I am.


08.攻略対象:白石

もう、攻略していないキャラクターの方が少なくなって来た。
なんと残り3人で、うち2人が1年生、1人は先生だ。わかりやすく先生からいっとこー、というよく分からない麻衣の選択に従い本日も俺は男を落とす……。

保険医の白石先生は白衣姿に、甘いマスクと爽やかな声、厳しすぎずだらけすぎない喋り方のいい感じの先生だった。まあ、どちらかというと優しそうかなっていう印象だろう。
主人公は初日、プリントを落っことした先生を手伝い、悪いなあと苦笑いを受けながら初コンタクトをとった。
その後、わかりやすく保健委員を選択し、放課後は真っ先に挨拶に行く。
『お、ちょうどええところに。このプリント職員室に持ってってくれんか?』
『おおきに。これご褒美な、他の生徒には内緒にしとくこと』
『いつもありがとうな、ほんま助かるわ。君がいてくれてよかった』
……などなど、仕事を頼まれて頷くと、ちょっとだけ甘やかしてくれる。

『外の掲示板にポスター貼るの手伝ってくれん?』
この日も話しかけに言ったら委員会の仕事だった。
他に保健委員いないの?ってくらい用事を頼まれるけどこれはゲームだ。そして相手は教師なので普通に会いに行って、委員会の仕事を手伝わされるのは当たり前のことであった。
いやでもこれはやっぱりゲームなので、もう少しプライベートな話題を出して仲を深めて言ってもいいのでは?
『先生ってご兄弟とかいるんですか?』
『んー?……ナイショ』
やっと主人公が日常会話を持ち出し、なんとなく自分の話をしてた流れで白石先生に尋ねたところ、堂々とはぐらかされてしまった。
『え、いいじゃないですか、それくらい教えてくれたって』
『ふっふっふっ……。家族のことは、もっと仲良うなったら、な?』
『え?それどういう意味ですか?』
ミステリアスな人かと思えば、思わせぶりな人だったのだろうか。
うーん、人当たりがいいけど、いまいち人格がつかめない。
『……じゃあ、年齢は』
『成人済み』
『でしょうね!……趣味は』
『ん〜……気持ちええこと』
『なんですそれ?』
主人公は呆れつつもいくつか質問をして行くが、どれもこれもはぐらかされた。
「麻衣、プロフィール調べて!」
「あい!」
俺も主人公同様、この先生なんだ?と思ったので横にいる助手に、取扱説明書を読ませた。
「え〜保健室の先生ってこと以外、何の情報もないよ。もっと詳しく攻略方法調べる?」
「それはそれで……つまんないよな」
「な」
二人で腕を組んで、上半身を同じ方向に傾げて戻す。
しかたなく、ゲームのプレーはこのまま続行した。

体育祭では救護テントに白石先生と待機しつつ、歓声をBGMに体育祭の風景を眺める。
『白石先生も対抗リレー出るんでしたっけ?』
『ああ、そうやねん。若いし元運動部でな……そん時だけは救護テントに他の先生来るから頼むな』
『元運動部だったんですか。ちなみに何部?』
『ん、テニス部』
『似合う〜』
『そうか?』
あれ、あっさり個人情報漏らした。と思いつつ、深くは気にならない。
『先生が走るのどこらへんだろう、救護テントの前走ってくれますか?』
『ゴール手前やからここは通らへんかもなあ』
『え〜!じゃあ頑張って声援だけ送ります』
『ありがとう、それやったら、オレんとこまで聞こえさしてな』
親しげなやり取りが続いた後、白石先生はそろそろ行かなくてはと席を立つ。
主人公は、やっぱり白石先生のスタンバイしているところとゴールは遠いなとひとりごちた。
白石先生はこの時ばかりは白衣などではなく運動着をきていたし、走る姿はスチルになるほど格好良かった。汗が光るってこういうことかな、なんてな。
救護テントの当番が終わった主人公は、さっそく白石先生のところに会いに行き声をかけた。結果は2位だったようで白石先生は苦笑する。
『せっかく応援してくてたのに、ええところ見せられんかったな』
『そんなことないです!白石先生すっごく足早くて格好良かったです!!あ、応援聞こえました?』
『ははっ、さすがに声までは聞こえへんけど、オレのこと見とったんは知ってる。ありがとうな』
白石先生はそう言って、主人公に微笑みかけた。

夏休み中は学校に行く機会がないので白石先生に会う機会はほとんどなかったが、イベントとして海で先生に出会った。
海水浴場でたまたま……どうやら逆ナンをされていて困っていた白石先生を見かけて目があった。と思えば、白石先生は主人公をダシにしてナンパ相手をあしらってしまう。
『いやあ、ちょうどええ所におってくれて助かった』
『……もう!』
連れと言われただけで喜べばいいのか嘆けばいいのかわからない様子の主人公は短く嘆息する。
『お礼にかき氷おごるからどうや?』
『わあい!いいんですか?』
快く返事すると、背景が海水浴場から海の家の店内らしきものに変わる。
『先生はどうしてここへ?一人ですか?』
『ああいや、姉と妹の付き添いで来とるけど……抜けて来た』
『お姉さんと妹さんがいるんですね』
仲良くなったからか、ぽろっと家族構成が出て来た。
いくつくらいなのかとか、どんな人達かなんてことはわからないが。
『お姉さんや妹さん達のところ、戻らなくて良いんですか?』
『んーええよ、君にかき氷食べさしてるほうが楽しいわ』
『そうですか?えへへ、役得!』
二人はしばらくそうしてかき氷を向かい合って食べていたが、やがて店を出る。
『どこにパラソルあるん?送ってくわ』
『すぐそこですよ。あ、それともしばらくボディーガードしましょうか?焼きそばで手を打ちましょう』
えっへんと胸を張っていそうな口ぶりだ。まあとても頼りないというかなんというか。
『それは……魅力的なお誘いやなあ。せやけど、独り占めしとるわけにもいかんし、ちゃんと帰したらなあかんな……』
波打ち際の背景に白石先生の優しい微笑みのスチルが現れた。
別れを惜しまれる程度には仲良くなれた気がする。

新学期も変わらず主人公は積極的に白石先生に話しかけ続ける。
自分の情報を秘匿するのはどうやらいわゆる初期イベント的なものだったようで、話しているうちに普通に白石先生の生活は伺えた。
一人暮らしをしているとか、カブトムシを飼っているとか、実家には猫もいるとか、父親が薬剤師だとか。
そしてその一人暮らしをする部屋に入ることになった主人公。
休日の街中で白石先生と遭遇してほのかな交流を続けていたところで、雨に降られて慌てて近いという彼の家に乗り込んだという経緯がある。
『面白いもんは何もないと思うけど……』
ふっと笑い声が溢れてくるようなセリフで、主人公はキョロキョロと部屋の中を見回してしまって居たことを自覚する。
『す、すみません。でもほら、白石先生の部屋というだけで面白いといいますか』
『はは、そうやな。先生の部屋に生徒が来ることはあらへんからな……一応いっとくけど、友達とかに話さんといてな』
『もちろんです!』
二人は軽口をたたき合いながら、タオルを借りたり着替えをさせてもらったりしている。
「彼シャツというやつか……」
「ゲームなので主人公が見えないな」
麻衣と俺は静かに話し合いながらプレーを続ける。
『雨、強くなってきましたね……』
主人公はそっと憂いを吐露する。
『ああ、こんな降るとは思わんかったな』
『……わ。え……!?』
雷が鳴ったと思えば、部屋が真っ暗になった。停電?と俺たちが話してる間にゲーム内でも停電だと言ってる。
『危ないから動かんといてな、……そこに、おる?』
『は……い……』
うすらぼんやりと、画面が色づく。
主人公はやっぱり大きなパーカーを着ていて、そして白石先生に緩く抱きしめられていた。
「だ、抱きしめる必要あるかなあ?」
「あるんじゃ……ない?」
「そっか……」
まあ……これは恋愛シミュレーションゲームだった。姉の同意にぎこちなく頷いた。
『白石……先生……?』
『悪い、位置確認したくて』
ゲームの二人もぎこちない会話をした。そしてすぐに電気がついたようで離れた。
『雨止まんな、この様子じゃまだまだ帰されへんわ……』
『あの、でも……あまり長居するのもご迷惑だと思うので、傘貸してもらえれば自力で帰りますから』
『別に迷惑とか考えんでええから……雨止むまではここにおってな』
『ありがとうございます』
抱き合ってしまった気まずさと、それをどうにかしたいけどどうにもならないっていう雰囲気を感じさせるやりとりを、インターホンの音がぶった切った。
なんかもうBGMまで変わる勢いの登場人物、白石先生の友人であるらしい謙也という男が唐突に訪問してきたのである。
『白石ィー降られてもうたんや!着替えさしてくれ!あと風呂も!』
『謙也……急に来るんはええとして、せめてびしょ濡れなら玄関で待つくらい……!』
『あ、スマン……どぇえ!?どちらさん!?』
部屋に入って来たらしい、金髪のお兄さんはびっくりした顔をした。部屋の中にいた主人公に気づいたらしい。
『学校の生徒、外で会うたんやけど、雨降られていま雨宿り中。謙也はええからもうそのまま風呂入り』
『ええ!?教え子!!??まあええか。ありがとう白石、ごめんなーキミも!』
嵐のような謙也さんは白石先生に浴室にぶち込まれたようだ。
『あのう、お暇した方が……?』
『いや、雨止むまではええから。アレ、中学からの同級生』
またひとつ白石先生のプライベートが明かされた。しかしその後謙也さんがお風呂に入ってるあいだに雨も止んだみたいで、特に交流も会話もなく帰宅することになっていた。

なんだ、せっかく親しくなるんだと思ったのに、としばらくプレーをしていると謙也さんには道端で偶然あった。君白石の教え子やろ!!と呼び止められたのが始まりだ。
『え、保健委員の子?そんだけ?元々知り合いやったり、去年も保健委員やったとか?』
『いえ、今年初めてですね。去年は保健室……掃除当番で行ってたこともありますけど』
『へえ、じゃ、そんなに親しいわけでもなかったんか。なおさらびっくりや。珍しいこともあるんやな』
『そうですか?確かに部屋に入ってしまったのはまあ滅多なことだと思うんですけど……たまたまだし、白石先生優しいからあのくらいのこと珍しくないのかと』
『んー、まあアイツは基本優しい奴やで?で、結構モテる!』
謙也さんはわかりやすく悔しそうな色をにじませて言った。
『だからこそホンマに自分のテリトリーに入れたりはせえへんねん』
『部屋に入られたの、迷惑だったかな……』
『いやいやアイツが入れたんやからええねん。せやから君ら親しいんやろなー……思うたんやけど』
『こっちは、親しいつもりでいますけど、先生にとったらそうじゃないと……思います』
『んん?そんなことあらへんと思うけどなあ……白石は大抵誰にでも優しいし大勢の人に寄ってこられるけど、そう言う輩は、白石自身を心底好きっちゅうわけではないから……ほら、寂しいやんか。せやから懐に入れる場合は区別するし、そしたら結構愛情深いんやで』
『そう、ですね……』
『そういうわけで、あんまり深入りせんし、させんようにしとんねん。生徒なんてなおさらや』
たしかに、こうやって聞いていると、白石先生は最初特にそうだった。優しそうでいて壁のあるような、誰と一緒でもそういう態度って感じの。
『オレが色々引っ掻き回してもアレやけど……ホドホドにな?』
『へ……ホドホドって……』
『ん、まあ、キミにいうことちゃうか。悪い忘れてくれ!』
謙也さんはその後走り去って行ってしまった。
あ、これ、多分主人公に言っても仕方ないからって先生の方に忠告し直すのかな、となんとなく察した。
案の定というかなんというか、主人公はモノローグでこれ以降白石先生と過ごす時間が格段に減った気がすると感じていた。
表面上はもちろんいつも通りだ。時にはプライベートな話も出て来るけど、その先イベントなどは全くと言っていいほど起こらない。何しろこの冷却期間がイベントみたいなもんだ。
好感度が上がっているのかも謎だし、今後の選択次第で完全に元の関係に戻ってしまうこともありえる。
やっとこさ冬休み明けに白石先生とのイベントが起きた。保健室の中にはさらに準備室があって、備品とかが収納されているのだが、どうにもドアの立て付けが悪いらしく、主人公は入ったっきり閉じ込められてしまったようだった。
しかし、しばらくして白石先生が保健室に戻って来たので出してもらえた。
白石先生には、当たり障りなく大変だったなと言われただけ。
『迷惑かけてすみません』
『……立て付けが悪いんは学校やオレのせいや』
『それだけじゃなくて……先生と仲良くしたいって思ってごめんなさい』
『───、謙也に言われたこと気にしとるんやったら、スマンな。オレの問題やから』
『白石先生だけのせいじゃないです。そりゃ、先生自身のことだろうけど、ちゃんと……こっち見てください』
『……、……』
『その上で、迷惑だったなら、って。ごめんなさい……もう帰ります』
主人公と白石先生のシリアスな決別に俺と麻衣は悲哀の気配を察知した。なきそう。
まって、これはハッピーエンドにはならないのでは……と手を伸ばしあって互いにぺちぺちしたが、結末は誰にもわからない。

結局1年間が終わりを迎え、最終日……一応白石先生のいる場所保健室を選択できるようではあったが、いつどんな結末になるかわかったもんじゃないので戦々恐々と保健室へ向かう。
担任から、保健委員の呼び出しがあったというていで来たので、主人公からしたら本当に最後の最後になんだろうという感じだ。
保健室には白石先生しかいなくて、主人公がくるといつもと変わりなく爽やかに出迎えられる。
どうやら保健委員の仕事があるというのは半分嘘だったみたいで、書類の整理を頼まれた。半分嘘というのは、保健委員全員を呼び出すわけじゃなくて、主人公だけを呼び出したから。
『なんで一人だけ呼んだんです!?』
『ん、そんな大勢いらんし、保健委員で思い浮かんだんが君やったから』
『喜べないですね』
『ふふ……スマンスマン、最後の仕事やし、多目にみといて』
『いや来年も保健委員になりますから』
『……そんなええ委員会やったかな』
『白石先生がええから、ですね』
『……はあー……』
白石先生からは盛大なため息がこぼれた。
『や、やっぱりこの気持ちは……迷惑でした?やめたほうがいいですか?ちゃんと言ってくださいね……これで、最後にしますから』
『最後にせんでええ……せやけど、もう離してやれん、それでもええか?』
『え……?』
『オレもちゃんと我慢したんやで、君は優しくていい子で、懐っこいやろ……段々可愛くて仕方なくなる。でもそれが君にとって普通のことかもしれんし、いずれ関わりなくなるんやったら、適度に距離とらなあかんってな』
『な、懐っこいかな……?』
『めちゃくちゃ懐っこい。謙也も言うてた、可愛い生徒を可愛がりたなるのもわかるけど、さすがに大人として分別つけなあかんってな』
そ、そんなことを……と俺はコントローラーを握りしめて思っていた。
なんか思ってたよりあっさりと好意を認めてくれるし、謙也さんもおおらかだったわけだ。
『来年は保健室、再来年からはオレの部屋に、会いに来てくれるか?』
『はい……っ』
いつのまにか主人公はベッドに押し倒されていた。
白石先生の白衣が体にかかる。片手をゆるく繋がれて唇も重なった。

俺はちょっと大人な感じのキスが映る画面を変え、ひたすら麻衣から顔を背ける。
「……は確かに懐っこいし、すぐ捕まりそう」
「おい」
「だから捕まったらめちゃくちゃに甘やかされる」
「ねえ!!」
だから俺じゃないし。俺じゃないって言い続けてもう何回目だ。
心の春休み日記に書くのも憚れた。



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白石先生はもっとヤンデレみを出したかったのですが私の頭が足りないのと、尺が足りないのとで断念しました。もうセクシー担当でいいか。(なげやり)
謙也さん出すのが一番楽しかった。
Sep 2020

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