Remember. Ⅳ_01
無愛想で、わがままで、学者バカな弟───ナルが変わったのはいつからだっただろう。全く関係ない日本への依頼について来ると決めた時から?僕が事故に遭いかけてから?日本に行くと言い出してから?
とにかく、人を捜す、と言うナルはあきらかに前と違う。
探し人がいるくらいでは驚かないけれど、身の入り方が普通ではない。霊のためではないし、特定の人物ともいわない。ただ何年もかけて日本で探すと言うのだ。
───ナルにそう思わせる人物は誰だ?
興味がわいた僕を、ナルは連れて行ってくれなかった。
邪魔だとか言われたけど、理由が分からない。僕が邪魔をするわけがないじゃないか。むしろ協力する。ただ知られたくないだけなんだろうけど、僕は知りたい。
ようやくナルに会うチャンスがめぐってきた時に、リンから聞いたのはという少年の話。天涯孤独の身の上に同情したナルが雇ったようだけど、随分ナルと仲良くしているらしい。話を聞く限りでは、リンとも親しい。
ナルの探し人がなんじゃないかというのは、すぐに思い当たった。
以外にも、ナルには仲間が出来ていたけれど、その中でもが一番ナルに近い。
それに、リン曰く人を捜している様子はない。
自身は覚えがないと言っていたけれど、ある日を境にとナルの関係性は変わり始めた。
僕とリンはその瞬間を目にしたけれど、二人が話を出来るようになるまでは、その秘密を二人だけのものにした。
そしてその秘密が明かされたとき、ナルが時間を遡ったことを知る。
かつては僕が死んだこと、調査のこと、それからが死んだことも。
「とナルって、付き合ってるの?」
二人で話がしたくてをカフェに連れ出した。唐突な質問にはコーヒーを噴き出しそうになって堪える。
付き合ってるというのは言い過ぎかもしれない。ナルが人と付き合うってあんまり想像できないから。
でもならあり得るんじゃないかと思って、冗談半分で口にしてみたのだ。
「んな風に見える?俺達って」
「全然見えない」
汚れているわけではないけど、はそっと口元を隠して咳ばらいをした。
付き合ってないと言われれば納得してしまうほどだけど、それだと、ナルがあんな風ににだけ気を許すので、残念だと思う。
ところがよく話を聞いてみれば、二人には特別な時間が存在したようだ。
でも僕に向かって口にした、ナルへの真っ直ぐな好意を、伝えないままにしたのだ。
その葛藤とか、二人の関係性とかに僕は口を挟むことができない。
相手に幸せになって欲しいと、ただ願うまでの感情を、僕は知らないのだから。
でも、僕にはわかることがある。
ナルが幸せになるにはがいないと駄目だって。
残念ながら、そのことはにあまり響いてなかった。
事務所に帰ってからもナルが真っ先にお茶を言いつける所為でもある。
気分を害しているわけじゃないんだろうけど、はそもそも面倒見が良いので、ナルはそのままじゃダメだと思う。
もっと特別な扱いをしたり、好意を伝えたりをしないと……なんて思いながらナルが所長室に戻るのを見送った。
お茶を入れてきたは案の定、ナルが所長室に戻ったことに呆れた顔をしていた。
しばらくして、僕が備品の整理を終えたとき、リンが資料室から出てきて所長室のドアをノックする。だけど、部屋には入っていかず、何か話した後こちらにやってくる。
「谷山さんは」
「あ、そういえばさっきお茶をもって入っていったかも」
「どうりで」
こっちにの姿がないことを問うリンに答え、僕は何気なく時計を見る。
ナルのところにがお茶を持って行った時刻なんて正確には覚えていないけれど、お茶を届ける以外のことをしているからまだこっちに戻ってこないんだろう。
「部屋、入らなかったね」
「取り込み中のようで断られました」
リンはナルを待つのか、ソファに座る。
とナルは、二人にしかわからない話があるから、僕たちはそこに未だ足を踏み入れられない。彼らが未来を生きたという事を知ったとして、僕やリンはやっぱり違うからだ。
「仲間外れは寂しいな」
「……ジーン」
「冗談」
思わず口をついて出たのは本音だったのかもしれない。
でもそれを嘆くつもりはなくて、困ったような顔をするリンへ訂正を入れた。
next.
短い……。
他者から見た二人を書きたかった。
ナルと主人公からは見えない部分と、ナルと主人公の見えない部分。
Nov.2015
Aug.2023加筆修正