い出てくるとは思うまい。
煤汚れているだろうし、すげー汗かいてて首の辺りがべったり気持ち悪い───……あれ?
「なにこれ、血?」
汗を拭ったはずの掌が真っ赤に染まってた。
汗じゃないよこれ。いや、汗も混じってると思うけど。
「まさか落ちたのか?」
「どーりで、くらくら……」
パーカーの袖でぐいぐい拭うと、頭の一部がズキズキと痛んだ。まあ頭っていうか首?襟足のところか。よかった、処置される時に髪の毛切られても大丈夫そうな場所かも。
「馬鹿、むやみに動くな」
フードを丸めて頭にあてて圧迫止血されて、ナルに抱かれた状態で待機。そのまま救急車を呼ばれて病院に行く事になった。付き添いはお医者さんのお嬢ちゃんである綾子ちゃん。やべえ、超心配されてる。
大丈夫大丈夫、ただの貧血だから。俺の最期の言葉が「血って……大切だな……」にはならないから。



俺が処置受けてる間にナルたちは事件を解決したらしい。一日入院ってことになった俺が退院するとき、笠井さんとタカがぼーさんの車で一緒に迎えに来てくれて、軽く話を聞いた。
そして後日、事件が終わったのと俺のちょっとしたお手柄と復帰を褒めてやるってんで、皆がSPRにきておやつを持ち寄って慰労会が開かれた。でもね、俺にお茶いれさせるのはどうかと思う。
途中、おやつのバウムクーヘンもぐもぐしてたらナルとリンさんがやってきて、俺に変なテストを受けさせたけど、極々普通の結果に終わったみたいだった。
「やけに勘が良いと思ったが、特に変な所はないな」
「なに?よかったのか?わるかったのか?ん?」
「全部当てるくらいやるかと思ったが」
「そんな異常者じゃねーやい!」
俺はヒトガタの場所を知ってただけで、麻衣ちゃんみたいにセンシティブってやつじゃない。ジーンには会わないし、それっぽい夢を見る事は無い。
やけに勘が良いのは全部前世の記憶のせい。まあ、前世の記憶があるだけで十分あれなんだけどな。
結局俺はただのくんってことで終わったのでよしとする。よしなのか?まあよしだろ。事件解決さえすりゃよしだろ。

「単に動物的なだけなのか……」
「……う~、わん!」
ナルがぽそっと言う。とても心外です!!
どっしーんってナルの隣に座って体当たりした。
俺の身体をぐい~と押し返しながらヤメロと言うナルは、嫌そうにしつつも何だか慣れた手つき。いよいよ俺のことを犬だと思い始めてしまったか……。
一方、そんなうふにジャレついていると、ぼーさんたちがあまりの距離感にぽかんっとしてしまっているので、そろそろ人間に戻ることにしよう。


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犬みが全開。
Sep.2015
Aug.2023加筆修正

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