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02

Lといても全く何にも起こらなかった。
初めの頃はあまりにも情報がなさすぎて、Lがホテルから一週間くらい出てこなくなった。この世界はなんなんだって哲学的なことを言いながら虚無ってた。
わかる、わかるよ。
そしてあまりに退屈すぎて、いろんな事件を解決して憂さを晴らしたようだ。
手持ちの事件を解決し終えたところ、手を引いて学校に連れてったらまたなんとなく学業に勤しむ姿勢を見せ始めたのでほっとする。
ただその頃から、パソコンを持ち込むようになったので変人っぷりに磨きがかかってた。

進級したころにはLが変人であることも、俺がそれに付き添っていることも見慣れた風景となった。
例えば裸足で椅子に膝を立てて座って、ペンを指でつまんで持つ姿。
甘いものを過剰に摂取したがる姿。俺に買ってこいと言う姿、Lのエネルギー源なので従う俺の姿、いつしか基本的に甘いものを持ち歩くようになり差し出す慣れた二人の姿……。俺はいつからワタリさんの代わりになったんだ……?いや、メカニックじゃないので本当に付き人っていうか……。「竜崎のお母さん」と一部の先生や生徒から言われている。

事件が起こったのは、2年の秋のことだった。
うちの学校は新校舎と旧校舎にわかれていて、旧校舎はもう使用されてない。半分ほど取り壊されたきり、放置されている。……本当にずっと放置していたのかは先生たちに聞いてないのでしらないが、俺の記憶に間違いがなければ入学した時からシートがかけられっぱなしだった。
その校舎を今年ようやく取り壊す目処がたったようで、工事関係者がうろうろしていた。
その日、俺たちは体育の授業で外に出ていた。前から工事をしているのでそう言う音を聞き慣れてもいたが、この時はやけに騒がしくて、でも気のせいだろうなんて考えてて、原因をみようだなんて考えてなかった。
普段はやる気のないLが俺の方に走ってくるのが見えて、ようやく何か危険なんだと察知した。
瓦礫を積んだトラックが暴走していて、生徒は逃げ惑っていた。俺も立ちすくみ、どちらに逃げたらいいのかわからないでいた。
「松田!」
走ってきたLのほうへ、と思うのに体がうごかない。だって、俺は学生時代こんな事故にあったことはなかった。
そして、暴れる車体から降ってくる瓦礫にぶちあたるのも、初めてのことだった。
「生きてますか!?」
「あい……」
地面に倒れた俺はLに顔を覗き込まれて返事をする。
左肩のあたりにどこんっとぶつけられたので横向きに倒れてて、Lにゆっくり仰向けにされた。
向こうでは悲鳴が続き、やがてざわめきに変わった。
多分トラックが止まった。そしておそらく、俺以上の重傷者がいるんだろう。そんな声を聞きながらLと一緒に救護がくるのを待った。

左肩の負傷により腕が上がらなくなった。一時的なものだろうけど。
利き手ではないので食事も勉強もできる。
両手を使う作業は難しくて、えいっえいっと右手だけでがんばってるとLがそっと手を貸してくれた。ママちょっとうれしい。
その様子を見ていたクラスメイトとたまたまその場にいた担任の先生が、俺と一緒になって感動していた。
Lは結構愛されてるんだなって思った。
「よかったなあ竜崎、松田が復帰できて」
「なんですかそれ」
負傷したところが腫れたので、何日か家で安静にしてたんだけど、俺のいない間にLは学校で何をやらかしたんだ。先生が生温かい目でLを激励してるんだが。
隣にいた友人曰く、俺のいない間学校に来なかったらしい。
「調べ物をしていただけですよ」
Lはいつもと変わらない顔でしれっと答えた。
「まだ休んでいればよかったんじゃないですか?……手がかかる」
「そしたらおやつは誰が買ってくるんですかー」
今日登校前に買ってきたおやつをちらつかせる。
ぼそっと本音を言いやがって。だいたい俺は、お弁当食べ終わったあと巾着袋しめるのに四苦八苦しただけだ。それまでは手を出してこなかったくせに。授業中消しゴムかける時の方が大変だったわ。
「宅配があります」
「それ、学校来ない気じゃない?」
横にいたクラスメイトが瞬時に気づく。
そうです、こいつルームサービスは自分でも頼めます。
「松田……弁当しまう巾着袋は先生が毎日しめてやるから、学校に来なさい」
こうして俺たちの平和な昼休みは終わった。

Lはあれがデスノートのしわざではないかとちろっと思ったのか、ただ単に暇だったのか、事故について調べていたらしい。
もともとあの旧校舎はいろいろと不吉な噂があったことが判明した。
まだ校舎として使用されているときからも死人が出ていたようだけど、1年に1〜2人くらいの割合だそうだ。
新しい校舎ができてからは、旧校舎の西側3分の1取り壊す工事が行われた。その際ちょっとした事故があったそうだが屋根が落ちた程度のことで死人は出てない。まずデスノートじゃない。俺たちにも関係ない。
ていうか壊れた校舎どんだけ放置してんだよ。
「余談ですが、旧校舎で子供が一人遺体で発見されていますが営利目的の誘拐、犯人は一月後に逮捕、今も生きています。旧校舎内で自殺した教師もいますが、遺書もありノイローゼだそうです」
ノイローゼの自殺が一番デスノートであり得るけど、なんの関係も感じられないのでやっぱりシロだ。
今回、生徒が2名亡くなったがその教師とは関係ないだろう。
そして事故を起こした運転手は昼食の時に飲酒していたが、事故後死んだということもない。
「でも、前はこんなことなかったし」
白いテーブルの上に資料をおいた。
それからその手で、コーヒーカップを手に取る。
「そもそもここは、過去なのでしょうか」
「へ?」
カップに口をつけていると、Lはつまらなそーな顔をした。同レベルの会話ができると思わないでちょうだい。
そりゃ、過去だったらまだデスノートが地球上に落ちてはこないだろうけど、そういうことかな。
「松田さんの環境は変わらないとしても、私にして見たら違う日常です」
高級なコクと香りが舌や鼻腔を刺激するが、俺の脳は大して刺激されない。
「私がこの世界に来てから解決して来た事件は全て、見たことも聞いたこともない事件でした」
「ああ……そっか」
世界と言われてなんとなくしっくりきた。
俺がデスノートの世界に生まれたのと同様に、Lは、俺は、また違う世界に生まれたのかもしれない。
それが、物語の世界なのかどうかはわからないけど。
あらためて考えなきゃいけないことが増えた気がする。ここが俺の知らない日常の世界なのか、物語の世界なのか。
デスノートはそんなに詳しく知っていたわけではなかった。気づいたのも警察になってうっすら、ライトくんにあってもうっすら……信じたくないと思いながら、ただ生きていた。
「どうしたらいいんでしょう」
「生きるしかありません」
「そうですね……生きましょう」
なんてことのないように言われた言葉にほっとした。


それからの俺たちは特に変わることなく普通に過ごした。
1年半以上、普通に学生やってたのでLの学生服姿も見慣れた。奴は襟付きのシャツが嫌いなので中が白いTシャツなのも先生が慣れた。怒られなくなった。
スラックスには本人が慣れてくれた。ホテルに帰るとやっぱりジーンズになるけど……。
靴下履かないのも、下手したら上靴履かないのも、クラスメイトも俺も先生も慣れた。
椅子に膝立てて座るなら脱いでた方が楽だよね、くらいに思ってる。
たまに廊下を素足でぺたぺた歩いてる時があって、学校はきたねーんだぞと叱ったことがある。本人も足の裏が汚れたってしゅんとしてた。
……俺がママなんじゃなくてあっちが5歳児なのでは?


ここがなにかなんて、一生わからなくてもいい気がしていた。
そのうちLはまた世界中を飛び回るのだろうし、俺はまた警察官になってみるのもいいかもしれない。今度はきっともっと、いい人生が送れるだろう。
学校生活ものこり1年となった。
俺はごくごく普通の未来に希望を抱き、ここがどういう世界かなんて気にするのはやめた。
進級して初めての登校日、Lと再会した桜の並木道で一人の女の子と出会うまで。



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だらだらと、なんだかんだで一緒にいます。
次回、出会います。
Oct. 2017

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