Fingers crossed.


04

バイトを始めてからすぐ、女子高生達が頻繁に依頼に訪れた。ナルは湯浅高校の生徒である事を聞いて納得はしたけど、普通の子供の依頼を易々と受けるわけもなく、学校の先生か保護者の人と相談して持って来るようにとジーンに言わせて帰した。
ナル達は、前と同じ事件を調査し直しているらしい。自分の経験と一致させることと、データを物理的に所持するためという名目だとかなんとか。たしかに、自分が知ってるだけってのはナル的にデータとしては無価値だもんな。
ちなみに、解決策は知ってるから、被害を最小限に留めて、情報収集に徹することが多いんだとか。
麻衣ちゃんの学校での旧校舎の調査では、黒田さんが出る暇もなかったみたいだし、森下家は礼美ちゃんの安全を最優先にしつついくつかの霊障データを録ったと。たしかに、幽霊の動きがめっちゃ顕著に出る事件だったもんなあ。

で、今回は湯浅高校ってことだ。ぼーさんがチャラチャラした格好でやってくる事を覚えてたんだけど、俺は基本ジーンの部屋に籠って事務仕事してて、受付はジーンが先に出て行っちゃう事が多いから会えてない。ねえ、俺のお仕事だよ!それ!「は書類整理してて」って甘やかされて、結局俺は元居た席に座らざるを得ない。あの、せめてお茶くらいお客に出すよ?ぼーさんが来たなら尚更、俺まだ再会してないし。皆が覚えてるなら、やっぱ挨拶しておきたい。ここで仕事してる上で会わないでいるのも変だよね?というか、純粋に皆に会いたいなあ。
データをファイリングしながら、ぼーさんの声とか、新たに人が来た音とかを聞いた。多分校長先生だろうな。

次の日から全員呼び出して調査に連れてって、ヒトガタ捜索と産砂先生への接触、下調べ、説得をしたとかなんとか。
なんで此処まで調査内容を知ってるかというと、ジーンがこまめに俺に連絡を入れて来るからですね。彼氏か!いや、内容は業務報告だけど。何でも無い日でもメールしてくるし、話があればすぐ電話してくるし。
最初はどこのヤンデレかと思ったんだけど、病んじゃうのは仕方が無い気がするんだよな。何せ、一度死んでるわけだからな。俺も、ジーンも。同じような存在の俺に特別くっつくのもわからんでもない。

ようやく皆に再会できたのは、慰労会に集まって来たときだった。まあ、調査前にぼーさんとだけ会うよりは良い場だったのかもしんないけどさ。
!やっぱりあんた、戻って来てたのね」
「ああ、本当にさんなんですのね」
「ご無沙汰してます……ほんとうに、お元気そうで何よりです」
「会えて良かったなあ、
四人とも、俺が死んだ事を知っているから、言葉を選びながら再会を喜んでくれた。死んだ人にもう一回会うって、結構キツいと思うんだよね。もう一度死ぬのかもって考えたら辛いし。ジーンに会ったナルとリンさんは、どんな思いだっただろうな。
まあ、一番複雑なのは死んだ本人だと思うけど。
綾子と真砂子は涙を浮かべて感激してくれたし、ぼーさんはぎゅっと抱きしめてくれた。せっかくだからジョンもむぎゅーと抱きしめて、真砂子と綾子も二人合わせて軽く抱きしめた。セクハラにならない程度にだよ!
「えへへ、皆、俺の事探してくれてたんだってねえ」
「そーよ!それなのにアンタ達ずっとのこと隠してたんでしょ」
綾子がナルとジーンをきっと睨む。二人して知らんぷりを決め込んでる。ジーンまで……って思ったけどぶっちゃけ隠してた筆頭はどちらかというとジーンなんだよね。
「あー、ずっとって訳じゃないよ、まだ一ヶ月も経ってないし」
「いや、普通にすぐ報せてくれってーの」
ぼーさんは俺の頭を軽く小突いた。
「そういえば今度、学祭あるんだ。暇だったら来て」
俺は話題を変えることにした。
もう会えたんだしいーじゃん。ナルもジーンもリンさんも、どうせいつか会うだろうと思ってたから言わなかっただけだろ。ジーン以外は好んで人をここに呼ぶタイプじゃないしね。
「そういえば、どこの学校に通ってらっしゃるんですの?」
「桐皇学園。ここからだと10分くらいかな」
「ふーん、いつ?」
「今週末」
真砂子も綾子もわりとノリ気らしい。おいでおいで。
っつっても、俺も当番あるから、ずっと相手は出来ないけど。
「え、今週の土日に学校あるから来られないって言ってたのって、それ?」
ジーンがきょとんと首を傾げた。確かにそうやって言ったわ。学祭とは言ってないわ。
「聞いてない」
「いや、言ってどうするの。来るの?」
ナルが若干睨む。えっ、俺は何か悪い事したのか?
ジーンは速攻で「行く!」って返答したけど。

結局学祭当日は、お留守番のリンさん以外皆来た。ジョンだけは学園祭っていうものに初めて来たらしくキラキラしてたけど、皆は俺の冷やかしである。まあ、呼んだのは俺なんだけどさ。
「いらっしゃいませ〜、当店ナンバーワン人気のモモちゃんです!」
教室にやって来た皆ににかっと笑うと、綾子とぼーさんとジョンが一瞬固まった。そして綾子とぼーさんだけ深くため息を吐く。ジョンは一拍遅れてから笑顔を浮かべてくれた。
なにせ俺の格好は女の子だからな。いや、初対面も女装してたじゃん。そんな反応しなくていいじゃん。お祭りだよ?これ。
ナルと真砂子は当然みたいな顔してるけど、それもちょっと違うんだよな。もっとこう、おっ可愛いじゃん!的な感じの反応が欲しい〜欲しい〜。
!すごい可愛いね!前も思ったけど」
「わーいありがとう」
救世主ジーンに抱きつこうとして手を広げた。ジーンも抱き返す感じで手を出したんだけど、俺はあっと考えてやめた。
「どうしたの?」
「いや、ここお触り禁止だから、贔屓しちゃ駄目だったわー」
「残念」
うん、ノリ良いよね、ジーンって。
皆を席に案内して注文をとってから裏に行くと、クラスメイトたちにどういう知り合いなのかと聞かれた。主に美少年の双子のことだろう。あいつらは思いっきりバイト仲間ってことにしといた。本当は雇い主なんだけど。
ぼーさんと綾子とジョンは一応同業さん、真砂子に至っては素性が一部にバレてるから普通に友達ってことで、適当に説明する。今まで性別をうやむやにして生きて来た俺にとってはこのくらい受け流すなんてちょちょいのちょいである!いや、紹介して欲しそうな目をした女子を躱すのは大変だったけど。


皆がお茶をし終わったが、俺の当番はあと30分程は抜けられなくて、適当にまわってるように言ったら残念そうにしつつも出て行った。
シフトが終わった後に携帯を見たら、体育館で演劇観てるって連絡が入ってたのでそっちにいこうとしたんだけど、途中でナルの後ろ姿を見つけた。普通に歩いてたらナルかジーンか判別しづらいけど、皆と行動しないのはナルだろうな、うん。服装もナルのだったと思う。
近づいてみたら女の子に絡まれてて、仏頂面を晒してた。ナル決定。
「うちのお店でお茶していきませんか!?」
「よかったら一緒にまわりませんか・?」
「結構です」
「一人で暇じゃないんですか?お相手させてくださいっ」
「一人ではありませんので」
「あ、じゃあはぐれちゃったんですか?探すの手伝いますぅ」
ひぃー!ナルがめっちゃ絡まれてる〜。
しばらく影から指差して笑っておいたんだけど、ナルが可哀相というよりもナルにあしらわれる事になるであろう彼女達が可哀相に思えたのでナルの回収に向かった。
「お、ま、た、せ、ダーリン!」
横からむぎゅっと抱きつくと、ナルが驚いてびくっと震える。
「……
不機嫌そうに地を這う声が聞こえた。あれ、怒った?
「彼の相手してくれてありがとね、もういーよ」
とりあえずナルから離れて女子達にしっしっと手を払うと、渋々だけど去っていった。俺がカワイイからかな!
不意打ちに弱いナルの手を引くと、なんとかついて来るために足を動かしてくれた。
「なんで一人でいたの?」
「騒がしくて疲れた」
え?なんで学祭来たの、この人。いや……十中八九ジーンが引っ張って連れて来たんだろうけどな。
本当に人混みが好きじゃないことも知ってるから、若干可哀相になって来た。疲れてる所為で俺の手も振り払わないし。
「んー、じゃあこっちいこうか」
「なに?」
俺は、空き教室に向かって歩いた。
本来俺たちのクラスの皆が今日荷物を置けるように借りてる教室だったから、俺たちは出入り自由だし、荷物を取りにくる以外は滅多に人が来ない。
「ほら、静かだし。ジーン達には迎えに来てもらおう」
「……まだ呼ばなくて良い」
本当に疲れ気味らしくて、テンション低い。
今後は学園祭に来ようなんて思うなよ、と忠告したい。ジーンにしたらいいのかな?多分。
椅子に座って小さくため息を吐いてるナルの顔色はやっぱり悪い。
「なにか飲む?」
「いい」
「本当に辛いなら、保健室のベッドも借りられるよ。帰るならタクシー呼んであげるから」
「ああ、だいじょうぶだ」
少し休めば治るっていうナルの言葉を信じて、黙って待つことにした。
話しかけたら休めないだろうし、だからといって放ってどこかに行くのも心配だから、黙っておすわり。なんてお利口な俺。
暫くして、ナルが少し俺にもたれ掛かってきた。顔を覗き込めば目を瞑ってるけど、多分寝てるんじゃないと思う。気を抜くなんて珍しいし、ちょっと心配だな。
「お、居た」
その時、無遠慮にドアが開けられた。入って来たのは大輝で、俺に用があったらしい。 「充電器貸りるわ」
「おー」
というか、大輝は携帯の充電器を常備してる俺の鞄に用があったわけか。だから携帯に連絡もせず一発でこの部屋にきたんだろうなあ。
ストラップついてるから俺の鞄はすぐに分かるんで、大輝も勝手に鞄を漁る。そしてコードを引っ張り出したあと、大輝はナルと俺を見下ろした。
「……そいつ、誰だよ」
ナルは身じろぎ一つしない。多分聞こえてるけど無視してるんだな。
「バイト一緒の人」
「ふーん。……そうだ、今日おふくろがうち寄ってけって」
「あーわかった。充電器その時に返して」
「おう」
大輝はじろじろナルのことを見てたけど、あんまり関わらずに去ってった。
教室のドアが閉まった後、ナルはゆっくり頭を俺の肩から退かす。
「誰だあれは」
「幼馴染みの大輝。家が隣」
「おさななじみ」
「小さいころからの友達って意味」
「それくらい分かる」
復唱したから説明したんですけど!
「親しいのか」
「うん。物心ついたときからだから、付き合い長いよ。同じ家で育ったわけじゃないけどほぼ毎日顔を合わせてたから兄弟みたいなもんだね」
「ふうん」
興味がなさそうな、冷淡な声が相槌を打った。……めげてなんかないんだからね!
聞いて来たわりに興味が無さそうにされるなんて、慣れてるんだからあ!
「ジーンが知ったら泣くな」
「マジかよ」
「うん」
「ナルもあんまり良い気してない感じですね」
時々うんって返事するのは可愛いけど、時々一切返事しないのは大変可愛くない。
「具合よくなった?まだ辛いなら、帰った方が良いんじゃないの」
「ああ……」
どっちだよ。具合悪いの?帰らないの?俺の聞き方が悪かったけども。
まだもうちょっと休みたいのかな?
「———ジーンは、にすごく執着しているようだ」
「え?あー、うん、みたいね」
とりあえず、ナルと一緒に居ることだけでもジーンに教えておこうかと携帯を開いたけど、ナルがとなりでぽそぽそ喋り出したから手を止めた。
「分かってたのか」
「そりゃ、あんだけデレられたら」
「……」
ナルがはあとため息を吐いた。
「しかたないよ」
「なに?」
「俺たちは一度……、死んじゃったからね」
時を遡って、死んだ筈の人に会えたナルたちも、不安だろうけど。
「ああ……」
「いっそのこと、全て忘れていたら、良かったのかもなあ」
は」
「ん」
「忘れていたかったか」
「ううん、忘れたくない。それに俺は、生まれ直したから、現実的に考えられる」
皆の事覚えたまま、生きていくつもりでいた。
もう会えないと思ってた。
会えて嬉しかったし、覚えててくれて嬉しかった。たとえ、皆が覚えていなかったとしても、平気だ。
……仲良くなるかは別として。

「僕は、これが僕の見ている夢でない確証が欲しい」
「それは難しいなあ」



next.

ナルのターン。そして大輝くんが出ます。
霊的に暗示でも受けているのではないかと、ナルはちょっと疑うこともあるんでしょうね。方法はちょっと想像つかないけど、ナル的に色々仮説を立てたりして研究していそうです。
July 2015

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