I am.


05.攻略対象:竜崎

双子の姉に三日連続で男を攻略させられている。本日で四日目となる。
ゲーム内の主人公と双子の姉が、俺と自分にそっくりだからと強要されている。異論は認められない。
「今日はね、竜崎先輩にいってみよー」
「え、この顔色悪い人?」
「そう、顔色悪い人ー」
流れるようにコントローラーを渡され、姉の指示通りにキャラクターを選んだ。

『あなたは、たしか……谷山くんですね』
目の前の謎の人物はセリフ枠でフルネームを口にした。音声では呼ばれないんだが。
ボサボサ頭や、目の下に濃く現れた隈が彼を不健康そうに見せている。ていうか実際不健康だろう。
『あ、生徒会長の……えっと、竜崎先輩』
『私の名前を知っているんですね、光栄です』
『こ、こちらこそ……?』
なんだこの人?と俺が思ったのと同じく、主人公もたじたじ。
桜の花びら舞い散る校舎裏で、初対面となった竜崎先輩は、木の上から落っこちてきた。
『あの、お怪我ありませんか、今落ちましたよね』
『下りたんです、怪我はしていません。あなたこそ、怪我はしていませんか、まあ私に驚いて腰を抜かしただけのようにお見受けしますが』
「うわあ……」
思わず呟いて隣の姉を見ると変な顔をしていた。
この人はフィクションに耐性がないので、たやすく腹を立てます。
ぎゃぴぎゃぴと隣で言い返してる、というか文句を言ってるところを見てると、つくづくゲームには向いてないやつだなあと思う。やめたろか。
「ミチルに誰が一番好きか報告しないといけないの!」
「じゃあ今まで攻略した人の中から選べば」
「え〜」
ぶうっと唇を尖らせた麻衣。
そしてミチル貴様か、ゲームを渡して来た友人は。


竜崎先輩は、学園でも有名なちょっと変な人で、宇宙人で、でもめちゃくちゃ頭が良いらしい。
なんでそんな人が生徒会長なんだろうね、変な人のことはよくわからないや……という世界観。
『こんにちは、今日は午後から雨が降りますけど傘は持って来ましたか?』
『え、持って来てません……天気予報見てこなかった』
話す内容も独特で、俺が実際現実にいたら対処するの大変だろうなあと思いながらゲーム内の主人公の返しを見た。まあ特別うまいこと言えてるわけでもないが、もはや竜崎先輩がめげない方なので会話は成立してないが続く。
『頑張って帰ってくださいね、風邪をひかないように』
俺と麻衣はゲームの設定同様の感想を抱いた。
「脈絡がない」
「変な人……」
そんな謎のコミュニケーションを度々はかってくる宇宙人生徒会長のルートでは、俺も生徒会に入っている。そこではもう一人の攻略対象である夜神先輩にも会える。
この人も竜崎先輩に負けず劣らずの秀才で、テニス部にも所属している爽やかな高校生って感じだ。後輩の主人公にも優しく話しかけてくれるし、竜崎先輩との会話でもよく助け舟を出したりツッコミをいれてくれる。彼のおかげで俺と麻衣の好感度はそっちに捧げられていた。
この人が生徒会長やればよかったのでは?と思うほどだ。
しかし竜崎先輩が生徒会長じゃないポジション?と考えるとなんか変な感じ。生徒会長じゃないなら生徒会にいられないだろっていうくらい変。いや生徒会にいることも変だが。
俺と麻衣がボソボソ話し合うのをよそに、季節は春から夏に向かって移ろいで行く。
体育祭のイベントではなぜか生徒会長と副会長が紅白組で騎馬戦でめちゃくちゃ争って、生徒会役員も巻き込まれ、同学年の松田が悲鳴をあげていた。かわいそ。
『竜崎先輩って意外と熱いタイプだったんですね』
『私はこう見えて負けず嫌いです』
主人公は竜崎先輩の手当てに駆り出されていた。
パイプ椅子に膝を立てて座って、傷口を出す先輩のスチルが現れる。
あれ、ちょっと拗ねた顔をしているような気が。
『……竜崎先輩が楽しそうで何よりです』
『楽しそうですか?』
『楽しくなかったですか?』
『いえ、楽しかったですよ』
主人公と竜崎先輩はまたなんだか独特なやり取りをした。
ちなみに体育祭は竜崎先輩の紅組が優勝し、夜神先輩と主人公の白組は負けた。
俺としてはどっちでも良いんだけど、大会後に竜崎先輩に『私の勝ちです』と宣言されてちょっと笑った。

ある日、生徒会の仕事としてプール掃除のための水抜き作業にあたった。掃除は体育委員の時にも手伝ったので、何回かに分けていろんな人が作業に当たってるんだろう。
その際水の抜けかけているプールで汚れを集めているところ、転びかけた主人公を支えようとした竜崎先輩もろともずっこけた。
木から下りた時に腰を抜かした主人公には手も貸さず余計なことを言って去っていったわりに、反射的とはいえ下敷きになってくれたことに少しだけ見直す。
『あなたのせいでびしょ濡れです……』
『す、すみません』
若干責められているがこれはもう仕方ないことだ。主人公の不注意が悪い。
『ひえぇ〜汚っ、大丈夫ですかぁ、会長たち』
松田は許さない。

竜崎先輩はプライベートが本当に謎だ。
休日などは先生でさえ映画館とか本屋とかでバッティングするのに、竜崎先輩が現れる場所はもっぱら学校なのである。夏休みなんてわざわざ学校へ行って生徒会の仕事を名目にしないと会えなかった。
ところがある時、街中に竜崎先輩がいるようでその場所を選択した。場所は繁華街で、ゲームセンターとか映画館とかが先にあり、他のキャラクターともよく出会う場所だ。
……え、休日遊んでるところ想像できないけど。
『あれは、竜崎先輩……?』
主人公は何も知らないで、竜崎先輩を見つけたように呟いた。
あったのに挨拶しないのもなあ、と追いかけたが見失い、かと思えば声が聞こえた気がして脇道に入ると、人気のない路地裏だった。
いかついおじさんたち二人くらいと何やら話をしているスチルが現れる。
内心大慌てにしていると、謎のおじさんの声が徐々に聞こえ始める。
『しかし───エル、……ですが、もしかしたら……かも───』
『(か、絡まれてる?知り合い?警察呼んだ方がいい?)』
主人公には会話の内容もよくわからないし、敵か味方かどうかも判断できず右往左往していたところ、後ろからぽんっと手を置かれてギャーと叫ぶ。
優しげな老紳士があらわれた。
『こんなところを覗き込んで、どうされましたか』
『ひゃい……ごめんなさい……』
『何か面白いものでも?』
『おもしろ……いや、えっと、どうしよ……助けてください!知り合いがなんか囲まれてるんです!』
混乱している主人公は支離滅裂だった。
『知り合いとは誰のことですか?』
『それは竜崎先輩───え、』
おじいさんと向き合って話をしようとしていたところ、竜崎先輩が割り込んで来て主人公はぽかんとしてしまう。
『ワタリ、ホテルへ戻る』
『かしこまりました』
ワタリと呼ばれた老紳士は、それ以降セリフ枠の名前の欄にワタリと表示されるようになる。
主人公はそのまま竜崎に連れられてホテルへ行くことになった。なんとも豪華なスイートルームで、キョドキョドおどおどとせざるを得ない。
そこで竜崎先輩は世界的に有名な探偵、Lであることを明かす。さっき話していたのは警察官で、Lは彼らに協力して情報収集をしていたのだそう。そしてその調査ターゲットというのが夜神先輩らしい。
彼のお父さんが警察官で、今警察官の内部にきな臭い動きがあり、身辺を調べるためにどうのこうの、と盛大な理由を語られた。
正直話なんて半分も聞こえてなかったというのに災難である。
とはいえ、主人公の立場は竜崎先輩にも夜神先輩にも近すぎるため、しっかり釘をさし監視しなければならない……といわれてしまえばもう仕方がない。Lの立場上、一般人に対して強制力は持たないが、秘密裏に調査が終わるまで閉じ込められたくないのならLの監視下に入ることを約束させられた。


ある日、放課後を生徒会で仕事をすることを選んだ主人公は、一人生徒会室で眠っている竜崎先輩をみつける。
俺はこの人椅子に膝を立てて座るのは癖なんだな、とスチルを見ながら思う。
いつもぎょろっとした目つきで隈の濃い顔を見ていた手前、すやすやと目を瞑っている顔は少しあどけない。でもどこか生気がなくて不安にさえ思う顔だ。
『疲れてるのかな、……仕事』
主人公は、ええい、触っちゃえ!という意気込みで頭を少しだけ撫でたが、案の定竜崎先輩は目を覚ました。
『寝首をかきに来たのかと思いました』
『そんなことしません……!失礼な!』
『───そうですね、ワタリにも言われました。お礼もしていませんでしたし』
『お礼って?ワタリさんに何を言われたんですか?』
あの秘密を知って以来初めてそのことに触れたな……と思いながら会話を進める。
『私が見知らぬ男たちに囲まれて、あなたがワタリに見つかった時、すぐに私を助けてもらえないかと頼もうとしたそうですね……危機感もなく、あまり褒められた行為ではありませんが、ありがとうございます』
『……あの、何の助けにもなっていないし、邪魔をしてしまった自覚はあるのでお礼なんて言わないでください』
『そうですね、結果としてはあなたの行動が利益になったことはありませんが』
「褒めてんの?けなしてんの?」
麻衣は頭がおっつかないで首を傾げてる。俺もね、ちょっと難しくてわかんないです。
『……私は利益など自分でいくらでも作れますし、大抵の修羅場は潜り抜けられますが、あなたが何の損得もなく私を助けようとしたことは、私の力では生み出すことのできないものです』
『ただ向こう見ずで馬鹿だったと、言っていいんですよ』
『いいえ、言いません。あなたが助けたいと思ってくれたことを、嬉しく思います』
『……ありがとうございます。先輩がそんなに喜んでくれたなら、よかったです』
でも、もう助けようと無茶をしないように、と釘を刺された。
竜崎先輩はコミュニケーション能力宇宙人なわりに、ちゃんと人のことを考えてくれるんだな。

そしてこのイベントを境に、竜崎先輩の存在が消えた。
冬のイベントがほぼまっさらで誰か違う人を選択するしかない。暇なのと探りいれてやろうってんで夜神先輩を入れたが、まあ王道のデートをしてくれてありがとうございますって感じだ。次はこの人にしようかね、なんて麻衣と話してる。
このまま終業式───三年生だから卒業式まで飛ぶのかな、と思っていたらなんと夜神先輩とのイベントが発生。えっうそうそ……。
『竜崎から伝言』
その言葉に、夜神先輩ルートではないことがわかって安堵する。
『え?』
『あいつ、君に何も言わずに学校に来なくなっただろ?だから、挨拶もできずにすみませんってさ』
『あ、そうなんですか』
夜神先輩は竜崎先輩と話をできる立場にいるということ?と主人公も首を傾げたが、それ以上話を聞くこともできずに終わった。
たしか最後の終業式兼卒業式の選択には竜崎先輩のいる場所も表示されてたはずだから、今回に限って会えないということはないだろう。

───案の定、最終日は竜崎先輩も学校に来ていた。
校舎裏を選択すると、下駄箱に「卒業式が終わったら校舎裏きてください(ハート)」というメッセージが入っていた……と主人公がモノローグで言ってる。呼び出し方が変人らしいな。

『来てくれたんですね』
『妙な手紙いれないでくださいよ……怖いな。卒業おめでとうございます』
思えば主人公、竜崎先輩に対して結構言うようになっているなあ、としみじみする。
『ありがとうございます。一応知っている人に報告をしたくて───私の調査は終了し、この学校にはもう用はなくなりました』
『そんなの、竜崎先輩がいなくなった日に察しましたよ。夜神先輩まで使って挨拶して来たじゃないですか。だからもう……会えないのかと思っていました』
『本当は会わないつもりでした。もはや私の正体を吹聴したとして特に支障もありませんし、誰も信じないでしょう』
『じゃあ、なんで今日、会いに来てくれたんですか?』
『会いたかったからではいけませんか?』
『それはこの先も会いたいと思ってくれますか?会いに来てくれるのを待つだけしかできませんか?助けになれるなんておこがましいけど、ずっと竜崎先輩のそばにいたいんです……』
『それなら、私のものになってくれますか?あなたの心も体もすべてが欲しい……。私は仕事柄秘密が多く、ひとつの所に長居はしません。それでもあなたという存在を私のひとつとしても良いのなら、あなたにだけは私を差し上げます』
『あげます、全部、もらってください……そして竜崎先輩が欲しいです』
告白のやり取りがだんだん静謐になっていく。ふわりと画面が白く光った。
二人は壁に背を向けて並んで座っていたらしい。竜崎先輩は主人公の顔を覗き込むようにいつも以上に背中を丸める。主人公はすがりつくように竜崎に寄り添い、背中を逸らした。
恐る恐る目を瞑り待つような主人公に対し、竜崎先輩は冷静に、それでいて主人公を観察するように、丁寧に唇を合わせている。

毎回のことだがうっかりしっかりキスシーンのスチルを眺めてから、画面を切り替えた。
この後、姉の顔は見ないようにしている。大抵余計なことを言うからだ。

「終始面倒な人だった気がするけど、よく落としたね?」
「……ハイ」
今回は単なる感想だったようでほっとした。でもいい加減自分でプレーしてくんねーかな……。
くん心の春休み日記より抜粋。



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竜崎先輩の情報量が多くて正直1話におさまらなくて頭抱えました。怒涛の1年間です。
というか1年間しばりにしたのがよくない(元も子もない)
Sep 2020

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