I am.


06.攻略対象:ライト

俺は学習した。最初から部屋にいなければいいのだ……と。
「いい加減にしろよぉ!!」
「いいじゃんいいじゃん!」
ところがリビングのソファにいたところを、姉にシャツをひっぱられている。背中がべろっと見えてるが男の子だから気にしないモン。
「ちょっ、テレビ聞こえない、うるさい」
「だってが!」
「だってねーちゃんがぁ!」
「あっそう言う時ばっかりお姉ちゃんっていうんだ、ずるいんだあ!」
ソファに座ってテレビを見てた母親にちょっと怒られて二人揃って反論をする。
「喧嘩するなら部屋に行きなさい」
首根っこ掴まれて廊下にぽいっとされてしまった……母は強しなのだ。
「お前が騒ぐから」
ぶうと膨れてお互い顔を見合わせる。
そしてドスドス部屋に戻ったところで、麻衣が後ろからついてきていることを思い出した。
訂正───。俺に学習機能はなかった。



春。うららかな日差しの中で心優しい夜神先輩に出会うところから始まった。
竜崎先輩との絡みでもよく出ていた甘いルックスの彼は、ちょっと仕事を手伝ってくれないかな?と控えめな様子で声をかけてきた。
その後も話しかければ心優しく応じてくれて、さすが竜崎先輩と同率学年1位をキープしてると噂されるだけあって聡明な人だった。
生徒会役員に入ると竜崎先輩との好感度が上がりそうだったから、この時の主人公はあたりさわりなく風紀委員。放課後に夜神先輩に声をかける時、かけられる時は委員会がどうのこうのと言われるけど、多分なんの委員でも問題なくできてるんだろうなという印象。
夏休みだって夜神先輩誘って友達と複数人で旅行なんてイベントこなして、先輩と川遊びをする爽やかなスチルも得た。
このまま、穏やかに恋を育んで、彼氏ができるのだと思っていた───矢先、主人公は夜神先輩とのイベントを発生させた。
『(夜神先輩、───他校の女子生徒に、告白されてる!?)』
『(あのルックスだし……テニス部の部長で、大会でも優勝してるしモテるか……)』
主人公は夜神先輩が、テニスコートから少し外れたところで女子生徒と密会している姿を見てしまった。
『───失礼します!』
女の子の声がして、主人公は身を隠す。どうやら女子生徒は去っていったみたいで、ほっと安堵の息をついたと思ったら、今度は深い深いため息が聞こえた。
『はあ……面倒だな……ったく』
『(こっちにくる……!)』
身を縮めていそうだが、まあ案の定主人公は夜神先輩にばったり出くわした。
『あれ、やあ。───覗いてた?』
『す、すみません、出くわしてしまって……動くに動けず』
夜神先輩はにっこり笑った。
『それ……手紙、捨てるんですか?』
『どうして?捨てないよ』
『ならなんで握りつぶしたんですか……?』
俺はそんなの目ざとく見つけて指摘するな!!と思ったが、言わなきゃ始まらない恋のメロディーだ。
『───こういうの多くて困ってるんだ、いちいち取っておいたら僕の部屋はラブレターまみれだ』
『そんな言い方……』
『本人に気づかれないところで処分してるんだし、いいだろう?別に』
『夜神先輩って、そういう人だったんですか?』
『そういう人って……はははっ、そもそも、お前が僕の何を知ってるんだ?たかだか顔見知りの後輩に、知ったかぶりされて、説教される謂われは無いな』
夜神先輩はそういって去って行き、ぽかんとした主人公だけが残された。
ちなみに隣の麻衣は顔を真っ青にしてショックを受けて俺の腕にしがみついてる。

優しい顔してとんだ腹黒冷徹男だった先輩は時折ナルシスト的な発言する以外は概ね普通に主人公と接した。
主人公はきっとショックだったろうに、めげずに好きみたいで、秋はテニス部の大会に出場する夜神先輩を応援に行く。今回もまた爽やかなやり取りをして別れるのかな……なんて俺は思っていたのだけど。
『応援ですか、熱心ですね』
話しかけてきたのは竜崎先輩だった。
『あれ?生徒会長……』
『こんにちは』
あの独特な会話が始まる。夜神くんは素晴らしいですよね、なんてどうにも白々しいことを言ってくる竜崎先輩だったけど、主人公は純粋にそうですね!と答えた。
『竜崎先輩も運動神経抜群ですよね、体育祭の時すごかったです』
『ええ、あの勝負は私の勝ちです』
二人がド派手にやりあってるのは遠き思い出である。
『───おい、何を今更、白組の僕たちに絡んでくるんだ?』
『……あ、夜神くん……優勝おめでとうございます』
ああこの人相変わらず胡散臭いなあ。と思いつつ会話をスキップしていく。
「この人煽ってんのか無意識で不器用なのかわかんないんだよねえ」
「同感……」
「え〜、のほうが詳しいでしょ?」
「いやプレーした時間はあなたと一緒だから」
麻衣は相変わらず竜崎先輩に謎みたいだが、俺だって全然謎だ。恋愛成就したけど本当に謎である。
まあ嫌いじゃないけど。
『竜崎と何話してた?』
『え?応援に来たんですかって聞かれて』
竜崎先輩が去ったあと、不機嫌そうな夜神先輩に聞かれる。
『応援?誰の?』
『夜神先輩に決まってるじゃないですか、他に知り合いいませんよ!』
『……僕の?……それは、……ありがとう』
ちょっと驚いたような、照れたような、満更でもない声だ。
まあ、腹黒でも喜ぶ感情はあるか。
『夜神先輩ってホント負けず嫌いですね』
『負けて喜ぶ奴なんていないだろ?』
『それはそうかもしれないけど……竜崎先輩相手だと特にそうだなって』
『……そうかもな。まあ、竜崎のことは純粋に嫌いなんだ』
ずばっと言い切った夜神先輩を、昨日までの俺は予想できただろうか。
まさかこんなはっきり人の事嫌いっていうと思わなくて、うっかり笑った。
『それっていわゆる、同族嫌悪ですか?』
『どこが同族だって?』
『だって二人ともなんか似てるんですもん、それに、完璧ってくらい頭いいし』
主人公の褒め方が小学生並みだがこれいかに。
『褒めてるのか?貶してるのか?』
『褒めてますよう』
『まあ、そういうことにしといてやるけど……生意気な後輩だな』
先輩はそう言いつつ、ふっと笑った。もしかしてこの人、一番かっこいいのでは?

たかだか顔見知りの後輩から生意気な後輩にステップップした……!ティティン♪って言いたいところだが、果たしてこれはステップアップなのか。よくわからないけど、まあこれだけ素で話してくれてたら、あちらも気を許してくれてるのだと思いたい。
クリスマスと正月も、普通に完璧なデートを繰り広げてくれたんだが、それこそ逆に物足りなさを感じるくらいだ。
冬休み明けの夜神先輩との会話では、先輩が大学に楽勝で合格したという話がしれっと出て来る。そういえば三年生だったし、竜崎先輩ルートでは全然進路の話をしないから忘れていた。
『まあ月くんが落ちるはずもありませんね、なにせ学年主席ですから』
『それは嫌味かな?同じく学年主席の竜崎……』
竜崎先輩と夜神先輩の相変わらずの会話を聞く。
『……とんでもない、私は月くんのことを尊敬できるお友達だと思っていますから』
『へえ?そんな友達に進路も教えてくれないなんて、つれないやつだな』
『え、竜崎先輩ってどこに進学するんですか?』
『進学しないと言い張るんだ、こいつ』
竜崎先輩がお友達発言するって心から信用できないなあ、という感想を抱きつつ会話を進める。
『じゃあ、寂しくなりますねえ、夜神先輩』
『は?……寂しいだって?』
『だってお二人は仲良しじゃないですか、いつも楽しそう』
主人公の口ぶりに、やっぱりそうだよね!と思って笑う。麻衣も横でぷっとふき出していた。
この二人仲悪そうに見えて楽しそうなんだよなあ。竜崎先輩は裏事情があるけれど、それでも多分夜神先輩と絡むのを楽しそうにしてる節があるし。
二人は声を揃えて仲良くなんかないと否定したが、それもまた仲が良い証拠だった。

さて、このままバレンタインが来てスイートなチョコレートを渡し、卒業式に告白すれば上手くいくんだろうか。俺だったらこれだけじゃ告白する気が起きないなあ、と思っていたところ、話していた夜神先輩が急に体調不良でぐったりしだした。
保健室に連れていくと保険医の白石先生がベッドを貸してくれて、寝て休んでから帰宅するようにと言いつける。そして職員会議に出るからと、主人公に任せて保健室を出て行った。
『夜神先輩、大丈夫ですか?』
『ああ……少し休んだら帰る』
『荷物持って来てもらえるように、先輩のクラスの人に声かけてきますね!』
『……行くな……』
主人公は言いながら保健室を出ようとしたが、止められた。
『もう少しだけ、そばにいてくれないか』
『っえ、わ……!』
驚きの声を上げたあと、保健室のベッドに腰掛ける先輩に引っ張られて乗っかってしまうスチルになった。
『えっと……心細いですか……?』
『そうだな、でも誰でもいいというわけじゃないから、他のやつをよこされても困るんだ』
もしかして先輩にとって……特別に!?とそわそわしたが、続けられた言葉は期待していたものとは違った。
『こんなに暖かい犬、他にいないだろ?』
『犬じゃありません!かわいい後輩に向かってなんですか!』
『はははっ、悪い悪い、犬だろうとかわいい後輩だろうと、僕がこんな風に気を抜けるのはお前だけだよ』
はちゃめちゃに甘い声が部屋に染み渡る。
麻衣はあまりに恥ずかしくて変な顔をしているし、俺だっていたたまれずにコントローラーを握ろうか放そうか悩んだほどだ。
早く会話次に行くか場面変わってくれ、と思いながら進めることにする。
『夜神先輩が一番気を抜けるのは、竜崎先輩だと思ってた』
『は?なんであいつが』
『だってお互いに競い合って楽しそうにしているから……。二人ともすごく頭が良くて、その、いろいろすごいじゃないですか……周りとはレベルが違うといいますか』
主人公は確かに頭よくないんだろうな、という口ぶりである。
でもちょっとわかる、竜崎先輩と夜神先輩は別格で、特別だと思った。
『僕は正直、人に負けるのは大嫌いだし、周りの人間は大概馬鹿だと思うさ。でもそれは竜崎にだって感じている』
『え、……意外です』
『僕を一番負かそうとしてくるからな』
なるほど、と会話を聞いて思う。
その点主人公は全く脅威じゃないということだ。だから安心できて、かわいいと思えたのかな。
『でもまあ、あんなに面白いやつはなかなかいないかもな、ある意味では楽しいかもしれない……』
今度はしみじみと、口説くような甘さはなかった。もちろん竜崎先輩のことについて話してたのに、甘く囁かれても困るが。
でも心から安堵したような、観念したような音だった。
今までずっと竜崎先輩に対して心の底では刺々しい部分があって、認めるようなことを口にしたことはなかった。おそらく夜神先輩はこの時初めて、竜崎先輩のことを心から褒めて、それを口にした。
犬でかわいい後輩で、気を抜けると言われた主人公ではあるけども、竜崎先輩に勝てるのか?とちょっとだけ不安になった。

そして来たる、卒業式。
夜神先輩に会いに行くと、たくさんの人に囲まれていた。腹黒で性格悪い部分いっぱいあるけど、人当たりいいし適度に砕けた調子も見せてくれる先輩は確かに人望があって、知り合いが多かった。
主人公は邪魔したらダメかなって諦めて、とぼとぼ教室に戻ろうと踵をかえす。
「えーなんでなんで!?失敗!?」
「わからん、帰るな帰るな!!」
人の体を操作できるはずもないのにコントローラーをうにうにと回す。
俺たちの苦労虚しく、主人公は人気のない廊下に佇んだ。
人気者でみんなの憧れの先輩だモン……しょうがないよネ……じゃないんだよ!
『こら、どうして僕から逃げたんだ』
『え……』
俺と麻衣は突如現れた夜神先輩に無言でガッツポーズをする。
よかった、追いかけて来てくれた。
『さっき目があっただろう、そっちに行こうとしたのに、勝手に場所を離れるなよ』
『みんな先輩に挨拶したかったみたいだし、邪魔しちゃいけないと思って……』
『おまえだって僕に挨拶しようと思って来たんだろう?なら大人しく待っていればよかったんだ。───さては、僕に構ってもらえなくて拗ねた?』
『……はい』
主人公はあっさり認めた。夜神先輩は意地悪げな顔で言ってたのに、返事を聞いて目を丸めた。
その後ひとしきり笑って、息をつく。
『───最初は、親しくもない後輩に僕の裏の顔を見られてムカついてたんだ……よく知って行くうちに生意気な後輩だと思うようになるし、かと思えばいつのまにか、こんなにかわいい後輩になって……』
『かわいい後輩ですか……』
『ああもう後輩じゃなくていいか……僕をこれほど振り回して、癒して、惚れさせたんだから───かわいい恋人、と言ってもいいよな?』
主人公が答える間も無く、画面が切り替わる。
壁を背にした主人公の体の横には夜神先輩の両腕があって、閉じ込められた状態でキスをしていた。

修行僧のような心境で耐え、そっと不自然にならない程度の速さで画面を切り替えた。
麻衣は今回のストーリーは特にわかりやすかったし、難易度も低かったみたいなので安心して見られたみたいだ。小さく拍手をする余裕すらある。

「ところでは竜崎先輩と夜神先輩ならどっちを選ぶの?」
「どっちも選ばないけど!?」

麻衣の妙な質問に力一杯否定した。俺に彼氏はいりません。
くん心の春休み日記より抜粋。



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iamのデスノ編ではライトはいい子ぶりっ子()してたので、乙女ゲーではこっちの性格推しで行こうと思ってました。
Sep 2020

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