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01

桜並木の道で、少し離れたところから歩いてくる男の姿を見て足を止めた。
俺と同じく詰襟を着た、猫背のちょっと、いや結構だらしない…、その佇まいには見覚えがある。ボサボサの頭やなまっちろい肌色。前髪の隙間からぎょろっとした目がのぞいた。
Lと呼びかける。足を止めた俺とは違って歩き続けた彼は、ようやく足を止めた。
手を伸ばせば触れられるところまできていて、そっと顔の近くに持ってくる。うっとうしい髪をどけるのも、されるがまま動かない。
このひとの性格上、誰にこんなことをされても観察していそうだけど、だからといってなすがまま、頬に手を当てられたりしないよな……。
「なんで?」
思わず出てきた問いに、Lは俺の手首をとって、顔から離しながら首をかしげた。
「なんで、とは?」
「なんでここにいるんだ」
「死んだから、じゃないんですか」
「生きてる」
「あなたが?」
ぶんぶんと首をふる。ちがう、確かに俺は生きているが、それだけじゃない。
死んだはずのLにこうして会うのも、同じ空間にいるのも、制服姿なのも、ここが前と同じではないから。
「Lもだ」
そして、二人とも生きているからだ。
「はい、私も生きています」
Lは得意げに笑った。


俺たちはキラを追う探偵と刑事だった。Lは目の前で息を引き取り、俺は生き残り、離別した。
俺だけが離れがたく、胸に遺骨を抱いていた。けれど、事件解決後、墓に埋葬した。
俺はLと二度別れてようやく、物語を終えたのだ。……だからって死んでない。

俺たち二人は一応生きていることを確かめ合ったわけだけど、なんで若返ってるのかがわからない。
俺は相変わらず松田家のボクちゃんだし、親も身内も変わらなかった。だから朝起きてびっくりしたけど困ることはなく、うろ覚えで登校するところだった。
「そもそも、なんで学校に?」
「松田さんが入学するからです」
「エッ」
反射的に体を抱きしめてリアクションをとった。
つまり、俺の存在をあらかじめ知っていたというわけか。しかも俺より覚醒したのが早いようだ。
だからって同じ学校に入ってくるなんて、……ああ、前もやってたなあ……。
「ちなみに他の人も見つけた?」
「いいえ」
「ワタリさんは」
Lはもう一度いいえと首を振った。
俺の周りは、俺の記憶と相違なかったけどLはまるで違うらしい。出生は話してくれなかったけどなんとなくお察しする。
Lは唯一見つけた知人ということで、俺に接触しにきたようだ。
だからって俺の入学する学校に合わせてくるとは思わなかった。一緒になって校門をくぐり、胸に花をつけてもらって、クラス表眺める。……うっわ同じクラス……。
松田と竜崎の名字のせいで並び順も続いてた。山田とかいねーのか。まあいいけど。
入学式の最中も隣の席だからぽそぽそ話していると、新入生代表でLの名前が呼ばれて立ち上がった。え……なにやってんの……。

壇上で一人、それらしい挨拶を述べているのを眺めた。
前は入学式見られなかったし、そういえばこの光景を見てみたかったんだよなあ。もしかして、あの人俺が見つけやすいように新入生代表にでもなったんだろーか。
ここ中高一貫校だから、中等部の生徒会長だった子とかが抜擢されるんだろーにな。
俺と入学式の前に会うことはさすがにわからなかっただろうし。……ただ、クラスが一緒なのは仕組んでいた可能性もあるから……うーん、俺へのサービス?。

「そんなわけないでしょう」
あとで素直に聞いてみたら否定された。
まさか見せるために新入生代表の挨拶をやってくれるほど心は広くないらしい。
「まだ、あまりコンディションがよくないんですよね」
「へえ」
探偵Lという立場じゃないらしいので、高校に入学する手続きはできてもクラス編成には手を出さなかったか。むしろ同じクラスに仕組んでたらそれはそれでヤダなあ、俺。結局同じクラスだけど。
そんなわけで、俺の目につくために仕組んだらしい。……あれ?俺のための新入生代表の挨拶にはかわりないじゃないか。

教室での席は窓際の前後になる。窓を背に後ろのLと会話を続けていると、隣の席の女子がこっちを見ていた。
俺と目があったことで、彼女は口を開く。
「二人って知り合いなの?中学一緒だったかんじ?」
「そんなところ」
しまった、なんも考えてなかったや。
にっこり笑って答えて、これ以上俺たちの関係を聞かれる前に話をふってしまおうと、まずは名前を尋ねた。彼女は内部進学らしい。近くの席の同じく内部進学の生徒を紹介してもらって輪を作らせて、話題をそらした。
あとでLと、ある程度違和感がでないように打ち合わせしたほうがいいかなあ。

今日のところはなんとなく輪に溶け込むことができた。
Lは人を観察してることの方が多くて口数はすくないけど、かといって極端に浮くこともなかった。
放課後はさっそく、クラスの何人かに親睦深めるためのカラオケに誘われた。
まさかLがカラオケいくのか?想像できない……。そう思ってちらっと顔を見ると、袖がくんっと引かれた。
「すみませんが、今日は二人きりの約束なので」
なんだその断り方は。
男子には、お、おお……と吃り気味に返事をされて、女子には苦笑混じりにばいばいされた。
Lの指から裾を引っ張りだしてじっとり睨む。場の空気を凍らせるのは趣味か特技かどっちなんだ。どっちもか。
ふーとため息をついて、あきらめた。
「とりあえずかえろっか、竜崎さん」
「それ、やめた方がいいと思いますけど」
「?」
「私はくんとお呼びします」
……うわあ。
慣れた呼び方をしたつもりだったけど……たしかに同級生をこんな風によばないか。
Lがライトくんって呼んでいたのは全く似合ってなかったし、お互い腹の探り合いする宿敵だったわけで、そんな二人を見てた俺は竜崎さんに「くん」と呼ばれても白々しさしか感じない。そもそも敬語じゃんか。
「松田でいいのでは?」
時々呼び捨てにしてきたじゃないか。そう思いながら提案したけど却下された。

昇降口へ行く道すがら、Lがすでに上履きを履きつぶしているのが目に入った。
しかも靴下をはいてない……。あ、そういえば朝から履いてなかった気がする。あまりに自然で忘れてたけど、生活指導にひっかかりそう。
今後俺はこの問題児とやってけるんだろうか。
もうワタリさんにお世話をしてもらえないんだから、も少しがんばろうよ。


「ノートに関しては、特に情報は見つけられませんでした」
「あー、まあ…過去?だし?」
学校から出てすぐタクシーを所望され、俺が迎えの手続きをし、一緒に乗り込んでLの暮らすホテルの部屋へやってきた。
前みたいに探偵をやってなくとも、生活に困らない知恵を持ってるわけだ。
「そもそも……あの物語の登場人物はいないのか」
「物語ですか」
思わずひとりごちる。 甘いものを頬張ってる姿を久しぶりに眺め、ちょっとだけ懐かしいなーと思いながらお情けで頼んでくれたコーヒーを一口飲んだ。
物語というのは事件のことでもあり、デスノートという漫画のことでもあった。
Lの口ぶりからすると相沢さんとか模木さん、夜神さんやライトくんだっていない。 でも俺が警察になるよりも前の知り合いはほぼいると思う。
「この世にいないとまでは断言できませんが、松田さんのいう物語がまた始まるかもしれないので、しばらく様子をみながら調べ物を続けます」
「……学校にもこのまま通うんですか?」
「はい。おそらく松田さんといた方が、事件は起こるでしょうし」
俺は別に、今まで事件を起こしたことはないはずだけどなあ……。
ヨツバはミスしたけど。



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同級生やってる松とLが書きたかったのです。
だらだら一緒にいるふたりが書きたいのです。
Oct. 2017

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