I am.


Remember. I_09

オリヴァー・デイヴィスの偽物を連れてるのは南っていうおじさんだった。
他にも胡散臭そうな人いっぱいいたけど、南さんはもう偽物連れてる時点で胡散臭いわけで、なるべく付き合いたくはないなって思った。でも一応調査対象みたいなもんだから、多少接触したほうが良いのかなあ。いや、見てるだけでいいか?
荷物を運び入れている最中に依頼主の代理人の大橋さんがベースとして確保してくれた部屋の確認に来てくれたので、ナルに仕事を頼む振りをして話を聞いてもらっている。これは安原ゼミでやったトコだ。
後ろで所長がせっせと荷解きするわけには行かないので、俺はあえて仕事をせずにナルと大橋さんの話を聞いてた。
そして話を聞き終えた後にナルは全員ひとりでは出歩かないようにと言いつけて、特に俺って名指しした。……信用がないな?いや、俺が一番何も出来ないのは事実だ。


夜に五十嵐先生に誘われて行った降霊会は、偽物の博士と南さんというあんまりありがたくないメンツとだったけど、無事に霊は降りて来た。蝋燭が消え、ラップ音や変な声みたいなのが響き渡り、俺は内心恐怖のどん底だった。
それでも南さんと博士みたいに膝をつかなかったのは褒めて欲しい。まあ、硬直してたとも言うんだけども。
「なんかもー、背中触られた時はびっくりしたよー」
「背中?」
部屋に戻っていかに怖かったかをナルにこぼしていると、形の良い眉がぴくりとつり上がる。いや、うん、確かに俺の後ろには誰も居なかったから背中を触ったのは多分霊だろうけどさ。
ナルは無言でぺろっとTシャツを捲った。俺は思わず「ひょあ!?」というアホな声を上げる。
そんな俺の声に反応してリンさんがちらっとこっちを見たけど、俺とナルを見てそっと視線をそらした。
何か言ってくれてもよくない!?始めの頃より仲良くなった気がしてたんだけどな!!
「このあたりか?」
「うん、……くすぐったい」
触られたので微妙にぞわっとする。
ナルって手の温度低いんだよなあ。
「とくになんともなってないが」
「そう?」
確認し終えたナルはもう興味無さそうに寝る支度をしていた。
なんだったんだよ……。

その日の晩、降霊会でペンを握っていた鈴木さんが失踪した。気をつけてくださいねって昨日別れ際言ったけど、そんなのが効く訳も無かった。五十嵐先生は博士に捜索を頼めないかって聞きに行ったけど、失踪当時に身につけていたものじゃないと無理って理由で断られてしまった。意味わからん。

鈴木さんの捜索はしてみたけど、見つかる訳も無く、俺たちはまた測量の続きにとりかかった。
その途中で変な床下に続くドアをジョンが見つけ、白衣と昔のお札を見つけた。───あ、これ知ってる。
ナルに報告して見せても、ナルは漢字の知識と日本の常識があまりないので、俺はぼーさんと一緒にお札を覗き込んで文字が逆からだって指摘することにした。まあ、現役高校生だってこのくらい言えるよね。今は最高学府に進学した安原大先生が居ないので仕方が無い。


鈴木さんの次は厚木さん、それから福田さんが消えて、俺たちは事態を深刻にとらえつつあったが、何か良い情報が出る事は無かった。逆に現場に居ない方の森さんや安原さんからの情報だけで、ある程度のピースがそろって行く。
ちなみにジーンは最初に俺と会った日以外は姿をみせなくて、ぼーさんたちも、安原さんも知らないみたいだ。
それでもきっと、どこかで情報を集めてナルに報告しているんだろう。そのくらいとんとん拍子に調査は進んでいく。

───とんでもねえ奴が居るってことは皆理解した。ミーティングでは次の日に壁を壊してみるってことで話がまとまった。
その壁の向こうから死体が出たことで流れは急速に変わった。

大橋さんに死体があった事を報告すると、警察への通報は待ってくれるように頼まれ、俺たちは広間で待機した。
霊能者たちは、最初のうちは死体があった場所が博士の予言の通りだってはしゃいでいたけど、ナルが消えた三人もおそらく生きては居ないだろうって言ってからは、皆次々と帰り支度を始めた。
その流れで五十嵐先生が鈴木さんを諦めずに博士に縋ったおかげで、仮面は剥がれて俺たちのナイショの仕事も終了となり、撤退するということになった。

さて、こっからが俺的には本番なんだ。真砂子が攫われて、壁の中に彼女を探しに行く。だけどその時俺はきっと、何の情報も得られない。もちろんナルがサイコメトリー、ジーンが霊視をするだうってことで、問題はないわけだが……。
そもそも真砂子が攫われるのは、あれって麻衣ちゃんとナルの仲に嫉妬して一人で廊下に出て行って起こることなんだよな。
だけど真砂子は俺に嫉妬なんてするわけないし。さすがに一人きりにはならないだろう。
綾子だって真砂子から目を離すなんてしないはず……。
───俺、麻衣ちゃんじゃなくてよかった、と思う数少ないパターンである。
ただし、ナルは凄く警戒してるのか、荷造りの最中もなんか注意深く周りを見ているし、なぜか今日に限ってジーンが俺たちの部屋に忍び込んできてた。

、おまえは荷物をまとめ終わったら屋敷を出て諏訪市内で待機していろ」
「は?」

訳が分からず、俺は首を傾げた。ナルってば何言ってんの?

「僕はを迎えにきたんだ」
「なに?なに?」

全部の荷物と一緒に窓から出て行くことになった。
いや、せめて玄関から出ない?



next.

あえて事件は起こらないで終わります。
いやべつに、書くの面倒なんて理由じゃないです、、
Sep.2015
Aug.2023加筆修正

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