I am.


07.攻略対象:財前

もう、ほぼ日課となりつつある。姉の恋愛シミュレーションゲームのコントローラーを任されるのは。
プレー中はなんだかんだストーリー読む感覚で楽しんではいたんだけど、攻略したキャラクターたちをいつのまにか俺の歴代彼氏に数えられるのが、精神的苦痛を伴っている。

今回の攻略キャラクターは1つ年下で隣人の財前光。関西弁の生意気系。
設定では主人公が小学校6年生の時に引っ越して来たみたいで、そこからの付き合いだった。
光は図書委員に入るので、俺も同じ委員会を選ぶことにする。
『あれ、光も図書委員だったんだ』
先輩も……?』
早速図書委員会の顔合わせイベントが発生し、光が登場した。もうデフォルトだからしょうがないにしても溢れ出るめんどくさそうな佇まい。
『顔見知りがいてよかったね、なんでも聞いて!』
『……去年何委員やったんスか?』
『え?保健委員!』
『何もアテにならんとちゃいます?』
『あははは……』
主人公はなんだか光に対しては年上ヅラをしたいらしい。朝の登校するときに出会ったイベントでも、主人公はクラスで友達できた?なんてことを聞いて素っ気なくかえされている。
一方光の方は、年上ということで一応敬語を使って入るけど、そこまで上下関係を気にしていないみたいでタメ口が混ざるし、返答も冷たいものが多い。もともとのキャラなのかもしれないけど。
『そもそも機械音痴やろ、先輩。貸し出し手続きとかできるんですか』
『機械音痴って言われるほどじゃないし、すぐ覚えるって』
『泣きついて来んどいてくださいね』
『もう、意地悪だなー』
どっちが年上?と言いたくなるけど、いや光のちょっかいかけ方は子供っぽさはあるし、主人公はわりとおおらかに接しているなあ。

委員会のない放課後は、光はアルバイトをしているらしくて寄り道でバイト先へ行くことが多いが、俺自身もアルバイト先の店を選択すると時々他のキャラクターが遊びに来てくれることもある。
『ご注文は?』
『白玉ぜんざい』
今回、光が主人公のバイト先であるカフェに来たときのこの会話は姉と共に笑った。財前がぜんざいって。
主人公は『好きだねえ』と納得した様子で応じていたので、大好物のようだ。もっかい笑った。
『今日、バイト何時までっすか』
『ん、20時だけど』
『ほんなら、待っとる』
『いいの?じゃあ飲み物奢ったげる、何がいい?』
主人公は特に何も思うことなく甘えている。
それなりに付き合いがあったことが感じられる親密度が最初からついてるようだ。
『さっき雨降ってきたんすけど、傘もってます?』
『あ、ほんとだ。傘……持ってないけど、店の借りられると思う』
『よし』
『え?まさか傘がないから待つ気?』
『せやかて雨止みそうにないんで』
つまり、親密度高いけど甘さはあんまりない……けど妙に仲が良いという感じだ。
逆に光のバイト先に行ったときも、レンタルビデオショップなんだが、仕事中に普通に捕まえて一緒に見るDVDを選んでいたし。恋が始まるっていうかもうカップルか男友達。

夏休みは隣の財前一家と家族ぐるみで旅行した。
途中、光が別行動をとるので、主人公はそこを追いかけていくことになった。光の両親からも、頼むわと言われてしまったので信頼があついなと思う。
『なんや、こっち来たん?』
『もーせっかく家族で来てるのに、なんで一緒に行かないわけ?』
『めんどい』
不仲というわけではなく、単に親と旅行するのに楽しさを感じないタイプとみた。
『別にオレに付き合って抜けて来んでもよかったんすけど、迷子になんかならんし』
『いいじゃん、光と旅行くるの楽しみにしてたんだし』
『はあ……』
『今更どっか行けっていわれても、こっちが迷子になりそうだから勘弁』
『ああ、せやな、絶対一人でどっか行かんでください』
ここで小さい頃の思い出話が流れた。
どうやら光が引っ越して来たてのころ、主人公の方が迷子になって、光に連れて帰って来てもらった思い出があったらしい。
『初めて会うたときから、アホなんやな思いました』
思い出話が終わると光はうっすら笑いながら言った。これは……初対面から呆れられてるぞ。
『あの時のことは正直、忘れてほしい』
『忘れませんわ』
そりゃ、引っ越して来たてで、自分もそんなに土地勘ないのに迷子を保護してしまったのだから、記憶にも残るだろう。しかもそれが隣人……。貼られたレッテルはなかなか外れそうにない。
どうりで主人公はしっかりものですって顔をしつつ光に甘えるし、光も弟みたいな顔してなんだかんだ手を引いてくれるわけだ。
どうにかこうにか、アホというレッテルを払拭したい主人公だったが、この度の旅行でまたしてもドジをしたらしく、階段でずっこけて足をくじいた。
光が仕方なさそうにため息をついて、お姫様抱っこをしてくれたスチルはゲットしたが、アホの汚名は濯ぐこと叶わず……。
「いやでも、好感度が上がったと思えば……?」
「ほっとけない感が男心をくすぐるってやつか」
麻衣の微妙な励ましを聞きつつ、俺も首をかしげる。
ちょっとドジな方がかわいーもんな。

夏休みが明けて学校が始まるとまた図書委員で顔をあわせたり、バイト先に行ったり、街であったりと、なるべく光に会うように仕向けた。
例に漏れず、光のバイト先に通い詰めていた主人公はおそらく好感度が達成したのか、通った回数で発生するイベントなのか、借りたDVDを部屋で一緒に見ることになった。今までも一緒に見ている口ぶりだったけど、プレーヤーが光の部屋で一緒にDVDを観るシチュエーションを目の当たりにするのは初めてのことである。
「男の子の部屋ってこんな感じなんだあ、へー、はじめてみた」
光の部屋は意外とものが多かった。散らかっているわけではないけど、多趣味なのかなって感じ。
「お前が今いる部屋誰のだよ」
「あたしの部屋」
麻衣はしみじみと光の部屋を観察している。俺のアンニュイな顔をちょっとでも見ろ。
『これ西先輩のオススメしてくれた映画やったか』
『うん。……おもんないね……』
しばらく観ていたみたいだけど、二人は同じ調子で話し出す。
西先輩とは光のバイト先にいる年上のお兄さんである。主人公もちょっとだけ面識がある。
『…………すー、……すー』
次第に静かになったと思えば、光の寝息が聞こえ始めた。
ソファに並んで座って、光が主人公の方に頭をこてんと乗せて眠るスチルが現れる。
主人公は心の中で、ずっと弟みたいに思ってたけど、大人っぽくなったな、格好良い顔をしてるよなあ……なんてドキドキしていた。

冬休みに入って空いた日に光を探して選択すると、家族が光以外全員留守にしていると聞かされた。
兄夫婦と甥っ子は奥さんの実家に泊まりに行っていて、お父さんお母さんは温泉旅行だとか。
光は行かないの、と聞くとめんどうくさいという回答がかえってきた。
そして冬休み中、2回目に光に会いに行くと熱を出して寝込んでいることが判明。相変わらず他の家族は留守のままという設定で、主人公が看病に乗り出した。
『おばさんにメールした?』
『いや、ただの風邪やし……寝といたら治るし』
『こういう時は無理しないでちゃんと言った方が良いんだって……!』
『うるさいだけやし』
反抗期の息子をたしなめるような会話が展開される。
『でも光、熱高いよ……今晩は泊まりこむから』
『そういうのいいんで、帰ってください』
『ダメ。泊まらせてくれないなら、おばさんに今すぐ電話するから』
『…………うつってもしらんけど』
『あはは。うつったら光が看病しにきて』
『……アホ』
そうして悪態をつきながらも光は甘んじて主人公の看病を受け入れた。
途中麻衣ちゃんも必要物資を持って来る。
『よっす、熱だって?大丈夫ー』
『ん……大げさなんすよ二人して』
『まあまあ、一人で熱出して寝てるなんて心細いじゃん?貸してあげるからさ、存分に甘えなさいよ』
お母さんが作ってくれたらしいおかゆと、麻衣ちゃんが買って来てくれたらしいスポーツドリンクを準備しつつ二人の話を聞いている。
『前もさーこういうことあったよね』
『オレ熱出しましたっけ』
『ううん、あの時はたしか、だったと思う。うちが両親そろって法事に行かなきゃいけなくて』
『ああ、光が看病しに来てくれたんだったよね!』
主人公も思い出したようで語り出す。
『……ああ思い出しましたわ、水も飲まれへんくらい熱だしとって』
『親もいないし麻衣しかいなくてすごく不安だったけど、光も来てくれてすっごく心強かったの覚えてるよ。だから今日は存分に甘えていいから』
『はいはい……そうさせてもらいます』
『じゃ、あたしは家に帰るけど、なんかあったら電話してね』
麻衣ちゃんは思い出話をしてあっさりと家に帰っていった。
『オレ……たしか先輩の看病した後熱うつった覚えありますけど』
『ええ!?ほんと?じゃあ気をつけなきゃ……』
『ホンマ知りませんからね、次熱出しても。家で大人しくしといてくださいね』
とかいって本当に主人公が熱出したらきっと気にして様子を見に来るんだろうな、とか。
昔主人公の看病に来た時も、光が主人公や麻衣ちゃんの様子に気づいてくれたんじゃないかな、とか。
単なる隣人とはいえ年の近い子供、幼馴染という片鱗が見え隠れして可愛らしいと思った。
麻衣ちゃんだって双子で一緒の年月付き合いはあるんだろうけど、主人公と光はもう少し特別な何かがあるように見える。それは本当にきっと、些細なものなんだろうけど。

冬休みが明けて、季節イベントを経て、放課後は図書委員だったりバイト先だったりと顔を合わせて、光とは順調に好感度を上げていた。
もう大きなイベントはないかな、と日常的な話をしているなかで、光はある日思い出したように風邪の話を持ち出した。
『そういえば結局、風邪はうつらんかったんすね』
『へへへ、丈夫だもんね』
得意げにVサインでもしていそうな口ぶりで主人公は返す。
『まあ、今回は、うつるようなことしてへんしな』
『え……?それって、どういう?』
『さあ、どういう意味でしょう』
意味深に微笑んで光は去っていった。
いや、看病する行為が"うつるようなこと"では?と思ったがゲームの世界観では違うとわかる。
麻衣はわかってるのかわかっていないのか、判断できない顔をしていたが俺は余計なことを聞かずに会話をスキップさせた。

そして最後の告白イベントに直面する。
光がいるところを選ぶと、どうやら非常階段のようだった。
『あ、見つけた。光!』
『なんすか?』
『もー、図書委員の最後の当番決めがあるって連絡あったでしょ』
『それはどうも……!』
『わあ!』
どさっと音がして、主人公が階段からずり落ちたことを理解した。
光がびっくりした顔をして、その後呆れた顔になる。
『鈍臭すぎません?相変わらず』
『いててて……滑った……』
『はあ。……足は?』
『大丈夫、捻ったりとかはしてない』
『残念、抱き上げたってもよかったんすけどね』
『その節はありがとうございます……もうあんなことには絶対ならないから!』
主人公は以前足をくじいて抱き上げられたことを恥ずかしく思って入るらしい。まあ当然だろう。
もうあんなことにならないって言ってるけど、いま軽くあんなことになりかけて入るのでとても信用できない決意だ。
『無駄な決意して力まんで、普通にしといてください。ちゃんとオレが見ててあげますんで』
『ほんと?呆れてない?……年上なのに全然頼りにならなくって……笑っちゃう』
『年上を理由に頼りにしようなんて思っとらんわ』
光の口ぶりにあうっと胸が痛む。
いや俺がそんなふうに言われてるわけじゃないけど。
先輩が一生懸命で、オレのことずっと見とって、ドジで間抜けで、アホなところおもろいんで……見てて飽きんわ。ずっとそうしてたらええんとちゃいます?』
『……だいすき……光』
『ほんま素直な人やな……知っとる、アホ』
この悪態がもはや最大限の愛情表現なのではないかと俺は思いつつ、二人のキスシーンを眺めた。
抱きしめ合うように腕を回して、ふんわり目を瞑って幸せそうに唇をくっつけている。

麻衣はよかったね、と長年両片思いの幼馴染を眺めていたような態度で、感無量とばかりに鼻をすすっていた。
明日以降、家の隣人に対して妙な勘違いを起こさなければいいのだが……。
くん心の春休み日記より抜粋。



next.>>(白石)

やっぱり後輩系財前くん書かなきゃ〜〜〜〜って思ったんだけど幼馴染感もつけたかったので雑な感じと敬語な感じ両方ブチいれました。好きって言ってくれない財前くんが好き。
財前くんが笑いながら言うアホ=sukiって方程式が私の中であるのだけど、初対面からアホだと思ってた=ずっとsukiかもしれないし、ファーストキスは小学生の時の財前くんが熱に浮かされた主人公にうちゅっとしてる世界線ありよりのありだと思うんです。……乙女ゲームで表現できない設定に度々頭を抱えた回でした……。
Sep 2020

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